炎を浄化せし水
――闘技場中央。
石畳の円形フィールド。観客席は既に満員。
熱気と歓声が渦を巻いている。
「さぁ始まりましたァァ!第一回戦!西地区代表――大地の剣士、東口から来るわァ!『アヴァド・カリナム』!!」
実況役の声と共に歓声が爆発する。
「――アヴァド!」
「――優勝候補だぞ!」
「――地裂剣を見せろー!」
地鳴りのような声援。
対する俺の名前が呼ばれる。
「そして西口から来るわァ!――新規登録選手!『マルス・アンドラウド』!!」
拍手はまばらに響く。
「――誰?」
「――聞いたことねぇな」
「――一回戦で消える枠だろ」
気にせず俺はフィールド中央へ歩く。
向かい側から現れた男。
身長は高く、筋肉質。
茶褐色の長髪を後ろで束ね、背中には巨大な剣を背負っている。
「お前が相手か」
低く重い声。
「そうだ。よろしく頼む」
「学生だと聞いたが……悪く思うなよ」
アヴァドが背中から剣を抜く。
――ゴゴゴゴ……!
剣を抜いたと同時に地面が揺れる。
「なるほど…大地魔法か」
「俺の剣は、地脈と繋がっている…!」
彼が剣を地面へ突き刺す。
瞬間――。
石畳が盛り上がる。
「地隆波!」
大地魔法だと中堅クラスの魔法だ。
無数の岩柱が俺へ向かって突き上がる。
他の者には対象が難しいだろう…だが。
――遅い。
俺は跳躍し、岩柱の頂点に軽く着地する。
観客がざわめく。
「――今のを避けた!?」
「――反応速すぎだろ!」
観客席から驚きの声が漏れる。
その状況でアヴァドは笑う。
「ほう……やるな」
「どうも」
アヴァドは再び剣を振る。
地面が裂け、巨大な土の斬撃が横薙ぎに走る。
――ズガァァン!
俺は剣を抜き、炎を纏わせる。
「あと三十秒で済ませる」
「なんだとぉ!?」
俺は剣を軽く振る。
燃える斬撃が土の刃と衝突する。
――爆炎。
土が蒸発する。
「なっ……!?」
観客席が一瞬静まる。
「――今……土が消えたぞ?」
「――燃やしたってレベルじゃねぇ…!」
アヴァドは距離を取る。
「炎属性……でもただの炎ではないな」
俺は肩を回す。
「お前の魔法、悪くない。だが――」
アヴァドが地面を踏み込む。
「地獄裂断!」
闘技場中央が崩壊。
巨大な岩塊が宙へ舞い、そのまま俺の下に落下する。
観客席が悲鳴を上げる。
「ははっ!終わりだ!」
岩塊の影が俺を覆う。
俺は一瞬で剣を逆手に持ち替える。
「つまらない芸当ばかりだ。退屈する」
俺は炎の魔力を圧縮。
「――焼き尽くせ」
剣を上へ振り抜く。
――瞬間。
爆炎が天へと噴き上がる。
岩塊が赤色になり、燃えて、溶けて、蒸発する。
衝撃波が闘技場全体を揺らす。
観客席は迫力に沈黙とする。
煙が晴れ、闘技場の様子が分かる。
「――どうなんだ…?」
そこには俺が無傷のまま中央に立っている。
アヴァドは息を呑む。
「……馬鹿な」
俺は歩く。
一歩、また一歩。アヴァドへと近付く。
歩く度に石畳が焦げる。
「終わりか?」
アヴァドが吠える。
「まだだァァ!」
地面から巨大な岩の腕が出現。
俺を掴もうとする。
俺は炎の温度をさらに高めていく。
「これ以上続けても無駄だ。支配の炎に焼かれ、消えよ」
俺は剣を振るう。
アヴァドに向かって地面に炎が一直線に走る。
岩の腕が崩壊し、そのままアヴァドの足元を焼き裂く。
「くそ…バケモン…がっ…」
アヴァドの剣が手から落ちる。
地面に膝をつくと同時にアヴァドの足だけが炎に焼かれる。
審判が手を上げる。
「勝者――マルス・アンドラウド!!」
だが、誰も声を出さない。
「――なんだあいつ…?」
「――アヴァドが……負けた?」
ざわめきが波のように広がる。
新参者。アヴァドという実力者を前に圧倒的な力で盤面を一掃した。
優勝候補を圧倒した俺は期待の目が向けられ、観客席の視線が一斉に俺へ向く。
俺は剣を鞘に収める。
「つまらない試合だった。あれが優勝候補ならチョロいものだ」
その言葉に観客席はまた静まる。
俺はふと観客席の上段を見る。するとミナノが俺の様子を観ていた。
歓声が遅れて爆発する。
「――マルス!!」
「――新星だ!!」
「――優勝候補だろもう!」
俺は振り返らず、控え室へ向かう。
闘技場の熱気の中で、違和感を感じ取った。
この大会は初めて参加する人なら本来もっと下の階層から始まるゲームだ。だが、俺は無名なのにも関わらず、有名剣士のアヴァドと戦わされた。アイツはどうやら所々の大会で優勝もしていたことがあるそうだったし、俺と戦わされるのはバランスがおかしい。
「このゲーム。さては仕組まれているな」
次の対戦票が発表される。
次はミナノだ。対戦表のスペック表を見るとミナノは魔法美術で金賞を貰った凄腕の芸術家だそうな。
対する相手は『カミノ・カジマス』。
俺と同じで炎魔法を得意とする老人の剣士だ。
過去には剣道の顧問もやっていたとか。
「これもバランスがおかしすぎるな…ミナノの芸術センスは凄いのかもしれないが、過去に剣道の顧問をしていた奴に勝てるとは到底思わない…」
俺はミナノの試合を観るため、控え室から魔力で作られた画面を観て、試合を確認する。
「続きましてはァ!東口から来るわ!凄腕の老人剣士ィ!『カミノ・カジマス』!」
老人が東口から姿を現す。ぱっと見は老いぼれだが、剣の構えは確かにブレが無いし、姿勢もいい。
「そして!西口から来るわァ!今度は有名芸術家!『ミナノ・カーシャ』!芸術センスで炎の剣士に打ち勝てるのかッ!」
ミナノはペコリと相手に軽くお辞儀をする。
「頑張れよ。ミナノ」
俺は睨み合う二人を観察するように笑みを浮かべる――。




