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間違いとは物を知らぬ人間の傲慢である

その俺は唯呆然としていた。

昨日どころか今まで見聞きしてきたものを全て疑ってしまうようになっていた。

わからない。何が起きているのか。


今までのような景色が吸い込まれるように強制的に場面転換が行われていたものとは違い今は会話もなく歩き続けている様子が一人称の視点で映る。


通路を歩き、角に突き当たったらそこを曲がる。

人にぶつかりそうになれど避けることなくその障害物を押しのけそのまま歩みを進める。

本当にそれだけのことをディナルドは繰り返し続けていた。


おそらく、いや確実にある男の元へ向かっているのだろう。


リカードの元に。


だが進めば進むほど己の戸惑いに追い打ちをかけるかのように耳を疑うような情報ばかり耳に入る。


「【果てに遺された忠犬】様!お疲れ様です!

……リカード…?あぁ!"社長"の居場所ですか?」


目の前の職員は何を言っているんだ?

リカードが社長だと…?

おかしい。

それはテイラーの肩書きのはずだ。

何故奴がその肩書きを名乗っているんだ。


「社長だと…?……すまない、突然だが君はテイラー・ルーデンホークという名前に聞き覚えはある…か?」


「えっと…も、申し訳ありません!業務への把握がまだまだ未熟なせいでその名前の人物に心当たりががが、な、なくてぇ!」


聞きたくなかった。


「いや、大丈夫だ。業務の方に戻ってくれ。邪魔をして悪かったな。」


その場で崩れ落ちそうになった。

今周りで起きている状況。あまりに荒唐無稽で夢だと思いたかった。

だがしかし、脳内では否定していても目の前の景色を映し出しているこの身体では無情にもここは現実だということを明らかにしていた。


知らない噂話が飛び交う通路をまるで亡霊かのような覚束ない足取りで貫き進みながらもただ、今喉から手が出るほど欲している、忘れさられてしまったのか定かではないかけがえのない2人の話について話している人間を探し続けた。

それ以外できることがないから。


やがて、リカードの部屋の前に着いたのか扉の前で立ち尽くす。

しかし、そのドアノブに手をかけることに抵抗を覚えた。


「そうか。…俺はこの扉の先に進むのが怖いのか。」


夢だと言ってくれ。

そう願うことは何も悪いことではないだろう!?

だが願うことだけでは何も始まらない。

俺はドアノブに手をかけた。


「リカード!!!!!」


そう叫びながらドアを開ける。するとそこにはリカードと若い社員が二人で業務についてか何かを話し合っていた。


「お、おう?どうしたんだディナルド…?俺がリカードだぜ?全くそんなに慌ててよぉどうしたんだ?…………あ。あんちゃん、その件の方はこっちで預かっとくから次の業務の方へ行っといてくれや。」


「い、委細承知しました…社長。では、私はこれで。」


そうしてその若い社員もその部屋を後にする。

残るはリカードとディナルドの二人のみとなった。


「ディナルドぉ。お前さんがそんなに慌ててるのは珍しいんじゃねぇかぁ?」


「リカード……」


「お前さんの平静が崩れるなんてよぉ…(果てに遺された忠犬)と適合した時以来じゃねぇかぁ?」


「貴様……何をした。」


「……?何をってなんのはなしだぁ?」


「とぼけるなっ!!!!!!貴様、ハクンに何を…!なぜ貴様が社長と名乗っているのだ!?それはテイラーのものだろう!??それにナユラを…ナユラをどこにやったんだ!!!」


「は?………はは……ははははは!!!えぇ!?おいおい、冗談はやめてくれよぉ!!なぁ!!ディナルド!どういうことだよおい!!どうしてその名前を知ってんだぁ!!??」


突然リカードが壊れたかのように腹を抱え笑い始める。


「……リカード、貴様何を……」


「あー、あっははは!おもしれぇ!どうやら俺にとって”そっち”のディナルドの方が都合がいいってことなのかぃ!?まぁじか!!なんでだよ!わかんねぇなちくしょう!教えてくれよぉホントにさぁ!!!」


「なんなんだ…!意味の分からないことを!貴様、何が言いたい!」


「あぁ~~…ははっ。そっかぁ。これもぉ…しょうがないことなのかぁ?テイラー…ねぇ。はぁ~もうこの名前を呼ぶまいと思ったんだけどなぁ…その次の日にゃこの始末、か。ままならないもんだねぇ…そう思わんかディナルドォ。」


その異様な様子に俺は不気味さを感じた。

何か開けてはならない箱を開けてしまったような。


「いーや本当、悪いねぇ?そっちからすりゃ今日は随分と厄日だったろ?びっくりさせただろうなぁ…すまんな!」


その垢ぬけに明るい雰囲気を被ったリカードに対し警戒を高めていく。


「あぁ、そんな意味のない謝罪なんてものはいらない。できればリカード、旧友としてのよしみだ…この件について知らぬ顔をしてくれていた方が俺にとってはよかったかもしれない…だがその様子だ、貴様がこの悪夢の元凶だろう!!!」


「はぁ~~~???悪夢だぁ?いや、いかんいかん…お前さんから見れば言いえて妙だろうなぁ?」


「今まで築いてきたものすべてがまるで幻だったかのように扱われる今を悪夢と呼ばずに何と呼ぶ!?どんな仕掛けでここまで他人の全てを愚弄できるのだ!答えろ!!」


「いいよ、もう。お前さんの言い分はそんなもんなんだろう?悪夢なんてなぁ?今に始まったもんでもないんだ。それを今更言ってもねぇ?」


異常だ。この男は。


「言葉も出ない………どうかしている。ハクンは…テイラーを失くし、一番苦しんでいるといっても過言ではない中、業務もそつなくこなし続け気丈に振舞ってきたんだ。彼女の尊厳を汚しながら大事な娘を奪いつつ、その上そのことを思い出すことも許さないだと?あまつさえテイラーの築いたそのすべてを横から掠め取ることに罪悪感は湧かないのか!?」


