交友都市エイメノカサス
――カメアノサス中央駅。
白い石造りの巨大な駅舎。蒸気と魔力が混ざった匂いが空気に漂っている。
魔導鉄道。
線路の上を走るのは、汽車。だが、石炭などの燃料ではなく、魔力を圧縮燃料として動くこの交通網は、都市間の経済を支える生命線だ。
「……魔力はいいものだな。転生前は魔力なんて便利なもの無かったぞ…未だに燃料問題がどうのこうの言ってんのかねぇ…ふふふ」
俺は切符代わりの魔力認証札を駅員に見せる。人が持つ魔力と認証札に宿るその人の魔力が一致しているかを判断して使えるものだ。タダで列車に乗れる代物だ!
貴族しか持ってないものだが、ミアシュのものを改造して使っている。生まれが貴族で運が良かった。
「はい、マルス・アンドラウドさん…証人出来ました。エイメノカサス行きの列車ですね」
駅員に駅内へと通される。
ホームに滑り込んできた列車は、鈍く光る銀色。側面にはエイメノカサス商業連合の紋章が刻まれている。
乗り込むと、車内には珍しい格好の人達が居る。
商人風の男、傭兵、学者、旅人。全員エイメノカサスへと向かう人達だ。普通の人達とは違う雰囲気がある。
「……情報が集まる場所は、やはり匂いが違う」
俺は窓際に座る。
列車は静かに動き出し、加速した。
◇
約二時間後――。
砂色の城壁が見えてくる。
エイメノカサス。
城門の上には巨大な歯車の装飾。商業と工業の街らしい象徴だ。
列車が停車し、人波が一気に流れ出す。
俺もその流れに混ざる。
「おぉ…流石、人が多いな」
露店。値段交渉の声。
魔力道具の実演販売。
怪しい薬品の瓶。
笑っているが、目が笑っていない人間。
――その時。
「や、やめてください……!」
細い声が路地裏から聞こえた。
俺は足を止める。
面倒事の匂い。
だが、この街の勢力図を知るには丁度いい。
俺は人気の少ない路地へ足を向ける。
進んで行くとネズミが俺の足元を駆ける。
奥の方へと俺は視線を向ける。
すると、三人の男が、一人の少女を壁に追い詰めていた。
少女はピンク色の髪をしている。髪は肩まであり、可憐な雰囲気だ。
そして淡いクリーム色のワンピースに小さな鞄。
いかにも狙いやすい旅人だ。
「金、持ってんだろ?ここは通行税がかかるんだよ」
「そ、そんな制度聞いてません……!」
「今作ったに決まってんだろ?」
『ウハハ』と下卑た笑い。
こういう奴を見ると、前世の不良共を思い出し、虫酸が走る。俺は喧嘩する気はない。だが、この光景は俺にとって許せないものだった。
俺は少女の前に踏み入れる。
「三対一は、あまり美しくないな」
男達が俺を見る。
「なんだテメェ。関係ねぇなら消えろ!それとも、通行税を払いに来てくれたお偉い坊っちゃんか?」
「いや、関係はある。今この街に来たばかりで、どんな人が居るのか、見に来た」
俺は軽く肩を回す。
「基準が分かって助かる。お前らみたいなのがわんさか居る街なのか?残念だ…」
男の一人がナイフを抜く。
「舐めてんのか!」
俺はヒョイと避ける。
俺はナイフを持つ手首を掴み、捻る。
ゴキッ――。
「うおおおあああ!?腕がぁ…!」
男は手を抑える。
「なっ…なんなんだテメェはよ!」
二人目が殴りかかってくる。
遅い――。
――ボゴオッ!
「ぶふおっ!?」
腹に軽く拳を入れる。
ソイツは膝から崩れる。
「ちっ…ざけやがって…!」
三人目は逃げようとした。
「待て」
俺は足払いをして三人目の男を転ばせる。
地面に勢いよく転がる。
俺はしゃがみ込み、三人を見下ろす。
「この街の通行税は、いくらだ?俺も貰いたい」
三人の男は怯えた目で震えている。
「ひ、ひぃ……!」
「二度とこの辺りでふざけた商売するな。次は骨じゃ済まない」
俺は軽く威嚇をする。
三人は這うように逃げていった。
静かになる路地。
少女はまだ壁に背を預けている。
「大丈夫か?」
「……助かりました」
声は落ち着いている。
少女はカバンから何かを出そうとゴソゴソする。
「あっ…すみません。よかったらなにか…」
「いや礼はいい。あぁ言うのはこの街ではよくあることか?」
「はい……観光客や地方出身者は、狙われやすいです」
彼女は深く一礼する。
「私、ミナノ・カーシャと言います」
近くで見ると、瞳は薄い青。
髪はただの可愛らしい色ではない。淡く光を反射している。
「マルス・アンドラウドだ」
「マルスさん……さっきの動き、すごかったです。傭兵さんですか?」
「ただの学生だ」
「学生……!?」
驚きと、少しの警戒。
いい反応だ。
「君は?観光か?」
「いえ……調べ物です。この街にしかない資料があるって聞いて」
資料。
なんの資料なのだろうか。
「一人で来たのか?」
「はい」
強い意志の目――。
ただの無防備な少女ではない。
「この街は甘くない。目的があるなら、慎重に動け」
資料。探す段階で時間遡行能力者についてもなにか聞けるかもしれない。ついでに着いて行ってやってもいい。
「はい。でも……さっきみたいに助けてくれる人がいるなら、少し安心しました」
ミナノは微笑む。
「そう思うのは早い。俺が例外なだけでもっとクズな奴は居るかも知れないぞ」
俺は路地を出る。
「あ、あのっ!」
ミナノが小走りで追いかけてくる。
「もしよければ……少しだけ、着いて行ってもよろしいですか?街に詳しくなさそうでしたけど、強い人が一緒なら安心なので」
面白い。
偶然か、必然か。
この街に来た初日に出会う少女。
「……少しだけならいいぞ」
このミナノという女には少し可能性を見出してる。
「ありがとうございます!」
彼女はぱっと笑う。
その笑顔の奥に何があるのか。
俺はまだ知らない。
――だが。
エイメノカサスでの最初の接触としては、悪くないものとなった――。




