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第17話 テストって受けるときより返される時のほうがつらい

 俺が正座している目の前で、ミリィがため息をつく。


「呆れて言葉も出ませんよ、いったい今まで何をやっていたんですか?」


 何と言われれば勉強や訓練などいろいろやっていたが、今、口を開いたら殺られると思い、黙ったまま床を見つめる。


「まったく、あんな簡単な問題ばかりなのにこの点数……」


 なんとか、反論しようと思って俺は口を開く


「数学は満点じゃないか……」


 それでもミリィの気迫に押されて徐々に声が小さくなっていく。


「ええ、そうですね私が教えていない数学“だけ”はよかったみたいですね」


 よほど自分が頑張って教えたことを俺が生かせなかったのか、さっきからこんな調子で俺は説教を受けている。


 俺が試験の時、どんな感じだったかというと


――「はい、始めて」


 やる気のない感じで試験官の中年男性が灰色のぼさぼさ頭を掻きながら開始の合図をする。


 俺はその合図とともに、1教科目の歴史のテストに臨む、もともと理系の俺に歴史をやらせるのも問題だが、全く知らない世界の歴史の問題を解けというのだ余計にたちが悪い。


 出来はなんとかなったかなといったところだった。


 2教科目の言語学にしても同じようなものだった。


 3教科目の数学はっきり言ってこいつは楽勝、いったいこの世界の科学はどこで止まっているのだろうか?


 4教科目魔法学、魔法というものに今まで触れたことがない割には頑張ったと思う、うん頑張ったそう思いたい。


 さて問題の実技試験、つまり戦闘だ。


 俺は試験官につれられ、校庭に移動する。


 校庭にはぽつんと人形が置かれていた。

 人形といっても、魔道具の一つで魔力を注ぎ込んだ者の命令に従い動くものである。


「お前の相手はあれだ」


 はっきり言って人形があいてなのは都合がいい、人形は動きと頑丈さは人間のそれを超えるが魔法を使うことができない、しかも肉体強化さえ使えば大抵は人のほうが動きはいい。


 これなら勝てると思っていると、試験官が説明を始める。


「今回の試験はあくまで実力を測るためのものだ、ただ勝てばいいってもんじゃないからな。」


 そういって試験官が人形に魔力を注ぎ込むと、人形は立ち上がる。


 俺も肉体教科を施し、剣を出し構える。


 そして試験官の開始の合図で俺は人形に向かって走り出す、しかし人形はその場から動かない。

 俺は、そんなことは気にせずに切りかかるが人形は一太刀目を避ける、二太刀、三太刀目も同様に避けられる、そこで俺は気が付く。


 この人形、避けることだけを命令されている


 人形から攻撃してこないのならば俺の負けはない、しかし俺の攻撃も上手くはない、つまり、どうやって倒すのかを見て実力を判断するということだろう。


 俺の使える技はせいぜい風と水の初級呪文と拙い剣技程度である、これでどうやって倒すか。

 正直な話、水と風の属性は火や土に比べて威力が弱く決定打にはなりえない、やはり魔法を牽制に使い隙をついて剣でとどめを刺すしかない。


 俺は再度人形に切りかかる、人形はやはりそれを楽に避ける、しかし今回はこれだけでは終わらない。


「敵を弾きしは風弾」


 風属性の魔法は確かに威力は弱いが速度はある故に牽制には向いている、一度攻撃を避けて体勢の整っていないところにこの魔法が当たれば体勢を崩せる。


 予想どおり人形は風弾を避けきれずに体勢を崩す、俺は体勢を崩した人形に向かい剣をふるうが、人形は回避を試み、そのせいで俺の剣はかする程度のとどまり、再度距離をとられる。


 風でダメなら、次は水か?

 いや、風でもかすった程度なら水では当たりもしない可能性が高い、ならあれを試してみるしかないか……


 ここ1週間で練習してきて、まだ完全ではないにしても形はできている。


 俺は成功することを祈り人形に向けて走り出し袈裟切りを繰り出す、当然のようにそれを避けた人形に向けて風弾を撃ち体勢を崩す、ここまでは先ほどと何も変わらない。


 俺は右手に持つ剣を袈裟切りし終わった体勢から切り返す、当然先ほどのように人形は無理やり回避をしさらに体勢を崩す、しかし今度は剣がかすることはなかった、すでに俺の右手には剣はなく、代わりに左手に剣を握りしめており、俺は人形の首めがけて剣をふるう。


 当然そのあと繰り出される左手の斬撃を避けることはできず人形の首が飛び動かなくなる。


「はいそこまで、おつかれさん」


 その様子を見て試験官が終了を告げる。

 結果は後日グランツ家の屋敷に送ると言われ俺は付き添いについてきていたミリィとともに屋敷へと帰った。



――以上が試験の様子だ。

 まぁ、これで分かってもらえただろうが、筆記試験は数学以外壊滅的状況だった。


 そんなことは一言も言ってないって?

 出来が良かったと思ったとき以外はたいてい壊滅と相場は決まっている、よかったと思っていても壊滅状態な時もあるが。


 とりあえず、少しでもミリィの機嫌をよくするために何か言い訳をしなければ。


「あ、でも実技のほうでは最後に練習してたあれ出来たよ」

「保存を利用した武器の持ち替えのことですか?あんなのはできて当然だと思っていましたが」


 そういうミリィの顔はいつもと何も変わらないが、雰囲気に怒りを見て俺は縮こまる。


「そ、そうだよな」


 今のミリィにとっては焼け石に水だったようだな、普段なら多少の賛辞をおくってくれるところだろうに。


 筆記科目の復習はしたって言いながら隠れてその練習ばっかりしてたせいで、筆記試験のほうは散々だったんだけどね


 どうやってミリィに怒りを鎮めてもらおうかと悩んでいると、そんな様子の俺を見てミリィはため息をつく。


「まったく、ぎりぎり合格できたからいいようなものの、もしできていなかったら」


 うん、そうなんだよ受かってるんだよ俺、たぶん数学が満点だったから他をカバーできたからだけど受かっちゃってるんだよ。


 なのにこんなに怒られるのっておかしくないか?

 37日間で大学受験の勉強、最初から初めて受かったようなもんだよこれ?


 まあ、受かったってだけでほぼ奇跡なのにこちらのメイドさんは不満たっぷりみたいでもうどうしろってんだよ。


「聞いてるんですか?」

「は、はい!」


 うん、黙って正座しておこう、いい加減足しびれてきたけど今は黙って怒られるしかないよ。


 だって……さっき部屋に突撃してきたグレイが一瞬顔を引きつらせるくらいには怖いんだよ。


 きっとミリィは教育ママになるんだろうなぁー、などと考えつつ正座し続けること約1時間、俺はやっとのことで解放され今後はミリィのことは怒らせないようにしようなどと誓いつつ眠りにつく。


 ちなみに、そんな誓いは次の日には忘れていたことは言うまでもない。

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