存在を定義するは誰の所業なるか
少し離れたところから轟音が響く。
とてつもない音ともに襲ってくる振動に勇者でも一度身構える。
「…とてつもない音と振動だな。化け物だらけの森も犬以外にヌシのような存在はいてもおかしくないか。」
勇者も立て続けの連戦から得られたものも少なく、現状を打開するために最初に出会って逃げられた(神の猟犬)を目指す。
偶然とはいえ出会った【温もり喰らい】を最後まで追い詰めることに成功したというのに、(噂好きのカンパネラ)を倒してから謎の男に介入され今のところ解決策が一つくらいしかなかったもう一人の"俺"をどうにかする術を横取りされてしまった。
あの男はなんだったのか。意味ありげな言葉も残していったがすべてが意味の分からない状況の中、
たとえその言葉を無視したとしてもどちらにせよ黒き森にいるのは変わらない事実。
いずれにしても(神の猟犬)は狩らなければならない。
あの紛い物を。
そうして螺旋状の何かが通過したのだろう、大きな暴力の爪痕が残る開けた場所へたどり着く。
「これは凄まじい…先に何がいるのか気になるな。面白い。」
黒き森に走る痕跡をたどり敵の気配がある方へと歩みを進める。
〜〜
やがて爆心地のような景色に変わってくる。
それは表すにはためらってしまうほどの惨状。
肉が飛び散り黒き木の一部を赤で彩り、まだ形を保っていた塊はそこら中に転がっているようなおぞましい光景が広がっていた。
「もう一人の"俺"なら見た瞬間吐瀉物で床を汚していだろうな。」
「あ…ゥあ…」
「ああぁあぁあぁ~…」
そこかしこで意思のない苦痛の声が満ちていた。
少し見渡しただけで獣人らしき人間や耳が所謂エルフのように尖った耳長野人間など指の数を超えるほどの人種が入り乱れる中全員が同じ色の臓物を垂れ流しばら撒かれていた。
「せ…んむ…。」
意味を成しているのかわからない嘆きの言葉。
一人ひとり勇者に比べたら矮小とはいえそれぞれ一つの人生を生きてきた者たちの末路。
余りにぞんざいな終わりに悲しみなどそこにはなく、ただ強大な暴力に晒された運のない被害者達がそこにはいた。
「これが無情というものなのだろうな。」
いちいち細かく見ていては日も暮れてしまうような情報量が押し寄せ続けるうちに、
多くの死体が並ぶ中に何かを引きずるような跡があり、血の道が暴力の先へ続いてる場所があるのを見つけた。
「この先…か。手負いの獣程厄介なものはないのだろうな…。警戒は高めるべきか…?」
そうして、血の道を辿っていく。
---進んでいくと、やがて半透明に光る槍の形をした何かに肩を貫かれている猟犬を見つけた。
そしてその手前に倒れ朽ちる者も一人。
一目見てわかるほど今丁度生を全うせんとするような様子の耳長の人間であり、目が潰れ片足も半ばから失っており、その上左肩から先がなかった。
その耳長人間はこの槍に貫かれ沈黙している猟犬目掛け這いずってきていたのだろう、(神の猟犬)の手前で朽ちていた。
そして猟犬の様子を確かめるために、耳長人間の横を通り過ぎようとした時。
「はァ…!」
できうる限りの力を込めたのか弱弱しい軌跡を描いて耳長人間が右手に持っていた剣を振り上げこちらに切りかかってきた。
しかし、目も潰れ片足もなければ距離感を掴めないうえに踏み込みも満足にはできないのは当然のこと。
剣はこちらに届くこともなく勇者の前で耳長人間が姿勢を崩し倒れる。
「くぅ…!くそっ…!!」
剣も支えにすることもできず地面に倒れ伏すほどの人間から意味を汲み取れる言葉が紡がれた。
「そこまでの死に際でまだあがくのか…?」
