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曇天貫く破雲万丈

勇者が(噂好きのカンパネラ)を撃破し、【贖う壺】と接触している間にも、黒き森ではまた別のところで争いが起きていた。


〜〜黒き森の外縁部〜〜


【破雲万丈】ハクン・マルキュリー率いる{天翔生命}の主力集団は(生を許さぬ猟犬)、つまり(神の猟犬)に黒き森の浅瀬で出会ってしまいそこから戦闘が始まっていた。

職員のほとんどを一人一人的確に急所を狙われ職員の数を減らしながらも(神の猟犬)の猛攻に消耗しつつ確実に追い詰める。


「ディナルドよここまで我が社を掻き乱したんだ。いい加減その醜い様を終わらせてやる。」


「狂ゥ゙laaa亜ぁぁぁAA!」


「ふっ…確実に(果てに遺された忠犬)とは別物のようだな。ディナルドならばここまでの恥さらし到底許せないだろうからな。」


(神の猟犬)の凶刃に対して【破雲万丈】は手に持つ槍を振るう。

たちまち激しい火花と轟音と共に(神の猟犬)の闇が吹き飛ぶ。

たまらず(神の猟犬)は闇に潜み次の攻撃に移る。


「諸君、再度陣形を組め。奴がまた潜った。」


多くの1級職員が槍も振れぬほどの密度で固まり、各々の武器を外側へと向ける。

そうなると(神の猟犬)は表層の職員にしか爪が届かず、一番前の職員へと攻撃を仕掛けた。


そして一人、また命が潰える。


だがその犠牲は次の一手へと繋がる。


この場で{天翔生命}の主力集団が選んだ戦法は

肉で相手を拘束しそこに一撃を加えるもの。

それを黒き森によって"生命保険"の効力がなくなった中で行っていた。


「ぐふぅ……!…せん…っむ!おねがい…します…!」


「ハーグ・ディード。貴様の犠牲に感謝しよう。」


雲をも切り開く槍をハーグ・ディードと呼ばれていた肉をも巻き込み振り抜く。


「牙ァ゙arrrr!?」


その槍は闇に紛れ、闇に潜み敵を欺くはずの(神の猟犬)を正確に捉え続けていた。


その様子は異様そのもの。


”回避行動関係なく槍が相手を補足している”のである。


まずこの現象を述べる上の前提として、ハクン・マルキュリーは【破雲万丈】と呼ばれているがその超常存在を身に宿しているわけではなく手に持つ槍こそが(破雲万丈)の本体であり、その槍を握ることを槍に許されたからこそ思うがままに槍を振るえ、権能を扱うことができるのである。


その権能とは"槍に貫かれるものを確定させ、その結果を過程を超えて確実に現実のものとする"こと。


ただ権能を実現させるには本人が認識できる範囲にいる存在で対象を正確に認識している必要があった。

しかしながら、何故か今回は今まで通じていた理とは別の何かが干渉しているようで(生を許さぬ猟犬)自体に認識阻害があるようだったのだ。

だからこそ、毎回視認した上で、対象の様子を的確に認識せねばならないため、瞬時に姿を消し実体の掴めない(神の猟犬)に当てることは困難であるはずだった。


しかし今、【破雲万丈】には一度攻撃を受け止める部下がいた。

部下の犠牲によって一度実体を表し攻撃をした瞬時に狙いを定めて槍を振るえば攻撃の命中が確定する。


その一撃一撃を累積させ(神の猟犬)の討滅を目指しているのだ。


人員を人的資源として換算しそれを躊躇なく実行する。

”生命保険”を扱う{天翔生命}であるからこその光景であった。


だが、(神の猟犬)もそれを喰らい続けるほど間抜けではない。


闇が蠢く肉体から犬を象ったものを分け放つ。


己が攻撃した際に手痛い反撃を受けるのであれば反撃を許さない攻撃で埋め尽くせばいいのだ。


消耗し続けていた【破雲万丈】の周りの職員含め、陣形に参加していない職員にも群れの仲間が襲いかかる。


「ぎゃ!?あ…あぁ?畜生…!」


群れの仲間に噛みつかれ、対処に遅れるが最後、他の群れの仲間に殺到され命が吹き飛ばされていく。


「せ、せんむぅ!この犬…を!」


「それは紛い物だ!…無駄死になんぞ全く職員への侮辱以外のなにでもないな…」


一匹と一人切り飛ばしたところで場は混沌が渦巻いている。


そこかしこで命が散っていく中、本体が動かないため【破雲万丈】は強気に動けないでいた。


「ふぅ…どうやら貴様相手は体裁やその後のことを考えている場合ではないらしい。」


実際(神の猟犬)は非常に厄介であった。

広範囲を索敵して各自辻斬りで襲いかかり、対処してきた相手には確実に手詰まりになるように理詰めの一手を打ち続ける。

じわじわと戦局が(神の猟犬)に傾いていくのを指をくわえて待つしかない状況に陥っていった。


「【温もり喰らい】も生存を確認できないうえに【果てに遺された忠犬】はこの様子。外部の特級職員も救援に来れるかわからない分………なりふり構っている場合じゃないか。」


