遺された犬と安寧を知らない狼
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舞い上がる血飛沫と瓦礫の破片。
戦場を飾る彩りさえも億劫に感じるほど、事態を飲み込むのに頭の意識がもってかれていた。
「次はお前だ。」
視界外から勇者が迫る。
それはつまり同僚の失敗を表していた。
普段同僚が繰り出していた質量を自分が受けることとなるとは。
両爪で受け止める。
「俺を【温もり喰らい】と同じように対処できると思うなよ?」
「俺を本当にどうにかしたいのならば2人同時に来ればまだ可能性があったのだがな。強制力に縛られている時点で、お前も魔王だ。俺には勝てない。」
「この世界では、勇者が魔王に負けるのは常識なんだがな!!!」
爪を、牙を。
反撃の隙も与えぬように繰り出す。
「勇者といえども、そこまで大きい得物では手も足も出んだろう?」
勇者は最後に強く俺の爪を打ち返し、飛び退いていく。
「そのようだな。獣相手にはこれで充分だろう。」
勇者が持ち替えたのは弓…どころか大弓であった。
この距離での大弓。
その無防備を晒すその選択に一度頭に血が上る。
「貴様!愚弄しおって!」
だが、この状況は一度見た。
先ほど同僚が踏んだ轍をまた踏むわけにはいかない。
「同じことが通用すると思うなよ!?」
闇を。黒を纏う。
狼は闇夜を駆けるのだ。
弓如きに負ける筋合いはない。
闇を広げるのだ。全てを覆うように。隠すように。
「これで俺を捉えることはできまい。被食者としての最期を迎えるがいい!!同胞達よ!餌の時間だ!」
部屋の中に黒が広がる。
自己中心的なまでの黒は、広げた本人以外にとっては恐怖を覚える、そんな漆黒が延々と続いていく。
そして同胞の目が開く。
多くの群れの仲間が。その闇の中から目を覚ます。
闇は俺達の狩場だ。
暗い闇は俺達の全てを受け入れる。
俺達の闇に塗れたやつは何も抵抗できず喰われていく。
それは今までもこれからも。
そのはずであった。
〜〜〜
闇が広がる。俺の赤を犯しながら。
そんなことは許してはいけない。
勇者以前に俺のための赤なのだから。
狙いを定める。
黒を犯している一筋の"赤"に。
数多の視線が突き刺さる。
たとえ、狩りの対象にされても。
そこで見ているがいい。
どちらが狩人がわからせてやろう。
「【果てに遺された忠犬】と言ったか?お前がどれほど隠れてようがな。見えているぞ。
その浴びた俺の赤が。」
肩の根本から先を撃ち抜く。
「ガハァあぁあ!?!何故だ!?」
「その煌々とした赤を混じらせて、どう隠れようとしたのかね?」
それは返り血。
俺の一部であったもの。
見失うはずもなかった。
「俺は群れの頭だ!…勇者などに遅れをとっている場合ではないのだ!」
それでも撃ち抜かれるのだ。
再生するたびに、どこへ避けようがどこに逃げようが。的確に捉え、撃ち抜いていく。
「貴様…!!この闇の中で俺のことが見えているとでもいうのか…!?俺は狩人のはずだ…!闇に紛れ獲物を狩る。そのはずだった…それがどうだ。なぜ俺が追われる側になっているのだ!」
なぜと言われても俺の軌跡を辿るだけ。
それ以上でもそれ以下でもない。
だが、その行動が確実に詰将棋のように【果てに遺された忠犬】を手詰まりにしていく。
「見えてなどいないさ。お前が教えてくれるだけだ。間抜けめ。」
やがて体の穴の修復が間に合わなくなってきた頃。
その物言いに【果てに遺された忠犬】も気づく。
「何か見落としを…?もしや部屋の血か!!」
己に混じる赤に気づく。
「ならばより深みへ!赤い血をも呑み込む深き闇へ!さぁ、同胞よ共に行こうか!」
闇が全てを飲み込む。
「勇者よ。貴様が魔王を必ず倒すように。
我らも獲物は絶対に逃がさん。どうか頼む。
我らを楽しませるために足掻いてくれ。」
それは捕食者の余裕。
「ここでは全てが被食者と捕食者に分かれるのだ。」
そして周りが黒き森へと変貌する。
アオオオォォォォオオンーーー
そこかしこから遠吠えが聞こえる。
そこは彼らの狩場。
勇者はそこでは唯の部外者にすぎなかった。
「ここは…どこだ…?」
すると、森の深くの方から焼け爛れた犬が何匹も現れる。
「俺は本当に獣狩りに駆り出されたらしいな。」
数が多いため、刀に持ち替え切り捨てていく。
ただここの森の主は何か誤解しているらしい。
「獣は獣。化け物には何ら変わらない。知らないのだろうか。勇者の本分は…魔獣討伐だ。」
すると、闇が歪む。
「我が同胞をそのような蔑称で呼ばないでもらおうか。」
