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目まぐるしく巡る浮ついた日々の綻び

「我々がこれから名乗っていく我が社の名前は{天翔生命}だ!!!!!」


また景色が俺に向かって歪み吸い込まれていく。

喋ることもできないがこの一方的な記憶の押し付けに最初は戸惑いこそあれど次第に全容が見れていくにつれて俺がここに連れられてきた理由も明るみになってきている気がする。


一つ気になるのは彼らが言及した超常存在という者たちのこと。


これは十中八九これまで出会ってきた化け物を含む存在達のことだろう。

もしやその中に俺が含まれているのか?

そしてここで確認すべき事柄は俺の”アナウンス”と奴らが俺を呼ぶ際の名称が同じことだ。


何かロジックがあるのか?

世間一般の名づけの価値観とは正直言い難い……と、思う。それに一語一句一致するのも頷き難い。

まぁ、この流れであればその疑問も自ずと見せてくれるのではないか?


そして、その疑問に答えるかのように新しい景色が広がっていく。

見えてくるのは先ほどと同じようなオフィスだ。

だが、月日がある程度経っているのか壁に貼られた紙や積み上げられている資料から失敗することなくある程度経営が続いていることが分かる。


「テイラー。また新たな超常存在を捕獲しました。これは一旦の報告書です。」


「ディナルド。ありがとうね…」


「テイラー。私が言うのもあれですが根を詰めすぎでは?このまえの指示書に書かれている個体名も(TWー3ーA27)と(TEー32ーW7)で間違えていましたよ。」


「…ん?え、ほんと?あーごめん。確かにちょっとミスが目立つかなぁ。休むとするかぁ。」


「しっかりしてくださいよ。あなたの代わりはいないんですから。」


「…ハクンには言わないでくれる?」


「ダメです。しっかり休ませてもらってください。」


「はーい………」



また景色が変わる。



「テイラー!ディナルド!これを見てくれ!この槍を!」


オフィスで話し合っていた俺とテイラーに向かってハクンが小走りで向かってきていた。


「えぇぇぇえええぇ!?ちょ、ちょっと!あぶない!それ(TE-4ーB32)じゃないか!危ないよあばばっば!ハクン!っどどどど!!!」


「ハクンさん…!?一度落ち着いてそこで止まってくださいね…テイラーも落ち着いてください。ハクンさんは見たところ平常です。」


テイラーはあまりに驚き平静が完全に崩れていたが、俺の方は場数を何度か踏んでいるのか冷静にハクンに対し警戒態勢をとっていた。


「うむ?いや、二人とも安心してくれ。私は正常だ。」


すると3人の元へリカードが駆け込んでくる。


「おいおいおいぃ!ハクンよぉ!まだ観測が終わってねぇから!!!正常じゃねぇよ!なんどぇどっかいっちゃうかなぁ!?ほんとに!」


「でもまぁ見たまえ。これを」


「でもまぁじゃないからなぁ!!?」


そして掲げるは"俺”の世界で言う中華風の槍。

心なしか光の反射が強く常に輝いているように見える存在感が際立っている槍だ。


「ハクンさん…これは……」


「は、ハクン。これを持てているってことは…?」


「あぁ、適合に成功した。」


「つ、ついにですか…!?……あぁ…全く!全てが報われたような気分です!」


「ほんとによぉ…何度も危ない橋渡ったんだぜぇ?つか、まだ安定してるかどうかもわかんねぇんだ。ハクン以外があんましべたべた触るんじゃねぇぞ?」


「わかっている。わかっているさ…!でもこれは…本当に…!」


「これが最初の一歩だな。テイラー。」


「ハクンっ!!!よくやってくれたよ!最初の一歩は一歩でも今までで一番大きい一歩だ!!これで僕らは"超常存在!"も怖くない!!!」


「まだまだ各地から集めた超常存在はたくさんいるんです。これらが宝の山だとばれる前に研究を進めましょう!!」


「うん!!!」「あぁ…!」「わぁかったよ…」



また景色が変わる。



目の前に見えるは白い世界に一つぽつんと居続ける痛々しいほど身が裂けた犬の形をした何か。


『あーあー。ディナルド。聞こえてるかぁ?聞こえてるなら右手を挙げてくれよぉ~』


ここは…見覚えのある場所だった。

”俺”が目覚め、長い時間閉じ込められた場所。

