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かけがえのない夢の跡

「あなた、今日は青い空がよく見えるピクニック日和ですよ。」


俺を呼ぶ声が聞こえる。


「いつまで寝てるんですか。休養だからと言って私を放っておく理由にはなりませんよ。」


俺は幸せだ。幸せだ。でも、


「でも、起きなきゃ行けないんだ。」


「何を言っているんですか?そんなことを言うなら早く立ち上がって、支度を手伝ってください。あなたの好きな、アボカドサンドを持っていきましょう。」


「"魔王"を倒しに行かなきゃいけない…んだ?」


まおう?なんだ?


"魔王ってなんなんだ?"


「魔王ですって?寝ぼけているんですか?それなら倒したんですよ。あなたが。」


そうだ倒したんだった。…俺が?


「どうやって?」


「あなたの持っていた聖剣で、ですよ。ねぼすけさんですね。私を揶揄ってるんですか?今日は思い通りに行きませんからね。まだふざけるならデザートのプディングは私が全部食べてしまいますよ。」


俺は剣を持っていたのか?本当に?

だって、それは…


"画面の中の俺"だったじゃないか。


「そういえば、桶の底板が抜けてしまったんです。帰りに板を買って帰りましょう。」


「あなた…は誰なん…です…か…?」


「………冗談ですよね?……怒りますよ?」


思い出せない。


「う、嘘でしょう?何かの呪い?少し頭を貸してください。」


なにか暖かい光に包まれる。


「悪魔の悪戯でもない…白痴の呪い?いや…触媒は一斉処理されて、禁術指定されているはず…」


否、全てを思い出せないわけではない。


「これはよくないですよ。今なら正直に言えば許してあげます。」


君のことは知らない。


「神の祝福もかけたのです。冗談もバレているのですよ…?」


虚ろな目で彼女を見つめることしかできなかった。


「○○○、わ…私のことを本当に忘れてしまったのですか…?」


それはそうだ。なぜなら、俺はここで暮らしていたこと自体が存在しない記憶なのだから。


「私はシエル…シエルです。あ、あなたと同じクナーシャ村で幼馴染として生まれ育ちました。」


俺は、日本で生まれたのだ。そんな村では生まれていない。


「あなたは覚えていますよね?」


覚えてなどいない。


「ーーーそうして、あなたはその時わたしの手を持ち、連れて行ってくれたので…す…。」


それでも彼女は俺の知らない人間の軌跡を心細い声で口ずさんでいく。


「ーーーでも、私はあなたより頭が良くないから、あなたに助けられて…あなたを、目で追いかけるようになったんです。」


涙が落ちる。俺はどうして目の前にいる女の子が泣いている様子を冷静に見れるのだろうか。


「どうして…そんな目で私を見るのですか…

ほ、本当に記憶がないのですか?」


知らない。


「ーーーそこで空開きの笛を手に入れ…て、みんなと共に宴を開いて…忘れてしまった…んですか?」


知らない。


「ーーー王城で、王に祝福をいただいたのです。とても眩しくて、たくさんのお祝いの言葉をいただいたじゃないですか。いち…ばん…幸せな瞬間でした。私は忘れません。あなたは…それでも…忘れてしまったんですか?」


知らない記憶だ。


「私はもう限界です。あぁ、どうか嘘と言ってください。私はあなたがそうと言ったら救われるのです。……簡単なことでしょう?」


気の利いた嘘がつけるだろうか。たとえ、それが残酷な嘘だとしても。


「あぁ、神よ。恨みはありません。ありがとうございました。今までの幸せの代償…なんでしょう…あなたは皆のために尽力してくれたのです。これからは私の番なんでしょうね。」


俺は…


「私は…シエルです…。あなたは○○○。」


自分の名前の時だけノイズが走る。


俺は誰だ?


「これからは忘れないでください。

私はシエル。

シエル・グレデシア。

あなたの伴侶です。」


君は俺の伴侶…?


いや、唯の"登場人物"じゃないのか?


「しょうがないのです。長年の負荷による白痴は…しょうがないでしょう…?そうなのです。」


いや…


どうして、


俺は…


「そして、あなたは…………私の…かけがえのない人なんです。今までも、これからも。」


目の前にいるあまりにも眩しい女の子を"登場人物"だと決めつけてしまったのだ?


〜警告〜


(偽物の空虚な勇者)に

称号「かけがえのない夢の跡」

称号「ちっぽけで暖かい居場所」

が付与されました。


〜エラー!〜


無称号の(偽物の空虚な勇者)が存在しません。


(とある空虚な英雄譚)の主役が見つかりません。


再選定が必要です。


〜〜


なんだ?

