第25話 休日は寝て過ごすものだと信じている
この学校に来て初めての休日、さすがに休日はいつもはうるさいメイドさんも起こしには来ないようで、気分良く寝ていた昼下がりに俺の部屋にノックの音が飛び込んでくる。それを俺は無視し続けると次第に激しくなっていったが、しばらくすると諦めたのかその音もやんだ。
これで気分よく眠れると思った瞬間に鍵の開く音がし、扉が開く、鍵が開いたからミリィであろうという予想をし俺はそのまま眠り続ける。
足音が次第に近づいてきて、気が付いたことだが、どうやら一人だけではなく何人かいるようだ。
俺はそんなことは関係ないとでもいうかのように、ベッドの中で動かずにいるとなんだかひきだしをひく音と共に聞きなれた声が聞こえてくる。
「なにか、面白いもんないかな~」
この声はたぶんジンであろう。あいにく、俺の部屋には特に面白いものなどないが、できれば部屋の中は荒らさないでもらいたい。
そんな俺の望みは届くわけもなく、俺の部屋が荒らされていく。
荒らされゆく俺の部屋に、想いをはせながらも俺はなおも布団の中から動こうとはしないでいると、クレアの声が聞こえてきた。
「こいつ起きないわね、しょうがない」
次第に近づいてくる足音に俺は一抹の不安を覚えた。
衝撃が腹を貫く。
「ごふっ……」
俺はクレアに腹を殴られベッドの上で腹を抱えてうずくまる。
「やっと起きたわね、早く準備してきなさい」
そう告げるとまるで何事もなかったかのような涼しい顔をして部屋を出て行き、みんなもそれに続いた。
一体、なぜ俺は殴られなきゃいけないんだ等と文句を言いながらも、俺は着替え部屋を出る。
部屋の前の廊下では、私服姿のメンバーが待っていた。
夏休みが終わったといってもまだ暑さの残る季節なのでみんな夏らしい恰好をしている。
とりあえず、俺が腹を殴られてまで起こされた理由を尋ねねばならない。
「今日は何の用だ?」
「買い物行くから荷物持ちよろしく」
さも、当然のようにそう言い放ちクレアは歩きだす。
荷物持ちなんかをするために俺は起こされたというのは、頭に来るが、逆らったら俺の体がもたなそうなのでとりあえずは我慢しよう。
前を歩きながら、どこの店に行こうかなどと楽しそうに話している女子3人後ろをまるで興味なさそうについていく男3人という構図は買い物の間中、変わることはなかった。
服を買い、俺に渡すという作業が続けられ、俺は魔力の回復速度と減る速度が同じになるギリギリまで荷物を渡されたが、それだけでは足りず、3時間後には、男3人は大量の荷物を両手に持ちなんだか疲れた顔をしていた。
いまだに買い物を続けている女性3人の元気はいったいどこからやってくるのだろう?
そんな無駄なことを考えながら少しでも疲れないように近くの公園のベンチに腰かけて、買い物袋が増えるのを待つ。ちなみに、買った物のうち、8割はリタのものであり男3人に至ってはほとんど物を買っていない。
休日ということもあってか、街はそれなりの賑わいを見せ、カフェのテラスでコーヒーを飲んでいる人や俺たちのように大量の荷物を持っている人が見受けられ、公園では子供が遊ぶ姿も見受けられれば、友人と談笑している人、昼寝している人などが見受けられる。
やはり、この髪と目のせいで人に見られているような感じがするが、この感覚もそのうち慣れるのであろう。
そんな風に、周りの様子を観察していると、買い物を終えた女子3人が戻ってきたようだ。
「おーい、次の店行くよー」
そう言って俺たちを呼ぶリタの両手の荷物を見て、ため息を吐く。
次の店への道中、俺はほかの男二人に話しかける。
「なんでお前らはついてきたんだ?」
俺は、荷物持ちしないと後が怖いからだが、ジンはともかくノアは断ってもよかったはずだ。
「荷物持ちするとリタが晩飯作ってくれるし、今回はリューヤがいるからそんなに荷物持たないで済むと思ったんだが、読みが外れちまったな」
そう言いながらジンが軽く肩をすくめ、ノアがそれに対して軽くうなずく。
その後も買い物は続き、最終的には6人全員が両手に大量の荷物を持った状態で寮へと帰ることとなった。
寮に帰ってきた俺たちはクレア、ミリィ、の部屋にまずは荷物を置き次にリタの部屋へとやってきた。
リタの部屋に着きまずは両手の荷物、そして保存していたものを放出していきそれをリタが片づけていくという作業が続く。
「一体、どれだけ買ったんだよ」
俺がそうつぶやくとリタが苦笑いをする。
「いやー、いつもはみんなの両手がいっぱいになったところでやめるから、こんなにはならないんだけど、今日は買いすぎちゃった」
そう言いながらも手が休まることはなく、すべての荷物が片付くまでにかなりの時間を費やした。
片づけも終わり料理を作ってくるからと言ってリタはキッチンへ、クレアとミリィもその手伝いに行き、ノアは本を取り出して読み出し、俺は特にやることもないのでボーっとするが、となりでジンが頻りにキッチンのほうの様子を確認している。
そんなに飯が待ち遠しいのだろうかなどと考えていると、ジンが立ち上がる。
「リューヤ、ちょっとクレアたちが来ないか確認しといてくれ」
どうやらジンは無謀にも女子の部屋を物色しようとしているらしい。
「断る」
「えー、いいじゃないかよ」
わざわざ自分から地雷原に足を踏み込むほど俺は馬鹿じゃない。
俺の協力が得られないと諦めたのか、ジンはタンスに向かい取っ手に手をかけた。
「あんた何やってんの?」
ジンが固まる。
キッチンと居間をつなぐドアのところにはクレアがたっており、ジンを睨んでいる。一瞬、クレアが俺の方を見るが、首を振って俺は無関係であることを示す。
クレアはジンの襟をつかみ、そのままキッチンに引きずっていく、引きずられるジンの目には涙がたまっていた。
それから5分後リタが居間にやってくる。
「晩御飯できたよー」
俺はそれを聞いて立ち上がる。
「じゃあ、運ぶの手伝うよ」
そのあと、俺たちは食事をしながら楽しそうに話をする。ジンは、その様子を部屋の隅で正座しながら黙ってみている、自業自得なのでしょうがないが、なんとなく哀れに思えてきた。
その日結局、ジンがリタの料理にありつけることはなく、一人寂しく寮の食堂で晩飯を食べたらしい。