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贖う壺

結晶が勇者の体を飲み込んでいく。

ゆっくりと、確実に。

それでも手足は動く。ならば目の前の魔王を打ち倒すのみ。


障害など今までいくらでもあっただろう。

数え切れないほどの回数地に伏せてもまた最初の村から始まるくそったれの物語。

今回もその道の途中だ。


恨み言を言う暇も与えちゃくれない運命だ。


だが、今回は思う存分。


我が道を行かせてもらう。


「ここで止まってぇ…、たまる…か…!」


俺は勇者だ。

意志のない俺に在り方を、心の持ち様を与えてくれて、俺の世界を広げてくれた"俺"の為に。

"俺"と同じように探すのだ。

俺の手から零れ落ちたものを。

俺がここにいる意味を。

魔王を倒し続ける意味を。


「お前も魔王だ。…俺はお前の向こうの奴らに用がある。」


だから、


「どいてもらおうか。」


鐘の方を見据える。


槍が一本で足りぬのなら、いくらあればいい?

そんな疑問、勇者らしくない。

当然足りるまでだ。


「…根比べでもしようってか…。」


槍を投げる。

投げる。

投げる。


「縺?◆縺?>縺溘>縺溘☆縺代※縺?◆縺!」


「黙れよ。化け物。」


ゴオォォォオン ゴオォォォオン


投げれば投げるほど傷が深まり、結晶が身を蝕む。

結晶が身の動きを阻害しようと、歩を進める。

不恰好でも笑うやつなどここにはいない。

左手でメニューを操作し、右手で槍を投げる。

ただひたすらに。


身が弾け、削がれ、飛ばされようが、復元し歩き続ける。


背に結晶の嵐を身に受け前方からは噂の暴力を受けながら。


「そろそろ、ここがどこかくらい、教えてもらってもいいだろう?」


目が覚めてから苦しいことばかりだ。

化け物に襲われ続け、終わりの見えぬ森を彷徨う。

いつになったら終わりが見えるのか。


ゴオォォォオン ゴオォォォオオオン


応えるように鐘が鳴る。

しかし、返ってくるのは勇者には不快な噂のみ。


「と言っても答えてもらわなくても結構だ。自分で見届けるとするよ。」


そして鐘にたどり着く。

大きな大きな、宙に浮かぶ鐘に。


「縺?◆縺?>縺溘>縺溘☆縺代※縺?◆縺!」


見上げるのも苦しい中、身をほぐすように結晶を砕きながら(噂好きのカンパネラ)を見上げる。


「いい加減耳障りなんだ。全く、どうしてくれようか…」


そして集合恐怖症には目にも入れられないほどの槍が刺さっている部分の中から一本の槍を掴む。


「そろそろ、くたばれ。」


掴んだ槍を横に引き裂く。

金属が裂ける音同時に数本の槍を巻き込んで外側の鐘に大きな裂け目を作り出した。

だが、まだ刺さった槍は残っている。


カァーン カァァァァアーン


外側の鐘を掴んでいるからか、今までの音とは違う、幾分か小さな鐘の音が中から聞こえる。


それは(噂好きのカンパネラ)がより濃い危機を感じた時の悲鳴だった。

まるで助けてと、命乞いをしているかのような。


しかし、勇者にそれを理解する義理もなく。


まだ残る槍の一本を先ほどとは逆方向に引き裂く。


(((カァーン カァーンカァーン)))