けたたましい音が頭に鳴り響くがその意味をくみ取れない。


「あなたに届いていますか?もう…手遅れなんですか?」


〜エラー!〜


(偽物の空虚な勇者)と(唯の日本人)が混在しています。


トラブルシューティング中…


…存在を併合。同一存在上での過干渉が発生しなくなりました。


(とある空虚な英雄譚)から指名を受けます。


あなたは"全ての世界"を救わなければなりません。


〜〜エラー!〜〜


あなたは(唯の日本人)でもあるため、自由意志が解放されます。


〜〜


「ーーー?」


視界がクリアになる。


「聞こえたら返事をしてください…どうか…お願いします…」


目の前には何かに絶望してる様子の女の子がいた。


「あ、あぁ。ごめん。ぼーっとしてたみたい。」


「!?!?」


そうすると、だんだん彼女の顔がゆっくりと崩れていく。


「ひぐっ……ふすっ…」


「あーーーっ…」


「じんばいじだんでずよおおぉ!」


彼女が飛びかかってくる。


「いつもの冗談よりもタチが悪いです。わるわるです!今日はずっと私の頭を撫でることを強制します!拒否権はないのです!」


「ご、ごめん…シエル………………さん………………」


彼女が飛び起きて俺から距離を取る。


「……なんで。」


「…?」


「なんでさん付けなんですか。なんで他人行儀なんですか。」


言葉に詰まる。


「いや…」


「あ、あなたは…誰なんですか。」


「お、俺は…」


「毎年、私の誕生日に送ってくれるプレゼントは覚えていますか。」


突然の質問を答えられない。


「私の母様の好物を覚えていますか。」


わからない。


「あなたは…何者なんですか…?」


言い出せない。


「私は珍しく、あなたが悪魔であることを願っています。だってこれはわるいゆめで嘘なんでしょう?また起きたら○○○がいつも通り私を揶揄って笑って暮らす1日が始まるんです。…………ならあなたは悪い悪魔で私の祝福の元に消えてくれるはずじゃないですか!!!!!!!」


暖かい光が俺の体を包んでいく。


「どうして消えてくれないんですか。なぜ神は○○○から悪しき存在を除いてくれないのですか。」


「俺は………君の旦那さんじゃないみたいなんだ。」


「…返して!!!」


「あ、あぁ…ご、ごめん…」


「どうして謝るんですか!?謝罪の言葉などいらない!ただ返してください。あの人を…返してください…!」


「申し訳…ない…です…」


「謝るなぁ!!!あの人の面影が重なってしまう…。あの人じゃないのに!あなたは偽物なんです!私の夫を騙って囀るな!!!」


苦しい。

あまりの仕打ちに逃げてしまいたかった。


「どうして…○○○なのですか…○○○は何も悪いことはしていません…皆を救ったのです…こんな…こんな仕打ち…あまりにも。」


彼女がふらつく。

俺は手を差し…出せなかった。

空虚を掴む。

俺には資格がなかった。


〜警告〜


(偽物の空虚な勇者)から

称号「ちっぽけで暖かい居場所」

が剥奪されました。


〜〜〜


だが、


「俺は君の旦那さんじゃないよ。」


それでも。


〜警告〜


(偽物の空虚な勇者)が(とある空虚な英雄譚)の指名を拒否しました。


〜〜


「どうして!あの人の顔を!声も!そのままなのに!誰なのです!」


「それは、ごめん…なさい…」


「あの人の顔で…卑怯です…。」


「でも…これは確実に言える。君の知ってる旦那さんではないけどこの人は俺でもあったんだ。」


「何を…言って…」


微かに見える記憶。


「今の俺はかつての俺でもあったんだ。」


唯の俺と、”画面の中に存在していた俺”


