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覚悟と正義と悪

 ――エイメノカサス中心街。

石畳の大通りから一本外れた通り。

看板のない店。窓は黒布で覆われている。


「ここが情報屋です」


ミナノが足を止めた。かなり年期のある店と言った感じだ。


「情報屋か…」


「はい。この街で知らないことはないって噂です」


知らないことはない。だが知っていても口にしないことはある。口先だけが真実とは限らない事もある。

――口先で言うだけなら簡単だ。信用するかどうかは、ソイツ次第。

考えて止まっていても始まらない。

俺は扉を押す。

カラン――と乾いた鐘の音。

店内は薄暗い。

棚には古文書、魔導端末、水晶、封印箱。

奥に一人の男。

年齢は…四十代くらいだろうか。片目に単眼鏡をつけている。


「いらっしゃい。学生さんとお嬢さん。何をお求めで?」


胡散臭い笑み。


「人探しです」


ミナノが一歩前に出る。


「姉を探しています。ミリア・カーシャ。半年前にこの街に来たきり、連絡がなくて」


男の目が細まる。


「姉を探す理由は?」


「……調査です。姉のとある資料を追っていました」


――資料。

やはり何かを追っている。

男は指を組む。


「特徴は?」


「私より薄いピンク色の髪で…私より髪の長さは短いです。そして水属性魔法が得意です」


男は水晶に手をかざす。

淡い光。

数秒。


「うーむ…この街の滞在記録はある。だが現在の所在は不明。裏市場にも闘技場にも記録はない」


ミナノの指先がわずかに震える。


「死亡記録は?」


「それはないな」


ミナノの顔には安堵と不安が同時に浮かぶ。


「それ以上は?」


「それ以上は高い」


金の問題か。

それとも触れたくない案件か。

ミナノは唇を噛む。


「……分かりました」


男は視線を俺へ向ける。


「君は?」


「時間遡行魔法について知りたい」


空気が変わる。

男の笑みが消える。


「随分と物騒な話だな」


「使える者がいるか」


数秒の沈黙。


「まず教えてやろう。時間遡行は禁術だ」


「あぁ知っている」


「代償も知っているか?」


「代償までは…だが、やろうとして一度失敗した」


男は興味を示す。


「ほう」


単眼鏡が光る。


「時間遡行は世界の因果に干渉する。十回を超えると、脳が現在を認識できなくなる」


「……どういうことだ」


「過去・現在・未来の境界が曖昧になる。時間遡行は魔力を使い、時間に身を流す魔法…使いすぎれば体が魔力となり、消滅してしまうだろう」


まさか女神の言っていた俺の最期はこれなのか…

いや、分からない。それに、これが正解だったとすれば、十回以上時間遡行魔法を使わなければいいだけ。


「存在が世界に固定されなくなるということか。」


「成功してもリスクは蓄積する。世界は改変を嫌うからな」


「なるほど…この街で時間遡行を使える者は?」


男は首を振る。


「公に動いている者はいない。少なくともこの街では聞かないな」


嘘か、本当か。

判断材料はない。


「だが」


男が付け加える。


「時間を扱うのは魔法だけではない」


「……どういう意味だ」


「“未来を見る者”や“因果を固定する者”もいる。結果は同じだ」


「以上だ」


男は椅子に深く座る。


「それぞれ銀貨十枚」


「はい」


ミナノが払おうとする。


「俺が払う。ここの場所を教えてくれたのはお前だからな」


俺は銀貨をミナノと自分の分。合わせて二十枚を男に差し出す。


「まいどあり〜」


俺とミナノは店を出る。


「すみません。なんか…助けて貰って、その上お金まで…」


「構わない。俺のしたいと思ったことをしただけだ。お前も、姉を探したいと思ったからここまで来たんだろう?」


ミナノは俯く。


「姉さん……」


「心配しなくても、大丈夫だろう」


「それだけで十分だ」


「ありがとうございます…! そういえば、聞いててビックリしたんですけど…マルスさんは、どうして時間遡行なんて危険なことを?」


「必要だからだ」


「えっ…世界を守るため…とか?」


「違うな」


俺は足を止める。


「俺は正義じゃない。守りたいのは“自分の理想”だ」


ミナノは俺を見る。


「つまりそれって……悪なんですか?」


俺は薄く笑う。


「どうだろうな。正義も悪も、立場次第だ。正義から見た悪は悪だし。悪から見た正義は悪だろう。少なくとも、俺の理想ってのはどっちとも捉えられるもの…だな」


この街を見てよく分かったことがある。

商人は利益のために騙す。

だがそれは彼らにとっては正義だ。騙すことが他の人から見たら悪でも、ソイツにとっては正義なんだ。


「何にも言えることだが、覚悟のある者が、自分の信じたものを押し通す。正義も悪もな」


ミナノは静かに言う。


「……私も、覚悟が必要ですね」


「姉を探すならな」


――沈黙。

やがてミナノは顔を上げる。


「マルスさん。闘技場に行きませんか?」


「闘技場?」


「姉が最後に向かった可能性がある場所なんです。この街で実力者が集まる場所。もしかしたら、何か分かるかも」


「言っておくが、俺は軽く着いていくだけと言ったはずだ。俺はお前の姉探しを手伝うことは…」


「――今回の武闘大会…優勝賞金百万円らしいぜ!」


「――まじ?すっげ〜」


男二人が俺の隣を歩いて言う。


「えぇ!?」


俺は思わず声を出す。


「あっお前も興味あるのか?でも今回は特に強豪揃いだぜ〜頑張りな」


男二人はそう言って去る。


「ミナノ。この大会…逃す手はないな…」


「あっ、うん。そうですね」


ミナノはなんとも言えない表情で俺を見る。

俺はミナノと共に闘技場へと歩き出す。

覚悟と正義と悪。

この街では、その三つは簡単に入れ替わる。

そして闘技場は――

それが最も露骨に交差する場所だ。

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