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忘れた温もりを送るカーテンコール

勇者が大穴へ飛び降りていったのを見た瞬間、【破雲万丈】はいち早く後を追いかけようとするがそれを止めたものがいた。


【贖う壺】である。


その制止の腕に対し、【破雲万丈】は消耗していない左手を使いその腕を切り飛ばそうとする。


だが壺が間に割り込みそれを阻む鍔迫り合いのような構図が産まれていく。


「リカードォ!!貴様には言いたいことが山程ある! …だが、生憎そんな余裕はない!貴様がそれらしい言い訳を並べたとしても先ほどの一連の様子から貴様が重大な情報を秘匿しているのは確認できたっ…!これはもう、我が社に対する裏切りだっっ!!!そこをどけ!!!」


「そいつはできねぇな…」


「ここに来てまだそのようなっ…!!」


あの勇者は他の超常存在とは違う。

その事に気付いてしまった【破雲万丈】は目の前の【贖う壺】に対して向けていたものを疑念を超え敵意に昇華させていた。


どれほど理屈を並べても納得のいけるものではない。


「私は…大意の前に邪魔な存在は即刻消す!貴様も理解している筈だぞ…!」


「奇遇だねぇ…俺も、だ。」


その場に剣呑な空気が流れる。

勇者が乱入してくる前に流れていた時よりも遥かに鋭い空気が。


「だがなぁ、ハクンよぉ?俺が言っちゃぁなんだがお前さん、その腕じゃあままならないってのはさっき痛い目見てよぉ…。あれだぜ?これっぽっちもわかってねぇってのはさすがに…なぁ?」


たとえその全てを信じるに値しないと判断を下したとしても【贖う壺】が言及したことについて【破雲万丈】が言い返せないのは事実であった。


「くっ……」


「引いてくれねぇかぁ…?引いてくれるだろぉ?わかるよなぁ、こりゃ分が悪いってやつなんだぁ…。その脅しにもなってねぇ玩具は下ろせよ。見苦しいぜぇ?」


「貴様は…!!!!」


会話の流れに負けぬと対抗するように【破雲万丈】は声を荒げる。


「んぅ〜〜?」


「この後のことをどう落とし込むというのだ?」


「あぁ? んー…そうねぇ…」


意を決したように放たれた【破雲万丈】の言葉に対し【贖う壺】は気の抜けたように首の裏を掻きながら何とも言えない態度をとる。


「教えねぇって言ったら?」


「っ!?きさm―


「怒るよねぇ〜怒るんだよぉそりゃなぁ。」


当然のことを当然のこととしてまるで【破雲万丈】を煽るように言い放つ。


「まぁねぇ…俺にとっちゃぁ…ハクン、お前さんは少々手に余るんだよなぁ…?」


その言葉には少し不穏なニュアンスが含まれていた。

手負いの上にこの距離まで壺が近づくのを許している状態。

そして【破雲万丈】にとってはある程度把握はできているが完璧に対処が可能であると断言できない能力を保有している存在の前。


言葉の節々に"もしかして"と、裏の意味を勘ぐろうとしてしまうのは不可抗力である。


「………」


「………」


その場に沈黙が流れる。


「………めんどくせぇなぁ…」


ゆらりと体勢を揺らし自然な動きで【贖う壺】が【破雲万丈】の肩に手を置いた。


「あ………」


【破雲万丈】は反応ができなかった。

壺の発動範囲は未知数とはいえ触れられるまですればあとは相手の意思次第。

この世界では一瞬の気の緩みが命取りと理解しているからこそ肩に触れられている手が【破雲万丈】にとって死神の鎌となるのを頭で理解してしまった。

漫りに接触を許してしまった事に後悔する。


そしてその身を壺が犯さんと深淵の口が開こうとs―


「ビビったかぃ?」


舐め腐った声が聞こえる。


「ぶっ!アッハハァ!?そんなっ…!この世の終わりみてぇな…!あーはははは!おもしれぇなぁ!見たことないぞハクンよぉ?お前さんがそんな絶望する顔なんてよぉ!……あー…まぁといってもぉ…見たことはあるかもしんねぇが、なぁ?」


【贖う壺】はそうして腹を抱えて笑うのだった。

目の前で醜態を晒した【破雲万丈】を指差して。


「ぐぅっ…!き、貴様はぁっ!そんなっ…絶望など!したこともないわぁ!」


【破雲万丈】は槍に光を宿し別の角度から目の前の性根の腐った爺を斬り飛ばそうとする。


「おぉっとぅ…!あぶねぇなぁ…冗談だろう?許せよな、全くよぉ…」


【破雲万丈】は青天井なまでにも重ね続けられる【贖う壺】の侮辱と近しい行為の数々に目の前の存在が何か恐ろしい裏があるのかもしれないという恐れを忘れ殺意に満ちそうになる。


