第26話 楽な方法を探してみても、そうそう上手くいくもんじゃない
この学校に通い始めて早十日、ようやく学校での生活にも慣れ始めてきた、そんな日の昼休み一人で学食に向かっている途中、知り合いと廊下で出くわす。
「お、リューヤじゃんか」
「グレイにライラ、久しぶり」
「お久しぶりですね」
こっちに来てからは、グレイたちと会っていなかったので実に十数日ぶりの再会である。同じ学校といっても広いので出会う機会など、なかなかあるものではなかったのでこれも当然と言えば当然な気もする。
「なんだよ、こっちきてから一回も連絡こないから忘れられたかと思ってたぜ」
「連絡取ろうにも連絡先知らないから無理だろ」
「確かにそりゃ無理だな、今から飯か?」
そういってグレイは笑う。
「そうするつもりだけど」
「じゃあ一緒に行こうぜ」
俺にとってはミリィの次くらいにこちらの世界では親しい人からの誘いを断るわけがなく、俺は快く了承する。
それにしても、兄妹で一緒に食事をとるとはこの二人は随分と仲がいいんだな、一応、俺も妹とは朝飯と晩飯は一緒に食べてたが、わざわざ学校で一緒に食おうとは思わなかったな。
俺はグレイとライラと話しながら、学食へ向かうのだがなんだか周りの視線が気になる、髪や眼に向けられるものとはなんとなく異質な一体なんなのかはわからないが、時々殺気のようなものまで感じるのは気のせいであろうか?
「なあ、なんかさっきから周りの視線が気になるんだが?」
グレイはその話を聞いて何か気づいたのか、笑みを浮かべて耳打ちをしてきた。
「ライラは人気あるからな」
なるほど、そういうことか。
確かにライラはかなりの美人だから人気があるのも仕方ないだろう、と考えながらライラのほうを見ていると、状況がうまく呑み込めていないのか、ライラは小首をかしげる。
「リューヤさん、どうかしたんですか?」
「いや、なんでもない」
その視線に耐えたまま、ようやく学食に着き空席を見つける。
席はグレイが見ていてくれるというので、俺とライラは二人で注文に向かった。
二人で歩いている分、先ほどよりも視線に含まれる殺気が増したような気がしたが気のせいだと思いたい。
俺はグレイの分の食事も注文して元の席に戻るとグレイが知らない男子と話していた。
「わかった、明日でいいか?」
そうグレイが言うと、その男子はうなずきすぐにどこかへ行ってしまった。
「何かあったのか?」
「ちょっとな、まあ、そんなことより早く喰おうぜ」
どんな内容であったのか気になるが、言わないのならば聞くだけ野暮というものだ、と思い俺はそのまま席に着き食事をとる。
――昼休みも終わり今日も演習の授業が始まる
最近、みんなの動きを見ていてジンが弱いとか言われている理由がわかってきた。
爆発という魔力の特性上、防ぎにくくはあるが、他の4人が避けるのが上手いのか、ジンが狙うのが下手なのか避けられ、近距離になってしまうと爆発で自分もダメージを食らうので使えなくなり詰むというのがいつもの流れであった。
俺の場合は、近接戦闘でも勝てない上に避けれないのでどうしようもないが、これから練習していけば近接戦では勝てるくらいにはなると思う。
それにしてもそのほかの四人は、全く勝てる気がしない。
クレアは加速による突きで開始と同時に負けが決定するし、ジンの銃弾がよけれないのにリタのナイフがよけられるわけもなく、ノアは1撃防ぐのがやっとで2撃目の魔法と鎌の2段攻撃を防げやしない、ミリィは手加減してくれてるけど、本気で来たら何もできずに終わる自信がある。
戦闘において、俺は明らかに出遅れているのだから今更追いつこうなどとは思わないがせめて、足手まといにならない程度にはなりたい、そのためには基礎的なことは当然として工夫が必要だが、どうすればいいんだか……
そんなことを思いながら、素振りをしてその日の授業を終えた。
さて、俺の足りない頭で考えて見てもろくな答えが出るとは思えないから、先人の知恵を借りようと思い図書館へと足を向ける。
本を探しては読むこと1時間、『これだけで強くなれる!』や『強くなるための一冊』など色々な本を読んでみたが、どれも最終的にはとにかく練習しろとしか書いていない、確かにその通りなのだが、そんなことは言われなくてもわかるから、もっとわからないようなことを書いてもらいたい。
今度は武器による戦闘の教本ではなく、魔法についての本を探して見ることにしたが、自分の属性の魔法でさえ完全には使いこなせていないのだからとりあえず、自分の属性ぐらい扱いこなせるようになろうと思い、保存属性に関する本を探してみるがなかなか見つからない。
やっとのことで見つけた本には、すでに知っている情報以外には『旅商人にとっては夢のような属性だ』としか書いてなかった。
旅商人になろうにも旅の途中で魔物に倒されたら、夢半ばで終わってしまうじゃないか。
結局いくら調べての魔法の保存のやり方さえ分からない、見つけた資料によると魔法の保存に成功した前例は一名のみで、その人物がその方法を語らなかったために、いまだにその方法は分かっておらず、その人物の後にはほかに保存属性の人は現れなかったためにその方法も研究されていないらしい。
その人の戦闘時の記録などから、一つだけ俺にもできそうなものを見つけ、俺はその方法を試すために自室へと帰った。
――次の日の昼休み
昨日見つけたものを昨日の夜に試してみたが、あまりにも魔力の消費が激しすぎて普段から使おうと思えるような代物ではなかった。
もしもの時に使えば大きな効果があるだろうが、その時に魔力がなければ使えないので使い勝手の悪さは変わらない。
ついつい、悩みが口をついて出てくる。
「一体、どうすりゃいいんだか……」
そんなことを呟きながら廊下を歩いていると校庭のほうが騒がしいことに気付き、窓から見てみると校庭に人だかりができている。なんとなく、気になり俺も外に出てその人だかりの中へと加わった。