上に立つものとして先のことを常に考え続ける。【破雲万丈】は今まで多くの決断を瞬時に行い、有効打を敵の全てに与え今の地位を築いていた。

たとえそれが万人から諸手を挙げられるような選択でないとしても。


今この瞬間もその一つであると、ただそれだけである。


「ふむ。すまないと先に行っておこうか諸君。」


それは今この場には似つかわしくない突然の謝罪。


「専務…?」


直近にいた職員が疑問を覚える。


「…と、その前に(偽物の空虚な勇者)の情報は知っておきたい。…担当職員の生き残りがいただろう!まだ生き残ってはいるか!」


いつぞやの小柄なメガネの職員が犬を叩き潰しながらそれに答える。


「……は、はい!?私です!南区画(偽物の空虚な勇者)担当のサラ・ケンrーーー」


【破雲万丈】は即サラ1級職員の背後に移動し小脇に抱える。


「今は時間が惜しいのだ。紹介は後にまた落ち着いた状態で聞こう。」


「ちょっ…えぇ!!?」


「諸君。専務ハクン・マルキュリーとして命令する。どうかこの場でヤツ…(生を許さぬ猟犬)をこの場に留めておいてくれたまえ。」


「せ、専務!?この場を離脱するというのですか!?」


それはその場にいた1級職員も驚くのは当然であった。

現場の指揮官が突然戦闘から離脱を宣言したようなものだからだ。


「これは必要なことであり、決定事項である。君たちの健闘は必ず我が社の利となることを私が保証しよう。」


「しかし!今まで(生を許さぬ猟犬)に傷を与えられたのも専務の槍のみなのです!今専務に離脱されては我らの勝利はなくなります!」


「……君、改めて名を名乗るがいい。」


【破雲万丈】は至極当然の質問を行った1級職員になぜか名を名乗ることを促す。


「………サルバ・エンデ…です。」


犬が入り乱れる乱戦の中【破雲万丈】の声を待つ。


「…サルバ1級職員、いやサルバ。”だからこそ”なんだ。」


先を見据えるからこそ、いや先を見据えすぎているからこその噛み合わない会話。


「あの!私は一体…」


「サラ1級職員、君はこれからも必要な人員だからだ。連れて行くのは当然。」


「専務…?これからも…とは一体。」


不穏な問答が続いてもそれを許さない存在もその場にはいる。


「GううlU1@ああhAA!!」


(神の猟犬)が会話に割り込んでこようとしているのを【破雲万丈】は認識する。

そこで槍を取り出すのではなく、(神の猟犬)と自らの間に先ほどのサルバ1級職員を割り込ませる。


「えっ?」


肩を掴まれ強引に引っ張られたかと思いきや突然背中から爪で貫かれ己の腹から爪が抜き出ているのを呆けた様子で【破雲万丈】とともに見つめる。


「せん…む…?」


「きゃああ!?そんな!?どうしt…」


「恨むなら大いに恨んでくれ。私を含めた我ら{天翔生命}を。恨みなど到底湧くはずもないが」


【破雲万丈】がそう言い残すと(神の猟犬)とは反対の壁の方へ槍を構え、放つ。


空間を貫く。それは以前通り過ぎた(懺悔の窓)の抜け殻に向けて。


「【破雲万丈】専務!お待ちくだsーーー


景色が流れる。


そうして、黒き森の外縁部の手前、大きな図体の存在の残骸の前に二人の人間が槍とともに滑り込んでくる。


「ふむ。どうやら私の槍が不調だったのではなくあの犬がおかしかっただけのようだな。」


「って、えぇええええ!?専務!?どうして…いま!…え?ここは…(懺悔の窓)……?」


「我が{天翔生命}では常に冷静でいる職員を優遇する。君もそれに倣った方が身のためだと言っておこう。」


淡々と言葉を紡ぐ【破雲万丈】に対し、拉致されたも同然のサラ1級職員は困惑を全身で表現していた。


「あ、あの!専務に対して一職員が述べるのは無礼を承知ですが言わせてください!どうして、我らと同じ志を持つ職員を見捨てるようなことを選んだのですか!!!」


「ん?あぁ。同志…か。そんな風に表されるのも彼らにとっては大いに光栄なことだろう。だがな。私は何よりも我が社の損益を第一に考える。それを元に考えるとだな。時には何よりも効率を考えなくてはならない事柄に今回の戦闘が当てはまっただけだ。」


「え~っと…?…あの………どういうことなんですか?」


「頭で理解するより見たほうが早いか。」


そして【破雲万丈】は槍を構える。


「私はどうせ失くすものに対して無駄な労力を割いて華やかな散り様を沿える必要はないと考えている。…つまりだな、どうせ死ぬ者たちだ。(生を許さぬ猟犬)に殺されるも、私に殺されるも一緒なのだ。ならば、私がより短期間で敵に大いに打撃を与えることができる方を選ぶに決まっているであろう。」


