勇者vs2人の魔王
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(偽物の空虚な勇者)が
(温もり喰らい)と
(果てに遺された忠犬)を
魔王認定しました。
征伐が開始します。
〜〜〜
赤が広がる部屋の中。
観客がいれば手を叩いて褒め称えただろう。
綺麗だと。
それほどまでに戦いは熾烈で、拮抗していた。
「私は嬉しいよ!勇者!貴様がここまでやれるとはな!」
【温もり喰らい】は久しぶりの熱のある戦いに興奮していた。
それに対して勇者は。
「お前達のような存在は戦闘狂と言うらしい。言い得て妙だな。狂っている。」
冷静にブルドーザーが迫ってくるような迫力のある質量をその細い刀で受け流し、反撃を綺麗に入れていた。
だが、それでも傷が癒えて行く。
脚を飛ばそうが肩から袈裟斬りにしようが盛り上がるように新しい肉が生え戦いに臨んでくる。
細切れにして再生を食い止めようとも。
「俺を忘れてもらっては困るぞ!勇者!」
【果てに遺された忠犬】がそれを阻止してくる。
たとえ知識を得た勇者といえど、
犬の化け物のような存在から繰り出される攻撃に対処しきれず消耗し【温もり喰らい】の復活を許してしまう。
このような攻防が続いていた。
「感謝するぞ!犬!今夜は干し肉でも拵えてやろうか!」
「戯言を!」
そして【温もり喰らい】が大剣を引き摺り切り上げようと足を踏み込む。
しかし、
「ぐっ!?………全く…相変わらず面倒なことだ!」
不思議なことに足がそこで止まる。
なぜなら"勇者"はすでに【果てに遺された忠犬】と戦っているから。
それはそうだ。
"勇者"は同時に攻撃などされないのだから。
(偽物の空虚な勇者)の力である。
「悠長なことだな。以前では知る由もなかったが、RPGというものは随分と勇者に都合がいいらしい。」
「くぅっ…!その言霊をやめろぉ!」
頭を抑えた【果てに遺された忠犬】が左手の爪を地面に突き刺し、その後勇者の足元から爪が登ってくる。
しかし、それを察知した勇者は飛び退き、その突き出た爪を掴み引っ張り上げる。
「甘いな。」
そして引き延ばされた腕に目玉が現れ、躊躇なく切りつけた。
「ちぃ!?保険が効かない部分を狙ったか!」
【果てに遺された忠犬】はすぐさま爪を戻したが、あからさまに獣の腕の大きさが普段の腕と大差ないくらいの大きさにまで小さくなっていた。
「どうやら貴様のことを甘く見ていたらしい。勇者よ。ここからは本気で行かせてもらおう。」
「そういう文言はお約束というものだ。言わない方が花があると思うがな。」
「くどい!」
【果てに遺された忠犬】がネックレスを引きちぎり首輪を手にする。
すると、吸い込まれるように首輪が剥製もろとも首に装着される。
「俺は飢えている!俺は番犬ではない。狼だ!
自由は全てを喰らう!その秩序を!恐怖で満たしてやる!
唸れ、吼えろ!狩りの時間だ!」
そうしてそこに現れたのは黒い繊維状のなにかによって一回りどころかより大きくなった狼の姿。
「…ただ大きくなっただけじゃないのか?」
「ほざけ!貴様を喰い殺すまで止まりはしない!
アオォオオォォオオンン!!!!!」
すると脳裏に狼の眼光が貫く。
どうやら、狩の対象は俺に決まったらしい。
「被食者の恐怖というやつか。だがな、獣は獣だ。切り伏せる。」
「いくらでも足掻くがいい!その方が何倍もうまいからなぁ!」
そして、【果てに遺された忠犬】が一度の跳躍で距離を詰め、その膨れ上がった黒い繊維をまるで筋繊維かのように流動していく、やがて右手の爪に力が集約させ、愚直に振りかぶる。
…それを勇者は刀で受けた。
衝撃。
赤い飛沫をあげ吹っ飛ぶ勇者。
それに対して【果てに遺された忠犬】は振りかぶった反動で左手がより細く、対して異様なほど膨れ上がった状態の右手を振り抜いて固まっていた。
部屋の壁が崩れ埃が舞い、様子が見えず沈黙が流れる……と思いきや、動く人影もあった。
【温もり喰らい】である。
「犬ぅ!ここからは私がもらうぞ!」
渾身の切り下ろし。
もちろん、それをタダで喰らわないのが勇者である。
「それは幾度も見たぞ。阿呆が。」
土埃の中から大剣を刀で丁寧に切り払い、
そして掌底を【温もり喰らい】の鳩尾に打ち込む。
「ぐはっ……!……はははっ!!やはり強さが普段より段違いだなぁ!?」
「おい!【温もり喰らい】!!そいつは俺の獲物だ!どけ!」
「やなこった!犬は尻尾でも振ってろ!」
そうして、またもや続く剣戟。
ただ、先ほどとは違う点があった。
それは。
パキィィイン!
