都合がいい展開
「俺も俺の責任背負わせてもらってんだ…てめぇのその選択を止めることなんざできねぇだろうよぉ…!」
【贖う壺】はあくまでも自分が依然として立場としては上であることを表すように手の壺を転がす手遊びを混ぜながら余裕のある態度を【破雲万丈】に見せる。
その態度を示す【贖う壺】を視界に入れつつ【破雲万丈】は遠くの一点を狙うのだ。
「だが、それは俺の為だから止めねぇんだ。これ以降一切俺は考慮しねぇし躊躇もしねぇ…ハクン、俺はてめぇが大っ嫌いな人種だってことをわかっちまったからよぉ…。」
「それはなんとも光栄なことだな…!!!」
会話に紛れ【破雲万丈】が眩い光を纏う槍が放ち、肉の山を貫き破壊する結果が確定する。
はずであった。
「おいおい、そんな急ぐんじゃねぇよ…。その槍もさすがに撃たれちゃぁ俺でもその結果に介入はできねぇんだ。」
(拍動の生命器官)へと走っていた光の筋は到達する直前に消え失せる。
投げることすらできなかったのかと手元に目を向けど【破雲万丈】が手にしていた槍は最初からなかったかのように忽然と消えていて、周囲を見渡しても存在を確認できない。
「何っ!?はは!こうも無抵抗に取り上げられるとは思わなんだ。そこまでの能力、以前から活かしていれば今より得られるものもあったのではないかね!?」
すかさず【破雲万丈】は失くした(破雲万丈)を手元に引き戻すため手に光を灯し、手を伸ばす。
すると呼応するように光が灯る部分が視界の端に映る。
それは(拍動の生命器官)の一部。
その部分が【破雲万丈】のいる方へと盛り上がっていくのだ。
主の元へ帰らんとするために。
しかし突然その動きが止まることとなる。
一瞬の出来事であった。
目に映っている伸ばしていた腕が突如潰れたのだ。
「は?」
腕を初めに足が。
腹が。
頭が。
全身が。
前兆なく血を吹き出しながら潰れる。
赤に染まっていく【破雲万丈】を見て【贖う壺】が感じるのは無そのもの。
「そうだなぁ…確かに俺も"生命保険"が効く身体だったらよぉ…純粋に{天翔生命}へ貢献してたかもしれねぇ…。」
壺の破片が食い込み、手から血を滴り落とす【贖う壺】が潰れた【破雲万丈】を見下ろす。
そしてある部分に気づき【贖う壺】は驚きを隠すように肩をすくめる
「………ったく。お前さんは本当に化け物だな…。そうなっても死んでねぇってことは俺にとってお前さんが死ぬのは困るってことなんだろうなぁ…」
【贖う壺】の視線の先には原型が保たれてはいないが腕であったであろう部分が蠢きながらも淡く光る様子。
「こちらとしても痛感させてもらってるぜぇ…味方としては頼れるいい奴だったんだが敵に回るとこうも面倒だとはよぉ…」
やがて結晶を砕き、肉を突き破りながらも(拍動の生命器官)から飛び出してきた1本の槍が【破雲万丈】の元へ突き刺さる。
その槍を肉が剥き出しの手でしっかりと握りしめる。
「あー…あー…全く、死に抗う感触というのは別にそれ程時間が経ったわけでもないが久しぶりに感じるな…。」
声を含み己の調子を確かめながら【破雲万丈】は立ち上がる。
潰れていた身体が再構成され、元の姿へと戻るために癒え続けていく。
そして血塗れの衣服を整え【破雲万丈】は今一度槍を握り直した。
「律儀に待っていてくれていたのかね?手加減しないと言いながら優しいじゃないか。」
「手加減しないとは言ったがなぁ…死んじまったら関係ねぇが俺は別にお前さんを殺そうと躍起になってるわけじゃあねぇんだ。唯、流れに任せてやるべきことをやってるだけさ。その流れの邪魔するなら容赦はしないからってわけでよぉ…どうかもう立ち上がらないでくれや。」
「断る。私は何度でも立ち上がりやるべきことを成し遂げるとしよう。」
【破雲万丈】の物言いに【贖う壺】は苦笑する。
「めでたい事だぜ全く。俺がお前さんの最悪の状態を選んで”(拍動の生命器官)に飲み込まれてから助けが来なかったこと”になったとしても死ぬことも絶望することもなく迫る肉の中で今の今まで生き永らえられることを証明させちまったってわけか…」
【破雲万丈】はニヤリと皮膚も一部しか治っていない口角を上げ【贖う壺】を睨みつける。
「私も貴様に唯、負けるだけではないようだ。」
返すように視線を逸らさず【贖う壺】はため息をつきながらも睨む。
「はー…今を生きてる輩は元気なこった…」
「私と面と向かって互いに引かない今を経験することなど死んでからでは不可能だと思うがな…それでも貴様は自らのことを死者だとでも言うのかね?」
「生憎おじさんは今それを確認してる最中でなぁ…」
