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手下を集めたい!

 ――カオス・エデン内部。

古びた宿は、まだ埃の匂いが残っている。


「はぁ〜……埃が多いな」


俺は腕まくりをしながら窓を開ける。 陽光が差し込み、舞い上がる塵が金色に輝いた。


「言い出したのはミロク様ですよ?」


ミナノは水魔法で床を洗い流している。 彩りのある水が滑るように床を走り、汚れを集めていく。


「組織には威厳が必要だ。汚れた拠点では士気が下がるだろ?」


「まだ三人しかいませんけどね」


「……それが問題なんだよ」


「手下が足りん」


「急に真剣な顔しないでください」


「カオス・エデン。名は決まった。拠点もできた。だが構成員が三人では組織とは言えん」


「私とサラムさんとミロク様だけですからね」


「せめて幹部十人と雑兵百人は欲しい」


「急ですね!?」


「支配を広げるには戦力が必要だ。戦力があれば情報も金も集まる。だが問題は――」


「思想、ですよね?」


ミナノが静かに言う。


「俺の思想を理解できる者は少ないだろうな。俺ですら勇者と魔王倒すってヤバいことしてるなって思うぞ」


「だと思います」


ミナノは即答する。


「人って、誰かに支配されたいってあまり思わないですしね」


「愚かだな。支配される方が楽だというのに…サラムは自ら支配されに来たくらいだぞ」


「それを素直に言う人は危ない人扱いされます」


「ん…ではどうすれば人は集まる?」


ミナノは顎に指を当てる。


「理念で集めるのか、利益で集めるのか、恐怖で集めるのかですかね?」


「恐怖は早いが反発も生むな」


「ですよね。でしたら利益は安定しますよね!」


ミナノが笑顔で言う。


「今は金が…」


「あっ…そっか」


なんとも言えない空気が流れる。


「理念は難しいな」


「ミロク様の理念、説明できますか?」


「……魔王と勇者…支配するぜ〜…」


「ダメですね」


「あぁ…うん…だな」


俺は再び考える。


「では…支配する!」


「どうやって?」


「……それを今考えている」


ミナノは小さく笑う。


「まずは“何をしてくれる組織なのか”を決めた方がいいかもしれませんね」


「何をしてくれる?」


「例えば、困っている人を助ける。裏社会の仲裁をする。情報を売る。依頼を受ける、とか」


「なるほど。支配は結果であって、手段ではない……か。でも、どのみち支配するのに困っている人を助けるとかそういうのが意味あるのか?それに勇者と魔王と戦争だなんて言ったら皆抜けるだろ」


「そこはもう皆が忠誠を誓ってくれるよう祈るしかないですよ」


俺は小さく笑う。


「ま…掃除が終わったらとりあえず街を見て回るぞ」


「偵察ですか?」


「あぁ。人材は道に落ちているかもしれん」


「人材を物みたいに言わないでください…」



 ――数時間後。

拠点は最低限住める程度には整った。


「一日で思ったより綺麗になりましたね」


「お前の水魔法は器用だな」


ミナノのお陰で部屋はピカピカだ。


「芸術は実用的なんですよ」


「俺も上手いぞ?赤ちゃんの時から魔力操作を頑張ってたんだからな」


「ミロク様、負けず嫌いですね」


「んっ…!まぁ…まぁ…外に出よう」


気付いたらなんかおちょくられてる気がするんたけど…まぁいいか。

俺とミナノは拠点を出て、エイメノカサスの街を歩く。

闘技場跡はまだ立ち入り禁止。 瓦礫の撤去作業が進んでいる。


「あそこ、まだ調査入ってますね」


「流石にな…」


その時、俺は異様な魔力を感じ取る。異様というよりは、感じてて不快なもの。


「……?」


――違和感。

俺は周りを見る。

微弱だが、統率された魔力の動き。


「どうかしましたか?」


「気配が増えている…」


「気配?」


俺は視線を上げ、街の門付近を見る。

白いマントの影が、数人。


「白マントだ…」


「え?」


ミナノも目を凝らす。


「本当だ……」


以前よりも数が多い。 しかも今度は隠す気がない。


「調査隊、か?」


「私たちを探してるんでしょうか」


「可能性は高い」


「倒した男が戻らなければ、当然疑う」


「どうします?」


「今は動かない方がいいな」


俺は踵を返す。


「さっき爆発事故があったばかりだ。こんな場所で正面衝突は得策じゃない」


「珍しく慎重ですね」


「最適化だ」


白マント達は街に散開し、何かを探っている。


「ディアマテのためか……それとも俺のためか」


ミナノは小さく呟く。


「嵐の前みたいですね」


俺は笑う。


「嵐なら歓迎だ」


「……でも」


ミナノは少し不安そうに言う。


「組織、増やす前に戦争になりませんよね?」


俺は空を見上げる。

夜空の向こう。 見えない理想と、見えない敵。


「ならば戦争ごと取り込むまでだ。俺の実力を知らんわけでもないだろう?」


「はい。ミロク様は強いです」


「当たり前だ。俺は頂点だからな」


俺は拳を握る。


「お前の姉の件もあるしな。さっさとお前を正式に手下にしてやる」


ミナノはふっと笑う。


「ふーん。そうですか。頑張ってください」


「なんで他人事なんだ…お前も探すんだぞ」


「分かってますよ。ただ、ミロク様が探せるのかなぁって…」


ミナノは煽るように俺の顔を見る。


「俺は子供じゃないんだぞ!?」


「分かってますよ。一旦拠点に戻って作戦会議でもしましょう!」


「もちろん。そのつもりだ」


俺は白マント達を後ろ目に見ながら、拠点へと走って戻る。

着実にカオス・エデンと白マントの軋轢は、 水面下で始まりつつあった――。

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