自らの危機を感じているのかそもそも危機を感じるほどの意思があるのかは定かではないが、鐘の音の頻度が早まっていく。


「もう今さら遅い。」


槍を引き裂くごとに徐々に中心部へと近づく。


そして、勇者の身体も同じように引き裂かれていく。


だが、その程度で止まるわけがない。

勇者なのだから。


コォンコォォン コォンコォォン


やがて顕わとなるのだ。

黄金色に輝く、小さなベルが。

それは忙しなく鳴り続けていた。


「お前のような奴に辞世の句みたいな洒落た真似はいらんだろう。」


取り出すのは野太刀。

大太刀とも言われる刃渡りが遥かに長い刀。

それを、大上段で。


「一刀で地に伏せよ。」


振り下ろす。


一太刀は(噂好きのカンパネラ)を一刀両断する。

その切れ口は見事なもので、何重にも重なってた鐘が全てミルフィーユのように断面図から存在を確認できたほどだった。

そして浮いていた鐘は勇者とともに地に沈んだ。


「………案外呆気ないものだったな。」


そして、体内から迫る結晶の動きが止まる。


それでもまだ、息つく暇は許されない。

なぜなら未だ黒き森の中であるから。

まだ一人の魔王を倒しただけ。


「だが、一度この結晶をどうしたものか。」


たとえ、部位の欠損などの損失はないものの、相性の悪い結晶による攻撃と、絶え間のない猟犬の切り傷により確実に消耗をし続けていた。


しかし、世界は勇者に到底優しくなく、


次から次へと招かれざる客は勇者へと送られるのだ。。


突如、地面から腕が伸びてくる。

腕は瞬時に勇者を掴み、握りつぶそうと力を込め始める。


「ははは、律儀に順番待ちでもしてたのか?お前らみたいな化け物でもルールは守るんだな。」


その存在は、噂を真に受けて敵を滅ぼしに来た存在で、

将来迎える我が子の敵となる存在をあらかじめ抹消させようと来た存在でもある。


勇者は知る由もないが、その存在の名を(子守の為の(かいな))という。


理外の存在でありながら、知らず知らず勇者の権能に影響を受け今更勇者に攻撃を仕掛けていた。


「最初の2人はまだ良かったさ。だが、鐘の次は腕か?もうこれからは何が来てもおかしくないようだな。」


体内からの結晶は止まりはしたが、未だ吹き荒れる結晶の中。

その上よくわからない腕に掴まれている状態。

絶え間ない連戦で勇者は限界に近づいていた。


「次々と全く…人気者はつらいな……日本で言うセーブしてシャットダウンでもしたい気分だ…」


---瞬間事態が急変する。


目を瞬いた瞬間自分を掴んでいたはずの腕が眼前に映り、その腕は"壺"を掴んでいた。


「………なんだ?」


「あいつは前から俺の壺がお気に入りなんだ。」


知らない男が横にいた。

またもや新しい闖入者に俺は少し驚きもしたが、すぐ襲ってこないのを見るに男に話しかける。


「…俺を助けたのか?」


すると、横の男は少し目を開き俺を見つめたまま言葉を返す。


「………これはなんとも…おじさんを警戒しないのか?お前さんにとっちゃぁ俺は魔王だということは確かだろう?」


「…魔王だとしても俺が危機に陥るのは別の話だ。負けるわけのないやつに警戒するのは間抜けのやることだろう?」


「話が分かるようになったことを喜ぶべきか今は分からんなぁ…。勇者よ。今のお前さんは俺が前に会ったお前さんと同じなのかい?」


「そんなもの知らん。俺は俺だ。」


「そうかい…」


そして男は指を弾く。

そうすると目の前にいた腕が忽然と消える。

その尋常じゃない光景に警戒心を最大まで上げる。


「……俺のことも消すつもりか…?」


「?……はっはっはっ!これは消すなんて便利なものじゃあない。ちっとばかり遠くへ迷ってもらうことにしただけだぁよ。」


「俺に用があるんだったら鐘の時点で助けに入ってくれてもよかったんだぞ…?」


「ふふふ…勇者の兄ちゃん、意外にも面白ぇやつになったなぁ…ま、俺もあの鐘は苦手なこった。それに用があるのはお前さんだけじゃないしな。」


そうして男は吹き荒れる結晶の中心へと歩み始める。


「俺自身、お前さんらみたいな存在が脱走しようが、誰かを殺そうがなにも気にしたりはしない。ただ、俺が生きてりゃどうだっていいんだ。」


「脱走だと?それに、俺がこんな生き物かどうかもわからん奴と同じだと言っているのか?」


「…そうか、お前さんにはそこから話さなきゃならんか。お前さんらと意思ある会話をしたのは久しぶりだからな…。忘れていたなぁ。」


「それに…ここはどこだ?」


「……ここがどこか知ったところで物語に生きるものが何か違うことをするのかね?」


言葉が詰まる。

確かにここがどこか知ったところで俺のやることは変わらないのかもしれない。

俺には…魔王殺し、しかやることを思いつかなかった。

いくら知識を得たところで変わらないものは変わらないのだ。


では"俺"ならそれすらも教えてくれるのではないか?


