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神の猟犬

森の主に呼応するように。


黒き森が歪んでいく。


そして闇が蠢きその姿を形作る。

(神の猟犬)は食い破るかのように狼の殻を破り、塗りつぶした黒が広がる大きな体躯を脈動させ、黒き森に君臨する。

食い破られた狼の抜け殻は未練が残っているかのように、本体に纏わりついていき、自らの象徴であった首輪は、自我の残り香として無様に狼のその薄っぺらな両手で手放さぬようにと必死に抱え込まれていた。


「所詮は犬か。

雄大な流れに呑み込まれても尚、己の欲望を捨てきれずにいるとは。

身の丈に合わない願いを叶えたと勘違いするような愚か者にはお似合いの結末だな。」


そうして、


「亜a00ooooooん!!!」


目に映る全てを喰らうがために、(神の猟犬)が産声を上げた。

脳裏で猟犬の鋭い視線に貫かれる。

それは狩りの始まりの合図だった。


「Ggrrrrゥぁあ嗚呼a/!!!」


猟犬が迫る。

どれほど見た目が変わろうが結局は自我のない存在。

単調な動きに対して、武器を合わせるのみ。

そう確信していた。


しかし、予期していないタイミングで横の腹が抉られる。


…なぜだ?

確かに今、目の前にいたはず。

だが、実際には傷付いているのは自分の横腹。


何かがおかしい。


頭に鳴り響く警鐘に突き動かされ、その場を飛び退き、大盾を攻撃を受けた方に向けて手に持つ。


だが予想に反して背中が裂かれる。


「ぐぅ!?」


不意の衝撃に吹っ飛ばされる。


もう、(神の猟犬)の本体も見えなくなっていた。


そして、四方八方から悲鳴が聞こえてくる。

鳴り止まない殺戮の音が。


「…何が起きている………?」


確実に事態は最悪の方向へと転がり進んでいた。


〜〜{天翔生命}収容区画(今日の通学路)収容室内〜〜


3級職員ニコラスは今日も(今日の通学路)の接触作業を行う。

細いケーブルが筋肉のように束ねられ肉体を支えており、三つのランプが顔面に縦3つに並んでいる奇怪な見た目をしていてる超常存在である。

この超常存在の作業において気をつけなければいけないことはただ一つ。


青、黄色、赤のランプのうち、赤が光っているときに動かないこと。


それだけの簡単な条件だからこそ3級職員で問題なく作業ができる、比較的安全な方の超常存在である。

そうして、観察して記録、時節ランプの赤が点灯したら手を止める。

未だ宿主となる方法がわからないため収容室の一つを独占し続けるこの存在の作業は日々{天翔生命}でも目下の課題にもなっていた。


「今日も、変わりなし…か……。」


今日も普段通り、動きのない超常存在に対して、変化がないことを観測報告書でまとめようとしていた時、そして、その上で(今日の通学路)が赤色のランプを点灯させていた時であった。



猟犬の視線がニコラスを突き抜ける。



「………!!?!?!?ヒィ!?!?」



動いてしまった。

よりにもよって、ランプが赤の時に。



「warning!warning!warning!」



静と動が入れ替わるように、

ニコラスが呆然と見つめる中、

(今日の通学路)は動き始める。


まずは一台。

交通違反を犯した存在をスクラップにする。


その後、(今日の通学路)は常に動き続ける存在達を止める交通整理の為、その収容室からの脱走を始める。


〜〜〜〜{天翔生命}収容区画(子守の為の(かいな))収容室内〜〜


2級職員のハンデルは社内で緊急事態が起きていることを察知していた。


なぜなら、猟犬の視線に貫かれたから。


普段ではありえない、異常な視線。

そして突然眼前に広がる、"黒い森"