「私をおちょくるのもいい加減にしたまえ…!貴様が今までその態度で許されていたのは我らが{天翔生命}の栄光とその得体の知れない壺のおかげだということを忘れるなよ…!?」


「わーかってるてぇの…もう良いかぁ?次にやることもお互いあると思うんだけどよぉ…そっちにいこうじゃねぇの。お前さんも何をやるにもその状態は治した方がいいのはわかってんだろぉ?」


「………そんな落としどころを提示したとて私は貴様をこれ以降信用せん。食えないやつだとは思っていたが味方である分頼れる存在だと思っていたがな。」


「俺は、俺のことが1番大事なぁんだ。他のやつがどうなろうと知ったこっちゃないねぇ…」


まるで【破雲万丈】だけでなく他のなにかにも話しかけるように【贖う壺】がそう言い放つ。


「全く、その秘密主義で自分本位な態度に拘るのを不思議に思っていたが、私にその(贖う壺)の能力も存在定義すらも共有しないのは超常存在側からの制限ですらなく私の槍への対抗手段だったということか………詰みだ。私ではどう立ち回ろうと貴様には勝てない。」


力を抜き【破雲万丈】は槍を退く。


たとえ【破雲万丈】が鍔迫り合いまで持ち込むことは可能であってもお互いの能力の情報量からその性質までその全てが勝敗において【贖う壺】に軍配が上がるのは明白であった。


「はは…さすがはあの【破雲万丈】ってところかい…普通のやつなら顔面真っ赤にして勝手に俺の壺へ一直線だってのによぉ…」


「怒りに任せて勝ち目の無い争いに興じる気は無いし、そもそも貴様の壺もおそらく害を与えるか否かで判断しているのだろう?先の言動が釣りであることも今までの様子で大体わかる。」


【破雲万丈】自身、共に働くなかで具体的な性質などは分からないが大まかな【贖う壺】の能力の予想はついていた。


「その冴えてる頭をさっきの勇者相手にできてりゃぁこんなことにもならなかったんじゃねぇのかねぇ?…ありゃりゃ、こりゃ皮肉…か?ははは!」


その意地汚い一言に【破雲万丈】はこめかみを震わせる。


「…最後にもう一度聞く。

貴様…あの勇者はあの時なんと言っていたのだ。」


【破雲万丈】が【贖う壺】を真っ直ぐ見つめながらそう質問する。


「今日はいい天気ですね。だった気がするぜぇ?」


返ってくるのは拍子抜けの回答。


「…なんと。勇者は賢いじゃないか、そんな低俗な会話の切り出し方なんぞ、まともな人間に聞かれたら見下されてしまうからな。あの言霊も予め馬鹿にしか聞こえないようにしていたということか。」


「あ〜、ちげぇちげぇ、違う言葉を言ってたんだったなぁ…?えーとたしか、先の前座は所詮は前座だった。とかだっけなぁ?」


「………元同僚として言わせてもらおう。そうやり返すために言い直すのは少々不格好だと思うぞ?」


「…………おめぇそりゃ、そっちが先にとんずらかますってのは卑怯ってやつじゃねぇのかぁ…?」


「先に貴様が始めたのだ、文句は言えまい。」


「はっ…そういやちげぇねな…」


ひと仕切り言い切ったのを確認したからか【破雲万丈】は踵を返し背を向ける。


「私は私が信じることをやる。貴様が何を知っているかは知らないが教えを乞うつもりもない。私自身で奴の行方を追いかけ辿り着く、これは確定事項だ。リカード、今まで共に行動できたのはどうやら利害が一致していただけのようだが貴様と金輪際同じ志を持つことはないだろう。だが大まかにはここから先の目的が共に我ら{天翔生命}の為であることを祈る。」


そうして歩いていくのだ。

中央管制室へ。


「お前さんは……いつもいつも、本当に聞かねぇんだな…………」


その問いかけに【破雲万丈】は立ち止まり振り向く。


「なんだ?聞いてほしかったのか?」


「………どうなんだろうな。」


「…私は責任を自分で取りたいだけだ。これは私にとってのエゴ。この世界がそう簡単に理解できるとは限らないことは私は十二分に理解している。だからこそ、他人に聞かずとも自分で探すのさ。」


「……………」


【贖う壺】がハッと驚くような顔をした後思案気に考え込む。


「貴様も全てがそうだとは言わないとしても少しは同じではないのか?」


「あぁ……そうだな………」


「私からはそれだけだ。」


そういって【破雲万丈】今度こそその場を後にしようとする。


「なぁ!ハクンよぉ…!」


「まだ何かあr…!!?」


言い留めた【贖う壺】に対して振り返った【破雲万丈】が見た先には


数多の壺に囲まれた中で小さな壺を握る【贖う壺】がいた。


「………………やっぱりよぉ…そうだよなぁ?」


「リカード、貴様何を…?」


「この世では曲げちゃならねぇもんを曲げた奴は死んでいく。そりゃわかってんだ……でも、死ねなかった奴はどうすんだ?自分のけつも拭けないやつが生き残ったってどう責任を取るんだって思わねぇか?」


