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第2話 大胆すぎるプリズンブレイク

 俺は、特に手枷などをされるでもなく、意外と自由な恰好で牢屋の中へと入れられた。


 簡素なトイレと机、ベッドがあり、思っていたより豪華だったことに少し喜んだが、そんなことよりも気になることがあった。この牢屋、二人部屋だったのだ……


 ここは話しかけるべきだろうか、でも相手は毛布にくるまって、俺がこの牢に入って来てからピクリとも動かない。明日には、事情を説明して解放されるんだろうから、わざわざ関わることもないかと思ったその時、突然男がムクリと起き上がり、顔をこちらに向け、話しかけてきた。


「ん、新入りか?」


 その男の金髪は、ぼさぼさで肩まで伸び、顔は少しやせ気味で無精ひげが伸び、衛生的とは言えない格好で、見た目30代前半くらいだろうか? 今は寝起きで寝ぼけているのか瞼は半開き状態だが、その双眸はきれいな青色をしていた。


「はい、今日入りました」


 たとえ牢屋の中だろうと、目上の人には最低限の礼儀をわきまえないといけない。特にここではお互いに手錠もしていないので、相手が凶悪ならば、ここを出る理由が、同室の男の機嫌を損ねて死体になったからになってしまう。


 俺が返答したのち、しばらく俺のことを見定めるように見ていたその囚人は、眉間にしわをよせ、尋ねてきた。


「兄ちゃん、身なりも悪くねぇし、礼儀もなってる、とてもこんなとこに来るような人間にはみえねぇがいったい何やったんだ?」


 俺は、気が付いたら不法入国扱いにされていたことを告げ、今の状況を言葉にしたことにより頭の中が整理され、大きな疑問が浮かんだ。


 なぜ言葉が通じるんだ?


 ここが日本でないとしたら、明らかにおかしい。

 日本語を母国語にしているのは、日本だけなのだから、ほかの国でここまで流暢に話ができるはずがない。


 俺は、結果としてある考えにたどり着く。


 そしてその考えは、思わず口からこぼれた。


「なんだ、夢か」

「ん、なにかいったか?」


 あいにくもう一人の男はさっきから自分の机のあたりでガサゴソ何かをしていたので、きこえなかったようである。


 全くを持って、ここまでリアルな夢を見たのは生まれて初めてである。まぁ、醒めない夢はない、そのうちこの夢も終わりを迎えるだろうなどと楽観的な考えに基づいてのんびりしようとベッドに転がった時、夢の住人Aこと囚人が話しかけてきた。


「そうだ、名前聞いてなかったな、俺の名前はスキップってんだ」


 この名前も俺の夢ということは俺のセンスなのであろう、まったく自分のセンスを疑うぜ。


「あぁ、橋本隆也です、よろしく」


 夢の住人に、つい敬語を使う俺ってどうなんだろ?