その非常事態にすぐに救助要請をしたかったが状況が許してくれなかった。

このかいなに抱きしめられていたからである。

この大きな2本の腕だけの超常存在は(子守の為の(かいな))。

(子守の為の(かいな))の接触作業方法は一定時間この超常存在の庇護対象になること。

抱きしめられ、外敵の脅威から守られる。

それによって存在は満足するのだ。

ただ、守りきれればの話だが。


「外はどうなっているんだ?早く合流せねば、情報を知らないままだとまずいことになるzーーー」


言葉が途切れる。

それはそうだ。

首から上がないのだから。


(子守の為の(かいな))は震える。

猟犬の暴食から守れなかった我が子の最後に。

そして空いてしまった腕の中を満たすために探しにいくのだ。新たな我が子を。

愛しい我が子を腕の中に抱く。

次は絶対に守れるように力を込めて。

力を込めて。



〜〜{天翔生命}総合管制室内〜〜


「アラートです!3体脱走!3体脱走!脱走個体は(今日の通学路)と(噂好きのカンパネラ)、(子守の為の(かいな))です!」


「大至急、待機中の一級職員と特級職員全員に出勤宣言を出せ!緊急事態だ!」


そう叫ぶのはこの{天翔生命}のNo.3、【破雲万丈】のハクン・マルキュリー。


「私の槍も出しておけ!私も出ることになるだろう!」


世界を牛耳る企業のうちの一つである{天翔生命}。そのNo.3が出張るほど、事態は大きく膨れ上がっていた。


「(偽物の空虚な勇者)の方はどうなっている?戦況は?」


「…ダメです!該当区画の監視カメラを映しても、犬か、狼の視線が……う、うわぁぁぁぁあああ!」


【破雲万丈】に報告していた人間の肩の根本から反対の腰まで一筋に断ち切られる。


「次!」


代わりの人間がその席に代わりに着き、報告を続ける。


「該当区画は確認不可!そして今回の元凶ですが…【果てに遺された忠犬】様の精神崩壊の可能性が高いです。」


「なんだと…?それはおかしい。(果てに遺された忠犬)は私も戦ったことがある。だが、こんな戦況になるほどのものではなかったはずだ。」


「ただ生存者の報告からそれが一番近いと思われます。全員、黒き森で攻撃を受けた、と。」


「黒き森か…。」


考え込むこともできたが、

現実は悠長に待ってくれるわけではなく、事態は刻一刻と変化し続けていた。


「アラート!(死体飾りの芸術家)、(これが最後)が脱走!南東区画の現状復帰を現段階では困難と思われます!」


「…しょうがない。南東区画を封鎖。」


「南東区画を封鎖!」


「南西では(沈む泥濘)、(懺悔の窓)が社員を殺し続けています。専務、どうされます?」


「どういうことだ?なぜここまで押されている。」


「せ、専務!!【破雲万丈】専務はいらっしゃいますか!?!?」


どこかで見た小柄な眼鏡の社員が走り込んでくる。


「手短に報告しろ。」


「今回の騒動の中で、黒き森の中で(果てに遺された忠犬)に殺害された社員が"生命保険"により復活しません!!!」


「…なんだと………!?」


それは神の横暴。神の前に小細工は通用しなかった。


「これ以上穴を広げられれば堪らん。南側全域は完全封鎖。その上で3級以下の職員は保険が降りてないのだ。避難させたまえ。それ以外のものはついてこい。掃除を開始する。」


各自手に武器を持つ。

これから{天翔生命}の全戦力が戦いの中心地に集結するのだ。


「(果てに遺された忠犬)に似てるが完全に別物だ。ディナルドはもう完全に死んだのだろう。新たな存在の仮称を(生を許さぬ猟犬)とする。特級対象だ!鎮圧は無理だろう。対象を討滅する!」


それは覇気のある言葉だった。


「諸君、気張れよ?今回は…冗談で済まないぞ。」


〜〜〜


大盾を構えながら森を進む。


時節猟犬が辻斬りのように喰らってくるがその都度

消耗し続け、傷の治りも悪くなっていく。

かなり手詰まりの状況で正直飽き飽きしていた。

誰でもいい、死角を警戒してくれる人が欲しい。


そしてどこをへ進めば出られるのか、全くわからないまま勇者は迷い続ける。


すると、遠くの方で轟音が聞こえる。


現状を打開してくれる何某かと期待を込め、少しづつ近づいてみれば。


結晶が辺りに散らばっていた。


…嫌な予感がする。


その場を立ち去ろうと、踵を返し別の方向へ歩き出そうとした時。


ガキィィイイイイン!