「………{天翔生命}に害を成すならばリカード、貴様といえど容赦はしない。だからその壺を仕舞え。」


「もうよぉ…あの頃から戻れねぇところに来ちまってんだ。なのにあるかもわからない終わった後のことを考えんのも馬鹿な話だよなぁ?………だからよ…俺も俺のために探すんだ。」


リカード・ハルトマンはその手に握る壺を握り砕く。


「リカード!やめろ…!」


すると遠くから声が聞こえてくる。


「向こうだ…!向こうの方から声が。サラよ…頼む…」


「もぉ~~~~~!!!!そんな状態で復帰しても無理ですって!!」


会話の内容でわかる。【温もり喰らい】とサラ1級職員だ。


その二人が勇者との戦闘で【温もり喰らい】が消えた壁の穴の向こうから近づいてくる。


まるでここに来るのが予定調和であるかのように。


「【温もり喰らい】!!サラ1級職員!!逃げろっ!!!ここは危険だ!!!!」


「…!?この声は…!専務!無事だったか!すまんこちらには【贖う壺】はいnー


壁の穴から消耗が激しそうな【温もり喰らい】と【温もり喰らい】に肩を貸すサラ1級職員の二人を視認できてしまった。


「あ、あれぇ!?【贖う壺】社長!!ここにいるじゃあないですか!なぁんだ…専務に怒られずに済みますね…」


「ふふ…サラよ?声は落とした方がいいんじゃないか?」


「ほへ?」


すると


「やぁやぁお疲れさん二人とも。丁度いいところに来たじゃねぇのぉ?」


【破雲万丈】の横にいたはずの【贖う壺】が二人の目の前に移動していた。


「うわぁ!!!…って、あれ?……社長?」


「気を付けろ!!リカード…【贖う壺】は何か様子が変だ!!」


「爺…随分と物騒な装いだな…専務はああ言ってるがどうなんだ…?」


「ハクンはわかってねぇんだしよ…しょうがねぇんだ。やっとでなんだ…やっとこさ役者が揃っちまったようならこっちからカーテンコールを挙げねぇと舞台に華が欠けるだろぉ…?」


「爺…何を…ぐぅ!!?」


【贖う壺】が【温もり喰らい】の首を掴み持ち上げる。


「え…?しゃ、社長…?」


「リカードォ!!!その手を離せぇ!!!!」


制止の声を無視し振りほどこうとする【温もり喰らい】を持ち上げた【贖う壺】は向かっていくのだ。


大穴へ


「しゃ、社長……専務ぅ…こ、これは平の人間が見てもいいので…しょうか?」


「あぁ…嬢ちゃんは大丈夫だ。ありがとうなぁ…もう帰ってもいいぜぇ?今日は忙しかったもんなぁ…お疲れさん」


「で、でもぉ……」


その場でどうすればいいのかわからないサラは瞳に涙を浮かべる。


「さ、サラ…私は…だいじょう…」


首が絞まり、呼吸もできないのか絞り出すように【温もり喰らい】がサラ一級職員を見つめて声を出す。


「あぁ……そうかぃ。そういや育ての親としてなんも言ってなかったなぁ…嬢ちゃん今まで仲良くしてもらってありがとうっていうべきかぁ…【温もり喰らい】は今日な。役目を全うするんだ。」


まるで親が子の友人に諭すような優しさがこもった言葉。

その言葉を聞いてその小さい体に付いた小さな目がこれでもかと大きく開く。


「え…?」


その言葉と雰囲気に否が応でもこれから何が起きるのか察してしまうのだ。


「リカード!?どういうことだ!私は一度手を引くと言ったはずだ、どうして【温もり喰らい】を!?」


【破雲万丈】が【贖う壺】の前に立ちはだかる。


「ハクン…お前さんは知らねぇんだろぉ?覚えてもねぇんだろ!?じゃあそこを、どけやぁ!!!!」


「うっ!!?」


横から壺で殴られ吹き飛ばされる。


そして大穴の淵へとたどり着いた【贖う壺】は【温もり喰らい】を大穴の上へと掲げた。


「は、なせぇ…!」


「ナユラ…テイラーが呼んでるぜ?」



手を離した。



「いやぁあああああ!!!!」


サラ1級職員の叫び声がその空間に鳴り響いていった。

毎日投稿(笑)

自分のけつも拭けないやつがどう責任とるかだってぇ!?


俺の負けだ。ころせよ

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