そこにとても似通っていた。


そしてディナルドである俺はどこかのスピーカーから音が流れているのかリカードらしき男の声に反応し右腕を挙げる。


『ディナルド。わかっていると思うが外にはハクンも他の奴等も待機してる。気ぃ抜けよ?別に今回で決めなきゃいけねぇわけじゃねぇからよ~』


「…わかっているさ。…………といっても聞こえてはないだろうがな。」


そして目の前の犬の形をした何かに近づいていく。


「(TWー32ーW7)…。お前にはたくさんの時間をかけて観察させてもらったからな。そろそろ俺と仲良くしようじゃないか。」


(TWー32ーW7)はこちらの存在に気付いたのか立ち上がり唸り声を上げてむき出しの警戒心を露わにする。


「ここはリカード以外は見ていない…そのおかげで俺も醜い姿をあの人に見られなくて済む…」


(TWー32ーW7)を見据える。


「お互いに猟犬だということは確かだ。でも…根本的に違うところがあることを身をもって知ってもらおう。…番犬は主がいてくれる方が………強い。」


両者、ともに駆ける。

ディナルドは筋肉を盛り上がらせ(TWー32ーW7)を横から爪で薙ぐ。


だが(TWー32ーW7)の特性、それは個でありながら群れでもある存在。

たとえ1がやられようとも無限ともいえる群れの同胞たちが狩りを始める。

孤独でありながら数の脅威を自在に向ける、ディナルドには分が悪い戦いであった。


「こんな障害…これから迎える壁に比べれば…!!!…テイラー!私はあなたに成功を届けて見せましょう!」


だが、ディナルドは決めていた。

たくさんの部下をこの犬たちに食われ肉を散らされても。

自らがこの存在を理解するがために夜通し食い入るように見つめたとしても。

最初からこうしようと考えていたこと。


相手が無限に殺到するのであればその都度無限に打倒し従えればいいのだ。


この超常存在に当てはまるかは正直怪しいが犬の社会は序列で決める。序列とは強さ。


全ての犬を叩きのめす。


それだけである。


「犬だからわかるものだ…犬には躾が必要だとな!!!」



そして長い時間一匹の犬人と無限の犬の群れによる熾烈な争いは延べ2日にも及ぶ激戦となった。



『ディナルド!…ディナルド………!大丈夫か!』


いつも飄々としていて普段は気の抜けている同僚の切羽詰まった声が聞こえ、意識がはっきりする。

俺は…いやディナルドは立ったまま意識が飛んでいたのだ。

だがそのあまりにも無防備であった状態を咎める存在は居なかった。

ディナルドは…勝ったのだ。無限の序列争いに。


目の前に虫の息の存在が横たえている。


「身に刻め…これからは俺が…群れの長だ。」


そして(TWー32ーW7)はその事実を認めたのか犬の形を崩しディナルドの身に纏わりつくように吸い込まれた。


(TWー32ーW7)と俺、つまりディナルドとで波長が共鳴する。


「…これが俺の…………ははっついに……ついにやりましたよ…てい…らー………」



やがて段々と意識が途切れていく。



また景色が変わる。



「でぃなるど…?気が付いたのかい…!?あ、あぁ……うわぁ~~~!!ディナルド!よかっだぁああああああ~!」


目が覚めると自分の意識がはっきりするよりも先に横にいた人間のけたたましい鳴き声によって強制的に覚醒状態にされる。


「……テイラー…。少し…うるさいです。」


「えぇ!?しっかりとした意見も口に出せる…!?無事ってわけだ!無事なんだねぇえええ!」


少しも静かにならなさそうな男を横目に周りを見渡す。

ディナルドは長い時間寝込んでいたのか病室のような場所で目が覚めていた。


「…ここにはテイラー。あなたしかいないのですか?」


「あ!そうだよね!うん!今君を看病する担当は僕だよ!それにもう君は3日も寝ていたんだ!みんな君のことを心配していたんだよ!呼んでくるn…」


「いや…!ちょっと待ってください!」


今すぐにでも走りだそうとしていたテイラーを呼び止める。


「うん?」


「テイラー…聞いてください。わたしは(TWー32ーW7)と戦う中でも、あなたの力になりたい…その一心のおかげで生き残ることができました。改めてありがとうございます。こうして生きて居られているのもあなたのおかげです…。」


