働くとは汗水垂らし涙も零し自らの尊厳も失くすもの。
〜〜{天翔生命}南区画中央通路内〜〜
そこは見るも驚く激しい戦闘の真っ只中であった。
「シッ−−−」
【破雲万丈】がその手に持つ槍を振るう。
槍は傀儡と成り下がり、唯の動く質量となった(懺悔の窓)の腕を切り飛ばす。
「あぁぁぁあ!ありがどうございばずぅ!」
その一撃は結果をみれば一人の職員の救ったのだ。
助けられた職員の名はサラ・ケンリッド。
小柄で眼鏡をかけた1級職員である。
「だずがりばじだぁぁあうぁーーん!」
涙やら何かやらで全身ぐちゃぐちゃになった職員を見て、【破雲万丈】は顔をしかめる。
「貴様も我ら{天翔生命}の職員…のはずだろう。私が人選を失敗させたと思わせぬよう、自衛くらいは…頼むぞ。」
「ぇぇええ!?お言葉ですが、私は我が社のなかでも一二を争うほど事務作業に自信がありますが、こういった戦闘には全く!まっっっったく役に立ちませんと戦闘中もその前も何度も申し上げました!えぇ!申し上げさせていただきましたとも!見てください!このお手々!専務はまごうことなき人間で大変お強いと思いますが私は小人ですよ!適材適所という言葉がここでは最適だと指摘します!」
そう言いながらも身体が修復された(懺悔の窓)の拳を二人で避ける。
二人の間で擬音が違うような避け方ではあったが。
「だが、この場においては向き不向きは関係ない。その上、できるできないでもないのだ。やるか、目の前の敵を倒すかだ。」
「うぅ!あぁぅ…!それ!どっちも!あがぁあ!おぉ!お許しくださいぃ…!私は今、昨日まで憎んでいた亡き上司を懐かしんでおります!今思えばあの御可愛いパワハラも今と比べればどれほど優しかったことか!そう今!今まさに苦しんでいる時に比べて!」
そう挙動不審になりながらもサラ1級職員は天を見上げ声を上げた。
「ほぅ…それは貴様の言う今…もパワハラを受けているとでも言いたいようだな…?それに、貴様には拒否権はない。拒否したとて寿命が延びるくらいしか変わらないぞ。」
「いえ!やらせていただきます!……………と思いましたがよくよく考えてみれば寿命というものはこの{天翔生命}の経営における人的資産の評価において一目を置くべき要素だと愚考いたしますので一度辞退が可能であれば辞退を願い出たいと存じ上げます!!!!」
あまりに素早い反転。あまりに早い媚売り。
ものすごい早口であった。
「…延びると言っても1日もないくらい…分からんのか。貴様に逃げ道は、ない。」
「私は最初から実戦の心構えなどとうにできていましたとも!!!【破雲万丈】専務!私、サラ・ケンリッドを侮らないでいただきたい!そんな、一度たりとも辞退を願い出ることなどあってはならないのです!」
反転を素早くできる人間はもう一回反転することなど造作でもなかった。
「…呆れる。呆れるが、その意気や良し。あの(拍動の生命器官)を叩かねばこの(懺悔の窓)もどきはいつまでも蘇り続ける。私はあの(拍動の生命器官)を相手取ろう。貴様にはこの操り人形のほうを頼む。」
互いに迫りくる猛攻を回避し続けながらこの場にいる2人は会話を続けていた。
「しかし、専務!今はまだ、生命保険は…」
「(拍動の生命器官)が脱走しているのだ。十中八九生命保険の効力は期待しないほうがいい。細心の注意を払うことだ。」
「んぅぅう〜〜!!…ぐわぁあ!うぬぬぬぬ…もう、わっかりました、よ!」
おにばば!
