表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
名作をパク――参考にすれば、名作になるに決まってるじゃない!  作者: チンポジ博士


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/57

第21話 チュートリアル妖精の説明が口頭だけなので仕様書を求めます

名作をパク――参考にすれば、名作になるに決まってるじゃない!


第21話 チュートリアル妖精の説明が口頭だけなので仕様書を求めます



「ようこそ、冒険者支援チュートリアルへ!」


王都冒険者組合の訓練室で、小さな妖精がそう叫んだ。


俺は黙った。


リナも黙った。


勇者アレンは腕を組んだ。


ミリアは妖精を見て、少しだけ目を輝かせた。


セイルは微笑んだ。


ガルドは、訓練室の出口を確認していた。


いつも通りだった。


訓練室の中央には、丸い台座。


その上に、手のひらほどの妖精が浮いている。


透明な羽。


小さな杖。


明るい声。


やたら大きな身振り。


いかにも、初心者に冒険の基本を教えてくれそうな存在である。


リナが小声で言った。


「見たことあります」


「言うな」


「チュートリアル妖精です」


「言うな」


「最初に操作方法を教えてくれるやつです」


「言うな」


「でもユートさんの場合、説明書を求めそうですね」


「そこだ」


王都冒険者組合では、ステータス表示術式の導入後、新人冒険者向けの教育強化が始まっていた。


水の持ち方。


撤退条件。


装備重量。


靴紐。


鍋。


その流れで導入されたのが、この妖精式チュートリアルらしい。


受付嬢は誇らしげに言った。


「初心者にも分かりやすく、冒険の基礎を音声と実演で説明してくれる支援妖精です」


「音声と実演」


俺は言った。


「はい」


「説明書は?」


受付嬢の笑顔が少し止まった。


「説明書」


「仕様書でもいいです」


妖精がぷんと頬をふくらませた。


「説明なら、わたしがするよ!」


「君の説明の仕様書は?」


「しようしょ?」


「説明範囲、禁止事項、例外処理、質問対応、誤案内時の責任、更新履歴」


妖精は空中で固まった。


ミリアが笑った。


「開始十秒で妖精を止めたわね」


アレンが言う。


「まず受けてみればいいのではないか?」


「説明役の説明能力を確認してからだ」


「それはそうだが」


受付嬢は慌てて奥から紙束を持ってきた。


「一応、導入資料はあります」


「見せてください」


紙束の表紙にはこう書かれている。


冒険者支援妖精・初心者案内用基本台本


台本だった。


仕様書ではない。


俺はページをめくる。


一、冒険者登録の説明。


二、依頼掲示板の見方。


三、戦闘訓練案内。


四、採取依頼の基本。


五、魔物に出会った時の対応。


六、困ったら組合へ。


「薄い」


「初心者向けなので」


受付嬢が言う。


「薄いのは悪くない。だが、例外が少なすぎる」


妖精が胸を張った。


「難しいことは後から覚えればいいんだよ!」


「後から覚える前に死ぬことがある」


妖精は少し震えた。


「こわいこと言うね」


「冒険だからな」


まず、チュートリアルを受けてみることになった。


妖精はくるりと回って、杖を振った。


「まずは依頼を受けてみよう! 掲示板から、自分に合った依頼を選ぶんだ!」


壁に幻影の掲示板が出る。


討伐依頼。


採取依頼。


護衛依頼。


運搬依頼。


妖精はにこにこして言う。


「初心者には採取依頼がおすすめ! 薬草を十束集めてこよう!」


「採取場所は?」


俺は聞いた。


「森だよ!」


「どの森?」


「近くの森!」


「近くとは?」


「王都の近く!」


「森の危険度は?」


「初心者向けだよ!」


「水場は?」


「え?」


「移動時間は?」


「え?」


「雨天時は?」


