エピローグ.共通の目的のためにすること
――翌朝。
エイメノカサスの街は、昨日とは別の場所のように静まり返っていた。
崩れた建物。
割れた石畳。
戦いの爪痕は街の至る所に残っている。
だが――。
白マントの姿は、もうどこにも無い。
そしてその夜の出来事は、瞬く間に世界へ広がっていた。
エイメノカサスを支配した組織。
"カオス・エデン"。
「ふふっ…」
俺は椅子に深く腰掛けながら笑う。
「世界中に広まったか」
情報はすでに各国へ届いている。
――全てを支配する力を持つ、何でも屋。
そう聞けば、普通は頭のおかしい組織だと思うだろう。
だが、それでいい。
「これを…こうっ」
俺は指を鳴らす。
カオス・エデンには、ある魔法をかけてある。
条件発動魔法。
依頼を電話で予約した者のみ、この場所を見ることができる、触れることができる。
それ以外の者には、存在すら認識できない。
「つまり…」
俺はニヤリと笑う。
「普通の奴らは、ここを一生見つけられない!」
完全な秘密基地。
そして依頼者だけが辿り着ける場所。
「完璧だ」
優越感が胸に広がる。
「流石ですねぇ!ミロク様!もう白マント達なんてさっさとボコボコにしちゃいましょう!!」
「あっそういえばエイメノカサスを支配したわけですが…まずはなにをするんですか?」
サラムは目を輝かせる。
「エイメノカサス中にいる美女を集め…あんなことや…」
「ほほー?」
「こんなことを…!」
「おぉー!」
俺とサラムの鼻の下が伸びかけたところで。
「ごほんッ!」
台所からミナノがこっちを睨んで咳払いする。
「てのは…! 冗談でぇ!あ…あ…し、資金をな!支配して…まぁ…金に困らないようにしよう!あとは…俺達が自由に施設を使えるようにしたり…とか!うん…!」
俺は慌てて修正する。
「ミロク様、サラム」
ミナノが台所からトレイを持って現れた。
カップが二つ並んでいる。
「コーヒーです」
「お、気が利くじゃないか…ありがたく貰ってやろう…ミナノ」
俺はカッコつけながら言う。
ミナノの目は若干引いてた気もするけどまぁ関係ない。
「おっ!サンキュー、ミナノ!じゃあ遠慮なく…」
俺とサラムは同時にカップを持つ。
そして――。
口に含む。
――次の瞬間。
「「ぶふぉっ!!」」
俺とサラム同時に吹き出す。
「に…にがすぎる…」
「おい!!」
サラムが机を叩く。
「ち…ちゃんと作ったのか!?」
ミナノは首を傾げる。
「あ、すみません」
まったく悪びれていない声だった。
「心にも思ってないだろ…!」
俺は顔をしかめる。
サラムは呆れたように言う。
「コーヒーもまともに作れないやつがよく幹部なんかになれたな…」
その瞬間。
ミナノの目がスッと細くなった。
「……は?」
空気が変わる。
ミナノがゆっくりサラムへ近づく。
「それとこれとは関係ないですよね?」
笑顔。
だが――。
明らかに圧がある。
サラムも負けじと睨み返す。
「やるか?」
「いいですよ?あなたを血塗られた作品にします。きっといい作品になりますよ」
ミナノはふっと笑う。
「お前の皮を剥いでミロク様の鞄にしてやろうか?お?」
二人の魔力がジリジリと広がる。
家具が小さく震え始める。
「待て待て!」
俺は慌てて手を上げる。
「二人共…やめてくれ」
天井を見る。
「家が…壊れる…」
サラムとミナノは見合う。
そして、ミナノが肩をすくめる。
「今回はやめておいてあげましょう…」
サラムも鼻を鳴らす。
「ふん、ミロク様が優しくてよかったな!」
こうして――。
カオス・エデンの朝は、クールに!……意外と騒がしく始まるのだった――。
***
その頃。
とある場所。
長い円卓を囲む、白いローブの集団。
重い空気が部屋を包んでいる。
「……つまり」
低い声が響く。
「アウルが死んだと?」
赤髪の青年が言う。
「確認済みだ。最もミロク・プリンスじゃなく魔族のやつが殺したらしいが…まだ情報が少ないねぇ」