その迫る大剣に対し反射的に大盾を向けていた。


「くふっ…犬の次は勇者か…!今日の私は随分と運が悪いらしい!!」


血まみれの【温もり喰らい】がそこにいた。

見た目の情報が黒と白が入り混じっていた頃の記憶とは違い、黒いロングコートは剥がれ無くなっていて、スーツは損耗して素肌がところどころ垣間見える状態、髪も完全な白に染まり、その上で血まみれになっている様子から全体的に紅白のような見た目になっておりそれはそれは幻想的であった。


「ぐ…ははっ。もう体が動かない…どうやら魔王の役目も、何もかももう終わりらしいな…」


口ではそう言っても即大剣で切り掛かってくる可能性があるので、警戒しつつ様子を見る。

【温もり喰らい】は勇者に撃ち倒された後も戦い続けていたのだろうか、最後に見た時よりもはるかに消耗しており、なるほど、もう命が尽きかける寸前と言われても納得のいく様子だった。

たとえ、唯一、不死身でも機能停止にさせることができそうな相手でも、

その弱り切った姿を目にしたせいか警戒心はだんだん薄れていった。


「たとえ消耗しても勝手に治る…はずだったのだがな…治らんのだ。なぜなのか…私は見捨てられたのか、それとも本部も緊急事態なのか…それに貴様…犬に何をした?私までも見境なく襲ってきて…」