「はっ…いくら言われようとも…わたしは…専務に………たくされ…たのだ…。だから確実に…履行しなければならない。邪魔する………ようなら切る……ぞ。」
「助言しておこうか。脅しとは実現できることを言い並べるところから始まるものだぞ?」
「はっ。耳が、痛いな…なら…味方でも…ないなら……き…さまは……だれ…なんだ…?」
「俺は勇者だ。」
当然の返しである。
耳長人間はその返しに面食らったのか少し戸惑う様子を見せた後、ない瞳をこちらに向け口を開く。
「……そうか。…はぁ。専務。この…サルバ・エンデ。身勝手ながら長い、永い休暇を取ることをご容赦ください。」
先ほどまでの弱弱しさとは少し違い、意を決した戦士のような気迫でこちらを見据える。
「私が…魔王だ……。」
命知らずがこの”勇者”に”魔王”と名乗った。
「……無駄に魔王を名乗るのか。…死に急ぐことは蛮勇を通り過ぎて滑稽だな。」
たとえ己よりはるかに弱い存在だとしても、目の前の魔王を殺し続けるのみ。
「1分…1秒でもいい。専務のため…{天翔生命}のため、ここで俺に時間を使ってもらおうか。」
そして、耳長人間の残った腕が淡く光りだし膨張していく。
しかしこれまでの経験からそのまま相手の悠長な行動を許せるはずもなく。
耳長人間の残った腕を切り飛ばし、首も胴体から切り離す。
「せん…む……俺は…」
すると、宙を舞った耳長人間の頭が地に落ちた時に奇妙なことが起きた。
小さな腕が地面から無数に生え耳長人間の死体をかき集めていく。
その腕はどこか見たような様子をしていて、あの大きな鐘の化け物を倒した際に割り込んできた別の腕の化け物に似ていた。
そして小さな腕達に包み込まれ肉が見えなくなってきたころには溶けていくように地面に消えていき、後には何も残らなかった。
「あの淡く光る腕は真似事だったということか?…身に余る力は身を滅ぼすというわけだな。ああはなりたくないものだ、生き様も、死に様も。」
そうして無に帰っていった者の残り香を超えてその後ろにいた(神の猟犬)へとたどり着く。
「待たせたか?やっとで逃げ回る犬に追いついたぞ。追いかけっこは当分は勘弁だな。」
返ってくるのは沈黙。
(神の猟犬)は突き刺さる槍によって虫の息となっていた。
「……ふluur………。」
少し音を発していても聞こえてくるのは弱弱しく絞り出したかすれ声のみ。
「……お前にはたくさん聞きたいことがあったが…この様子では無理か。」
思えば”俺”から数えて白い世界に囚われてから最初に出会ったのはこの成れ果てのような猟犬の前身である。
しかし、あまりに御粗末な憧れを抱く犬畜生を前にその理論の無謀さを指摘したらこうなってしまったのだ。
見てわかる。本気を出すや、最後の切り札とは違った、いわば身に余る力の暴走を全身に表していた。
これを見て思い立つのは暴走とはいかないものの今丁度”身に余る力”によって死を迎えてからも身を貪られた者。
「……もしや、今まで会った、言葉の話せる者たちの扱う異能力のようなものは何かの存在の借りものなのか…?」
そう考えると今まで出会った存在達はそろいもそろって意味の分からない様相をして、関連性には秩序がないわけではなく、何かのシステムの下運用されてきたものと考えられる。
「化け物の力を自分のものとする…か。」
この犬もあの女もそれぞれ【果てに遺された忠犬】と【温もり喰らい】という名前だった。
そして、
「【温もり喰らい】はあの鐘の化け物のことを(噂好きのカンパネラ)と呼んでいたな。」
あれはどう考えても意志もあまり感じられない異質な存在だった。
今気づいたことを元に名前の雰囲気も…似ているような気がする。
能力としては鐘が鳴るたびにおそらく付近で起きた事象を共有していたのか?
