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伝説の勇者

 ――俺は息を呑む。勇者という言葉に少しの緊張と、期待を俺は抱いている。


「勇者…か。なぜ会わなければならない?」


俺はレオルに問いただすように鋭い視線を送る。

レオルは軽い表情とテンションを崩さない。


「まぁまぁ、そんなに警戒しなくても大丈夫だ。ある一定の強さを手に入れると、勇者様からの直属の部下になれるんだ。飛び級とかそういう次元の話じゃない。なりたくてもなれずに一生を終える人だった居るんだ…誇ってもいいことさ」


「そうなのか…」


本当に次元の違う話になってきたようだな…


「ん…とりあえず、その勇者様ってのに会わせてくれないか?」


勇者――エクス・カメアノサス。

大都市カメアノサスの名前の由来にもなっているカメアノサス家という勇者の家系の一人…魔王レヴィアに継ぐ最強の一人。

小さい頃から死ぬほど聞いてきた名前だ。


「じゃあ…こっちに来てくれないかな?」


学園の裏にある薄暗い森を通り、俺はレオルからごちゃごちゃに散らかっている倉庫に案内させられる。


「なんですか…?ここ…ただの汚い倉庫じゃ…」


「まぁまぁ…とりあえずこれを見てほしい」


レオルは倉庫にある重い箱をゆっくりとどかす。


「ん…これは…」


箱の下には地下へ続く扉があった。扉は年季が入っていて、少し錆びていて埃を被っている。


「これは…隠し扉ですか?」


「そうだ」とレオルは頷く。


「この先に勇者様は居る。居場所が特定されないように、任務以外の日は基本ここに居るんだ…まぁとは言え、大半が任務の日だからここを使うのは重要な取引の時とかでしか結局使わないんだけどね」


「流石忙しいんだな」


「そりゃあね…俺もこう見えて忙しいし…」


「ん?いつも暇そうに新聞を広げてるじゃないですか…」


レオルはギクッと肩を飛び上がらせ、気まずそうに俺から目を逸らす。


「だぁっ!僕は見張らないといけないから!ここで待っておくね!いってらっしゃーい!」


レオルに押され俺は扉に押し込まれる。


「逃げたな…」


俺は長い階段を下りていく。地下の冷たい空気が俺の肌を少し震わせる。

少し下りていくと、部屋の光が見えてくる。部屋を見ると目の前には王座に座っているエクスの姿があった。長い金髪を持ち、毛先だけが白い。

――格が違う。魔王の時も威厳を感じたが、レヴィアの震えるような威厳と違い、今度は見てて燃えるような威厳を感じた。


「えぇと…あなたが…勇者様?」


「そうだ。君がマルスくん…だね。話はレオルから聞いてるよ。本当に凄いよ…!君は…!」


レオルの話し方的に厳格者とでも思っていたが、予想よりは全然優しそうな雰囲気だ。


「ありがとうございます…"永遠の十七世代"…絵画で見た通り、年は取ってないんですね」


「ハハハ…その話は知ってるか…」


そう、エクスは十七世代目の勇者なのだが、その十七世代を既に百年は謳歌(おうか)している。見た目は本当に二十代程だと言うのに。


「アハハ…戦いの呪いでね…で、突然なんだが…」


エクスの雰囲気が変わる。何を話すんだ…。


「僕の部下として働いてみないかい?ここでならたくさん稼げるし、ここで働いていたらいつかは僕のメインパーティーに入れるかもしれないよ」


「は?」と言いたいのを俺は我慢する。自分が権力者なのを理由にして、こき使わせたいのが丸見えだ。


「すみませんが、俺は青春の思い出を作りたいので、まだ勇者様の下に就くつもりはありません」


「そうかい…うん。それは正しい判断だ。僕だって君の青春を邪魔したかったわけじゃない。あくまで君の意見を聞きたかっただけさ、ありがとうね。せっかく来てくれたんだから、何か僕に聞きたいこととかあれば…もう滅多に会えないだろうしさ」


「聞きたいこと…ですか…」


勇者の力について聞けるまたとないチャンス…!


