第23話 まったく、周りについていけないよ
今日で回復魔法の勉強を始めて5日目、初日以来夜更かしはしないようにしているので勉強の進む速度はそれほど速くはないがそれでもかなり進んできて、既に形はほとんど見えてきており、残すところ1割ほどといったところであろうか。
晩飯を食べ終えた俺は、今日も勉強を開始する。
昔ならばここまで何か一つに一生懸命に取り組んだりはしなかったが、今はこれが楽しくてたまらない、おそらくは今までの勉強と違って、結果が目に見えてわかることが楽しいのだろう。
それから3時間ほど勉強をし、もう後は実践を残すのみといったところまで来たが、誰かが怪我をしていなければ発動すらできない魔法のようで実際に発動するのかを確かめるには怪我をするしかないが、発動しなければただ自分で怪我をした馬鹿になってしまう。
とりあえずは明日の戦闘の授業で怪我をするだろうからそこで試せばいいだろう、と思いその日は早めに就寝することにした。
――次の日の昼食後、俺はいつも道理、訓練場へと向かい素振りを始める。
授業開始予定時間から10分ほど遅れてジャンが来て連絡を始めた。
「えーと、今日から魔法を含んだ戦闘の訓練に入る、それに伴い怪我人が出るだろうがそこらへんは適当にやっといてくれ、じゃあ開始」
そういうといつも道理、ジャンは出ていく、この怠慢教官のおかげで今まで魔法の使用が禁止されていたことすら俺は知らなかった。
魔法を使われるということで、俺は生命の危機を感じ取り今回はミリィに手加減をしてもらおうなどと調子のいいことを考えていると、ジャンが戻って来て余計な事を言い出した。
「今日からは2人組じゃなくてグループごとで訓練しろよ、後これが各グループの訓練場の場所割りな」
壁に何かの紙を貼り、また訓練場を出ていくジャンを呆然と眺めることしか、俺にはできなかった。
呆然としている俺にミリィが話しかけてくる。
「リューヤ様、第17訓練場に移動しますよ」
俺はミリィに連れられ、ほかの仲間たちと合流し、第17訓練場に移動を開始する。
移動の間みんなが、どのような方法で訓練をするかについて話し合っていたが、俺はどうやって今日の訓練を生き抜くかを考えることで精いっぱいで、ほとんど聞いていなかった。
目的地に着き、ノアが今日の訓練の方法について話し出した。
「まずは、新しく入った二人の力量を正確に測るために自分が二人の相手をしよう」
俺の力量など計る間もなく、ほぼ皆無に等しいというのに、全く世話が焼けるやつらだ。
「まずはミリィからだ」
「わかりました」
俺を含めたほかの四人は、二人の戦いに巻き込まれないように離れる。
それを確認したノアが口を開く。
「準備はいいか」
「はい」
その後一拍を置いてノアがしゃべりだす。
「では、行かせてもらう」
その言葉と共にノアが駆け出し、ミリィはその行く手をふさぐように魔力糸を展開する。
ノアは大鎌で魔力糸を断ちながら進んでいこうとするが、ミリィの魔力糸による攻撃により思うように進めていない。
その様子を見てクレアが呟く。
「このままだとミリィの勝ちね」
俺は、それに疑問を覚えた。
今の状態は両者ともに攻めきれずに拮抗しているように見え、ミリィは魔力糸を生成していることを考えれば魔力切れが起きてミリィのほうが不利になるように思える。
「なんでだよ?」
「ミリィの様子を見てみなさい」
俺はミリィの様子を集中してみてみる。
口がかすかに動き手元におそらく火の魔力が集中しているように見える。
「魔法か?」
「そうよ、しかもあの量の魔力と詠唱の長さからして中級魔法ね」
確か、俺が今使えるのが初級魔法で、初、下、中、上級の順に強くなっていくはずだが、中級がどれほどのものなのかわからない。
「それってどれぐらいの威力だ?」
「どの魔法をどれくらいの規模で使うかにもよるけど、そこら辺の魔物なら消し炭になるくらいね」
魔物がどれほどのものかはわからないが、なんだかすごそうだということだけは解った。
「それって、ノアが食らったらやばくないか?」
「ええ、大変な事になるわね」
そういいながらクレアは、流暢に見ているだけである。
「止めなくていいのかよ!?」
俺が慌てて、ミリィにやめるように言おうと思った時にジンが話しかけてくる。
「まあ、待てって、ノアも気付いてないわけないだろ、もう少し見てな」
「そんなこと言ってる場合じゃ……」
「星無しだまってなさい、あんた相手に使おうとしてるなら私だって止めるわよ、それにもう魔法は完成したようよ」
その言葉を聞きミリィのほうを見るとミリィの左右に巨大な炎の槍が1つずつ浮いており、ミリィが両手をふるうと同時にその槍がノアに向けて飛んでいく。
ノアは魔法を確認すると同時に後ろに飛び退き、鎌を地面に突き立て両手を前に向けると、ノアの手前5m程の位置で炎の槍が掻き消える。
「え、今いったい何が?」
俺は全く意味がわからずに、クレアに尋ねる。
「ノアの固有属性は風、今のは同等威力の風の魔法で相殺したのよ」
「そうだったのか……あれ、でもそれならなんでミリィの勝ちだって?」
魔法を撃っても相殺できるのなら負ける理由がない。
「まあ、見てなさい」
俺が二人に目を移すとノアが手を挙げる。
「魔力切れだ」
「ノアはミリィの魔力糸を切るときも風の刃を鎌にまとわせてたから魔力切れは仕方ないわね」
あー、なるほど固有属性の魔法は全部自分の魔力で出すんだったな。
戦いを終えた二人がこちらへと歩いてきて、ノアが口を開く。
「すまないが、俺はリュ-ヤの相手をするだけの魔力が残っていない、誰か代わりに相手をしてやってくれないか?」
その言葉を聞きすぐにジンが手を挙げる。
「なら、俺がやってやるよ」
それを聞いてリタがうなずく。
「リューヤの相手なら、ジンが適当かもね」
「ほら星無し、さっさと行きなさい」
またしてもジンにボロボロにされるのかと、俺は少し憂鬱になりながら訓練場の中央へと歩いていく。
俺がつかえるのは、自分の属性の保存と多少の剣技に水と風の初級魔法をそれぞれ1つずつと回復魔法が多分使えるくらい、一体どうやってこれで戦えというのか、先ほどの戦いを見せられたら余計そう思えてしまう。
「もう、準備はいいか」
そう言ってジンは俺に二つの銃口を向ける。
何もしないで負けるのも味気ないか、と思い俺は剣を構える。
「ああ、来いよ」