そう聞こえたような気がした。
気の所為のはずだが。
「ではゆくぞ!!!」
【破雲万丈】が駆ける。
全てを貫き結果を確定させる(破雲万丈)。
しかしそう何度もあってはならないことだがこの(拍動の生命器官)もまた(神の猟犬)のように難敵と言わざるを得ない相性であった。
たとえ防御を無視し、貫き破壊を確定させたとしてもその後相手の能力が発動してしまえば、元通りで済めばいいものの下手すれば飛び散った肉片が再生し新たに異形が産まれ落ちてしまう。
そうして放置すれば無敵の兵団を構え徘徊し始める。
つまり、(破雲万丈)は結果を確定できても結果に付随する現象には対応ができない。
だからこそここで【破雲万丈】が取った方法。
それは付近の全てをこの存在から分断すること。
すなわち、
「はははっ!!我ながら今日は大盤振る舞いだなぁ!!!!」
全力をもって槍を投げるのだ。
(拍動の生命器官)からその真下へと。
「暫しの間共に奈落の底に何があるか、見物しに行こうではないか!!」
その場埋め尽くすほどの光と衝撃。
(拍動の生命器官)はその破壊の波動に呑まれ、槍と共に奈落へ落ちていく。
「どぅえぇぇえぇええ!!!!」
また衝撃の余波でサラ1級職員も(懺悔の窓)もふっ飛ばされでいく。
「サラ1級職員!ではそのでか物の方は頼んだぞ!!!」
そして、(拍動の生命器官)を追いかけるために【破雲万丈】は自らが開けた大穴へ身を投げていくのであった。
「ふぎゅう……ててて…って、あいえぇええ!?え?ちょ、ちょっと専務ぅ!!!待ってくださいぃ!!!」
サラ1級職員にとって【破雲万丈】は待遇も保証してくれない身勝手な上司とはいえ、身を守ってくれる頼りになる存在。
その存在があっけらかんと自分の保護をやめて行ってしまった、そんな目の前の出来事に反応が遅れてしまう。
このことが導くその後の状況とは。
とりあえずサラ1級職員も自分の周りを見る。
付近に何故か(懺悔の窓)はいなかった。
だが、突然自分の周りに影が差す。
そのことに肩を跳ね上げながら、恐る恐る上を見上げた。
そこには
自分を間近で見下ろす(懺悔の窓)がいた。
「ぎゃあああああああああああ!!!!!!!」
それは年頃の娘が出すとは思えない、一人の職員の野太い悲鳴であった。
~~同時刻、{天翔生命}中央管制室~~
「南区画第3通路内!【破雲万丈】専務が(拍動の生命器官)と戦闘中!繰り返します!南区画第3通路内!【破雲万丈】専務が(拍動の生命器官)と戦闘中!」
「ほほぅ…?今(拍動の生命器官)は専務がやってくれてんだねぇ?…わかったぜ、それじゃおじさんらもぼちぼち行くとするかなぁ…」
そう観察職員と話すは【贖う壺】。
【温もり喰らい】と合流した後二人は一度中央管制室へと向かい、一度戦況を把握せんとしていた。
「【贖う壺】様。一つお知らせしたいことが。」
もう一人ほかのの観察職員が【贖う壺】に申し上げる。
「ふん?まぁ、いいかぁ。聞かせてもらおうじゃないの。」
「南区画における南端の方のカメラが機能しないのです。」
それはあまり重要そうではない情報であった。
「んぅ?そりゃまぁ、あの(生を許さぬ猟犬)だっけか?【果てに遺された忠犬】の成れ果てにでも壊されたりしたんじゃあないかと思うがなぁ…なぁよぉ…そんなこと俺に言う必要あったかぁ?」
やわらかい口調と共に緊迫した空気が流れる。
「ああ…あ、いえ…申し訳ありません。自分の頭が足りないばかりに。」
「謝罪なんてもんはいらないんだよねぇ…おじさんが君に求めてるのは何かわかってんのかねぇ?」
「謝罪より先に実利ある成果を。理解しております。」
「ははは…わかってるじゃないの。……ならねぇ…おじさんは実利ある方を選ぶのは当然だよねぇ?」
渇いた笑いと共にその職員の足元から壺が生え職員を飲み込んでいった。
「雑音を出すような歯の噛み合わない歯車はいらないのさぁ…」
「爺、だが【果てに遺された忠犬】といえど、もう黒き森はない…だがその後でも故障が続くようなそんな柔なカメラなんぞ本当にうちが使っているものなのか?そのカメラを配置させたものに責任を問う必要があったと思うぞ?」
「わからんだろう…な……ま、どっちでもいいさ。おじさんたちはもう戻れないとこまで来ちゃってるわけ。ならそんなカメラの不調ごときで行くって選択は変えられないよねぇ…?」
「そんなものは、わかっている…だがな、爺。」
【温もり喰らい】が【贖う壺】を真正面から見つめる。
「なんだぁ?嬢ちゃんよぉ。」
「ずっと思っていたんだ。私は今まであんたが最適の選択を選び続けることを見てきた。だが、今回はどうだ?【果てに遺された忠犬】は脱落するわ、私自身あの(偽物の空虚な勇者)に敗北している…確かにあんたにとって履行されるべき当然の結果に対して私たちの力が足りないせいで望まれない結果を残したかもしれない…。だが、あんたはそれをも想定内かのように振舞うじゃないか。それにあそこまで心配性で確実に安全が保証されてからしか現場に出ないあんたが不確定な要素がある中率先して前にでるだと…?しかも普段殉死解雇や処分も他人に押し付けているくせに今の職員も別にあんたが消す必要はあったのか?……おかしいとしか思えん。爺、貴様には何が見えている…?」
