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第29話 酒は飲んでも飲まれるな

 宿で晩飯を食べ終え、俺たちはそのまま酒場へと向かった。


 それにしても、学生服で酒場に入ってもいいのだろうか?

 基本的に実地訓練中の行動は、制服を着る決まりらしいが、これでは目立って仕方ない。


 そんなことを考えているうちに酒場に着く、酒場からは明かりと喧騒があふれだしてきており、ほぼ俺の想像していたものと変わりないであろうことが、店の外からでもわかる。


 店の中の人々は、程度の違いはあるもののほとんどの人がこの空間を楽しんでいるようで笑みを浮かべている。


 俺はそんな周りの様子を見ながら、ノアたちについていき席に着く。すぐに、ウェイトレスが俺たちのところまでやってきた。


「いらっしゃいませ、ご注文はお決まりでしょうか?」


 俺は、俺たちの居る丸テーブルのどこにもメニューらしきものがないことを確認する。恐らくは酒場にあるものはたいてい決まっているからメニューなどないのだろう。


 とりあえず俺は何があるかわkらないから黙っていると、ノアが応対する。


「晩飯は済ませてきたから、適当な飲み物を」

「学生さんみたいですけど、お酒は大丈夫ですか?」


 そう聞かれてノアがこちらを向いたので、大丈夫だと頷いて見せ、ミリィも同様の反応をした。


「大丈夫だ」

「わかりました、ではすぐにお持ちしますね」


 そういうとウェイトレスはカウンターの方へと向かって行った。


 それにしてもこんなところでどうやって、情報を集めるのだろうか? 方法がわからない俺はとりあえず黙っていた方がいいだろう。


「それにしても、本当に騒がしいところね」


 そう言ってクレアが少し煩わしそうにする。クレアは酒場が嫌いなのだろうか?


「私もそんなに酒場は好きじゃないなー」

「私もあまり」


 どうやら女性陣はみな酒場がお気に召さないらしい。まあ、酒場好きな女ってのもどうかと思うが。


 そんな話をしているとウェイトレスがトレーに6つのジョッキに入ったビールらしきものを乗せてやってきた。


「確かにちょっと女性は酒場に入りにくいですよね」


 どうやら俺たちの話を聞いていたようで、苦笑いしながら話しかけてきた。


 それに対して、ノアが頭を下げる。


「聞かれていたか、済まない」

「いえ、普通のことですし大丈夫ですよ」


 そう言ってウェイトレスは微笑む。


「そうか、ところで、一つ聞きたいことがあるのだが?」

「なんですか? 私にこたえられることなら答えますよ」

「最近この街にやってくる魔物の話を聞きたいのだが」


 そういうとウェイトレスの人は少し困った顔をする。


「私は直接見たわけじゃないので、何とも言えませんね」

「そうか、感謝する」


 そう言ってノアが頭を下げると、ウェイトレスの人は何かを思いだしたような表情を浮かべた。


「あっ、でも魔物を見たって人ならいますよ、ほらあそこで飲んでいる2人です」


 そういってウェイトレスが指示した先には、おっさん二人組が飲んでいた、もうずいぶん飲んだのか顔が赤かった。


「感謝する」


 ノアがそう言うと、ウェイトレスは会釈をしてどこかへ行ってしまった。


「ジン、いつも通りに頼む」

「あいよ」


 ジンは勢いよく返事をして立ち上がり、ジョッキを持ちおっさん二人の方へとジンが歩いていく。


 おっさん二人にジンが何かを話しかけているが俺には聞き取ることができない。あ、乾杯した。


 状況はよくわからないがジンはおっさん二人と仲良さそうにしている。


「では、こっちも乾杯しようか」


 ジンは、放っておいていいのだろうかなどと考えながらも俺はジョッキを持つ。


「乾杯!」


 全員の声が重なり、ジョッキのぶつかり合う音が響いた。


 とりあえず一口、ビールの味など覚えていないが確かこんなものだったと思う。


 俺はジョッキを置きジンの様子を伺うと、すでに肩を組んで飲むほどに仲良くなっている、放っておいても問題なさそうだな。


 10分ほどが経ち、ジンが俺らのところへ戻ってきた。


「聞いてきたぜ」


 ノアはジョッキを置き口を開く。


「さっそく話してくれ」

「了解、基本的には事前情報と大差ないが、どうもひとつ間違いがあったみたいだ」


 間違いという言葉に全員が怪訝そうな顔をする。


「どうも、あのおっさんたちの話だと、群れのボスの大きさが、ほかの魔物の大きさの倍以上もあったらしい」

「倍以上か……無名の魔物といってもそこまで行くと中級くらいにはなってもおかしくないな」


 中級といわれても、どの程度のものなのかわからない俺にとっては、どうしようもないことだ。


「気をつけたほうがいいわね」


 俺はこっそりとミリィに耳打ちをする。


「中級ってそんなにすごいのか?」

「そうですね、あえて言うなら、初級魔法しか扱えないリューヤ様では、何の役にも立たない程度には強いですね」


 このメイドさんは俺の心を見事にえぐってくれやがる。


 そろそろ店を出ようかという雰囲気になった時、俺たちにハゲたおっさんとヒゲモジャのおっさんの酔っ払い二人組が近づいてきて話しかけてきた。相当酔っているようで、足元がふらついている。


「おう、そこの嬢ちゃんたち俺らと一緒に飲まないか?」


 その二人の様子を見て眉をひそめクレアが答える。


「わるいけど、私たちもう帰るところなの」


 そう言って追い返そうとするクレアの腕をハゲが掴む。


「いいじゃねーかよ、そんなさえねぇ奴らほおっておいて、向こうで飲もうぜ」


 俺がさえないのはともかく、他の二人は十分にさえていると思うぞ。


 そんなことを考えている俺をよそにさえている二人が動く。まず、ジンがハゲの手首をひねりクレアから手を離させる。


「いてててて」

「おいおっさん、悪いが俺達は帰るって言ってるんだ黙って帰らせてくれ」


 その様子を見て、ヒゲがジンに殴り掛かる。


「女おいて黙って帰んな」


 ジンへと向かっていく拳は途中でノアによって妨げられ、そのままノアは相手の腕をひねりそのまま背中の方へと回る。


「いい加減にしてくれ」


 そう言ってノアが手を放し、ひげの背中を押すと、ヒゲは肩をさすりながら舌打ちをし、自分のテーブルの方へと行ってしまった。


 同様にジンもハゲの手を放すと、ハゲも逃げるようにしていなくなった。


「これだから酒場は嫌いなのよ」


 まあ、嫌いな理由はよくわかったが、本当にああいうことってあるんだな。


 そのままカウンターでノアが支払いを済ませ、俺たちは店を出た。

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