「…大それた文句を並べても結局はあの肉の山と勇者が関係しているのだろう?もう全部吐き出してしまえよ、私が代わりに全て貫き飛ばしてやろう。」
「…御免こうむるよ………てめぇにゃわかられてたまるか、馬鹿が。」
すると【破雲万丈】の足元にぽっかりと深淵に似た穴が現れる。
「舐めているのか!?さすがに初見ではないぞ!」
すぐさまその場を離れんと地を蹴り駆けるのだ。
【贖う壺】へと。
「チィ!?」
【贖う壺】も【破雲万丈】の止まることのない槍に合わせ都合よく壺を出現させ刃を防いでいく。
一見完璧に見える【贖う壺】の対処に【破雲万丈】が無意味な攻撃を仕掛けているように見える。
だが勿論【破雲万丈】の目的はそれではない。
「貴様のよくわからん小さい壺を握り潰す行為はさせん!!」
【破雲万丈】が認識している【贖う壺】の脅威は2種類。
鈍く迫り、飲み込まれていった対象が消え失せたりする比較的大きな壺と手に持ち、握り潰せば何かしら事象を操作するような小さな壺。
【破雲万丈】が警戒すべきは断然【贖う壺】が手に持つ小さな壺であった。
「忙しねぇなぁ!落ち着けよ、なぁ!?」
「その方便は聞き飽きた!いい加減他のレパートリーでも揃えたらどうだ!」
入れ替わり立ち代り槍と壺を交わしていく。
【贖う壺】が手に壺を持つ暇も与えず槍撃を繰り返す。
溜まらず【贖う壺】が離れようと自らを壺に飲み込ませ都合のいい場所へと退避しようとも結果を確定させる槍には関係がなく、移動後即座に捕捉し追撃を続ける。
「その大きな壺に自分自身を飲ませるとそうなるのか。面白いじゃないか。」
「くそ…一方的に知られてるような感覚は気持ちいいもんじゃねぇなぁ…ったく。」
そう言われても正直に距離を離す馬鹿はいない。
【破雲万丈】は決して気を緩めず常に【贖う壺】を追い詰めていく。
「その壺の仕組みついでだ。あの(拍動の生命器官)が貴様とどう関係があるんだ?それに(偽物の空虚な勇者)とも何かあるようじゃないか。それについても合わせて吐き出してもらっても構わんぞ?」
「ハッ!そんなに気になるんなら、金輪際俺の要求をすべて飲むってんなら言ってやっても良いんだぜぇ?」
「言葉でならいくらでも飲んでやろうじゃないか!それで満足だろう!? 」
「そうかい!そりゃ満足すらぁ!じゃあまず離れやがれぇ!!!」
「ここまで我らが{天翔生命}を掻き乱したのだ、先にそちらが譲歩するのが道理だろう!」
「そいつぁ、無理な話だなぁ!」
「ならば、こちらも無理に決まっている!」
一度会話の流れが途切れど攻防は止まることなく【破雲万丈】は槍を叩きつけ、【贖う壺】は大きな壺の裏へ身を隠し続けた。
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二人が戦闘中でも生命の賛歌は奏でられ続ける。
「そんなに激しくしてよぉ…俺としちゃぁどうでもいいがこうしてる内にもちっこい嬢ちゃんは手遅れになるわ、ナユラなんかはどうなるかわからねぇぜ?いいのかよぉ…!?」
「問題ない!貴様を打ち倒し先に(拍動の生命器官)を停止させ事態を収束させるのは決定事項だからだ!我ら{天翔生命}に属する人間だぞ!?この程度でくたばってもらっては困る!!」
「てめぇのことをホント、誤解してたぜぇ…?個人個人のことなんざ眼中にねぇ…それぞれの職員を{天翔生命}に属してる人間としか見てねぇから、同類だと思ってた!!おめぇは規則に従う自分に酔った自分本位の塊だと思ってたのによぉ!!!」
「そんなもの、知らん!!!」
【破雲万丈】も奮闘はしているが自傷する余裕もなく、次々に膿が膨らみ体中で血をまき散らしながら破裂していく。
体を動かすのに抵抗が産まれようともそれを無視し膿をつぶし、肉が擦り切れようと槍を振る手を止めない。
「お前さんらしくねぇよ…!!どうして戦うんだ!?ここは退いて一度体勢を整えるのが普通だろうよ!?」
「…お前は本当に自分本位なのだな。」
「あぁ!そりゃそうだろう!?そうでなきゃいけねぇんだ!」
【破雲万丈】が壺へと槍を強く振り当て出せる力全てをもって押し込む。
「狭いな。」
「なんだと!?」
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「確かに私も{天翔生命}に盲目的に尽くすためには多くのものを切り捨てねばならなかったしそのために雑念を排除することに徹する時もあった。だが貴様の自分への妄信はそれ以上だ。」
「何がいいてぇんだ!?」
「随分と便利な壺にあやかっているようだが、それがより貴様の可能性を狭めているとわからないのか?」
