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誰のために

何かの賛歌が聞こえてくるうちに殺到する肉の津波を共に連れて大穴から這い上がってきたのは確かに【温もり喰らい】であった。

だが傍から見ても到底無事を安心できる状況ではなかったのである。


それは【温もり喰らい】を追いかけその腕で抱き込もうとしている異形の存在。


事情を知らぬのならばその姿を見たら美しいと口にしてしまう者すらいるかもしれないと思えてしまうその姿。

1人と数えていいものか疑わしい、1体の頭一つ抜けて精巧で神々しい大きな人型の存在が【温もり喰らい】を追いかけ、それに肉を介して、いたるところから生える人型が両手を合わせながら寄り添うように追従していく様はさながら大きな人型の存在を中心に咲き広がった、不気味な花弁の群れのようであった。


そして花弁全てが一つとなって歌うのだ


la la==============--------------------------------


その歌声は生命の産声。


歌うこと自体が自然の摂理に従っているようなもの、やがてその声を聴いたものは自らの根源に眠る生命の神秘に触れることとなる定めであり、

当然{天翔生命}に身を置くものにとって抗ってはならないその歌声は(拍動の生命器官)の願いに応え生命の定義を塗り替える。


その力を技術規格としてこの世に普及させたものが{天翔生命}の誇る"生命保険"。


"生命保険"は確実に時代を大きく加速させた技術の一つだろう。


何故ならば、実質誰でも不死身となるのだから。


しかし誰も知る由もないことではあるがこの力は唯、家族を思う1人の小さな男の願いが曲解された結果なだけなのだ。


誰でもなわけがないだろう。


誰でもいいなどと言い表すことが許されるわけがないだろう。


唯、自分が何も見えない暗闇の中にいようとそれでも狂いそうになるほど焦がれる待ち人が健やかであることを祈っているだけである。


だが誰もが享受できるほど無作為に振り巻いてきた家族の為の行為の末に


その不特定多数の誰かだったはずの者が偶然待ち人本人であると気づいてしまった日にはどうしてくれようか。


どうなってしまおうか。


一つ言えることは



誰も先を予想することすらできないのだ。



「【温もり喰らい】!!!無事か!?」


【破雲万丈】の声が(拍動の生命器官)の合唱団の歌声の隙間を通り【温もり喰らい】の耳へ届く。


「専務か!!無事と言いたいところだがな!!見ての通り無事かは自分でも大分怪しいと言える!!」


生存は絶望的だと思われていたにしては、その【温もり喰らい】の冗談は生気を十分感じさせられる声色である。


「な、ナユラぁああ!!よかったぁあああ!!!」


その様子に先ほどまで縮こまり完全に被食者としての終わりを覚悟していたはずのサラ1級職員も大袈裟に喜びの歓声を上げる。

しかしながらお互いの無事を確認し喜びを分かち合う暇すら与えないと言うかのように(拍動の生命器官)の歌声が他の声という声をかき消していく。


la laa============-----------------------------


「うぅ!?え、あ、ああぁあああああ!!!!」


すると突如その声を聴いたサラ1級職員の体のそこかしこから赤い膨らみが隆起し破裂していく。


「い、痛い!?あぁああああ!!」


「サラ1級職員!?」


まだ安全な位置にいたはずの隣にいた部下が突然理解不能の損傷を受けて驚くのも無理はない。

【破雲万丈】はサラ1級職員の悲鳴に驚きつつ他に脅威がいるのかと周囲を確認しようとすると気づくのだ。


体が癒えている。


