交差する覚悟と理想
――闘技場前広場。
巨大な円形建造物。石造りの壁には無数の旗が掲げられ、既に観客の列ができている。
「本戦は明日からです。なので今日は出場者の最終登録とチェックインだけですね」
「……つまり今日は戦えないのか」
「早く行きたい理由が?」
金のため…と言いたいが。
「いや、なんでもない」
俺は闘技場を見上げる。
魔力結界。観客席の増設術式。内部に強力な魔法障壁。
思ったより本格的だ。
「宿はもう取ってあります。大会参加者用のホテルです。一緒にチェックインしに行きましょう」
「用意がいいな」
「元々、友達と来るつもりだったんですけど、急に来れなくなったらしくて、宿が部屋一つ空いてたんですよ」
「それは丁度いい。にしても姉探しのために来てくれる友達なんて優しいな」
「あ、友達は大会メインで行くついでに来てくれるらしかったんです。まぁ家の事情で行けなくなったそうなんですけど」
百万円目当てなのか…はたまた戦闘狂か。どちらにせよ、気になる奴だ。
そして、歩いていると、大会会場から少し離れたところに大会指定ホテルがあった。
あくまで休む目的のホテルだから高級な雰囲気とかは無い。
ホテル内へと入り、受付で大会の出場登録を済ませる。
「マルス・アンドラウド様。出場確認いたしました」
銀色の参加証が渡される。
ミナノも隣で受け取ったようだ。
「では、また明日。なるべくマルスさんとは当たりたくないな〜…強いですよね?」
「ははっ。まぁ頑張れよ」
「はい!明日は頑張りましょうね!」
「賞金のためにな」
「え、そこなんですか?」
「当然だ」
ミナノは苦笑する。
「あはは…じゃあ、また明日。マルスさん」
ミナノは手を振って別館へと向かった。
「あぁ」
俺は少し歩くと自分の部屋へと着く。
広さはまぁまぁ。清潔。無駄がない。
俺は椅子に腰を下ろす。
「……百万円か」
俺は肩の力を抜いてベッドに横たわる。
「何に使おっかなー!」
ベッドから部屋を見渡すと机の上になにかがある。
「あっ料理か。もう運ばれてたんだな」
俺は目の前の肉料理に手を伸ばし、食べる。
味はまあまあだ。
「サラムの飯の方が美味いなぁ」
独り言をこぼしつつ俺は風呂へ向かう。
湯船からは湯気が立ち昇る。
湯船に浸かり、リラックスする。
「あー気持ちいい〜…」
思わず出た言葉に、自分で少し笑う。
服従させる力はある。
戦争を起こす火種も撒ける。
だが今は――。
戦う理由が無い。
「まぁ、急ぐ理由もないか」
俺は風呂を出て、ベッドへ倒れ込む。
今日は疲れていたのか、すぐに瞼が落ちる。
直後、暗闇の中、足場のない空間が俺の前に広がる。
目の前には橙色の髪の女。
「また会ったわね。弥勒」
女神だ。
「……またお前か」
「"また"とは冷たいわね」
彼女は微笑む。
「弥勒。あなたはやろうと思えば、今すぐ世界を服従させられるはずよ。なんでしないのかしら?」
「今は必要ないからだ」
女神は『ふっ』と笑う。
「違うわ。『今が心地良いから』。あなたは無意識にそう思ってる」
「あ?」
空間が揺らぐ。
「学園生活。友人。小さな刺激。優しい人達――」
女神の瞳が鋭くなる。
「あなたは戦争に巻き込ませたくないと思っている。いや、巻き込ませる云々の前に服従させる意味を見出せてない」
「……」
「勇者も魔王も、今は潰さない。力を持ちながら、均衡を保とうとしている。それはなぜか?」
女神は目を細める。
「覚悟が足りないのよ」
「……覚悟?そんなものとっくの昔に俺は決めてる。世界を支配するため、勇者と魔王で戦争を起こし、俺が正義を象徴し、支配する…そのためならなんだって出来る」
「そうかしら?世界を変える者は、必ず何かを壊す覚悟を持つ」
女神が近づく。
「お前はまだ壊せない。理想と現実の間で遊んでいるだけだ」
「ふん、違うな」
俺は反論する。
「俺は計算しているだけだ。今は時期じゃないだけ――」
その瞬間。
世界が割れる。
「言い訳ね」
女神の声が響く。
「覚悟を持て。さもなくば――」
視界が白に塗り潰される。
気が付けば目が覚める。
明るい天井。
朝日が俺の目に差し込んでくる。
「……夢か」
「ん〜…『覚悟』ね」
『言い訳』か。
俺はベッドから起き上がる。
「今はまだ、これでいい」
顔を洗い、服を整え、俺はホテルを出る。
ホテル前にはミナノが居て、俺を見つけた瞬間手を振る。
「おはようございます!」
「早いな」
「緊張して眠れませんでした」
「俺はよく寝たな」
いい寝心地だったかと言われればそうでもないが。
「いよいよですね」
「あぁ」
闘技場の方角を見る。
歓声が既に響いている。
覚悟と理想。
正義と悪――。
力と均衡――。
「行くか」
「はい!行きましょう!」
俺とミナノは並んで歩く。
巨大な闘技場の門が、ゆっくりと開いていた。
中に入れば大量の観客。
「へぇ…これが…」
もしかしたら強力な能力者と会えるかもしれない。あわよくばこのままエイメノカサスを服従させたいところだ。
「選手の確認をさせてください」
門番が俺とミナノに聞いてくる。
「あぁ」
俺とミナノの魔力を測られ、昨日登録した情報が一致しているかを魔力水晶で見られる。
「はい。『マルス・アンドラウド』さんと『ミナノ・カーシャ』さんですね。お通りください」
俺とミナノは門を潜って控え室に行く。
部屋に入ると対戦表が机の上に置かれていた。
「おっこれか…って…早速一回戦目から俺か…」
対戦表を見ると俺の相手は『アヴァド・カリナム』。という奴らしい。どんな奴かは分からないが、楽しみっちゃ楽しみだ。
「じゃあ…行くか」
俺は控え室から出て闘技場の中心へと向かった――。