勇者の背中が【果てに遺された忠犬】の鋭い爪によって傷つけられる。
「ぐっ…。そうは言ってもだな。魔獣以外なら何と呼べばいい?害獣ぐらいしかないと思うがな…」
「減らず口を…同胞達に身を削られた後でも同じことが言えるか見ものだな。」
四方八方から霧のように得体の知れない牙が勇者を襲う。
傷付き、血が滴り、赤を広げる。
「獣が。どれだけ縄張りを主張しようが赤は俺のものだ。」
「…そうやっていつまでも意味のわからない、不確かな世迷言を呟いているんだな!」
「不確かじゃないさ。一つ教えてやろう。」
それは知識。
「狼が狩人だって?冗談じゃない。狼はいつも悪役さ。赤ずきんの狼も!三匹の子豚の狼もいつも間抜けで間違いを繰り返す。そんな情けない存在。」
狼になりきる犬にとって、一切知る由もない知識。
「そんなものに憧れているのか?」
「ぐぅぅうう!?なんなんだ!?やめろ!!俺は狼だ!孤高で気高く自由な存在なんだ!」
脳が拒んでいる情報を強制的に詰め込まれる。
その苦痛に耐えるために、血が吹き出ようとも【果てに遺された忠犬】は顔に爪を立て、頭を抱えた。
これ以上はやめてくれと。
それでも。
「……昔々あるところに、犬と狼がいた。」
語り出す。
「犬は肥え太っていたが首輪に繋がれていて、狼は見るに耐えないほど痩せ細っていた。」
「なんだ?何を言っている!?」
「犬が持つその豊満な体に驚いた狼は犬に尋ねる。
『犬さん、どうして君はそこまで肥え太ることができるのかい?』と。犬が答えるのだ。
『飼い主の狩人がただ狩人の帰りを待ち続けるだけで食べ物をくれるのだ』と。」
「やめろ!やめてくれ!何かがおかしい!」
「そうして狼は叫ぶのだ。『おぉ!""神""よ!どうか狼は他者に己の生き様を預けるような目に会いませんように!重い首輪よりかは飢えの方が遥かにマシだ!』と。」
「あがぁぁぁぁぁぁああああぁぁあ!!!?」
「貴様は随分と重そうな首輪をしているようだが。」
勇者は尋ねる。
「本当に狼なのかな?」
【果てに遺された忠犬】は動きを止め、呆然とする。
頭が理解を拒むような知識。
それを理解したのだ。
いや、理解してしまったのだ。
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とあるところに狩人と猟犬がいた。
1人と1匹は狩りに出る。暗い黒き森へ。
狩人は言う。「目の前に来る動くやつは全て喰らえ」と。猟犬は頷く。
森は深く、どこまでも続いていた。
猟犬は全てを喰らった。
猟犬は常に捕食者であった。目に映るあらゆる存在を喰らい尽くした。
気づくと、主人である狩人はいなくなっていた。
それでも狩りを止めることはない。
殺して喰らい、奪い尽くす。
やがて猟犬は大きく、暴力的な野性を持ち、
首輪が外れ全てを喰らう自由な狼となるのだ。
そうして、森に遠吠えが木霊し、連鎖する。
それは自分の遠吠えなのか、はたまた何なのか。
ただわかることは、その全てが叫んでいるのだ。
自らの首輪を嵌めてくれる主人を探せと。
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(偽物の空虚な勇者)が(果てに遺された忠犬)を定義しました。
(唯の日本人)の知識が利用されました。
〜〜エラー!〜〜
(遺された犬と安寧を知らない狼)が存在しません。
(果てに遺された忠犬)と競合します。
(果てに遺された忠犬)は存在が崩壊しました。
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"唯、安寧を"
"自らの安寧のためには無限の飢えを"
"全てを喰らえ。飢えを満たすためでも主人のためでもなく"
"神の元、安寧のために"
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【果てに遺された忠犬】が呟く。いや、
「■■■■?あぁ、…それは俺にもわかる。それは、KA.KA.KA/神の@安寧だ3%)6。」
その存在はもうこの世界の"登場人物"ではなかった。
「アa/?お、縺翫∪縺wo.o.o.o喰l@う。」
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(偽物の空虚な勇者)が(神の猟犬)を
魔王認定します。
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神、とは。