「え?」


「採取対象と似た毒草の見分け方は?」


妖精は受付嬢を見た。


受付嬢も目をそらした。


俺は台本を見る。


「薬草採取の項目に、毒草との誤認リスクがありません」


受付嬢が青ざめる。


「確かに」


「採取量の重さもありません」


「薬草十束なので」


「濡れたら重くなります。袋は?」


「袋」


「初心者は手で持って帰るんですか?」


妖精が小さな声で言った。


「袋は……持っていこうね?」


「台本に書け」


ミリアが腹を抱えた。


「妖精に台本修正を求める冒険者、初めて見た」


次は戦闘チュートリアル。


妖精が杖を振ると、小さな訓練用スライムの幻影が出た。


「魔物が出たら、武器を構えて戦おう!」


アレンが剣を抜こうとした。


俺は止めた。


「待て」


妖精が首をかしげる。


「どうしたの?」


「戦う前に、逃げ道は?」


「逃げ道?」


「周囲確認。後方確認。荷物の位置。足場。味方の位置」


妖精はまた固まった。


「魔物が出たら、戦うんだよ?」


「戦うか逃げるか判断するんだ」


ガルドが頷いた。


「相手の数、場所、足場を見る」


セイルが言う。


「怪我人がいるなら、逃げが優先です」


リナが言う。


「荷物が通路を塞いでいたら、下がれません」


アレンは少し悔しそうに言った。


「勇者でも、突撃が常に正しいわけではない」


ミリアがにやにやした。


「成長したわね」


「茶化すな」


妖精は台本を見た。


「えっと……魔物が出たら、勇気を出して戦おう、って」


「危ない」


俺は言った。


「初心者向け台本にそれは危ない」


受付嬢はすぐにメモした。


「戦闘前確認を追加します」


「あと撤退条件」


「はい」


「戦闘後の怪我確認、武器破損、荷物紛失も」


「はい」


妖精はしょんぼりしている。


「わたし、だめな妖精なの?」


セイルが優しく言った。


「あなたが悪いのではありません。台本が足りないのです」


「台本が足りない」


「はい」


妖精は少しだけ安心した。


次は宝箱チュートリアルだった。


嫌な予感しかしない。


妖精がにこにこしながら、幻影の宝箱を出す。


「宝箱を見つけたら、開けてみよう!」


俺たちは全員で黙った。


妖精がびくっとする。


「え、なに?」


リナが言った。


「罠確認は?」


妖精が台本を見る。


「えっと、宝箱には素敵な報酬が入っていることがあるよ!」


「罠確認は?」


リナがもう一度言う。


「……ない」


ガルドが短く言った。


「危ない」


ミリアが言った。


「初手で爆発するやつね」


アレンが言った。


「勇者でも、宝箱はまず確認する」


俺は言った。


「宝箱を見つけたら、開けてみよう、は駄目です」


受付嬢は汗をかいている。


「修正します」


「宝箱を見つけたら、周囲、床、天井、箱の下、鍵穴、糸、魔力反応を確認する。開ける前に役割分担。中身は記録。分配は後で」


妖精が両手で頭を抱えた。


「長い!」


「命は長い説明を必要とする時がある」


「冒険ってもっと楽しいものじゃないの?」


「楽しく帰るために確認する」


妖精は少し黙った。


その後も、チュートリアルの穴は次々に出た。


「川を渡ろう!」


「水深確認は?」


「火を起こそう!」


「周囲の燃えやすいものは?」


「夜は野営しよう!」


「見張り交代表は?」


「仲間と協力しよう!」


「役割分担表は?」


「困ったら組合へ戻ろう!」


「戻るための体力と水は残しているか?」


妖精は、だんだん声が小さくなっていった。


受付嬢のメモは、紙三枚分になった。


ミリアが言う。


「これ、チュートリアルというより、ユートによる監査ね」


「監査依頼ではなかったが、そうなった」


リナが妖精の前にしゃがむ。


「妖精さん、大丈夫ですか?」


妖精は涙目で言った。


「冒険、難しすぎる……」