パキィィいいぃイン!
剣戟の際に、何か結晶のようなものが飛び散る。
「また何かの小細工か?」
異様なのはそれだけではない。
その飛び散った結晶が重力に逆らわず宙に浮いているのだ。
直感が告げる。触れてはならないと。
「犬だけにいいところは見せてられないだろう!?私も様子見はやめだ!勇者よ!存在ごと消し飛ばしても恨まないでくれたまえ!」
距離を詰めれないことを察知してか、
【温もり喰らい】が大剣を地面に突き刺し付近の結晶を吸い寄せる。
呼吸している。
結晶を含め体内に循環させている。
止めようとも結晶の密度が上がった空間に飛び込むのを許さない程、様子は異様であった。
「あまり吸いすぎると私の熱も奪っていくのだがね。すまないな、勇者。
全力ではないが私にここまでの力を使わせたことを誇るがいいさ!」
そうして、姿が変わる。
その闇をも吸い込むような黒髪は下から半分ほど白銀のグラデーションとなっており、ところどころ小さな結晶が生え、体中からも生えているのか、スーツを貫き、結晶が垣間見えていた。
また、目を引くのは右手。大剣を持つ右手は結晶がより多く析出しており、
より幻想的な見た目をしながらも身の丈ほどの大剣を握る様は異様な雰囲気を放っていた。
そして、体を弓のように引き絞り、こちらへ駆ける。
「さぁ!結晶の中で舞い踊ろうか!」
あまりに見惚れるほどの一撃。
その一撃に刀を合わせ、鍔迫り合いに持ち込む。
「何かの影響で唯の暴力だった貴様がより厄介な存在になったのは事実だ!だがね、それでも力の差は変わらないのが世界の常だ!!!」
【温もり喰らい】の周りを逆巻く結晶が勇者を切り付けていく。
勇者は悪寒を感じた。
切りつけられたところから、全くの熱を感じないのだ。それは熱を奪われたというより、
即座に全ての動きが止まったかのような。
そして鍔迫り合いの均衡は勇者の刀が割れることによって終わりを告げる。
「終わりだ!勇者!」
暴力が迫る。
だが、冷静にそれに合わせるのだ。
手に持った、"槍"で。
「なにっ!?槍だと!?」
穗先で切り流し、石突の方で突き飛ばす。
「お前の力は厄介だな。ならば、俺も一撃で決めよう。」
手に持った槍を捨て、メニューを操作する。
新たに持ったのは【温もり喰らい】と同じような大剣。
「ふふっ。今度は私と同じ大剣だと?…もうしがらみもない貴様にここまで熱烈に迫られると熱くなってくるな。」
「この一撃に…全てを込める!」
大上段。
防御を捨て、自分の体重よりも遥かに大きく、重い剣を高らかに持ち上げ、それを振り下ろす所作。
そして力を込める。
筋肉がポンプのように膨れ上がる。
血流を、エネルギーを全て腕に。
さすれば力はその先どこへ向かうか。
「馬鹿なことを!気が触れたか!」
「!?まずい!【温もり喰らい】!下がれ!」
あからさまな隙を見逃すはずもなく、
【温もり喰らい】は勇者に迫り一撃を体の中心に撃ち込む。
しかし、倒れない。
「知らなかったか?勇者は魔王に倒れ伏すことはないのだ。」
そして、一撃。
それはいつの世も変わらない。
悪を滅ぼす勇者の一撃であった。