「はははは!!嬢ちゃん!そんなのは簡単だろう!?」
【贖う壺】はまるで小馬鹿にするように笑い出した。
「おらぁ、やらなきゃいけねぇことだけをやってるだけさ…。それに失敗も成功もないぜ…?求める結果を導く道筋は遠回りしても、ひびが入ってて使いづらくても他の誰かの道筋を邪魔してでもなんでもいいの。わかるかぁ?結果にケチ着けんのは3流じゃあないかぃ…。だからよ嬢ちゃん、お前さんはただ俺についてくりゃいいんだそれで。………全くどうしたんだぁ?らしくないぜぇ…?」
「ふん…まぁいい。時間をとってすまないとでも言っておこう。」
「………ま、じゃあぁ、行こうかぁ。」
【温もり喰らい】は【贖う壺】が言う持論に疑問を覚えつつもその後をついていった。
まるで今回で全てが終わるかのような。
いつも見てきたものとは違う、なりふり構わない自らの育ての親の背を見つめながら。
~~~
通路を二人で走り続ける。
数多の瓦礫、数を数えるも億劫に感じるほどの死体。
それらを踏み越え蹴り飛ばしながら目的の地点へ向かう。
二人の間は沈黙が続いていた。
それは片やこれから迎える脅威に対して思考を巡らせているものと
仕事ではあるからこそ従ってはいるが隣にいる人間の目的に疑問を覚えているもの。
ただならぬ空気を出す二人はそのまま(拍動の生命器官)の元へ何物も邪魔することのできない中、走り続けーーー
「いやあああああああああああだずげでぇええええええぇえぇぇえぇ」
られなかった。
「んお!?あれは…?あんときのちっこい嬢ちゃんか?」
隣の通路を走っていたのは(懺悔の窓)に追われ続けていたすばしっこい小柄な職員。
「サラ!!ははは!貴様、無事だったのか!!?」
「ナユラァ!!?…それに【贖う壺】様まで!?」
こちらに気づいた瞬間、慣性を無視したかのように直角に曲がりこちらへ駆け込んでくる。
「うっわああああああん!!助かったぁああああ!!!」
昔から【温もり喰らい】にとっては実際の年歳は離れているものの見た目が歳近く見えていたため姉妹かのような関係を続けてきた職員が年上の尊厳を投げ捨ててでも前身の穴という穴から液体を噴出させながら【温もり喰らい】にしがみついてきていた。
「貴様は相変わらず面白いな。」
「下手な奴よりかは根強く生き残るだろうとは言ったけどよぉ…こんな時まで生き残ってんのはおじさんも驚いちゃうなぁ…?」
「もぉぉおう、お二人がいれば百人力どころか百那由他力分!お願いしますお願いしますぅ!もう私足が動きません!有給取って帰りたいです今から全力疾走で!」
短期間で矛盾をかますやかましい職員はさておき
その職員の後を追いかけていた存在が角から現れる。
(懺悔の窓)だ。
「ありゃ、(懺悔の窓)じゃないか。…あの様子、まだ(拍動の生命器官)の効果が残ってんなぁ…」
二人はサラ1級職員を背に戦闘態勢をとる。
厳密には一人だったが。
「ここは私の出番だろう。」
結晶を循環させる。
(懺悔の窓)はいまや警戒するような知恵もない木偶の棒であった。
勿論できることは追いかけ突っ込むことのみ。
やがて結晶舞い散る【温もり喰らい】の眼前へ迫る。
「死体は死体らしく静かになるがいい!!!」
ばgyばきぃi!!!
結晶が(懺悔の窓)の全てを蝕む。
そこに残ったのは生命の残滓も感じられない化け物の彫像であった。
闖入者を倒し辺りには沈黙がながrーー
「ありがどぉおおおお!うおーーん!!!」
やかましい職員がいた。
「落ち着け、サラ。それにしてもなぜ貴様がいるんだ?」
「専務がぁあぁ!私を置いてぇぇぇ!」
ボロボロ泣き続けながら話し続ける職員の言葉の意味を汲むのは今急いでいた二人には至難の業だった。
「嬢ちゃん……………」
【贖う壺】が壺を出す。
「お、おい爺!!!いくら何でも彼女を消すにはやりすぎじゃあ…!」
「ちげぇよぉ…ほら、嬢ちゃん。ほらよ…」
壺から出すのは一枚の紙。
「ぶぇえええん!……えぇ?」
そこにはサイン入りの有給の申請書があった。
「ひん……くしゅっ…!ずずず…これは?」
サラ1級職員は条件反射で目の前に掲げられた紙で鼻をかんだ。
「嬢ちゃんが何かおじさんたちに教えてくれりゃあ、これをやるぜぇ?」
「【破雲万丈】専務が私除き主力部隊のほとんどの犠牲を出しながらも奮闘を続けたのち、専務本人が(拍動の生命器官)の注意を引きつつその場に居合わせてしまった(懺悔の窓)の存在を引き離すため地面に大穴を開け、専務は(拍動の生命器官)と共に地下深くへ潜っていきました!!その後私は専務から(懺悔の窓)と戦闘することを託されたためその命令を履行せんと行動をしていた所お二人に出会った次第です!!!」
「……………そうかい…。ほら、約束の紙だ。」
そうしてサラ1級職員は鼻水でベッタベタの有給申請書を受け取る。
「ありがとうございます!!!」
「ははははは!あー、あはは!!!!」
【温もりぐらい】の痛快な笑い声のみがその場に響き渡っていた。
これからも説明は一切出ないので見た目を表現する機会がなかったぶん(懺悔の窓)を想像できない君たちに魔法の言葉を授けましょう。
奴は7メートルの布を顔に被せた筋肉もりもりマッチョ神父マンです
初めてランキングインしました。
いつもご愛読ありがとう…