「最初から全部覚えなくてもいいです。でも、危ないところはちゃんと知っておいたほうがいいです」


「うん……」


アレンが腕を組んだ。


「俺も最初は、戦えば何とかなると思っていた」


「今は?」


妖精が聞く。


アレンは少し考えた。


「水と鍋と撤退条件がいる」


妖精はぽかんとした。


「勇者なのに?」


「勇者でもいる」


アレンは断言した。


かなり良い。


俺は木札に触れた。


「神よ。今回どう見ますか」


『説明も荷である』


「はい」


『口で渡すだけでは落ちる』


「記録が必要ですね」


『そうだ。持ち帰れる形にせよ』


「仕様書ですね」


『仕様書だ』


神が仕様書を認めた。


俺は受付嬢に言った。


「チュートリアルは口頭だけでは駄目です」


「はい」


「初心者用の持ち帰り資料を作るべきです」


「はい」


「一枚に全部詰め込まない。状況別に分ける」


「状況別」


「採取、討伐、護衛、運搬、野営、撤退、宝箱、悪天候、負傷、迷子」


受付嬢は書き続ける。


「妖精の台本も更新してください」


妖精が手を上げた。


「わたしも、ちゃんと知りたい」


俺は妖精を見た。


「なら、まず仕様書を作る」


「しようしょって、何?」


「何を説明するか、何を説明しないか、分からない時はどうするかを書いたものだ」


「分からない時?」


「知らないことを知っているふりで説明しない」


妖精は真剣な顔になった。


「それ、大事?」


「かなり大事だ」


「じゃあ書く」


妖精は小さな羽を動かし、紙の上に降りた。


受付嬢が小さな筆を用意する。


妖精はたどたどしく書いた。


わからないことは、わからないと言う。


セイルが微笑んだ。


「よい第一条です」


ミリアが言った。


「妖精のほうが大人ね」


アレンが言う。


「俺も昔、分からないことを分からないと言えずに」


「マントを増やした?」


俺が聞く。


「関係ないだろう!」


関係はない。


たぶん。


その日の午後、俺たちは組合の小会議室で、チュートリアル妖精の仕様書作りに付き合うことになった。


なぜだ。


しかし、やるしかない。


表紙。


冒険者支援妖精・初心者案内仕様書


第一条、目的。


初心者冒険者が、生きて帰るための基礎を理解すること。


第二条、説明範囲。


依頼の選び方、準備、撤退、報告、危険時の対応。


第三条、説明しないこと。


高等魔法、上級戦術、特殊呪物、封印局案件、名前を書くと死ぬ筆記物。


受付嬢が言った。


「最後、必要ですか」


「必要です」


最近あったので。


第四条、不明時対応。


不明な質問には断定せず、組合職員または専門担当へ確認する。


第五条、最低限の確認項目。


水。


食料。


雨具。


照明。


靴。


袋。


撤退条件。


帰路。


鍋。


妖精が言った。


「鍋、入るんだ」


「入る」


アレンも言った。


「鍋はいる」


ミリアも言った。


「最近、私もそう思う」


セイルも頷く。


ガルドも頷く。


リナも頷く。


妖精は素直に書いた。


鍋は大事。


俺は修正した。


「調理具および湯沸かし具」


妖精が残念そうにする。


「鍋は大事、じゃだめ?」


「補足に入れよう」


入れた。


第六条、禁止表現。


「大丈夫!」


「なんとかなる!」


「とりあえず行ってみよう!」


「勇気を出して戦おう!」


妖精がしょんぼりする。


「わたし、それ言ってた」


「これから変えればいい」


第七条、推奨表現。


「確認しよう」


「戻れるかな?」


「水は足りるかな?」


「分からない時は聞こう」


「危ないと思ったら戻ろう」


妖精は少し元気を取り戻した。


「これなら言える」


仕様書は夕方に完成した。


受付嬢は感動していた。


「これで、新人向け講習がかなり改善できます」


「実装してください」


「はい。検討ではなく実装します」


