第30話 やってみれば案外できるもんだよ
あたりには草が生い茂り、木々が立ち並ぶ中に俺たちは座っていた。
「見てきたよ」
リタの声が聞こえ、その方向を見ると次第にリタの姿が見え始める。
ノアが立ち上がり、リタに話しかける。
「状況はどうだった?」
リタは肩をすくめる。
「あんまりうれしい状況じゃないね、洞窟の入り口に6匹も見張りにいたから中までは確認に行けなかったけど、統率はかなり取れてるみたい。見張りの動きにも無駄がなかったしあれは気づかれずに入るのは無理そう」
ジンが立ち上がり、ホルスターから銃を抜く。
「じゃあ、俺が入口ごと吹き飛ばしてやるよ」
それを止めるかのようにクレアが口を開く。
「入れなくなったらどうする気よ?」
ジンはクレアに言われてはっとする。
「それもそうか……」
その様子を見ていたノアが指示を出し始めた。
「今回は前から順に俺、ミリィ、リタ、リューヤ、ジン、クレアの一列になって洞窟に突入する。戦闘時に苦戦が強いられるような場合は各自の判断に任せる、以上」
「了解」
全員が声をそろえて答えた。
洞窟の近くまで来ると、ノアが手を挙げて止まるように促す。
ここからすでに魔物は目視できる距離にいる、見た目は少し大きめの体毛が紫の狼といったところである、リタの魔法により臭いと音を隠しているので今は気づかれていないが、この近さまで来ればいつまでも気付かれないというわけにもいかない。
ノアは俺たちの様子を確認すると、一気に駆け出した。
ノアの存在に気付いた見張りの魔物が、一匹は遠吠えをし、残りはノアに向かって駆け出した。
ノアは飛びかかってくる魔物を鎌で切り裂き、その間にリタが離れたところにいる魔物の眉間や首にナイフを飛ばし絶命させていく。
「一気に突入する」
その指示を聞き、俺たちも飛び出し洞窟へと入っていった。
洞窟の中ではミリィが作り出した火の玉を明かりとして進んでいく、先ほどの遠吠えを聞いた魔物の仲間がやってくることは間違いないだろうから、常に気を付けなければならない。
「来るぞ」
ノアのその言葉を聞き全員が構える。ノアの言葉通りに次第に近づいてくる足音と獣の声。
獣が見えたその瞬間に二つの炎の槍が放たれ、獣たちの鳴き声が洞窟に響いたがすぐにその声は止まり、洞窟のところどころに火のついた魔物の死体が転がった。
「相変わらずスゲーな」
ジンが笑いながらそうつぶやくが、全くを持っておれも同意見だ。
「今のは少し数が多いようでしたので、勝手ながら待機していた魔法で片付けました」
「いや、問題ない先を急ごうできれば外にいた魔物が戻って来て挟み撃ちにされる前に突破したい」
確かにノアの言う通りだ、面倒くさくなる前に片付けれるなら片づけてしまいたい。
俺たちは洞窟の奥へと進んでいくが、特に分かれ道があるわけでもなく、魔物も襲ってこないここまで簡単であることに安堵しながらも何か違和感を感じていた。
「少し待ってください」
ミリィの呼びかけに反応して全員が止まる。
「この先に広い空間があります、おそらくはそこが最深部かと思いますが、どうも様子がおかしいです。魔物が全くいません」
一体どういうことなのかわからないが、ノアは何かに気付いたようであった。
ノアは駆け出し俺たちもそれに続くが確かに奥には魔物はいなかった。
その様子を見てノアが焦ったように声を上げる。
「今すぐに村に引き返す、全員急げ」
その言葉を聞き俺を含め全員が理解する。
魔物は村へ向かったのだと。
俺たちは走った、いくら急いでも俺が遅いという事実は塗り替えようがない、俺の次に遅いジンでさえもすでに米粒ほどの大きさになってしまっている。
ここから村まで来るときは歩いて50分ほど、クレアであれば2、3分もあればたどり着けるであろうが、俺では良くて7、8分といったところであろうか。それでも走らないよりはましだ、だから俺は走ったとにかく走ったそして山を抜けた村が見えたときにはすでにみんなは戦いを始めていた。
村を囲っていた木製の柵はなぎ倒され壊されている家屋も見受けられる、そのなかで逃げる者もいれば俺たち同様に戦っているものもいる。
しかし、大きな問題が一つあった、魔物の大きさがおかしいのだ。
明らかに先ほどまで戦っていた、魔物とは大きさが違う2倍、いや3倍はあるであろう魔物が数十匹もいる。
つまり、いままで魔物のボスだと思っていた魔物が普通のサイズで基本だと思っていたものがただ小さかっただけであったのだ。
膝が震えている、正直な話怖くてたまらない、逃げれるのなら逃げたい、それが正直な俺の思いだ。
けれど、仲間たちが戦っている、俺だけ逃げるわけにはいかない。
こういう時のために俺は特訓をしてきたんだ、グレイとの特訓を思い出せ、俺はできる。
俺は深く息を吸い、強化を施していく。
そして俺は駆け出した、みんなの様子を見ていると先ほどと違い一撃で仕留められていない、おそらく体が大きくなった分、体毛が邪魔をして上手く攻撃が通らないのであろう。
それでも、威力のある魔法を駆使して敵を仕留めて行っている、しかし俺がつかえるのは初級魔法だけ、これではとても仕留められたものじゃない、でも俺にはあれがある。
ジンの背後から近づく魔物を見つけ俺は駆け出す。
ジンも背後の魔物に気付いたようだが、目の前にも魔物がいて両方を相手にすることはできそうにない。
今のままでは間に合わない、だから俺はここであの技を使った。
俺は一瞬で魔物との距離を縮め、その首を切り落とす。
俺が移動した場所には魔力が帯のように残り、俺の体からは魔力が溢れ出している。
ジンが目の前の魔物に爆発を浴びせ、俺のところへ驚いた顔で駆け寄ってくる。
「おい、リューヤ今いったい何したんだよ?」
「説明はめんどくさいから後でだ、言っておくがそう何度もできる技じゃないからここからはほとんど手伝う程度しかできないぞ」
正直な話ここまでうまくいったことに俺自身が驚いているくらいだ、次やっても今と同じくらいうまくいくかどうかも解ったもんじゃない。
「まあ、なんでもいいが助かった」
そして、次の魔物へと向かうジンの後ろに俺はついて駆け出した。