「根拠はないけど、忘れているだけかもしれないんだ。

いや、忘れているんだ。思い出すよ。絶対に。

だから、泣かないでくれ。」


〜エラー!〜


(偽物の空虚な勇者)が(とある空虚な英雄譚)に/errorcode10?蜚ッ縺ョ譌・譛ャ莠コ/

の指定を要求しました。


〜〜


これはきっと所謂プロローグなのだ。大丈夫。


「責任は取るよ。大丈夫だから。信じて欲しい。」


「ーーー!?…○○○……………なのですか?」


〜エラー!〜


/errorcode10?蜚ッ縺ョ譌・譛ャ莠コ/は(偽物の空虚な勇者)に統合されています。


(とある空虚な英雄譚)により、あなたは"役割"を得ました。


〜〜


「○○○、本当にただ記憶がなくなっただけなのですか?」


「俺は俺だよ。君はシエル。シエル・グレデシアだろう?俺のパーティーメンバーだ。レベルはどれくらいか覚えてないけどね。」


だって俺でも知ってる。これは


「!?………あなたは、あなたの記憶は…」


「覚えてる。」


"俺"の物語だ。


〜警告〜


(とある空虚な英雄譚)が強制的に綴られます。


〜〜


〜エラー!〜


世界操作による影響を調整します。


(唯の日本人)がこの世界を、定義付けました。


"登場人物"を強制力から解放します。


〜〜


突然、体の末端から感覚がなくなっていく。


「え…?あ、あれ?ちょっと!?」


「○○○…?○○○!!!」


「な、なんで?」


体が消えていく。


「○○○!私の手を握ってください!」


精一杯伸ばされた手を掴まないわけにはいかなかった。

彼女の手を握る。


「ありがとう。私はシエル。シエル・グレデシア。

私はあなたを導いた聖職者であり、永遠の伴侶。

全てを、思い出しました。」


そこにいたのは、永久に繰り返され続けてきた物語を思い出し、世界の理に抗うことを成功した1人の"登場人物"だった。


「私は…あなたを信じます。そして、数多のシエルから謝らせてください。今まであなたを救うことができなかったことを。そして、忘れないでください。」


「う、うん!?わかったからさ。一旦この光ってどうにかできないかな!?」


「あなたが無限に等しい時間を生きてきた軌跡を。そしてこれからの道筋を。」


”唯の日本人”がもたらした奇跡。

主人公が離れ、存在が消えるしかなかった世界の遺志。

主人公のちっぽけな言葉が一つの小さな芽に大きな意義を与えた。


「わたしは今度こそあなたを救って見せます。だから、絶対に私を見つけてください。」


「俺らってさぁ!だから、これからうまくやって、絆をふかめtーーー。」


薄れゆく意識の中、最後に見えたのは彼女の悲しげな顔だけだった。


そして、勇者はまた新しい世界へと旅立っていく。

なぜなら、主人公を求めている世界は無限に存在しているから。

たとえ、古かびて、風化され、人々の記憶から薄れていく物語も一つの世界である。

だが、エンディングを迎えた物語はどうなるのか。

…それでも”主人公”は存在し続けるのだ。


「…どうしようもなく、あの人を世界は…いつまでも離してくれないのですね………

でも。今度は私もーーー」


それは先ほどまでの矮小な登場人物ではなく、幾千、幾万もの伴侶を一つの物語に奪われ続けた、1人の新しい主人公の誓いだった。


ーーー


唯のありふれた物語。

あるところに魔王と勇者がいました。

魔王は悪くて残酷であり、勇者は優しく誰にでも平等にあれました。

そして今日もまた、勇者によって魔王は倒されました。

しかし、魔王が倒され平和な世になれば、勇者は勇者でいられるのでしょうか?

あぁ、そうして残されるのは勇者とは言えない偽物の勇者。


じゃあ、そこのあなたがこれからの魔王です。

悪くて、残酷になってください。

世界はあなたにそれを求めています。


次には隣のあなたが魔王になってください。

そして、悪く、残酷な存在になってください。


最後まで味方をしてくれた"戦士"も

冷静に助言をくれ続けた"盗賊"も

いつも背中を預け共に戦い抜いた"魔法使い"も

結局は悪くて残酷だったのです。


そうして、最後には、勇者が魔王となるのです。

勇者は悪いので、優しくみんなに残酷なまでの平等にあれました。


すると、気づいてしまうのです。

勇者は勇者ではなくなっていることに。

しかし、魔王はいません。本当に?

ほら、近くにいるでしょう。

あなたは悪いから。

悪くて残酷だから。皆と同じように優しく平等にしなければならないのです。

その”聖職者”も。

………あーあ。


それでも、魔王はいないのですか?


ホントウニ?


さぁ。旅に出るのです。

あなたは勇者。

導きの手から外れ、

勇者であるために、

勇者であり続けるために"魔王"を倒すのです。


(とある空虚な英雄譚)より。


ーーー

評価、ブックマーク。あなたが読んだという軌跡を私のために残してください。どうか。お願い。

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