 相手の差し出した手を握ろうとして、動いたときに、爆風で飛ばされた時に怪我をした膝に、鈍い痛みが走った。


「あれ、痛い?」


 俺のその言葉にスキップが反応する。


「なんだ、どうした?」


 おかしい、これは夢だ、痛いわけがない、それにもし夢じゃないとしたら、つじつまが合わない。

 しかし、そんな俺の考えとは裏腹に、これが現実であると訴えるかのように、膝の痛みは消えることはなかった。


 さっきからどれほどの時間がたったのかわからない、気分にしてみれば何時間も考えにふけっているような、そんな気さえする。

 次第に落ち着き始める頭で、状況を確認するがいくら考えてもわからない、ただ一つ分かったのは、これが夢ではないだろうということだけであった。


「おい、大丈夫か?」


 混乱する俺にスキップが声をかける。


「何か言ったか?」


 混乱していてよく聞き取れなかったので俺は聞き返した。


「さっきから急に固まって、どうしたんだ?」


 スキップは不思議そうに尋ねてくる。


「あ、いやなんでもないです」


 俺は、ぎこちない笑顔とともにそう答えた。


「そうか、ならいいんだ、じゃあ、いきなりで悪いんだが――」


 俺はその時、ものすごく悪い予感しかしなかった。


「――脱獄しないか?」


 俺はその言葉を聞いて、やっとのことで口にできた言葉がこれだった。


「あんたはバカか?」


 失礼なことは分かっている。しかし、どう考えても馬鹿だ、罪を犯していないのに脱獄なんかしたら、何かやましいことがあると思われて後々めんどくさいことになるだろう。全くの無実である俺が、なぜそんなことをしなきゃいけない。


 ただでさえ混乱しているのに、さらに混乱させようとしてくるこいつをどうすればいいのか非常に悩ましい。


「いいじゃねぇかよ、ロマンがあるだろ?」

「断る」


 ロマンを求めるなら一人でやってくれ、俺はそんな危険な生き方にあこがれたことはない。


「しょーがない、じゃあ俺一人で行くわ」


 そういい鉄格子のほうに、歩き出したスキップは特に、鍵やピッキングの道具を持っている様子もない。いったいどうするのかと思い眺めていると、スキップは鉄格子を蹴りとばした。


 蹴られた鉄格子は、はめ込み式だったらしく向かいの壁に衝突し、派手な音を立てる。


 まさかこの世にここまで大胆な脱獄法があるとは思わなかった。


「じゃあなリューヤ、無実が晴れることを祈ってるぜ」


 そういって駆け出したスキップを、突如として壁から噴き出した炎が包み込む。


 俺は、突然の出来事にただただ呆然とすることしかできなかった。


「あっちー」


 そういいながら、炎の中からスキップが飛び出してきた。


「なんで生きてんだよ!?」

「ん? どうした?」


 まるで何を言っているんだといった顔をしてこちらを見てくるスキップ。


「今、完全に燃えてただろ!?」

「うん、熱かった」


 スキップはまるで大したことがなかったかのように言い放つ。


「熱かったで済むか!? ふつう焼け死ぬだろ!?」

「おいおい、あの程度じゃ俺の野望(脱獄)は止められねぇぜ?」


 ダメだこいつバカだ、そしてバカだ、圧倒的なバカだ。


「まぁ、さすがにずっとあんなの耐えるのはきつそうだから、一旦作戦練り直すわ」


 そういって、スキップは自分で蹴り飛ばした鉄格子を持ち上げ、はめ込み、何もなかったかのようにベッドに寝転ぶ。しかし、鉄格子の蹴った部分が明らかに変形しているので偽装する意味があるのかどうか。


 しばらくして、石造りの廊下を歩くコツコツという音が聞こえ、その音は徐々に大きくなり、その音の発信源は俺の牢屋の前で止まった。


「罠に反応があるから来てみれば、またお前か」


 おそらく看守であろうその男は、あきれたように言い放ち、ゆがんだ鉄格子を見ながら、あーあなどとつぶやき始めた。


「おいおい、おやっさん、俺がやったっていう証拠でもあるのかよ?」

「10日に1回は脱獄しているくせに、今更とぼけるなよ」


 こいつ10日に1回くらいのペースでこんなことやってんのか、少し看守のおっさんが哀れに見えてきた。


 その後も、スキップの言い訳は続き、それに呆れた看守のおっさんは、もうやるなよとだけ言って去っていった。


「リューヤ見たか、俺の巧みな話術で看守をだまして見せたぜ」


 今のどこがだませていたのかわからないが、何か言っても騒がしくなるだけなので、俺はうなずきベッドの中にもぐりこむ。それと同時に、スキップに対しての敬意を捨てた。


 その後運ばれてきた、パンとスープだけの晩飯を食い終わり、ベッドの中にもぐりこみ、俺は今日起こったことや明日の質問のことを考えているうちに自然と眠ってしまった。

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