第20話 飯の恨みは恐ろしい
「ランク?」
正直な話、何のことかさっぱりだ。
とりあえず、ミリィのほうに視線を向け助けを求める。
ミリィは俺の言いたいことがわかったようで軽くうなずいてから4人に向けて口を開く。
「私は特級、リューヤ様はランクなしです」
なんとなくランクなしという言葉に戦力外通告を受けたような気分になる。
恐らくはその想像は外れてはいないだろう、多少驚いた様子の4人からの視線が痛いのが証拠だ。
一瞬の沈黙の後クレアが口を開く。
「つまりミリィを入れる代わりに星無しのお守りをしろってことね、ジャンの奴も面倒くさいことをしてくれるわね」
その言葉に違わぬように顔を忌々しそうに歪め、いかにもいやだと言わんばかりの雰囲気である。
俺は聞きなれない言葉にミリィに耳打ちで尋ねる。
「星無しって何?」
それに対してミリィも耳打ちで答えてくれる。
「自分のランクを表す襟章が星形をしていることから、ランクなしの人のことを言います」
そう言ってミリィが自分の生徒手帳を見せてくる、その表紙には銀色の星がつけられていた、おそらくはこれがその襟章だろう。
「ちなみにそれってどれくらいのランクなの?」
「私は下から数えて4番目のランクです」
それがすごいのかどうかはわからないがとりあえず、俺が歓迎されないであろうことは解った。
しかし予想外の反応がノアから帰ってきた。
「ランクだけがすべてではない、ランクを持たないというだけで邪魔者扱いするのは早計だ」
ジンもそれに続いて口を開く。
「そうだぜ、魔法だけでしかランクは決まらないんだからそれだけで役立たずかどうかはわかんねぇよ」
「ジンは役立たずだったけどね」
ぼそりとクレアが呟くように言う。
「役立たずっていうなよ!」
「事実でしょ」
ジンとクレアは言い合いを始め、それを笑いながらリタが眺めている。
そんな様子を苦笑いしながら俺も眺めているとノアが俺のほうに歩いてきた。
「このチームを仕切らせてもらっている、何か困ったことがあったら言ってくれ」
恐らく口数が少なかったり、愛想がよくなさそうなのはノアの気質なのだろう。
ノアの話によると、ジンが下から二番目のランクの初級魔道士、ほかの3人は三番目の一級魔道士らしく、今のところランクだけで見たらミリィが一番上らしい。
「なぁ、あの二人は放っておいてもいいのか?」
俺はいまだに口論をやめようとしないジンとクレアを指さして、ノアに尋ねる。
「いつものことだ、気にしないでくれ」
そこにリタも口を挟んでくる。
「そうそう、夫婦喧嘩に口出すのは野暮だよ」
その言葉が聞こえたのか、ジンとクレアがリタを睨む。
「「夫婦喧嘩じゃない!」」
俺からしたらここまで息が合っていれば十分夫婦で通ると思うのだが、そんなことを言うと俺まで睨まれそうなので黙っておこう。
そのあとノアから明日からの授業の日程などを教えられ、横でミリィが書き留めていたので俺は聞き流す。
ノアの話が終わると、どうやら夫婦喧嘩も収まったようでクレアが口を開く。
「もう、ランクはいいから固有属性と得意な属性を教えて」
「俺の属性は保存で、得意なのは水それに続いて風」
「私の属性は音で、得意な属性は火と風です」
俺たちの話を聞いてくレアが少し驚いたような顔をする。
「二人とも固有属性が特殊型ね、その能力について軽く説明してくれる?」
俺とミリィはそれぞれ自分の能力について説明し、俺は実際に保存していた剣を出して見せる。
「なるほどただの役立たずかと思ったけど、荷物運びとしては優秀ね」
「それは褒めてるのか?」
実際のところ褒められていたとしてもあまりいい気分はしないが。
「褒めているわよ、あなた一人いれば荷物運びだけで言ったら何十人分にも匹敵するじゃない」
「そいつはどうも」
俺は苦虫をかみつぶしたような表情でそう答える。
そんなやり取りを俺たちがしているとリタが割り込んでくる。
「とりあえず、2人とも連絡取れるようにしようよ」
連絡といわれて思い出したが確か編入したときに渡されたものの中に連絡用の魔道具があったことを思い出す。
「これってどうやって使うんだ?」
形はただのカードであり、使い方は全く分からない。
「とりあえず魔力を流してみて」
言われた通りに俺は魔力をそのカードに流してみる、すると目の前にディスプレイが展開された。
「おお、すげぇ」
完全に中世な雰囲気のこの世界だが、結構近未来的なものがある。
俺はリタに教えられながら操作を覚えていく、さながら初めて携帯電話を持たされた人間と大差ないであろう。
なんとか、全員の登録を済ませその日はそれで解散となった。
――その日の夜さっそくジンから連絡があった。
内容は単純に今から晩飯を食べないかというものであったが、今日はもう食材も買い終わっており自炊をするからまた今度にしようと伝えたはずだ。
しかし今現在、なぜジンとリタは俺の部屋で飯を食っているんだ。
「なあ、なんでお前たちは俺の部屋にいるんだ?」
その問いに対してジンがさも当たり前のようにこたえる。
「それは飯を食べるためだろ」
「いや、聞きたいのはそんなことじゃなくて」
俺が困ったように言うとリタがジンに対して口を開く。
「ジン、リューヤは何で私たちがリューヤの部屋で食事しているのかを聞いているんだよ」
うん、リタさんその通りだ、でもそのあとに何もなかったかのように食事を再開するのはいかがなものかと思うぞ。
「なるほど、そんなの俺が晩飯代を浮かせるために決まってるだろ」
俺はこのバカをなぐってもいいのだろうか?
「とりあえず殴るのは後にしとくが、それだとリタの居る理由のはならないぞ」
俺の問いにリタが答える。
「ジンがただでご飯食べさせてくれるっていうから、ついてきたらリューヤの部屋だったの」
なるほど悪いのは全部ジンってことか。
俺はジト目でジンのことを睨むが、ジンはうまそうに飯を食い続けるだけだった。
多少多めに買っていた食材は3人分の食事に消え、次の日の朝俺はパンだけをかじりながらジンに今度飯をおごらせる算段を立てていた。