砕かれ見るに堪えなかった足が、抉られ骨が貫かれ、繋がっているのもやっとであった腕が。

癒えている。


「これは…」


自ずと理解せざるを得なかった。

我々は際限なく癒え続けるという(拍動の生命器官)の攻撃を受けているのだと。


「あ、うぅ…」


無差別的に治癒を強制する暴威に晒されたサラ一級職員の呼吸が細くなっていく。

過剰な治癒によって出来た腫れ物が体の中にも発生しているのだろう。

一刻の猶予も許されない状況の中、サラ一級職員の命の灯は小さくなっていく一方である。


だが【破雲万丈】は迷わなかった。


【破雲万丈】はサラ一級職員の体中で膨れる腫瘍を斬り飛ばしていく。


「あぁ!?…い、いた…!やめ…ぃい!」


しかし、斬れど潰せど傷が治る。

唯、延命にしかなっていない行為を続けるうちにあれ程まで損傷していた部分も完全に治り、【破雲万丈】の身体にも赤い腫れ物が出来ていく。


「そうか…今まで便利な部分ばかり利用してきたが、ここまで来ると都合が悪い部分が出てくるのも考えものだな…!」


自分にも傷を付けながらも依然苦しむサラ一級職員を前にして、これは根本から解決しなければならないと否が応でも理解せざるを得ない状況に【破雲万丈】は唸る。


「…あ、わた…これ、ぬんで…すか…?」


もう自分では自傷しようにも身動きが取れず、手遅れに近い事を頭で理解しているのかサラ一級職員は膨れ上がる肉の隙間から【破雲万丈】を見つめる。


「だい……じょ、ぶ…あぁ…でも…………」


精一杯聞き取れるように口を動かしているのだろう。

普段からも手遅れの同僚など"生命保険"があったのだ、救助に割く時間が惜しいと思うことは当然であると共通認識として確立されている。

頼りない姿を多々見せてきたサラ一級職員にも「自分のことは気にせず」と仲間に言えることは彼女にとっても造作ない。

しかし、気が弱い彼女にはそれでも涙を止めることはできなかった。


もちろん、サラ1級職員にとっても{天翔生命}が超常存在を利用する事を生業としているのはわかっていた。


だが、あの肉の山がもたらしている現象は本当に我々が認識している結果を導いているのか?


そう思ってしまう頭が目の前にいる心底頼れる上司や一瞬見えた親友の存在をもってしても生じてしまう不安の結晶を涙として吐き出すこと以外選ぶことができなくなるのだ。


今までの"生命保険"は本当に我々が触れていいものだったのだろうか、と。


la la===========―――――――――


それでもその不幸を消し去るが如く歌声が鳴り響く。


「このっ…!離れ…!」


一方、仲の良い友人が今危機に迫っているということを残酷にも知らずに目の前の存在へと鬱憤を吐き捨てる者。

肉の山に勢いよく天井へたたきつけられた【温もり喰らい】は目の前の不気味な人型に触られぬようにと結晶を間に噛ませ耐えてはいるが、本当に底が尽きるのか疑わしい程の物量が押し寄せ結晶へと人型の伸ばす手が埋め尽くしていく。


「このままではまずいな…!」


肉の山の様子を前に【温もり喰らい】は戦慄する。


それは自分が何故か耐えれているから。


たしかに全力で呼吸し結晶を循環させることで癒え続ける症状も結晶で固定しつつ無効化することによって(拍動の生命器官)へと結晶を押し出せてはいる。

それでも所詮は一人。マンパワーの差には絶望的な差があるはず。

しかし、それを補えているのは皮肉にも今も迫る(拍動の生命器官)の存在のお陰であると【温もり喰らい】は理解していく。

今この状態は、結晶が【温もり喰らい】の一部であったからこそ無限に癒え続けることで、偶然(拍動の生命器官)へと対抗する方へ増殖し続けられているため、そのおかげか結果的に均衡に近い状況が出来上がっているのだ。