「…いや?」


返ってくるのは耳を疑うような返答だった。


「はあぁあ。いいか、ディナルド?俺はねぇ…生きたいんだよ。生き続けたいんだ。それの何が悪い?」


「どうしてそうも狂ったのだ!リカード!!ここまで冒涜的な行為をする必要はあるのか!?」


「黙れよ。犬公。」


「………!?」


有無を言わせない気迫に一瞬たじろぐ。


「どいつもこいつもお花畑なんだよ…お前もだぜ?ディナルド。俺らはとっくのとうに踏み違えて片足沼に埋まってんだぞ。」


「……それは理由にも答えにもなってないだろう。」


「そうかい。……そうだな。お前がなんで知っちまったのかは俺の理解の範疇の外なんだろうよ。ならやるようにやるしかないよなぁ?」


するとリカードがこちらに近づいてくる。

それに応えるように姿勢を低くし何が来ようと対応できる状態に移行する。

だがリカードは何をするわけでもなく、俺の横を通り過ぎ、そのまま通路に出ていく。


「来いよ。教えてやる。」


「……。」


ついていく他はなかった。



通路を二人で連れ立って歩いていく。


「なぁ…お前さんは小さいころでもいい、何かを誰かから隠したことはあるかい?」


「…曖昧だし話が見えないな。」


「つれねぇな。話の腰を折んなよぉ。」


「……そんな何か後ろ暗い行為などしたこともない。お前と違ってな。」


「ははは…そりゃ、耳が痛い限りだぜ………まぁ、俺はな、あるんだよ、ガキの頃にさぁ…。小さい鳥だった。今じゃ考えられないが、機械化のされてない完全有機生物の鳥をよ。」


「…。」


「ガキの頭だったけどよぉ。初めて見たもんだったが、明らかに偉い奴等の娯楽や催し物やらなんかの落とし物だと気づいちまったんだ。…そんな大層なもんをな誰にも盗られないように小さい脳みそフル回転させて隠したんだよ、鍵付きの箱の中に。今考えれば間違えていることやってるってすぐわかるんだけどよ…」


「それは…」


「考えてる通りだぜぇ…密閉した箱なんかに鳥でもなんでも、生物を入れりゃ当然すぐ死ぬ。………でもあん時はなぁ。知らなかったんだ。馬鹿みたいに箱に入れてる間は無事だって疑わなかった。」


話の先が見えない。


「先ほどから何の話をしているんだ…?」


「箱を開けるまで俺は鳥が生きてるってことを信じてた。そして、今の無駄な知識ばかり蓄えた汚れてる俺はそんなもん開けるまでもなく死んでるってわかるだろぉ?ならよ、箱の中の鳥は生きてる状態と死んでる状態が同時に存在してんだよ。観測してる側の視点が変わるだけで。」


「いい加減にしろ。今どこへ向かっているんだ!?」


すると一つの扉の前で止まる。

その扉の先は記憶が確かで間違えていなければ(贖う壺)の管制室前。


「だが、今の俺はよぉ…。その鳥が生きていることを”選べる”。」


「…何を言っている、冗談だろう……!?それは…」


事象の結果を自由に”選べる”ということ。


「この箱が壺で、鳥が今の天翔生命だ。」


「つまり、今の状況を貴様が選んだというのか…?それに壺だと…?……それほどまでの力を有していたのか貴様の(贖う壺)には……!?」


「まぁそんな細かい選択の連続を一々選べるほど万能じゃねぇさ。俺は唯、俺にとって都合がよさそうなものを選び続けただけだぜぇ?」


そして扉を開け中へ入る。


「今までの俺らは間違えてたんだよぉ。超常存在を理解して世の役に立たせるだぁ?間違ってはないがなぁ。中途半端だったんだ。だから、社員を湯水のように失くし非効率なままでいちまうわけだ。やるからにはな、全身沼に突っ込んで泥だらけで進まなきゃ駄目なんだよぉ…!」


「呆れるな!そうはいっても貴様も同じ志を抱いた一人だったろう!?そのような妄言、テイラーに対して裏切りのような真似をしてもいい理由にはならない!」


「テイラーも同じ考えなのさ。」


「貴様ぁ!!どの口が!!!」


「ここの収容室を忘れたのか?」


「それがどうした!?」


「いんや…?もしかしたら(贖う壺)だと勘違いしてんのかと思ってよぉ?」


「……な、なんだ…と?」


「(贖う壺)はもう完全に俺の中さ…ったく……」


リカードが管制室内の機器に向かって歩いていく。


「全くよぉ…馬鹿が!!!!俺がよぉ、テイラーを冒涜してるわけねぇだろうがっ!!!!!」


そしてリカードが管制室の電源を入れる。

するとモニターに映るは”肉塊”。

見たこともない超常存在がその画面に映し出せれていた。


「こ、これは……」


「こいつは(拍動の生命器官)。………何度もテイラーがどうなったか知りたがってたよなぁ?今更だが教えてやるよぉ。これがお前さんが愛してやまないテイラーの成れの果てさ。」


「……は?」


今知ることになるとは予想もつかず面食らう。

しかも、それは確実に一番知りたくもなかった情報だった。

みんなわかってたよ

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