よし。


妖精は、仕様書を抱えて飛び回っている。


「これでわたしも、ちゃんと案内できる!」


「台本も読むんだぞ」


「読む!」


「更新履歴もつける」


「つける!」


「質問されたら、分からないことは」


「分からないって言う!」


「よし」


ミリアが俺を見て言った。


「妖精を新人職員みたいに育ててるわね」


「説明役は責任が重い」


セイルが頷く。


「人を導く言葉には、責任があります」


ガルドが言う。


「間違った説明で死ぬこともある」


アレンが腕を組む。


「勇者も、号令を間違えれば仲間を危険にさらす」


「今日は良いことを言うな」


俺が言うと、アレンは少し得意げになった。


「勇者だからな」


その時、妖精がアレンの周りを飛んだ。


「勇者さん、初心者への一言をください!」


アレンは堂々と答えた。


「マントは一枚でよい」


部屋が静かになった。


ミリアが吹き出した。


リナも笑った。


妖精は真剣にメモしようとした。


俺は止めた。


「初心者共通ではない」


「え、でも大事そう」


「特定勇者向けだ」


アレンが抗議した。


「大事だろう!」


「大事だが、載せない」


夜、宿に戻ると、広報部の女性が待っていた。


最近、完全にいる。


「聞きました! チュートリアル妖精の仕様書を作ったそうですね!」


「もう驚きません」


「題名も決まっています!」


「やっぱり」


彼女は紙を出した。


チュートリアル妖精の説明が口頭だけなので仕様書を求めます


俺は黙った。


リナが言う。


「そのままですね」


「最近、題名がそのままになってきた」


ミリアが笑う。


「分かりやすくていいじゃない」


アレンが言った。


「俺の一言も載るか?」


「マントは一枚、ですか」


リナが聞く。


「そうだ」


広報部の女性は少し考えた。


「欄外なら」


「載せなくていい」


俺は言った。


アレンは少し残念そうだった。


その夜、俺はチュートリアル仕様書の写しを読み返した。


悪くない。


かなり良くなった。


だが、説明は一度作れば終わりではない。


新人がつまずくところは変わる。


依頼も変わる。


魔物も変わる。


天候も変わる。


だから、仕様書には更新が必要だ。


そう書いた。


リナが隣で言う。


「妖精さん、かわいかったですね」


「そうだな」


「でも、最初は危なかったですね」


「口頭説明は、勢いで危ないことを言う」


「仕様書、大事ですね」


「ああ」


背中の聖剣が光った。


『我にも仕様書はあるのか』


「ない」


『なぜだ』


「お前はだいたい長い、光る、鞘がいる、通路注意で済む」


『雑ではないか』


「仕様としては十分だ」


『納得できぬ』


「なら自分で作れ」


聖剣は黙った。


少しして、また光った。


『第一条、我は聖剣である』


「そこからか」


長くなりそうだったので、俺は聞かなかった。


こうして俺たちは知った。


説明は、言えば終わりではなかった。


聞いた者が持ち帰り、必要な時に思い出せなければ意味がない。


「大丈夫」


「なんとかなる」


「勇気を出して戦おう」


そういう言葉は、明るい。


だが、初心者を危険に押し出すこともある。


だから、説明には範囲がいる。


例外がいる。


分からない時の手順がいる。


そして、持ち帰れる形がいる。


チュートリアル妖精は仕様書を得た。


初心者講習は更新されることになった。


宝箱は開ける前に確認することになった。


鍋は補足欄に入った。


アレンのマント一枚発言は欄外送りになった。


物語は、きれいに一区切りを迎えた。


そう。


ここで終わっても、何の問題もない。


俺たちの更新履歴は、これからだ。


「最新版を読めよ」


第二部・完

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