第15話 べ、別に負けたって気にしない
「おし、できた」
俺の右手には同調に成功した水の魔力を納まっている。
同調の訓練を始めて二日目、なんとか5回に1回くらいは成功するようになってきたが、それは魔力だけに集中すればのこと、最終目標は戦闘中に使えるようになることなので、他のことをしながらも100%成功するようにならなければ意味がないということなので、まだまだ道のりは長い。
「今日はこれくらいにしておきましょう、剣のほうも練習しないといけませんし」
「了解」
そう言って俺は魔力を霧散させ、代わりに右手に剣を出す。
「大体の基本の形は教えましたので、今日からは組手形式の練習をしたいと思います」
「組手って、もしかしてミリィと?」
ほかに相手が思い浮かばなかったので、俺はそう尋ねる
「はい、そうですが?何か問題でもありましたでしょうか?」
いかにも問題なさそうな雰囲気で言い放つミリィ、しかし俺からしたら十分に問題である
「いや、流石に女性に切りかかるのは気が引けるというかなんというか……」
もし怪我をさせてしまったらという不安から俺は口ごもる
「安心してください」
次の瞬間に俺の視界が回転し、気が付けば天を仰いでいた。
俺は、一瞬何が起こったかわからなかったが、ミリィに足払いを食らってこけさせられたことに気付く。
「組手といってもリューヤ様は私に一太刀も入れることはできないのでご安心ください」
そう言って笑顔で俺に答え、手を伸ばしてくる
俺はミリィの手を借り立ち上がりながら、安心よりも情けなさに襲われた。
これまで数日間訓練を重ねて、クマも倒せたこともあって多少は強くなった気でいたが、どうやらこの世界では熊殺しは何の自慢にもならないらしい。
俺はそのあとミリィ相手に組手をするも一太刀も入れれないどころか圧倒的すぎる力の差に愕然とするばかりだった。
――それから三日後
俺は片手での同調もすでにこなせるようになっており、今は組手中に魔法を使えるようになることを目標に練習を続けているが、成功回数は今までで1度だけでとても戦闘中に使えるような状態ではなかった。
「魔力ばかりに集中していますと、攻撃を受けてしまいますよ」
俺が同調に集中している隙をついてミリィが足払いをしてくる。
いくら手加減をされているからと言って魔力に集中していた俺は避けることができずに転ばせられる。
「一度は成功したんですから頑張ればできますよ」
そう言って励ましながら手を貸してくれるミリィ。実際のところ一回成功したといっても打つ方向を間違えて外しているので成功と呼べるか怪しい
「じゃあ、もう一回頼むわ」
そう言ってミリィと、ある程度の距離をとる。
「ではいきます」
その声と同時にミリィは駆け出し俺は剣を持って構えながら同調を開始する。
俺はミリィが間合いに入る瞬間を見計らい剣を横に薙ぐ、それをミリィは姿勢を低くして回避しそのまま足払いを繰り出してくる。
俺はジャンプして避けそのまま空中で蹴りを繰り出すが、ミリィは後ろに下がりよける。
そして珍しく今回は魔力の同調に成功した俺は詠唱を開始しながらミリィと距離をとる。
「逃がしませんよ」
そう言って駆け出すミリィに対して俺も前方に駆け出す。
あと数秒で間合いに入るといった距離に来た時に俺は剣を再び横に薙ぐ
「その距離では当たりませんよ」
そう言って蹴りを繰り出そうとするミリィ、それに対して俺は剣を切り返す。
切り返しに気付いたミリィは蹴りを中断してすれすれで剣を回避する。
そして俺の詠唱は完了する。
「敵を穿つは水弾」
その一言とともに俺の左手から水の弾が放たれる、距離は1mもない、一瞬けがをさせてしまうのではという不安がよぎるが、水弾はミリィの手前20cmほどで弾け飛んだ。
「よかった」
怪我をさせずに済んだと安心した瞬間に、ミリィの蹴りが脇腹に入る。
「ぐふっ」
そのまま俺は脇腹を抱えてうずくまる。
「あ、すみません、思っていたよりいい動きだったものでつい強めに蹴ってしまいました」
ミリィは少しあわてながらかがみこみ俺の様子を伺う
「だ、大丈夫だ」
俺はそう言ったが明らかに無理をしているのはバレバレだろう。
「少し休みましょうか」
そう言ってミリィは苦笑いをする
少し休みダメージも抜けてきたころに俺はミリィに疑問を投げかける。
「さっき俺が魔法撃った時なんで途中で消えたんだ?」
まさか同調が不完全だったとかそんなのでは困るので聞いてみた
「あれは私が弾いたんですよ」
「え、でもそんな素振りはなかっただろ?」
その質問を受けてミリィは右手の上に水の玉を作り出す
「確かに私は先ほど魔法も使用していなければ触れてもいません、しかし」
そう言ってミリィが左手を軽く振ると水の玉が先ほどのように弾けた。
「武器を使いました」
そういえばミリィの武器を知らないな、などと思いつつ尋ねる
「そういえばミリィの武器ってなんだ?」
「私の武器はこれです」
そう言ってミリィが袖をまくり腕輪を見せてくる
「その腕輪は?」
まだ理解できない俺はさらに尋ねる
「これは魔力を糸状にした魔力糸というものを出すことのできる魔道具で作り出した魔力糸は自由に扱えてさらにかなりの強度があります」
それが何なのかは分かったがそれだけではまだ足りない。
「でもそれだけじゃさっきみたいに水を弾くのは難しいんじゃ?」
「はい、ですが私は固有属性の能力でそれを可能にしています」
そういえばミリィの属性って聞いた事なかったな。
「ちなみにミリィの属性は?」
俺は期待を胸にそう尋ねた
「私の属性は音です」
「音?」
俺が訊き返したのに対して、ミリィはうなずき口を開く
「はい、私の場合は作り出した魔力糸を音の振動により高速振動させることにより攻撃、防御に使用します。この道具は一つで最大20本までの魔力糸を作成できるので両手で40本の魔力糸を作成できるので便利なんですよ」
「なるほど、便利なもんだな」
「はい、ですが魔力の消費が激しいのであまり使いたくないのが本音です」
俺が感心していると、ミリィがそろそろ再開しようかと提案してきたので俺は再び組手を開始する、この日はそのあとも何度か魔法を発動させられたが、結局俺が地べたに転がるという結果は変わらなかった。
――次の日
「魔力の扱いも多少慣れてきたようですし次の段階に入りましょうか」
組手の休憩中にミリィがそんなことをいい出した
俺はタオルで汗を拭きながらそれを聞き小首をかしげる
「次の段階ってなんだ?」
「次の段階では強化魔法を覚えていただきます」