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第36話 演説とかって人を眠らす魔法だよね?

 俺は車を降りてすぐに、目の前の建物を見上げ固まる。白い外壁に紺色の屋根、遠くから見たとしても、その存在感はかなりのものであろう。


「ここって、王様の城ですよね?」

「ああ、そうだよ」


 まあ、建国記念なんだから普通に考えたら王様の城でやるか。それにしても、でっけーな。いつも、レインさんの家からは見えてはいたが、実際に近くで見てみるとそのでかさを痛感する。

 俺は、ミリィに言われたことを思い出しながら、レインさんたちの後ろを付いていく。


 しばらく歩くと、城の入り口の前に衛兵が二人立っていて、一旦停止させられた。


「レイン様、申し訳ありませんが、招待状の方を確認させていただきます」


 一人の衛兵が、そう言ってレインさんに近づいて来て、レインさんが一枚の紙を見せる。衛兵は紙を見た後に、こちらを一通り確認して道を開けた。


「はい、確かに確認しました、どうぞお入りください」


 それに対して、レインさんたちが会釈をして進みだしたのを見て、俺も会釈をして前へと進む。


 それから、城の中の無駄に豪華な廊下を、慣れた足取りでレインさんは進む。すでに何度も道を曲がっているので、どう来たかなど覚えていない。俺は歩きながら、周りの無駄に豪華な装飾などには目もくれず、ミリィに言われたことを頭の中で何度も繰り返す。


 しばらく歩くと、レインさんが立ち止まったことに気付いて、俺も立ち止まる。


「この先が、会場だけど、私は少し国王と話をしてくるから、先に入っていてくれ」

「おう、親父任せとけ」

「わかりました、お父様」

「承りました」


 俺たちがそれぞれ返事をしたのを、確認してレインさんは、歩いていき廊下の角を曲がっていった。


「じゃあ、俺たちも行くか」


 そういって、グレイが扉を開く。

 扉の向こうには、すでにかなりの数の貴族と思われる人物たちが談話をしていた。どうやらこのパーティーは立食形式のようで、座るための椅子などはほとんど用意されていない。


「じゃあ、俺はちょっとミシェル探してくるから。リューヤ、ライラのこと宜しく」

「かしこまりました」

  

 俺はそう言って、頭を下げる。おそらく、ミシェルというのは、グレイの許嫁の名前なのだろう。

 俺は、人ごみの奥に消えていくグレイを見送って、ライラの方に向き直る。


「リューヤさん、お願いしますね」 

「お任せください」


 俺はそう言って、ライラの後ろについて歩く。歩きながら周りの様子を見ていると、大抵の人が何かの飲み物のグラスを持っている。


「ライラ様、何か飲み物をお持ち致します」

「はい、お願いします」


 俺は近くのテーブルに置いてあったスパークリングワインと普通の白ワインの入った二つのグラスを保存して、ライラの元へと戻ろうとする。そこでライラの方を見ると、ライラがだれか男の人と話していたので、邪魔にならないように遠くで話が終わるのを待つ。


 こうやって見回すと、太っていて金や権力の亡者のような、いわゆる悪徳貴族のような人はいない。やはり、人々の上に立つものとして見た目というのは大事なのだろう。


 そんなことを思っていると、ライラが先ほどの男性と話を終えたのか、男性は会釈をして何処かに行った。


「ライラ様、お飲み物です」


 そう言って、俺はスパークリングワインを取り出し、ライラに手渡す。


「ありがとうございます」


 俺は、軽く礼をしてライラの後ろに控える。

 その後、ライラは何人かの人と話をし、俺はそれを後ろで見守るだけであった。歩きながら見ていたが、耳がリタのようになっている人も見受けられたので、国外からもそれなりの人数が来ているのだろう。グレイも探してみたのだが、見つけることができなかった。


 しばらくライラの後ろについて会場を回っていると、突如として会場中に音楽が響き渡るり、男性の声が聞こえてくる。


「本日は、我がコーランド王国の建国記念式典へとお越しいただき、誠に御礼申し上げる」


 俺が声のしてきた方を向くとそこには金色の髪と瞳を持った、恐らくは四十歳ほどの男性がいた。髪の長さは襟に少しかかる程度で、瞳は猛禽類のそれを思わせる鋭さをもっている。服装は青のマントの襟元に白い毛皮をあしらったものを羽織り、そのほかの部分は白を基調とした中に赤や金を取り入れた服装をしている。その風格からして、一目見て国王だと分かる。確か、名前も覚えたはずだったが、覚えにない。


 そんな国王様がそう言って礼をし、それに対して周りの人たちも返礼したので俺もそれに合わせる。

 そこからが苦痛だった。国王が、この国の成り立ちやら国情などについて語るのだが、俺にとってこの手の演説は鬼門である。俺は、出そうになるあくびをかみ殺して、早く終われと必死の形相で国王のことを見つめるが、一向に終わる気配がない。

 

 やっとのことで終わった時には、俺の精神はすでに削るとられていた。そんな俺の様子に気が付いたのか、ライラが話しかけてくる。


「大丈夫ですか?」


 正直な話もう帰りたいが、ここで弱音を吐くのもかっこ悪いと思い、強がってみせる。


「はい、問題ありません」


 どうせ、もうこれで終わりだろうと高を括っていた俺だが、まさかの事実がライラから告げられた。


「この後、会場を移して、舞踏会もありますけど。つらいようでしたら……」

「いえ、大丈夫です」


 確かにつらいかもしれないが、ここでやめたら男が廃ると思い、ライラの言葉を遮る。


「わかりました。でも、その前にお兄様を探すのを手伝ってください」


 そう言って、微笑むライラに、俺はうやうやしく礼をする。

 グレイを探すと言っても、結構な数の人がいるのでそんなに簡単な話じゃない。

 

 それから、数分間探しているとグレイらしき、茶髪の男性を見つける。


「ライラ様、あちらの方がグレイ様ではありませんか?」


 俺がそう言って記した方向をライラが確認する。


「多分、そうだと思います。行ってみましょう」


 その人物に近づくに連れて、疑問は確信へと変わった。それと同時に、隣にいる女性が気にかかり始める。


「グレイお兄様」


 ライラがグレイに向かって後ろから話しかけると、グレイと隣の女性が振り向く。


「お、ライラにリューヤ」

「あら、ライラちゃん久しぶり」

「ミシェルさん、お久しぶりです」


 ライラとミシェルと呼ばれた女性がお互いに会釈をする。ミシェルと呼ばれた女性はウェーブのかかった金色のロングヘアー、どちらかというと吊り目気味な琥珀色の目、その体つき、雰囲気共に大人といった感じである。背は俺よりも少し低いくらいだろうか?


「そうだ、リューヤ紹介するな。こいつが俺の許嫁のミシェル」

「どうも、ミシェル・フェルディナント・ウェイ・コーランドです」


 そう言って、ミシェルさんは俺に対して礼をする。


「リューヤ・ハシモトです」


 俺もそういいながら、礼をするがそこでミシェルさんの名前に違和感を覚える。


 あれ? たしかこの名前って……

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