【温もり喰らい】があの結晶に包まれてから己の身に起きた結晶化から説明がつく。
そのような特異な能力を奪い、扱うことができるようにしているのかもしれない。
「…あの鐘はもう一生会いたくないものだが可能性として同じ攻撃を行ってくる相手が現れるかもしれないな。」
ならばこの前にいる(神の猟犬)とは何か。
【果てに遺された忠犬】がここまで変容した際にアナウンスされた存在。
それは確実に別の存在に成り下がっていた。
「俺は”俺”のおかげで勇者としての在り方を変えることができた…それは他の存在にも同じようになにかしら作用する…のか…?」
目の前の(神の猟犬)を見据える。
「”俺”がいなければ気づけなかったが、この猟犬に名前を与えた存在こそが神…なのか……?」
勇者が今まで共に過ごしてきたアナウンスとメニューの機能。
その存在に疑問さえ覚える暇もなかったが、考えを改めなくてはならないかもしれない。
今まで敵と認識していたものは例外なく全て魔王だった。
そして魔王を倒せば勇者の責務を果たし勇者という肩書きから開放されると思っていた。
だが、今の知識があれば。
魔王はもとより最初から存在していたわけではない。
勇者がいるからこそ魔王は存在しえたのだ。
逆に言えば勇者がいる限り魔王は居続けることが分かる。
では俺は解放されることはあるのか。
なぜおれは魔王を殺し続けるのだ?殺す意味はあるのか?
何故おれはあの境遇に陥っていたのか。
神は俺に何を命じたのだったろうか。
……俺の手から零れ落ちていたものは安息の日々だけだと思っていた。
けれどそのままではまた同じように神の使命の元地獄の日々が始まるのではないか?
元凶から絶たねば。
「俺は探さなければならないようだ。」
神とは何なのか。
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(偽物の空虚な勇者)が世界の真理の一片に触れました。
(偽物の空虚な勇者)は(唯の日本人)でもあるため
”登場人物”としての自由意思が強制力から保護されます。
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「…答えてくれるだろうか。神とは……誰だ?」
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心象理解が足りません。
情報開示不可です
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……今考えることではないか。
今は唯、目の前の敵を殺し続けるのみ。
「もうこの鬱蒼した雰囲気は飽き飽きしていたところだったんだ。」
(神の猟犬)へ刀を据える。
「この槍を当てた奴に感謝すべきだったな。」
名も知らず、どこにもいるかわからない誰かへ感謝の念を送る。
そして一閃の太刀筋が宙を描いた後に首が落ちていく。
切り口から大量の黒い体液のようなものが流れ落ちて地面を黒い粘ついた液体が埋めていき、勇者の足を汚す。
【果てに遺された忠犬】の面影であった首輪も狼をかたどった肉も全て溶け地に塗れていく。
しかし、それで終わらなかった。
「……なんだ…?」
異様なことが起きる。
零れ落ちた液体が一か所に集まり登っていくのだ。
やがて波打つ球体を宙に浮かべていく。
そして、勇者を見つめるかのように沈黙を維持する。
「これは…また変容したというのか?だがあまりにも…かけ離れているな…」
もう生命ともいえない何か。
それが何かを待つように静止し続けている。
脅威となる雰囲気もない異様な空気にたまらず黒い球体に近づく。
「これをどうにかしないと進めないか…」
そうして手を向ける。
その瞬間。
黒き球体からいくつもの触手のようなものが生え勇者の体を覆っていく。
「くっ!?」
抵抗すべく刀を振るも虚しく空を切る。
そうして視界も黒き球体に呑まれようとした瞬間脳裏にアナウンスが流れる。
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(偽物の空虚な勇者)に不安定な物語が吸収されました。
物語を綴りますか?
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意味不明な文言が流れていく。
だが俺の頭はさも慣れた事柄に安心したかのように抵抗をやめた。
まるで俺とは別の存在が勝手に許したように。
そして体に覆われた黒い液体が体に吸い込まれていく感覚が始まる。
その感覚に応じて視界が元に戻っていくがともに異様な感覚が全身に襲う。
それは何か大きな質量の物体を体に押し込まれるような感覚。
「あ…?うぅ……これは、何が起きているんだ…?」
そして目を疑う光景が映る。
周りを支配していた黒き森が歪みながら勇者の体の芯へ吸い込まれていくのだ。
「お、おぉ!?ははっ。随分と穏やかじゃないな?」
そして殺到してくる景色とともに一瞬勇者であれどふらついてしまった。
唯、一瞬であったのだ。一瞬気が抜けて目を瞬いただけだったのだ。
だが、目の前には。
「ディナルド?どうしたんだい、そんなに呆けて。」
知らない男がいつの間にか目の前に立っていて、自分に向かって話しかけていたのだ。
名前ガッツリ変えちゃいました