スーツの内側のポケットに入れていたいつかにもらった首輪を握りしめる。


「え?どうしたんだい突然…?ディナルド…そんなの君が頑張ったからだよ?僕はなんもしてないさ…!」


「ふふっ………まぁ、そうですね…」



また景色が変わる。



「みんながたくさん"超常存在”と適合していく中で社長の僕が何もないのはおかしいと思うんだ。」


そこはおそらく食堂のようなものだった。

そして食事をしながらテイラーの独り言を聞いているのも俺を含めたいつもの3人。


「ふーん。それで?」


「だから僕も適当な超常そんz…」


「やめとけ。」


「…まだ全部言ってないよね?」


「テイラー。私も、その続きは口に出すまでもなく却下するだろう。」


「ハクンまで!!」


テイラーはまだ意見を述べてない残りの俺の方を見てくる。


「………。」


「…………。」


「…ムぐっ!…ごほっごほっ。ふー」


リカードの汚い食事の音が鳴り響く。


「ま、まぁ我が社も余裕が出てきましたし殉職率も格段に減ってきましたからね…ハクンもリカードも付いて私もいれば何とか…………なるのでは?」


「そうだよね!ディナルド!!別に君たちみたいに危険性の高い存在じゃなくていいんだ!優しい奴をさ!ちょちょいとやっちゃえばいいんだよ!!!」


「…ディナルド。何故私よりもお前のほうがテイラーに甘いのだ。」


「今更だぜぇハクン。しっぽブンブンのワンちゃんには目の前のご主人しか見えてないのさ。」


「ま、とりあえずさ……!世界中どこのご家庭でも甘いケーキは必ず短命ってね!甘いケーキは待ってくれないんだ。今すぐやろうよ!」


「なんだそのたとえ。テイラー、おれはたまにだな、いつかお前さんが変な言葉の綾で損する未来を見るんだよな。」


「そんな未来。一生来ないことを証明しようじゃないか!」


そして席を立ちテイラーは駆けだそうとする。


「こらテイラー!食べ物を残すな!」


「は、はーい…」



また景色が変わる。



「やったっ!やったよ!僕も遂に超常存在と適合できた!これでバカにしてきたやつを思うがままに!」


「まぁ、そのしょうもない理由は置いといてもよぉ〜いやぁ…こりゃどういうことなんだろうな…」


「…リカード。本当に何があったのだ?随分と…早かったが。もしや何か不調でも?」


「いんや?俺もなぁ…正直全くわからん。まるで最初から決まってたみたいにスルッとテイラーのやつ、適合しやがってよ。」


「なんなんだそれは…」


「…なんでしょうね?でも…………………なんだか…わかりませんが、大丈夫な気がします。」


「あぁ。…何故だかな。私もこれといった理由があるわけではないが、これからもずっと大丈夫なまま進んでいく気がするのは確かだと思うんだ。」


そうしてハクンは自らの腹をさする。



また景色が変わる。



「確かにこの仕組みよりかはそっちの方がいいか……確かに!!そうだね!そっちの方がいいかも!」


「…テイラーの奴。最近元気だな…気味悪いくらいに。」


「テイラー、少しおかしくなってませんか?独り言が目に見えて多くなりましたよね。」


「…そうか?そこも長所だとも言えないか?」


「彼氏びいきはやめてくれ。式を挙げるときは俺はぜっっっったい呼ばれても行かんからな。代わりにディナルドを行かせる。」


「そもそも呼ぶとは一度も言ってないのにリカードよ。お前は呼ばれると思っていたのか?………では結構前向きに考えてくれていたのだな。」


「おぉい!!あ、いや…そうだよぉ!!!悪いか!?やっぱちゃんと俺も呼べよぉ!お前じゃなくてテイラーがかわいそうだからな!」


「まぁまぁ落ち着いてください二人とも。」