「まぁいい。俺は、勇者をどうこうなどと考えてはいない。お前さんもこんな無害な魔王をいじめるなんてことしないでくれるだろう?」


自らをわざわざ魔王と名乗った男はそびえたつ結晶の前に立つ。

そうして男は結晶に覆われた【温もり喰らい】を触った。

すると、まるで厚く大きな結晶が最初からなかったように消え去る。

開放された四肢のない【温もり喰らい】を男は抱き止めて、肩の上に抱える。


「じゃあその女を連れて行くのは辞めてもらおう。」


「………ほう?その要求は些か良しと言えるものじゃあないなぁ。」


「その女には眠っている"俺"をどうにかしてもらわなきゃいけないんだ。」


「……その様子じゃ喰らわれたんじゃないのか?それならどうしようも………ま、今はないわけじゃないか。」


何やら含みのある言い方だった。


「お前さんが急がなくても勝手に問題が解決されるだろうさ。」


「…これが時間で解決するとでも?」


「いーや?時間で解決するほどこの結晶はやわなもんじゃない。……だが、正攻法でどうにかできるものでもないなぁ。」


「含みのある言い方はやめてもらおうか。切り伏せるぞ。」


「おっとぉ〜!こわいこわい。そんなに焦らなくてもお前さんが求めるものは向こうから来てくれるさ…。」


「なんだと…?」


「おじさんからはここまでだ。ディナルドまで来られるとおじさんの手には負えないからねぇ。御暇させていただこうか。」


「なら最後に聞かせてもらおう。」


「……?」


それは今までの人間が声に放つ魔王に違和感を覚えていたから。

俺は確かに魔王を殺し続けてきたしこれからも殺すのだろう。

だが、それは神の使命の元俺がそうしてきたからであって

この世界の者たちははどうなるのか。


「この世界に神はいるのか?」


「!?!?……っかぁぁー!………どういうことだい…?おじさんは今まで優しく色々教えてやっただろう…?」


何が起きた?


突然男が苦しそうに呻く。

その頭を押さえる様子から何か聞きたくないものを遠ざけるような仕草をしていた。


明らかな隙に即刀を抜き首を狙う。


しかし、まるで最初からそこにいなかったように


刀は宙を切った。


〜〜〜


黒き森ではない無機質な施設の通路に2人が

いつの間にか居た。


「はっはっはっ!ありゃぁやばいなぁ。話してみても意味がわからん。どういう意思で動いているのか。目的がなんなのか。」


男、【贖う壺】が一人笑う。


「あの勇者が自由意志をもつ…か…オルゴールで見た別の勇者もそうだし、これから何が起きるかゾクゾクしちゃうねぇ…」


【贖う壺】も御しきれないお手上げの存在に

期待を勝手に膨らませていた。


「っと…そろそろ嬢ちゃんを起こそうかね。」


そうして肩に担いでいた【温もり喰らい】を下ろし壁に立てかける。


「おーい。嬢ちゃん起きろ〜?」


それでも目が覚めない。


「しょうがないねぇ。…生ける者にやるのは少し憚られるが…」


「私を殺そうとするな。」


「おいおい、起きてるなら言ってくれよぉ?」


「また死に損なったか…爺は元気そうで恨めしい限りだ。」


「恨むなよってぇ…おじさんだってねぇ?やることがあったの…さぁ!」


「爺のその物言いを握る拳がない状態で聞かされるのは地獄だ。………煙草をくれ。」


「持ってないよ?」


「…私の胸元から取り出してくれ。」


「セクハラで訴えたり、おじさんを攻撃しないでくれよぉ?」


「問題無い。…それは後でやるからな。」


そして【贖う壺】が【温もり喰らい】の胸元のポッケから煙草を取り出す。


「穴だらけで吸えたもんじゃないだろうこれは。」


「いいからよこせ。」


そして比較的無事だった1本に火をつけ【温もり喰らい】の口に咥えさせる。


「ほぉ…気分は最悪なのに案外うまいもんだな…」


「 それはおじさんのジンクスを信じちゃったってことかい?」


「…ぬかせ。」


【温もり喰らい】に吸わせた煙草よりも損傷が激しく、より短い煙草を咥えながら男が言う。


「じゃあその煙草、まずくしてもいい?」


「…………やめろ。」


「(拍動の生命器官)が脱走した。」


「…やめろと言っただろう…………」


煙草の火はまだ消える様子がなかった。


〜〜〜

ぶくま、ひょうかなどよろしくおねがいしま

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