それは今まで戦闘を行っていた方角へ。


「専務…!?まさか!?」


「もう勇者も犬もまとめてだ。その戦果のためには我が社の職員ならば喜んで命を投げ出す。そういうもののはずなのだ。」


それは己にとって最適な結果をたたき出すには過程を全て吹き飛ばす、(破雲万丈)に選ばれるほどのエゴイストだからこそ思いつく完璧なエゴ。


「どうやらこの槍で貫くためにはヤツへの理解が足りないらしい。だからこそ、ちまちまと子犬を槍で毎度狙うのは不効率極まりない。だが、この槍ならば、この私【破雲万丈】ならば。」


これから起きることは確定事項なのだ。


「全てを貫き飛ばす。」


範囲を広げ己の出せる全力を込める。

(生を許さぬ猟犬)を認識できぬのなら自らの部下に向けて。


槍が放たれる。


視界が白く埋め尽くされていく。


「あ、あぁそんな…」


「必要な犠牲であったのだ。それ以上でもそれ以下でもない。」


そうして眩い光が静まった後に、

残されたのは大きく抉れながら走ったであろう一筋の暴力の痕跡であった。


「手ごたえは…まぁ…半々といったところか。…次の一手はどうするか……」


一撃で全てを殺しきれたと慢心せず【破雲万丈】は思考を巡らせる。


「……どうして…なぜ私だけ生き残ったんですか…?」


そこに一人生き残ってしまった1級職員が口ずさむ。


「君には(偽物の空虚な勇者)について聞きたいことがあるからだ。」


「私に話せることはありませんよ…」


「なんでもいい。君は【温もり喰らい】に【果てに遺された忠犬】、【贖う壺】殿とオルゴールで(偽物の空虚な勇者)の観測をしたのだろう。(偽物の空虚な勇者)の異常事態(イレギュラー)の詳細を私は知らないのだ。教えたまえ。」


サラ1級職員は【破雲万丈】に言われたことに対して一つの部分に疑問を覚える。


「…【贖う壺】…様……ですか?私の記憶では【贖う壺】様とはその時はご一緒した記憶がないのですが…。」


「……それは初耳だ。本当かね?」


驚きの情報に【破雲万丈】が目を見開く。

それに対し、サラ1級職員は頷く。


「……【贖う壺】殿がそのような選択を…?ふむ、そこまで警戒なさるということは(偽物の空虚な勇者)自体より警戒しなければならない存在だったのか?それとも…今回の首魁は(偽物の空虚な勇者)だけでは済まない……か?」


そうして思考の海に潜っているところで突然、


「え?…あれ?なにかが…しゃべってませんか?」


「…なんだね?」


「なにか歌っているような…」


黒き森の入り口とは反対の方から何か幻想的な優しい音色の歌が聞こえてくる。


「待て……歌っている…だと……?」


耳をすませば確かに歌のようなものが聞こえてくる。

それもよく聞けば多数の声で奏でられている歌が。


「ほう…可能性としてはもちろん考慮していたつもりだったがいざ直面するとなると今までの戦闘とは比べ物にならない責任がかかってくるな。」


「な、何のことをおっしゃってるんですか!?」


その疑問に答えるように遠くの方から徐々に姿を現す。


「人員の多くを討滅に割いたのが仇となったか。いかんせん奴等の考えることを我らが理解するのは難しいものだな。」


そこに見えてくるのは肉の塊。

血管がいくつも張り巡らされ、脈動し全体を震わせているのだ。

そして、筋肉のような繊維を飛ばし壁を伝ってこちらに進んでくる。

その表面からは何人もの人間のような存在が生え歌を奏でていく。

まるで合唱のように。


「あ、あれはな、なんなんですか…!?私はあんな存在を知りません!!専務!あの存在は何者なんですか!?」


「あれは本来一般職員が知ることすら許されないような特級指定の超常存在。名を(拍動の生命器官)。我ら{天翔生命}の最重要機密だ。」


「最重要機密…って、え…?」


「見てしまったからには本来は殉死解雇のはずだが、まぁ今回は目をつむろう。今となっては人員が足りないようだ。ここまで選択を間違えてしまったのも珍しいな。」


「殉死解雇…!!!!?ひいぃぃ!」


「大いにその処分に足る理由があるのだ。それは我が社の技術、”生命保険”の仕組みにつながる。」


「生命保険!?ほんとにホントに激ヤバ案件じゃないですか!…もしかして私は今から死ぬ方がましだった未来を選んでしまったのでしょうか…?」


すると近づいてくるにつれて壁から人の形をした何かが生えてくる。


「奴は生命を扱う。奴を早期に鎮圧できなければ我らどころか都市中の生命の定義が自由に歪められていくだろう。」


すると隣で朽ちていた(懺悔の窓)の残骸からも人の形のものを発して残骸同士をつなぎ合わせ、また別の存在へと形を作り上げていく。

それは元の存在とは遠くかけ離れていて、不気味さを覚える風貌と化していた。


「今までが前座というのか、面白い。我は【破雲万丈】也。勿論真向から貫かせてもらおうかその生命の定義も悉く。」


「わ、わたしは…足手まといだと思うので…帰っても…いいですかね?」


勇者の知らぬところで事態は最終局面とすでに移行していた。

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