第18話 引っ越しの時の段ボールって邪魔だよね
「それにしても試験の時もそうだが、学校まで遠すぎないか?」
今、現在俺は学校のある街へと向かう車の中にいる。
車と行っても俺の元いた世界のものとは違い、風の魔石により車体を浮かせての移動をするものであり、揺れの面でいえば自動車よりも優秀だろう。
「しょうがないですよ、王立学園には王都だけでなくほかの街や村からも人が集まるので私たちがいくリブヤタンが北西、ベヘモットが北東から南東の一部、南東および南西の一部の者はジズに通うことになっておりますからどの場所からもいきやすいところに作るしかないんです。」
魔物がはびこるこの世界においては戦えないことは死を意味するらしく、義務教育期間は12年で学費は無料の全寮制らしく夏休み、冬休み、春休み以外はその学園を中心として形成された都市で生活するらしい。
「それにしても、転移ってどこにでも使えるわけじゃないんだな」
「はい、これから行く学園では王都の中心部と同様に転移で入り込むことが禁止されております」
まあ、実際問題そんな簡単に入り込めるようにしていたら危険すぎてたまらないもんな。
そんなことを考えながら窓の外で流れていく自然豊かな景色を眺める。
街は基本的に城壁で囲まれており、一歩その外に出れば自然豊かな地形が広がっており、まるで城壁の中と外とでは別の世界のようである。
車に乗って移動すること約1時間、目的地となるリブヤタン王立学園を中心とする街が見えてきた、その規模は王都ほどではないがおそらくこの世界では大きいほうであろう。
俺は街の中の様子を眺めながら、車に乗っていると校門の前に着いたようであり、車は停止する。
「相変わらずでかいな、この学校は」
そう言いながら俺は車を降りて学校を見上げる。
「まあ、この敷地内に全部で16の寮と初等部、中等部、高等部の校舎がありますからね、それなりの敷地面積は必要ですよ」
ちなみに、この国では初等部、中等部、高等部はすべて6年制らしく、歳からいえば俺は高等部一年。
俺とミリィが今日ここに来たのは編入の手続きのためである、寮の入居だのなんだのめんどくさいのがあってそのためには本人が直接学校に来ないといけないらしい、全くを持って迷惑な話だ。
俺はそのあと事務室のような場所で学生証や学生服などいろいろと渡され、ハンコ代わりになんかよくわからない紙に魔力を注ぐ。
そして、16号棟が俺の入る寮だということを告げられ俺とミリィはその寮に向かう。
寮につき、管理人室にいたおばさんに部屋番号を聞き俺は部屋へと向かう。
「えーと、ここか」
俺は自分の部屋を見つけ鍵を使い扉を開く、まさかのタッチ式カードキーだったことには驚いた。
「リューヤ様、では私は自分の部屋に参りますので」
「ああ、荷物俺があずかってるんだったな、部屋まで運ばなくていいのか?」
「はい、大丈夫です」
実は、俺の世話係としてミリィもこの学園に編入することになっている。
別に一人でも問題はなかったのだが、知り合いがいるに越したことはないので快諾した。
俺は保存していたミリィのカバンを出しミリィに手渡す。
「では、後程お迎えに上がります」
「ああ、またあとで」
まだ、こっちで色々と買っておかないといけないものがあるらしく部屋に荷物をおいたら街に買い物に行くことになっている。
俺はミリィに別れを告げた後に部屋の中に入る、部屋の間取りは1DKといったところだろうか、それなりに広く収納スペースも多い。
この寮は食事が付いていないため、寮の食堂で金を払って食べるか、自炊するのが基本である。
まあ、俺は料理はそこそこにできるので自炊しようかと考えている。
とりあえず、このなにもない部屋では何もできないので荷物を出して、床に座りミリィを待つ。
そのあと、ミリィが迎えに来て買い物に行き、家具や料理器具、その他もろもろを買い部屋へと帰ってきた。
流石に荷物の量が多くなり、保存に使う魔力が回復速度を上回り、寮に戻った時にはほぼ魔力切れ状態だった。
流石に家具などもあるので今度はミリィの部屋まで荷物を運び込んだ。
俺がミリィに言われた通りの配置に家具を置いていき、他の荷物を置き部屋を後にした。
その後俺の部屋も家具を置き荷物を片付け、ちょうど一息入れようと思ったところでミリィが俺の部屋へやってきた。
「どうした?」
「夕食ができましたのでお迎えに上がりました」
買い物時に夕食の話になり今日はミリィが作ってくれるということになっていた。
俺が料理ならできると伝えたら、『数学以外にもできるものがあったんですね』などと皮肉を言われた。
「ちょうどひと段落したところだったんだよ」
そう言いながら俺は部屋を出てミリィの部屋に行く。
食事を終えた俺は両手をあわせる。
「ごちそうさん」
「お粗末さまでした」
ミリィの料理はかなり上手く、軽々と平らげることができた。
食べ終わった皿を片付けだすミリィに俺は話しかける。
「そういえば、ミリィもここに通ってたのか?」
「はい、義務教育でしたので」
「じゃあ、友達もここにいるのか?」
俺の問いに対してミリィは首を横に振る。
「いいえ、私は使用人養成のための特別クラスに通っておりましたので中等部卒業と同時に皆この学園を出ました」
俺はその話を聞いて疑問を持った。
「使用人て、養成しなきゃいけないもんなのか?」
「はい、仕える主人の身の回りの世話は当然のこととして身辺警護もこなせなければ使用人にはなれませんから」
「じゃあ、ミリィもここで頑張ったんだな」
「まさか、またこの学園に戻ってくるとは思いませんでしたがね」
そう言ってミリィは微笑む。
そのあと、俺は自分の部屋に戻り残りの荷物を片付けてから眠りについた。
――次の日の朝
カーテンの隙間からは朝日が差し込み、部屋をノックする音が部屋には響き渡る。
そんなことは気にもせず布団の中で丸くなる俺。
しばらくするとノックの音はしなくなり、諦めて帰ったかと思ったところで耳元で爆音が鳴り、俺は飛び起きる。
「おはようございます」
まるで何もなかったかのようにいつも道理に挨拶をするミリィ。
「ああ、おはようじゃなくて、なんで部屋の中に入って来てるの!?」
「以前、ノックをしても反応がなければ部屋に入って起こしていいと言われましたので」
「うん、言ったけどそうじゃなくてどうやって入ったんだよ!?」
そういうとミリィは納得がいったような顔をする。
「そのことでしたか、これです」
そう言ってミリィが見せてきたのは寮の鍵である、しかも俺の部屋番号がかいてある。
「あれ、俺も鍵持ってるぞ?」
そう言って保存していたこの部屋の鍵を出す。
「これは合鍵です、使用人だと言ったら寮母さんがくれました」
俺のプライベート空間はこの瞬間に崩れ去った。
「そのカギをよこしなさい」
「申し訳ありませんが、できません」
「そのカギをよこしてください」
「断ります」
「お願いです、そのカギをください」
「ダメです」
俺はその日帰りの車の中でも鍵を渡すように頼んだが、ミリィは断固としてそれを拒んだ。