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第12話 夏は海派? 山派? それとも自宅派?

 あたりには木が生い茂り、目の前にはどこまでも続く坂道、そしてそこを苦しそうな顔一つせず歩いていくメイドとちびっ子、それに息を切らしながらついていく俺。情けないなんて思ってもらっちゃ困る、これでも頑張ってるほうだ。


「リューヤ様大丈夫ですか?」

「だ、大丈夫だと思う……」


 実際のところはもう倒れれるが、目の前を女二人が楽そうに歩いているのに大丈夫じゃないとは言えない。


「情けない男だな」


 エリスさん、ここは頑張ってるんだからそんなこと言わなくてもいいんじゃないですか?

 大体なぜおれがこの二人と登山をしているのか、それを説明するには昨日のことを話さなければならない。


――訓練開始3日目


 あれから毎日、時間をとって魔力を感知しようとするが、成果はなし。


「あー、わかんねぇー」


 今日も今日とて成果はなく、おれはうなりながら芝生の上に転がる。

 最近はよくある光景なので、ミリィも特には気にしてないようだ。

 芝生の上で唸っている俺の視界の隅に誰かがこちらに近づいてくるのを見受けて、俺は上体を起こす。


「こんにちはリューヤさん、ミリィさん」

「あれ、ライラどうしてここに?」


 ここは訓練用に俺が借りているスペースなので、ライラにとっては特に用のない場所のはずだ。まぁ、もしもあるとしたら俺かミリィに用がある程度だろうな。


「リューヤさんが魔力の感知ができずに苦労していると聞いたので、少し提案をと思って」


 うん、ライラは本当にいい人だ、どこぞのちびっ子なら来たとしても俺をあざ笑って帰っていくだろうに。現に、このまえエリスが偶然ここを通りかかった時に鼻で笑われた。


「提案というのは?」


 俺ではなくミリィが反応したが、どんな提案も俺にはどんな効果があるのか理解できないからこれが順当だ。


「魔力が感知できるようになるまで、山の中で過ごしてはどうかと思いまして」


 ライラ曰く、人が生活し魔力を使うことで空気中の魔力の濃度が下がるので、人里離れた山奥に行けば魔力の濃度も濃く感知しやすいのではとのことである。


「確かに、今のまま続けるよりも効果はありそうですね」

「はい、それで別荘の一つが山奥にありますのでそこに行かれてはどうかと、すでにお父様の了承は得ております」


 この後も半ば俺は置いてけぼり状態で話は進み、次の日の朝に出発することになったわけだ。


 この時は俺も山での修行という語感に、少しわくわくしていた。


 次の日の朝、目を覚まして、俺とミリィの荷物を保存して家を出ると、なぜかエリスがそこにいた。

 

「なんでエリスがいるんだ?」

「私も行くからに決まっているだろう」


 もう俺の口からはため息しか出なかったが、ため息を3回くらいついたあたりで鳩尾に強烈な一撃を決められて今度はため息も出なくなった。


 ついでにエリスの荷物も俺が保存させられた。


――そしてそれから約5時間ほど歩いて今に至る。


「ミリィ、ちなみにあとどれくらいで着くんだ?」

「山を登り始めて2時間くらいですからあと3時間ちょっと、といったところでしょうか」


 3時間か……ふぅ、死ねるな……


「一旦、昼食にしましょうか」


 俺の様子を見て限界だと悟ったのかミリィが休憩を提案してくる。なんだか余計情けない気分になったが、ここは渡りに船と思い賛成する。


「エリスちゃんいいかな?」

「ミリィが言うならばしかたないな」


 待て、今なんだか不思議なワードが聞こえたような。


「ミリィ、今エリスのことなんてよんだ?」

「エリスちゃんですが、何かおかしかったですか?」


 全くをもっておかしすぎる、俺はすぐにエリスの方を向き口を開く。


「おい、エリスなんで俺の時は怒ったのに今は怒らないんだよ!?」

「もともと、そう呼ばれることは嫌いではない、ただ貴様に言われると虫唾が走るのでな」


 簡単に言うと俺のことが嫌いなわけね。うん、わかりやすい。それにしても、この二人仲いいな、いつのまにかミリィも敬語じゃなくなってるし……


 そのあと昼食をとり、少し休んでから再び山を登り始める。


 そこから1時間くらいは俺も元気だったのだが次第に疲れがたまり。2時間後には談笑して前を行く二人をよそに黙々と歩き続ける。


 さらに1時間ほど歩いたとき、遠くのほうに建物が見えてきた。


「ミ、ミリィ…あれが目的地か?」

「はい、もう少しですので頑張ってください」


 俺は最後の力を振り絞り、歩きそしてついに家の扉の前に着いた。

 そして、扉を開けると……


「おう、遅かったな」


 グレイがいた


「なんでお前がいるんだよ!?」

「ライラもいるぞ」

「いや、まてなんでお前がもうここにいるんだよ、おかしいだろ!?」


 ここまでは1本道だったし、追い抜かされたような記憶もない、まさか俺たちより早く家を出たのだろうか?


「そりゃあ、転移で来たに決まってるだろ?」


 転移?


「あの、光って移動するやつか?」

「ああ、それだ」


 俺は膝から崩れ落ち、地面に両手をついてうなだれる。


「ミリィさん…なんで俺たちは歩いてきたんですか?」

「足腰を鍛えるのにちょうどいいと思いまして」


 ああ、そうですか……


 とりあえずその日はすぐに休み、次の日に備えた。


――昨日早く寝たせいか、まだ日が出てこないうちに目が覚めてしまった。

 やることもないので、シャワーを浴びベッドに寝転んだところで、朝食の準備ができたといってミリィが迎えに来た。


 俺は朝食を食べ終え自室に戻る途中で、今日の予定についてミリィに尋ねる。


「基本的にやることはいつもと変わりません。まず、魔力感知、それから剣の素振りですね」

「やることは、いつもと一緒か」

「まぁ、今できることはこれくらいしかありませんので。魔力を感じられるようになったら、もう少し別のこともやっていこうと思っています」


 とりあえず、魔力を感知しろってことか。


 昨日は疲れていたからか気づかなかったが、なんとなく空気中に普段は感じない何かがあるようなそんな気がする。これが魔力だというのならば、山に来た甲斐もあるだろう。


 しかし、それから3日間、何かがあるような気はするものの、それをはっきりと認識はできなかった。


「うーん、だめだな」


 そう言って俺は地面に転がる。


「そうですか。では、少し休憩にしましょう」

「なら、少し散歩にでも行ってくるよ」


 俺がそういうと、ミリィが少し考える。


「魔物が確認されたという情報もありませんし、少しくらいなら大丈夫でしょう」


 俺はその言葉に安心して、森の中へと入っていった。


 森の中を歩きはじめて数分、木漏れ日を浴びながら俺は歩き続ける。耳には鳥の鳴き声と自分の足音だけが聞こえ、非常にリラックスできる時間を過ごしていた。


「こういう風な、ゆっくりできる時間はいいもんだな」


 自然と一人ごちってしまった。


「魔力みたいな何かがあるような気はするんだけど、どうもそれがはっきりしないんだよなぁー」


 そう言いながら空中で手を握る動作をしていた俺の耳に、草むらから音が聞こえてきた。

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