だがそれだけでは戦慄するものではない。


なぜ耐えれているのか。

それは、もう結晶の制御が効かないから。


自らの手足のように扱えてきた結晶。

それが動かせなくなるだけでも【温もり喰らい】にとって恐ろしい事態であるのにさらに恐れを助長させる感覚が襲う。


感じるは鼓動。


それも結晶の中から無数に。


(拍動の生命器官)。

上層部の一部でしか情報を公開されず、その能力自体も"生命保険"の根源に関わることぐらいしか理解されていない超常存在。

だが、本質は違う。


その本質とは(拍動の生命器官)は生命の定義を歪ませること。


【温もり喰らい】の記憶の中でも実際に目で見た経験はない。

それでも、耳に残る育ての親の一言が【温もり喰らい】の焦りを後押しするのだ。


曰く、「あれはなぁ、死ぬ事がなくなるんじゃねぇ…全ての"もの"が生きていること以外許されなくなるんだ。」と。


床が、壁が、瓦礫が。


鼓動している。


la===========――――――――――――


この場で満足に行動ができるのは【破雲万丈】一人のみである。

【破雲万丈】が肉の山に目を向ければ纏わりつかれもう隙間から覗く結晶でしか安否を確認できないが至近距離で悪戦苦闘しているであろう【温もり喰らい】に、足元には膨れ上がる肉に阻まれ満足に動く事が出来ないサラ一級職員。

【贖う壺】を頼ろうにもこれまでのことから信用は出来ない中、2人のどちらを取ろうにももう片方が耐えれるかの賭けに近い。


だがしかし再度言わせてもらおう。

【破雲万丈】は迷うことはない。


【贖う壺】が不安定要素といえど結果的に【破雲万丈】の身体は回復したのだ。

条件が揃ったのならば後はやることをやるのみである。

現状求められているのは【温もり喰らい】の結晶。

あの結晶を使えば【破雲万丈】とサラ一級職員の過剰回復も止めることができる。


「【温もり喰らい】!!」


【破雲万丈】は声高らかに【温もり喰らい】へと呼びかける。

その言葉は人型達の賛歌を貫き【温もり喰らい】へと届くのだ。


「1度で決めるぞ!」


「!?……あぁ!承知した!」


【温もり喰らい】は【破雲万丈】の意図を理解したのか結晶をより速く循環させ外へ向ける結晶ではなく内へと向け、より厚い結晶の衣を纏っていく。


あとは【破雲万丈】が結晶に吹き晒されている肉の山へと目掛け添えるだけである。


雲を破る一撃の槍を。


しかし


「それをおじさんは許すと思うかい…?」


勿論それを止めるものもいた。

【贖う壺】である。


「リカード…!貴様の行動は本当に理解に苦しむな…。どれほど貴様に大層な目的があったとしても我々に共有しないのならば協力を得られないのは当然だろう!?」


【破雲万丈】に指摘された【贖う壺】は表情を変えることなく言葉を続ける。


「まぁ、確かにお前さんらに一方的に我慢させんのにも限界ってのはあるだろうよ…。」


「ならばこそ…!」


「でもな。」


肉の山を背に立っていた【贖う壺】が【破雲万丈】へと一歩歩み寄る。


「これぁ、ハクン、てめぇのためでもあるんだぜ?」


「ふざけたことを…!今更その言葉に踊らされる訳がないだろう!?」


今までの道のりにおいて【贖う壺】の言動に助けられた部分が大いにあることは【破雲万丈】は理解している。

そうだとしても今日この場では【贖う壺】が信頼を地に落とすには十分な証拠が揃ってしまっている。


「貴様ごと貫いてやろうか!?」


「おいおい…それこそお前さんも言ったよな…俺らの目的が互いに{天翔生命}の為になることを願うってよ…だから俺は忠告してるんだぜぇ?この、{天翔生命}の為に。考えても見ろよ、その槍を振るった先はどうなんのかわからねぇ分リスクの方がデカいだろ?…俺としてもこの展開の中、ノイズが混じるのは御免なんだ。」


提示された忠告に対して【破雲万丈】は鼻で笑う。


「はっ!今更こちらに擦り寄ろうとするなど厚顔無恥にも程があるな!…私も実地で早計に判断することの危うさは理解できている!だが、私は私の選ぶ道を進ませてもらうと言ったはずだ!!」


「お前さんらしくねぇ…俺はハクン、てめぇに似合った提案をしてるんだぜ?今俺らの代わりにわざわざその身で検証してくれてる部下達がいるんだ、存分に様子を見てから動いた方がいいってわかるだろ?」