「はっ!言うことはそれか?俺の何がわかるってんだ!?」
「自分を信じ切り、その他者を下に見る態度は過去の私でもあるからだ!」
押し当てた壺と槍のぶつかり続ける力が逃げる先を求めるかのように火花を上げ続ける。
「下手にできる自分に酔っていた時期もあったが、果てに私は出会えたのだ。自分が立っているところ以外の居場所に。」
「…………。」
【贖う壺】と【破雲万丈】が視線を交わす。
「これがどれほど大きいか貴様にはわからんのか?」
「………あぁ、いてぇほどわかるぜ…ほんとによぉ………」
「私はそれだけあれば生きていける。それさえあればいいのだ。その為にはなんだってできる。」
「………おれにゃ遠い話だ。」
「はっ!!!だから貴様は狭いのだ…!周りも見えてないやつはすぐ死んでいく…貴様もよく知っているはずなんだがなぁ!!」
至近距離で【破雲万丈】が槍に光を灯し始める。
「俺を狙ってるってか?そんな今更狙ったって…?」
「避けれるならば避けてみろ!!」
しかし【贖う壺】はその【破雲万丈】の様子から後方を確認し気づく。
後ろでは【温もり喰らい】が(拍動の生命器官)としのぎを削っているのだ。
つまり、【破雲万丈】と【贖う壺】、【温もり喰らい】と(拍動の生命器官)が直線状に並んでいる。
「そういうことか…!」
【破雲万丈】の意図に【贖う壺】が気づいたことを察知してか、【破雲万丈】は【贖う壺】が手に壺を握らないよう槍を光らせつつ競り合いのベクトルを変えさせないため圧力をかけていく。
「てめぇ!!!」
「貴様でも結果には介入できないのだろう!?ならばこのまま強制される結果を受け入れたまえ!!」
「どういうことだよ…なんでこうなるんだ!!?どうしててめぇは止まらねぇんだよ…!?これが!!!俺にとって都合がいいとでもいうのかよ!!?」
「はぁあああああああ!!!!」
【破雲万丈】が壺をはじき、その勢いのまま振りかぶり槍を放たんとする。
その選択に結果が確定しているとしても【贖う壺】は避けるしかなかった。
「クソ…おれぁ結局あがいても無駄なことをやっちまったってことか……。」
そして槍が不可避の暴力をそのまま吐き出さんとする瞬間、【贖う壺】は回避行動に移ろうとする。
「無駄なぁ!!!ことなど…!一つもないっ!!!」
しかし、【贖う壺】の足が何かに引っかかる。
「は?」
足元には膿が破裂し続けながらも地を這ってきたのだろう、醜い動く肉の塊があった。
「あ…あぁ…!」
ありえない。
【贖う壺】はそう思った。
こうもタイミングよく足を引っ張られるのはあまりにも今の自分にとって都合が悪すぎる。
だが、わかってしまうのだ。
壺が。
この存在の接近を許したということは。
「言っただろう!{天翔生命}の職員はそんな簡単にはくたばらん!!!」
そういうことなのだ。
「ちぃ!!!くそがぁああああああ!!!」
やがて、槍が。
放たれる。
轟音。
賛歌もかき消す暴力が駆け抜け【贖う壺】の中央に位置する胸のコアの半分をえぐるように左半身を消し飛ばしながら(拍動の生命器官)に槍が直撃し肉をまき散らしながらその積みあがった肉の山が爆散した。
瓦礫や血を巻き込みながら肉の山が位置していた場所を中心に衝撃が走り、全てが吹き飛ばされる。
一仕切り落ち着いた後、その場には賛歌を歌う人型はあらかた消し飛ばされ、天井にへばりついた結晶から血が滴り落ちる音のみが支配していた。
「ははは…これでも意識はあるってか……」
【贖う壺】の独り言が駆け抜ける。
「これで【贖う壺】、貴様の思惑は潰えた。もう貴様も……?」
【破雲万丈】が【贖う壺】へと事態の収束を伝えようとした瞬間。
【破雲万丈】が異変を目にする。
肉の山の断片から黒い液体がものすごい勢いで噴き出していくのだ。
「……あれは…?」
今まで見たこともない事態に【破雲万丈】は怪訝な様子を示し、その黒い液体を目にして【贖う壺】は目を大きく見開く。
「ありゃあ…………!!!」
黒い液体が空中で球体を形成していく。
「そうか………もう勇者はそこにいたんだな……」
「おい!リカード!!貴様…また貴様しか知らないことが起きて…
すると黒い球体から液体の奔流吹き出し、天井の結晶を全て呑み込んでいく。
「な…!?」
「そりゃ我慢できねぇよな…やっとでなんだから…よ……」
【破雲万丈】と【贖う壺】は黒い液体に【温もり喰らい】も含めた結晶が消えていくところを見ることしかできなかった。
私は作家として宣伝もせずのうのうと生きています。
これを読んでるあなたはなんなんですか?なんで読んでくれてるんですか?
誇れ。そなたは大分すごい。




