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身に覚えのない契約

 ――翌朝。

目を覚ますとカオス・エデンの窓から、柔らかな朝日が差し込む。


「……朝か」


俺はソファから体を起こす。


「あー…いつつ…え?」


なぜか知らんが頭痛が残っている。

リビングの向こうから、水の流れる音が聞こえた。


「おはようございます、ミロク様」


振り向くと、ミナノがコップに水を注いでいた。

腹の傷は包帯で覆われているが、顔色は昨日よりもずっと良い。


「ミナノか。もう動いていいのか?」


「これくらいなら大丈夫ですよ。ミロク様が治療魔法をかけてくれたおかげです」


「ふん、そうか。それより頭が痛いんだがなぜか分かるか?」


「ミロク様が私の全裸を見やがった…あっ、見てきたので軽く吹っ飛ばしておきました」


「あ!?あぁ〜…そういえば…そうか…そうだな…」


「いや、それにしてもほぼ魔力防御してないのに魔法ぶっ放すのはどうかしてるだろう!!俺じゃなかったら死んでてもおかしくないぞ!?」


「ミロク様だからいいじゃないですか」


ミナノがスンとした態度でそっぽ向く。


「わ…悪かった…謝る。だから機嫌を直せ、やがて全てを服従させる王の前だぞ…」


「はぁ…キャラがブレブレですね。もう別に怒ってないですよ」


この娘の感情もうホント分かんない!!


「ミナノって…意外と毒舌だな…」


ミナノは軽く体を伸ばしてみせる。


「それより今日は行くんですよね?」


「あ、あぁ」


俺は椅子にかけていた黒いコートを取る。


「剣士二十人。エルが約束した戦力を貰いに行く」


「エルは死んでますけどね…」


「契約は契約だ。貰わなければな」


俺は机の上に置いてある一枚の紙を見た。


――契約書。

【契約

エル・ガノスラは街と闘技場の復興を願い、カオス・エデンへの忠誠を誓う】


そこには確かに、エルの印が押されている。


「この契約がある以上、あの剣士達は無関係ではいられない」


ミナノは腕を組む。


「でも素直に来ますかね?」


「来なければ連れてくるだけだ」


「物騒ですねぇ」


ミナノはピンク色の髪を鏡で整えて玄関へと向かう。


「それが俺達のやり方だ」


俺は軽く肩を回す。


「さて、行くぞ」



――エイメノカサスの外れ。

エルが管理していた剣士道場。

闘技場が破壊された今、ここが彼らの拠点になっているらしい。

木造の大きな建物の中から、剣がぶつかる音が聞こえてくる。


「まだ鍛錬してるんですね」


「ま、休むわけにもいかないしな」


俺は扉を押し開けた。

ギィ――と扉から(きし)む音が聞こえる。

中には確かに二十人ほどの剣士達がいた。

鍛え上げられた体。エルの部下なだけはある。

鋭い視線が一斉にこちらを見る。


「……誰だ?」


一人の大男が前に出る。


「ここは部外者立ち入り禁止だ」


俺は軽く手を挙げる。


「待て。俺はお前らに用があって来た」


剣士達の空気が少しだけ緊張する。


「ほう…?俺達に?」


「エル・ガノスラの件だ」


「なんだと…?」


大男が反応し、続いて何人かが反応した。


「――エルさん?」


「――どこにいるんだ」


「――闘技場の再建はどうなった」


質問が飛ぶ。

俺は一言だけ答えた。


「ハッキリ言うと…死んだ」


空気が凍る。


次の瞬間――。


「ふざけるな!」


大男の剣が床に突き刺さる。


「エルさんが死ぬわけがないだろう」


「――証拠は?」


「――誰に殺された」


剣士達の視線が鋭くなる。

俺は肩をすくめた。


「俺だ」


沈黙。


そして――。


「……は?」


一斉に疑いの目が向けられる。


「馬鹿を言うな…」


「――エル様は創造魔法の使い手だぞ!」


「――お前みたいなガキが倒せるわけがない!」


ミナノが隣で小声で呟く。

「まぁそうなりますよね」


「だろうな…」


俺はポケットから紙を取り出す。


「だから…これを見せに来た」


契約書を空中へ放る。

魔力で固定し、剣士達の前へと浮かせる。


「……?」


大男の剣士がそれを読む。

そして、目を見開いた。


「こ、これは……」


ざわめきが広がる。


「エル様の印だ…」


「――本物だ……」


「――契約書……?」


俺は腕を組む。


「エルは!死ぬ前に俺と契約した」


「闘技場復興の代わりに、剣士二十人をカオス・エデンへ送る…とな」


大男が契約書を睨む。


「……聞いていないぞ」


「当然だ」


俺は淡々と言う。


「最初からお前達に話すつもりなど無かったのだろう」


ミナノが小さく呟く。


「エル、結局最後まで嘘つきでしたね」


「俺達を誘き寄せるだけの口実だったんだろう…」


剣士達の間に重たい沈黙が落ちる。

彼らにとってエルは雇い主であり、闘技場の主であり、夢を与えた人物だったのだろう。

だが、その人物の残した契約がここにある。


「……で?」


大男が顔を上げた。


「お前達は何者だ」


俺は軽く笑う。


「――ミロク・プリンス。そして手下のミナノ。まぁ…もう一人居るが…とりあえず!俺達は世界を服従させるため、手下を集めている途中だ…お前達はその手駒…」


俺は腕を上げ、指を鳴らす。

契約書が強く光る。


「そして――」


契約書はバラバラに弾ける。


「お前達の新しい主だ」


道場の空気が一瞬で張り詰めた。

剣士達の視線が、俺に突き刺さる。

その中で、大男がゆっくりと剣を抜いた。


「そうか…だが……それを決めるのは」


剣先がこちらへ向く。


「俺達だ」


俺はニヤリと笑う。


「いいだろう」


俺は剣士達を見渡す。


「ならば試してみろ!」


全員の魔力が静かに広がる。


「俺の下に就くに相応しいかどうかをな…!」


道場の空気が、戦いの前の静寂へと変わった――。

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