【破雲万丈】の手に握られた槍へと光が集まっていく。


「…………」


【破雲万丈】には聞こえる。


「これは価値のある犠牲だ。お前さんのよく言う効率ってやつなんだ。断言する、その槍を納めれば、納めてくれればよぉ…お前さんのため、ひいては{天翔生命}の為に直結する…!」


「………」


数多の歌声も周りでひしめく鼓動もこの聞く価値もないたわ言すらも掻き消してくれる、作り物でも借り物でもない己の心臓の音が。

心拍数が上がる。

これは緊張ではない。興奮でもない。

今を生きながら責任を背負う者の音である。

唯、一歩踏み出す為のエンジンの音だ。


「確かに俺もここまで一切お前s…


「リカードッ!!!!!」


【破雲万丈】の呼ぶ声が【贖う壺】の言葉の先を消し飛ばす。


「これだけは言わせてもらう。貴様の思惑など私には関係がない!貴様の描いた計画が{天翔生命}に害があるのならば私が責任を取らせてもらおう!一番近くに居た私が気付かなかったのが始まりでもあるのだ。その補填として私が{天翔生命}の為に尽くすのみだ!!」


その【破雲万丈】の暴論に対して【贖う壺】は顔をに手を当て高らかに笑う。


「あっはっはっはぁ!お前さん、そりゃ馬鹿じゃねぇかぁ!?全部が全部{天翔生命}の為だってぇ!?…………なわけねぇだろおぅがっ!!!!!!!」


【贖う壺】が雰囲気を反転させ怒りを露わにして、【破雲万丈】を手に当てた指の間から睨みつける。

こいつは何を言っているんだと。


「お前さんはよぉ…?我が身よりも{天翔生命}に全部捧げるってか?……おかしいだろうがよぉ!時には部下やら事務員を自分の代わりに阿呆みたいに消費して今の地位を確立させてるってのに自分のためにじゃない…だぁ!?ちげぇだろ!今の時代、俺らは俺ら本位で生きていなきゃ駄目だろう!?」


訳がわからないと【贖う壺】は頭を掻き毟る。


「私は…{天翔生命}に全てを捧げると決めた。

その為にはこの私が生き続けなければならないし、将来貢献できる人間を生かすのも同じ、{天翔生命}の為なだけだ。」


近づいてきた【贖う壺】が【破雲万丈】のすぐ前、槍の先に触れる寸前の所で止まる。


「ハクンよぉ…!…おめぇ、なんでその考えになれたんだ。なんでなんだ!?」


「そんなもの、とうに忘れた。」


忘れた。

そんなありえない言葉に【贖う壺】は天を見上げるしかない。


「あぁぁぁ…あぁぁ!」


燦々と光り輝く暴力の具現である槍を前に【贖う壺】は関係なしと感情を露わにしだすのだ。


「馬鹿が!確かに忘れたさ、おめぇは忘れた筈だぞ!くっっそがぁ…!!!こっちの方が"都合がいい"ってかぁ!畜生!!!」


意味のわからない言葉を羅列しながら槍からも注意を外し、頭を抱えながら呻き始める。

その様子を見て【破雲万丈】は話は終わったと今一度遠くの花の中央へと狙いを定めようとした時。


「本当に止める気はないんだなァ…?言っとくがおれぁ…手加減もしねぇぞ…?」


最後の確認が成されるのだ。


「…謝っておこうか。私は先程まで貴様の言っていた曲げちゃならないものを無視していたようだ。その上で言おう。貴様は私が私の責任を取る事に異を唱えられるとでも?」


【贖う壺】が震える。


「ははは…。」


【贖う壺】の周りを幾つもの壺が囲む。

そして唯手に壺を握るのだ。


「そりゃそうだ。」

今ここに流れ着いてきたそこのあなたは一体幾つの小説を乗り越えたどり着いたのでしょうね。


残念!!ここは激遅更新だぜ!

本当におっせぇのなんの!(泣)

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