「ん…それじゃあ勇者様は因果律に干渉出来るってのは本当ですか?」


エクスは瞳孔を揺らす。


「どこで…それを?」


「質問に質問で返さないでください。今は俺の質問に答えてください」


エクスは視線を下へと向ける。


「うん…一応そんな感じの魔法を使えるよ。これで幾度となく、運命を変えて修羅場を超えてきた。でも、完全に因果律を操れるわけじゃなくて、あくまで別の路線に切り替えするってだけで、切り替え先がどうなるかも分からない」


「そんな魔法なんですね…後はもう大丈夫です…で、なんで俺があなたの魔法についてのことを知ってそうなのか…を聞きたそうでしたが…聞きたいですか?」


「聞かせてほしい。レオルに知らされたのかい?」


「いえ、レオル先生からは特に、ただ…夢の中で神が勇者の魔法について教えてきたんです。それで、冗談半分で聞いたんですけど、まさか本当だとは…」


「神が…?不思議なことをするもんだねぇ…?まぁ…いいか。とりあえず君と話せてよかったよ。是非ともこれからも話していこう」


「はい」


エクスは微笑んで手を振る。

それを見て俺は踵を返して階段へ向く。


「あっ最後に一ついいですか?」


俺は去り際にエクスに聞く。


「どうしたんだい?」


「勇者様は…勇者様の因果を捨てないんですね」


エクスはその言葉に暗い表情をしつつも頷く。


「捨てない…ってよりは…"捨てれない"かな。だから僕は、勇者なんだろうね」


なにか含みのある言い方をするものだ。


「そうですか…すみません。ありがとうございました」


「いやいや、構わない」


「それでは…」


俺は張りぼての笑顔を作り、再び踵を返す。

それにしても、今回勇者と話せたのは想定外だったが、とても良いことだ。勇者との関係を持つことによって信頼を得た。

にしてもやはり、生物というのは実力に屈する汚いものだ。

俺は階段を上る。

――勇者。正しい因果の光の道。ただ、その実態は。

"永遠に選択を強いられる者"。

俺は倉庫へと戻った。


「マルスくん…どうだった?」


眠りかけで壁に寄りかかってたレオルが俺に聞く。


「断りましたよ。まだ学生してたいんでね」


本当はまだ調査をしたいからだが。


「そっか…でも、それも選択の内の一つだよね」


レオルは笑う。


「えぇ、そうですよ」


俺は教室へと戻るために歩む。


◇


教室へ辿り着いた俺は頬杖をついて外を見る。

他の班はまだ帰ってきてないから暇だ。A班も実質、俺単独での戦いだったから、メノンとドラノは他のクラスの練習場で再模擬戦中だ。


「ちょっと外でも見るか…」


俺は視力を魔力で強化して外を細かく見る。


「この辺の地域は初めて見たけど、結構綺麗だな…」


すると、遠く離れた森の洞窟前で、白いマントを着た奴が話し合って洞窟の中へと入っていったのが見えた。


「えー…なにあれ…怪しい…」


なにをしてるんだと思いながら、俺は教室を抜け出して森へと走って向かう。

あっという間に辿り着いた俺は洞窟の中へと入る。

狭く、暗い。こんなところに入るなんて怪しすぎる。

こっそりと中を見てみる。すると、奥から光が漏れている。なんの光かは分からないが、なにかの化学物質のようなピンクの光だ。

俺はさっき見た白いマントを真似して自分へと着せて奥へと進む。


「このまま勇者軍と魔王軍を戦わせて…その内…我らの信じる魔神ディアマテ様のためだけの世界を手に入れる…」


白マントがそう言っている後ろには、人間の魔力と魔族の魔力が混ざった明らかに危険そうなポットのような装置がある。

魔力を保存する方法があったのは知っていたが、こんな方法があるとは俺も知らなかった。

それにしてもさっき言っていた勇者軍と魔王軍を戦わせるって話…。

面白そうじゃないか――!

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