目の前で3人が話していてもまるでその場にいないものとして扱っているようにテイラーは一人で何かと話し続けていた…目に見えない何かと。


「うわぁ!それは僕も知らなかった!君に教えられなかったら一生知る由もなかっただろう!」



また景色が変わる。



「テイラー。ちょっといいかな……ってこれはどういうこと…ですか?テイラー。」


普段まだ整理されていたはずのテイラーの個室は見るも無残に大量の紙に埋もれていた。


「ディナルド?どうしたんだい?」


「どうしたも何もこちらのセリフですよ。なんなんですかこの部屋は?ここまでにするまであなたが放っておくとは珍しいですね。」


「ちょっと知らなかった知識を何かに書き留めておきたくてね!ところで僕に何か用かい?」


「…まぁいい…か。そうだ、テイラー。なんでわざわざ"超常存在"たちの名前を全て一新したんですか?私の超常存在の名前も…(果てに遺された忠犬)…ですって?少し変じゃないですかね?」


「今までが間違えていたんだよ。」


「…そう、なのですか…?」


「君たちも同じように名前を付けてもいいんだよ?…ただ間違えてたらこっちで直しとくから!心配しないで!!」


「間違え…ていたのですか?その……超常存在の名前…が?」


「うん。そうだよ?」


「テイラー…あなたは…」


何を知っているのですか。



また景色が変わる。



そこは以前天翔生命の名を宣言したオフィス。

始まりの場所だ。


「じゃあ僕とリカードが適任ってわけだね?」


「あぁ。テイラー、君にわざわざ出向いてもらうのは少し申し訳ないが頼むぞ。」


「ハクン。安心してよ。ハクンもおなかの子のためにも安静にしてなきゃだしね。君たちのためにも絶対帰ってくるから!」


「テイラー。申し訳ないです。私も付いていきたかったですがハクン一人に残らせるのも難しく…お願いします。」


「どんと任せてよ!」


「まぁ…俺も付いてるしな簡単な仕事だし大丈夫だろぉ~」


「といっても、リカードが適応した超常存在の名前は…(贖う壺)…だったか?結局どんな力を持っているかよくわかっていないが大丈夫なのか。」


「俺のはいいんだよ…ディナルドのは(果てに遺された忠犬)…だっけか。ちょっと真顔で呼ぶにはこっぱずかしい名前だよな……前の呼び名よりか幾分どんな見た目の存在かわかりやすいのはいい…か。ま、おまえの分かりやすい能力よりかは俺のはましだって言っておくぜ。」


「リカードもさぁ…まだ確証が得られないからって能力を隠さないでよ?全く。」


「テイラー!そういうならお前の(拍動の生命器官)だってよぉ…並列思考できる能力?って言いながらまだ観測回数もすくねぇからよくわかってねぇじゃねぇか!!今回の依頼が簡単だからってよぉ、何が起きるかわからねぇんだぜ?終わったら絶対存在観測に行けよな。そいつの担当の下っ端達がお前さんのこと待ってんだぞ。」


「大丈夫さ!僕と"僕"が言っている!今行かなきゃいけないって!今までも上手くいってきたんだ!今回も同じようにやるだけさ!」



また景色が変わる。



雨音が外で鳴り響く。その雨音以外にはそこには音が存在しなかった。


そこは紙が散乱した一つの部屋。


俺は窓から差す月明かりに照らされながらあのいつも通路からでも聞こえてくるはずの大きなはきはきとした声の独り言を思い出そうとした。


だが声も匂いも、忘れてしまうほどの時間が経ってしまった時を迎えても。その部屋にテイラーが帰ってくることはなかった。

ぶくま、かんそうおねがいしまそ

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