第31話 一瞬一瞬を本気で生きよう、時には本気以上で生きよう
みんなの活躍のおかげで魔物の数は減り、残りは数えれるほどしかいなくなったとき、森の中から遠吠えが聞こえてきて、魔物たちが引いていく。
「全員集合しろ」
ノアの呼びかけに全員がノアのもとに集まる。
「想定していたよりも敵が強い、とりあえず学園に連絡はするが、おそらくはこのまま任務は継続することになる」
まあ、こんな状況の村を放って帰るなんてさすがにできる訳がない。
この世界では、ガスなどは使っていないので家屋の倒壊は見られても、火事などは見受けられないのは、不幸中の幸いだろう。
怪我をした人々を、街の医療施設の人たちに任せ、俺たちは宿にいったん戻った。
学園に状況を伝え終えたノアが、部屋の中へと入ってくる。
「全員集まっているな、予想通り任務は継続だが、期間は3日延長された。今回の戦闘で向こうもかなりの数が減ったはずだが、おそらくはまだ頭は出てきていない」
「だろうな、最後に森の方からした鳴き声がボスだ」
確かに、魔物たちは最後に鳴き声がして引いて行った。当然その声の持ち主がボスだろう。
「今回の戦闘の状況を報告した。魔物のランクは下級の中でも上位に位置されるものであり、そのボスは中級であるという見解だ。今回の目的は変わらず、魔物の掃討だ、皆今日はゆっくり休み明日に備えてくれ」
そう、ノアが告げるとクレアが手を挙げる。
「星無しは参加させないほうがいいんじゃないの?」
「クレアはジンを助けたときのリューヤの動きを見ていたか?」
ジンの問いに対し、クレアは肩をすくめて対応する。
「見てなかったわ、あまり余裕がなかったから」
「俺も、しっかりとみていたわけではなかったが、明らかに普段とは逸脱した力を見せていた、現に魔物を一太刀で絶命させていた」
ノアの言葉に、信じられないといった顔で女子陣が見てくる。
「俺もよく見てなかったんだが、確かにリューヤに助けられたぞ。一体何したんだ?」
隠していても、どうしようもない、まだ魔力も残っているし実際に見せたほうが速いか。
「実際に見せたほうが解りやすいだろうから、いったん外に出ようか」
俺がそういうと、みんなが立ち上がり俺たちは外に出る。
「じゃあ、ちょっと待ってろよ」
俺は準備をしながら、全員の様子を伺う。
ジンは何だかワクワクしているようだが、他の4人は、俺が一体何をするのかを見逃さないように、注意深く俺のことを観察している。
「おし、準備できた」
より一層、皆の視線が集中する。
俺は、ここから50メートル程の位置にある木に狙いを定め、剣を構え、駆け出す。一歩目の踏込の瞬間に俺の体から魔力が吹き出し、一瞬で木までの距離を埋め、剣を横に薙ぎその勢いのまま気の後方10メートルほどの位置で立ち止まると、木が倒れる。
全員が、一体何が起こったのか解らないといった表情をしている。
「なによ、今の……!?」
一番最初に、驚いた表情とともに口を開いたのはクレアだった。
「飛び込みながら木を切り倒した、一歩で」
口で言えばそれだけの話だが、実際はもう一つ行動をしている。
「だから、なんでそんなことができるのよ!?」
「保存の応用技だよ。強化の際に体に満たした魔力をいったん保存して、もう一度強化をかけた後に解放する。これだけで強化の効果は一瞬だが二倍まで上がる、これをいくつもかけたってだけの話だよ。まあ、次第に抑えきれない魔力が抜けてくから、一発だけの必殺技ってとこだ」
実際は、魔力の消費も激しい、文献で見たのは魔力が溢れ出していたなんて書いていなかったから、おそらくはもっとうまい方法があるのだろうが、今の俺にはこれしかできない。
次の目標は魔法の保存だが今はこれで我慢しておこうと思う。
俺がみんなの方へと歩いていくと、ノアが口を開く。
「なぜ、今までは使わなかった?」
「正確には使えなかったんだよ、暗中模索しながら、なんとか形になったのは、おとといの夜中だし」
魔力を開放するタイミングをミスすれば、一歩目の飛距離と速度が無くなってしまう、最高のタイミングで魔力を開放し正確な飛距離を知ることこの2つができて初めて使える技である。ただ切るときに魔力を開放してもいいが、そんなのは練習がいらない上に懐に入り込めなければ意味がない。
ほかにも相手の攻撃に合わせて解放することで、相手よりも早く剣を振り反撃するというのも考えたが、解放のタイミングがよりシビアなので、後でということになった。
「クレア、これならリューヤも戦闘に参加して問題ないだろう?」
「ええ、まさか、こんなことができるなんて思ってもみなかったわ」
どうやら、明日からも俺の戦闘参加が決まったらしい。まあ、こんな必殺技見せたっていうのに認められなかったら軽くへこむが。
俺が少し認められたような気がして喜んでいると、ミリィがこちらに歩み寄ってくる。
「私にぐらいは、教えていただいてもよかったのではないですか?」
「いやー、奥の手は最後まで隠してた方が盛り上がるからね」
そんなことを話していると、ジンやリタも近寄ってきた。
「なんか、わかんねーけど、今のすごかったな」
「リューヤもやればできるんだねー」
正直な話、うまくできるかは心配だった、今のが強化の七倍で、初歩での大体の飛距離もわかっている
がこれより多くなるとどうなるかなどはまだ試していない
七倍の時の踏込みはグレイも本気で対応しないといけないほどだったらしいから、恐らくはそこらの魔物には負けないだろう。
ノアも近寄ってきて俺に質問をする。
「リューヤ、その技は何回くらい使える?」
「今と同じのなら三回と今のより少し弱いのが一回ってところだが、これ以上強いのはやったことないからぶっつけ本番になるからあまり使いたくない」
俺の言葉を聞いて、ノアが少し悩む。
「では、こうしよう。リューヤ、お前が相手のボスを仕留めろ」
一瞬の沈黙が流れる。
「いやいやいやいや、俺なんかが仕留められるわけないじゃん」
俺が必死に否定するが、ノアもそれを首を横に振って否定する。
「瞬間的ではあるが、間違いなく、その瞬間にお前の力量は俺たちを超える。相手のボスが中級だというのなら俺たちの攻撃では仕留めるのは厳しい。それに、その技は回数が少ないここぞという時以外に使っては意味がない」
確かに言ってることは理にかなっているが、俺なんかが仕留められるだろうか? だが今はやるしかないか。
「頑張ってみるよ」
こうして俺は、相手のボスを倒すという重大な任務を請け負った。