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第13話 あるーひ、もりのなか

 何者かが草を揺らす音に驚き、音のしてきたほうを見つめていると、草むらが揺れ、音がした。


 俺は少し距離をとり、なおもその場所を注視する。


 いったいなんだ?何か危険な生き物じゃなければいいんだが……


 俺の中に不安がよぎった瞬間、その生き物は姿を現した。


 黒色の体毛が全身を覆い、その口からは牙が見え、手には鋭そうな爪を生やした生物、俺が知るその生物の名は……


――その頃


 コーヒーカップを片手にグレイ、ライラ、エリスは談笑をし、傍ではミリィがポット片手に待機していた。


「それにしてもリューヤはどこいったんだ?」

「森の中に散歩に行くと言っておりました」

「うーん、そうか」


 グレイが少し不安そうな顔をし、それにミリィが疑問を覚える。


「何かいけなかったでしょうか?」

「この山、クマが出るって聞いたけど、たぶん大丈夫だろ」


 そう言われてミリィは少し心配そうな顔をして森のほうを見つめた。


――そんなことはつゆ知らず、俺はそのクマと対面していた、ただし、一ついうならば目の前に出てきたそれは明らかに小さい。


「なんだ小熊か」


 そうつぶやき、その場を立ち去ろうと振り返り、歩き出そうとしたときに背後から聞こえる動物のうなり声、普通に考えれば子供がいれば親がいる、当然今回も例外ではない。


 再び後ろを見るとそこにはさっきの小熊とは比較にならないようなクマが2本足で立ちあがっていた、その全長は2メートルほどであろうか。


 お、落ち着け俺、あの熊は小熊を守ろうとしているだけのはずだ、ならばゆっくりと退けばなにもしてこないはず。


 ゆっくりと後退する俺、しかしさっきまで立ち上がっていたクマは4本の足で地を踏みしめ突撃をしてきた。


 もうここまで来たら、落ち着いてなどいられない俺は背を向けて走り出す、依然聞いた話を元に山を下るように走る、そしてそれを追いかけて来るクマ。


 こんなとこで死んでられるか、魔法さえ使えれば倒せるだろうになんで俺は使えないんだよ。


 魔力はそこら中にあるはずなのにそれが見えてないだけで使えない、そのことが悔やまれる。


 なんとか今は逃げていられるがいつ追いつかれるかもわからない。


 俺は必死で魔力を感じようとする。


 一瞬、何かを感じる


 その感覚は今まで感じたことのないものであった、そしてそれが魔力を感じることなのだと本能的に理解した。


 さっきの感覚を頼りに集中する、息も切れ始めてきて追いつかれるのも時間の問題である。


 魔力……魔力…魔力


 そして再び、さっきの感覚がやってくる。


「見つけた」


 それは確かに口で説明できるようなものではなく、感覚の問題である、そこに魔力があるのがわかるそうとしか言えない。


 俺は火の魔力を集めることをイメージし集め始める、そして俺はつぶやくように詠唱を始める。


 詠唱の最後の一言を述べると同時に手をクマのほうに向けて立ち止まる。


「敵を討ちしは火弾」


 そして俺の手の中に集まった火の魔力は……拡散していった。


 当然魔法は発動しない。


 この時、俺は忘れていた。

 魔力を自身の魔力と同調させなければ魔法は発動できない。


 俺に突進してくるクマ


 魔法が発動せずに立ち止まっている俺


 俺はとっさに保存していた剣を手元に出し、それでクマの突進を防ぐ。

 直接の衝撃は防げたがそれでも、俺は弾き飛ばされ地面を転がる。


 俺を突き飛ばしたクマは俺の目の前まで来て立ち上がり、その両手を振り下ろす。


 俺は横に転がりそれを何とかよけるがクマとの距離はいまだに近い、そのうえ俺はさっきの突進を受けて手がしびれている。


 はっきり言って絶望的な状況である、俺が保存していたのは今、手に持っている剣だけであり、今の俺に残された選択肢は勝つ見込みのない戦いをするか、誰かが助けに来るのを信じて逃げ続けるかのどちらかである。


 逃げても追いつかれるのはさっきの様子から確かだろう、しかも山を下りながら逃げているのだから誰かが来る可能性は下がっていく、なら……戦うしかないか。


 ここ最近ミリィに叩き込まれた構えでクマに対峙する。


 はっきり言って勝ち目はないが、このまま逃げて背後から一撃を食らって死ぬよりはましだ。


 まずは手のしびれが取れるまでの時間を稼がないといけない、こんな状態では切りかかっても薄皮一枚裂いて終りである。


 ある程度距離をとった俺に対してクマは一向に攻撃を仕掛けてこない、徐々に手のしびれも取れてきてもしかしたらこのまま逃げられるのではなどと思っていた矢先に、再びクマが突進してくる。


 俺がそれをよけようとおもって腰を落とすが、クマは俺から数歩手前で立ち止まり威嚇をしてくる。


 そのあともクマはなかなか攻撃してくる気配を見せず、俺は徐々に距離をとっていく、そしてクマから10メートルほど距離をとったあたりで、再びクマが威嚇をしてきて何事かと思うと何とも残念なことに小熊が俺の後ろにいるではないか、俺は知らず知らずのうちにクマの逆鱗へと手を伸ばしていたようだ。


 それに気が付いたときには時すでに遅し、俺を敵とみなしたクマは再び突進してくる、今度は手前で止まることもなくおれは必死で横に跳んでよける。


 安堵するまもなくクマが突撃してくるのでそれをまたよける、クマを倒せる可能性があるとすればあの突進の瞬間だけだろう、すでに3回見て大体のタイミングは計れている、あとはそのタイミングに合わせて剣をふるう勇気と覚悟それだけである。


 魔法がつかえたらなどと周りに魔力を感じながら、ありえない可能性に思いをはせる、そんなことをしているうちに再びクマはこちらに向かって走ってくる。


 まだだ、もう少し、今だ!


「うおぉぉぉ――!!」


 俺は気合とともに剣を振り下ろす。

 その剣はクマの突進の速度と相まって、クマの脳天に直撃しクマの頭蓋を砕く、それでも勢いの止まらないクマに俺に弾き飛ばされ俺は地面に打ち付けられる。


 肺にダメージを受けせき込む、クマの様子を確認しようと思いなんとか立ち上がると、クマは頭から血を流して動かなくなっていた。


 これも生きるためだ、しょうがない、俺は熊を殺したことを自身の中で肯定しながら屋敷を探して山の中を歩いていく。


 それから十分ほど歩くと以前上った山道を見つけなんとか屋敷に帰れた、俺の様子を見て駆け寄ってくる人影を確認すると俺は安心から気を失った。

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