【温もり喰らい】は独り言の後勇者の方に文句を言うようにひとりごちる。


「……随分と弱っているようだな。先程までの狂戦士らしさはどこに行ったのだ?」


「…ぬかせ……。だが、犬どころか貴様までもは正直苦しいところがあるのは事実だよ…悔しいがな。」


【温もり喰らい】が大剣を地面にさし、そこに倒れ掛かる。

どうやら本当に限界の様子だった。


「せめてもの情けだ。苦しめることなく、逝かせてやろう……辞世の句ぐらいは聞いてやろうか?」


勇者が【温もり喰らい】へ刃を向ける。

そして刃が届く、そんな間合いに勇者が入ったとき。


「そうだな……私自身こんな時になってもあまり残す言葉など思いつかないようだ……面白いことに…な。それはなぜか…と言われても、自分で説明できるんだ。断言しよう…」


「…?」


それは一瞬だった。


「…私は諦めが悪いんだ!!!!!!」


【温もり喰らい】のもたれかかっていた大剣から中心に次々と鋭い結晶が突きあがる。

【温もり喰らい】も貫かれながらの自爆特攻。

勇者も飛び退こうと試みたが片足を結晶に貫かれる。


「汚い悪あがきだ。死に様として、自分にとっては御免こうむりたいものだな。」


倒れ掛かった【温もり喰らい】も無事とは言えない様子だった。

なぜなら中心地の真隣にいたのだ、一番ひどい結晶だと体の中心を下から結晶に貫かれ鎖骨を突き抜け、顎、頬を通って天に向かって悠々とそこに君臨していた。

見るからに痛々しく身動きが取れない状態になっていた。


「悪あがきで結構。貴様に一度綺麗に騙されたんだ。やり返さずそのままも私にとっては御免こうむりたいものだからな。」


しかし、様子がおかしかった。


血が流れてこないのだ。

まるで結晶に血液が吸われているのかのように結晶にたくさんの赤の線が脈状に浮かび上がる。


「まさか。その状態で生きているのか…?」


「近くで確認してみるかね?」


挑発的な文句から異様な雰囲気を感じ取り警戒を高める。


「美しい芸術品は遠くから嗜むのが風流だと思うのだが?」


「……それは誉め言葉だと受け取っておこう。では。」


【温もり喰らい】が力を入れる。

貫かれた結晶が崩れていく。まるで背中の凝りをほぐすかのように体を捻らせることで長く伸びた余分な結晶を体から排除していく。

結晶で止血され元気が戻ったのかここで出会う前に戦ったときの数倍大きく、派手な結晶が髪も含め体中のそこかしこから生える。

そして横の大剣を抜き、勇者の視線の高さに刃を構える。


「第2ラウンドの開始かな?」


どうやら嫌な予感は的中したようだった。


「そこまで死闘を演じたいとは。勇者冥利に尽きるな。血沸き肉が躍るようだ。」


「血も肉もすべてを喰らってやろう!!!!」


大剣が迫る。

あまりに単調な攻撃に一瞬思考を挟む。

ここで勇者は刀を合わせないことを選び

その場から飛び退く。

その選択は正しかったようで。


大剣を振り下ろされた地点から広範囲に地面から結晶が突き出る。


「考える獣とは…狩りがいがある…な!」


横の薙ぎ払い。

遠く、間合いから離れた範囲から放たれた横薙ぎ。

普通ならただ外しただけで後隙をさらす愚かな行動かと思いきや、

剣先からも数多の結晶が降り注ぐ。


咄嗟にメニューを操作し、大盾を構える。


しかし、地面からの跳ね返りや足元などが隠しきれていないせいで一部結晶の侵入を許してしまう。

面倒なことに結晶の傷から新たな結晶が生えてくる。

即座に生えた結晶に衝撃を与えて割ることで取り除いたが、結晶に触れていた部分は活動が停止したかのように冷たく、硬くなっていた。


「ジリ貧ではないかね!?防御だけで魔王が倒せると思わないことだ!!!」


迫り続ける結晶の波。

弾切れの概念はあるのか疑問だが、無限ともいえる結晶の波に対して実際に成すすべがなく、【温もり喰らい】の言うようにジリ貧になっていた。


ただ、ここは黒き森。

狩る側の枠はすでに埋まっているのだ。


【温もり喰らい】の背後から猟犬の猛爪が襲う。

集中をこちらに向けていたせいか背後の対応ができずもろに喰らってしまう。


「くっ…!?この…!!!駄犬がぁあああ!!!!」


【温もり喰らい】が膝をつく。

しかし切り付けられたところからの鮮血は流れない。

鮮血の代わりに結晶が綻び落ちる。

驚くべきことに傷口から見える部分もすべて結晶なのだ。

まるで全身結晶でできているのか疑うほどに。


だが、膝をついたということは隙を晒しているということ。

いち早く戦いを決するため、持ち手の武器を変え迫ろうとするが、

その行動をとがめるかの如く猟犬がこちらに向かって襲ってくる。

猟犬は眼前でぶれて見えなくなる。ここから不可視の一撃が襲ってくるのだろう。

しかし、これまでの戦闘から猟犬の攻撃は見切ってきた。意識を向けている方向の外から常に攻撃を繰り出してくるならば、

それを逆手に取り誘導するのだ。


つまり、攻撃を喰らう部分以外の全てを警戒すればいい。


持ち手じゃない方の手に小さい盾を持ち、一方を除き全てにに意識を向け、意識してない方へ思いっきり盾を振り上げる。

迫ってくる爪に対し、意識の外で真正面から盾を迎えるために。


盾が砕けることがなければ相手の爪には大きくダメージを与えることができる。


がきっぃぃぃぃぃいいん!!


上手くいった。

その後すぐに意識を【温もり喰らい】の方に向け剣を向ける。


だが、すでに【温もり喰らい】も復帰しておりこちらが迫るや否や自身の足元の地面を踏みぬく。

すると、【温もり喰らい】が地面を踏みぬくと同時に勇者の足元から結晶が勇者を貫こうと伸びてくる。


その脅威を冷静に盾で叩き折った。

その状況を予知していたかのように、こちらが地面から生えてくる結晶に対処するタイミングに合わせ大剣を携え駆けてくる【温もり喰らい】に対して、刀を正面から打ち据えた。

結果、反動でお互いに遠くへ大きく距離をとる。


「仕切り直しか…。」


「そんな残念な顔をするな。こんな美人と長く戦えるのは嬉しいことだろう?」


「お前と言い、犬と言い、面倒な奴しかいないのか。」


「文句も不満も死ねばなくなるんだ。おとなしく私の剣で結晶となり砕け散るがいい。」


そうして、また剣戟を交えようとした瞬間。

猟犬とは別の乱入者が現れる。


かぁーん… かあーーーーん…


鐘の音が鳴る。


「…なんだ…………?」


「……蝎ゅ?螟ァ螂ス縺阪≠縺ェ縺溘?蜈ィ縺ヲ?」


理解ができず声にもならない音が聞こえる。


「…これは…この音は……まさか…?嘘だろう…そんなはずがない。」


ごーん  ごぉおーーん


鐘の音が近づいてくる。


そしてその姿を現すのだ。


自分よりもはるかに大きく、一軒家のサイズと言われても遜色ない大きな鐘に、数えるのも億劫な程無数の口がついている。

本能的に拒否反応を示すような異常な見た目の構造の物体が浮いているのだ。


バカでかい鐘が浮いていて揺れながら漂っている。

そんな自分の目を疑う光景が広がっていた。


「…なんだ……あの気色の悪い物体は」


その疑問に答えるように【温もり喰らい】の独り言が空気に溶けていく。


「………(噂好きのカンパネラ)…だと…?」


知らず知らず勇者と魔王を置いて事態は大きく混沌へと傾いていたのだった。

何度も出てきた【果てに遺された忠犬】さんの名前はディナルド・ワーグナーです。


10/17

方針を大幅に変えたため大幅改変しました。


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