水色のバサバサ髪の少女が資料を見ながら言う。
ざわめきが広がる。
「あの黄金司祭が…」
老人が顎を手に当て深刻そうな顔をする。
「やられたのか…一体誰に…?」
「今その魔族の素性を調べているところだ…それにミロク・プリンスは魔族の姿になり、魔族も引き連れている…らしい。まだ確定ではないがな」
「ちっ…ミロク・プリンス…」
その名が口にされる。
長いココア色の髪を持つ青年が言う。
「危険だな…これ以上の被害は我々にとってよろしくない…」
「放置するべきではない事案だな」
「探し出せ!」
「そして――」
低く言う。
「排除しろ」
その時だった。
椅子が、ゆっくりと引かれる音がした。
――ギィ…。
一人の少女が立ち上がる。
薄いピンク色の髪。
静かな瞳。
少女は微笑んだ。
「ミロク・プリンスは――」
全員の視線が集まる。
少女は静かに言った。
「私が殺しましょう」
部屋が一瞬静まり返る。
そして誰かが呟く。
「……本気か?」
少女は右耳に着けているハートのイヤリングを怪しく光らせ、小さく笑う。
「ええ」
その瞳は冷たい光を帯びていた。
「面白そう…ですから」
ディアマテ解放教。
その影は、まだ消えてはいない。
そして――。
ミロク・プリンスを狙う者もまた。
確実に増えていた。
――エイメノカサス編・完。
オマケ!
――ある日のこと。
エイメノカサスの中心。
ミナノとサラムはコソコソと何かを話していた。
「おい、ミナノ。今日は四月十八日…ミロク様の誕生日らしい!!」
サラムは興奮した様子で話す。
「分かってます。ところで…なんで私をここに?」
「そんなの決まってるだろ!プレゼントだよ!俺だけじゃ不安だしさ」
「なるほど…ミロク様の喜ぶプレゼント選びですか…」
ミナノはう〜んと悩む。
「あっ!ミロク様って!高貴なイメージあるだろ!名画とかをプレゼントするのは!?」
「エイメノカサスに美術館は無いですよ」
「えっ…あっ…じゃあ…ドラゴンとか!」
「こんな場所に居ないですよ」
「えー?じゃあなんだったらいいんだぁ?」
サラムもうーんと悩む。
「こういうのは意外とシンプルでいいんですよ。例えば…コーヒーメーカーとか。なぜか私の作るのは苦くなるので」
「えっ…それはお前が作るの下手なだけじゃ…」
ミナノは笑った顔でサラムを睨む。
「なにか言いましたか?」
「あーすまんすまん…」
サラムは『あっ!』と声を出す。
「ミロク様と言えばあれじゃないか!?」
サラムはミナノにゴニョゴニョと話す。
「あっ…それですね!」
「だろー!?」
サラムとミナノはなにかを探しにエイメノカサスの雑貨屋へと走っていった。
◇
――夕方。
カオス・エデンの扉が開く。
「ミロク様!」
サラムはリビングに居た俺に話しかける。
「どうした?サラム」
サラムの後ろからミナノが顔を出す。
「ミロク様!お誕生日おめでとうございます!」
ミナノとサラムは一緒に俺にプレゼントを渡す。
「おー…!二人から…!かっ…感謝する」
「もーそれっぽいことばっか言って…それより早く開けてみてください!」
俺はワクワクして箱を開ける。
――中身は。
「さっ…サングラス……?」
とりあえずかけてみる。
「ぷーっ…に…似合ってますよ…ワイルドで…」
ミナノは吹き出しながら言う。
「思ってないだろー!?てか別にワイルドさは求めてないし!」
「いいじゃないですか。顔隠せますよ」
「ほぼ隠せてねぇよ!!」
サラムなら大丈夫だよな…?
という気持ちを込めて俺はサラムのプレゼントも開ける。
――中身は。
「こ…こけし…」
なんとも言えん顔が腹立つ!!
「いやーミロク様!ギャップって大事だと思うんですよ…!」
「だとしてもこけしは無いだろ!」
まぁ、でも。
「ま…ありがとう」
「あれ?私達はただの手下なんじゃないですか?」
ミナノはふっと笑う。
「し…知るか!!」
こうして何気ない日常が過ぎたのだった――。




