第33話 盛り上がるのもほどほどにしておけよ
ボスを倒してからは早かった、残りの魔物たちは動揺からか動きが鈍り、ノアたちの手によって、次々に狩られ物の数分で収束した。
「これが最後だな」
そう言いながら、ノアが鎌を振り下ろし、最後の一匹と思われる魔物にとどめを刺す。
「やっとおわったな」
俺は伸びをしながらそう言うが、実際仕事をしたのはボスを倒しただけで、他はみんなに任せていたのでそれほど疲れていない。
「皆、よくやってくれた。特にリューヤ、まさかシャドーウルフを倒すとはな」
「シャドーウルフ?」
俺は首をかしげる。
「さっきお前が倒した魔物の名前だ、中級の中でも最速の分類に入るほどの速度を持つ魔物だ、大した攻撃力はないがその速さ故に奴を倒すのは至難の業だ」
俺は、そんな魔物だったなんてこと当然知るわけがなく、へーとつぶやく。
「とにかく、すげーってことだよ、喜んどけ」
といいながらジンが俺の背中をはたき、俺は前のめりになる。
俺が、前を見るとクレアがこちらを睨んでいる。
「まあ、合格点ね、次からもがんばりなさい」
そう言ってクレアは、振り返りすぐに洞窟の出口の方へと歩きだす。
「なあ、あれはもう少し何とかならないのか?」
とジンに尋ねると、ジンは苦笑を浮かべる。
「まあ、無理だな。あいつが口悪いのは、今に始まったことじゃないし」
「あ、やっぱり?」
「うん、やっぱり」
俺はため息を吐き、出口に向けて歩き出し、先に進んでいたミリィとリタに追いつく。
「あ、二人ともおつかれー」
「お疲れ様です」
俺とジンもお疲れと返し二人に並んで歩く、ノアは一番後ろで確認しながら歩きクレアは先頭を歩いている。
「そういえば、この後ってどうするんだ?」
「基本的には、魔物の残党を探して、もういないようなら帰るだけだよー」
なるほど、それにしても残党さがしとは面倒くさいな、一匹でいる魔物など見つけられるのだろうか?
「ま、残党なんてほとんど無視だがな、軽く探していなかったらそれでおしまい」
「そんなのでいいのか?」
「別に魔物の一匹や二匹だったら、俺らでなくても余裕で倒せるからな」
そう言えば大抵の人は戦えるんだったな、この世界じゃ。
そんなことを考えながら、歩き、洞窟を出るとすでに太陽は天高く上っており、俺たちを照らしつける、ちょうど今は正午程だろうか?
その後も適当に雑談をしながら、山を下り、宿に戻って昼飯を食べ終え、部屋へと戻る。さっきまで戦闘をしていただけに、なんだか気が抜けてしまった。
ベッドに転がり、気合のかけらもない俺に向かってジンが話しかけてくる。
「なあ、リューヤ今から酒場でもいかねぇか?」
こんな真昼間から酒とは、また何とも元気なこったな。
「俺はいいや」
そういって、枕をうずめる。
「そうか、みんなで打ち上げやろうって話だったのに。まあ、来たくなったら来いよ」
俺はそれに対して適当に手を振って対応し、ジンが扉を開けて出ていくのを音で確認したのを最後に、俺は眠りについた。
「あれ、寝ちまったのか」
俺重い瞼を開け、部屋の中を確認するが薄暗くなっておりよく見えない。とりあえず、俺は部屋の明かりをつけ、時計を確認する。
「5時間も経ってるのか、そういえば酒場がなんとかって言ってたな」
ここにいても、やることもないし、とりあえず行ってみるか。
俺は、部屋の鍵を持って宿を出て、昨日行った酒場へと向かう。昨日行った酒場は、魔物の襲撃では壊れなかったみたいだから多分そこだろう。
酒場に近づくにつれて、次第に人々の騒がしい声が聞こえてくる、なんだか面倒なことになりそうだと思いながらも、闇夜の中、光を放つ酒場の中へと足を踏み入れ、俺は後悔する。
酒場の中はすでに戦場のようになっていた、酔った男どもが暴れまわり、喧嘩をしている者もいればそれを見て、爆笑しながら酒を飲み干すものもいる。
俺は何も見なかったことにして、店を出て行こうとすると、聞き覚えのある声が俺のことを引き留める。
「リューヤ、やっと来たか、ほら飲めって」
そういって、ジンがジョッキを渡してくる、俺はジョッキとジンの顔を何度も交互に見る。ジンは顔が赤くなっており、酔っているのは明らかであるが満面の笑みで俺のことを見て、さっさと飲めと無言のプレッシャーをかけてくる。
もうなんだか面倒くさくなった俺は、ジョッキの中のビールを一気に飲み干し、ジンにジョッキを返す。
「おお、いい飲みっぷりじゃん、じゃあ次って、あれ? 酒がないじゃねぇか、ちょっと待ってろよ」
そう言って、ジンはカウンターに向かって走り出す。
俺がそれを呆然として眺めていると、肩を叩かれ、振り向くとそこにはミリィがたっていた。
まさか、こいつまで酔ってるんじゃないよな?
「リューヤ様、ここにいますと延々とお酒を飲むこととなりますので、ひとまずあちらへ」
ミリィが指差した先には、個室らしき場所からリタが顔をのぞかせている。俺も寝起きで酒をそんなに飲みたくはなかったので、とりあえずミリィの言うことを聞く。
個室中にはノアとクレアもおり、一応酒は置いてあるものの、それほど飲んでいるような感じではなかった。
「一体これは何の騒ぎだ?」
俺の問いに対して、クレアがため息をついて答える。
「あのバカが、打ち上げをしようとかっていうから来てみたら、村の人たちまで巻き込んでの大宴会にしちゃったのよ」
ああ、あのバカがやりやがったのか。
そんなことを考えていると、個室の扉が開く。
「リューヤ、酒持ってきたぞー」
なぜこのバカがここにいるのだろうか?
「なあ、ミリィ、ここにいたら安全なんじゃないのか?」
俺はジンのことを無視するかのように、一切ジンの方を見ずにミリィに問いかける。
「一言もそのようなことは、申し上げておりません」
「ほらリューヤ、酒」
まいったな、ここで断るのは簡単だが、断ったところで引くだろうか?
「ジン、酒はいらないからお前が飲んでおけ」
「遠慮するなって」
ダメだこいつ、話が通じない。
「リューヤ様、お諦めください」
俺は他の誰かに助けを求めようとするが、ノアとクレアは視線を逸らし、リタは面白がっているようにしか見えない。
結局その日俺は、酔いつぶれるまで酒を飲まされる羽目になった。