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変わり果てた姿

遅くなりました!!!!!!!! 


前回のあらすじ:アオイ、寝具を新調する。

 めっちゃ寝た!


 いやー、正直そんなに違いとかわからないんじゃないかなーって思ってたけど……違うわ! なんかいきなり違う! もうぐっすりだよ。スヤァ! スヤスヤでワロタってくらいにめっちゃ寝た。こんなにぐっすり眠ったのは……まあ毎日そうなんだけど、起きたときの感じがね。もう……違う。スッキリしちゃってるもん。シャッキリポンだね。ヒラメも起きちゃうくらいだよ。

 いつもよりずっと早くに起きてるのに眠気ないもんなー。すごい。エアさんとサキさんといっしょに選んだだけあるぜ。友情パワーベッドだね。枕も買ったし。なんならエアさんとサキさんも新しい枕を買ってたまである。お揃い――ではないんだけど、(人によって最適な枕は違うので)お揃いと言っても過言ではない。お揃い……いいよね。憧れる。この歳になってこういうこと経験できるとは思わなかったぜ。何歳やねんって話だけど! 肉体年齢だと中高生くらいだと思うから青春真っ盛りってことでどうぞよろしく。


 朝の目覚めが良いと活動的になるよね。つまり……今日ならカレンに指導できるかもしれない!

 カレンの予定がどうかにもよるけど……いや、でも、こんな時間に連絡してもいいものか……悩むね。この時間だと寝ててもおかしくないでしょ。普段のボクならまだまだ寝てる。二時間……三時間は寝てるかも。あるいはベッドの上でだらだらごろごろしてる。カレンもそうかもしれない。そう思うとその邪魔をするのに抵抗がある。

 ……まあ、ダメだったら断られるかな。それならそれでいいや。ってことで、ポチー!



「私よ。……師匠せんせい? どうしたの? ……時間? 起きてたか、って……何言ってるのよ。もう九時よ? いや、寝てる可能性もあるかもしれないけれど……そんなに早くはないでしょう。師匠せんせいはこの国の通勤通学のピークタイムが何時かも認識してないのかしら。……正直、それに関しては私も『普通』と思っているわけではないのだけれど。アナタもその口? 師匠せんせいの出身がどこだかは知らないけれど……まあいいわ。私も師匠せんせいには連絡を取ろうと思っていたの。ミカミも鎮まっている頃だろうし……そうね。ミカミとも会いましょうか。渋谷で現地集合にしておきましょう。……ええ。管理局のロビーで。目印は……私たちがそのまま目印になるか。私でもミカミでも、もちろん師匠せんせいでも。それじゃあ、また後で」



 ということで、愛梨と再会することになった。それが目的ではないとは言え、アオイにとっては一大イベントであることもまた間違いない。


 指導はダンジョン内で行うことになるだろう。目的によってはダンジョン外でもできないことはないものの『魔法やスキルの影響を除外した状態での戦力の向上』なんてことでもない限りはダンジョン内で行ったほうが効率的だ。なんたって魔法がある。【ヒール】を始めとした回復魔法によって怪我も疲労も治すことができるのだから、これを使わない手はないだろう。


 訓練場でやるかどうかはわからない、が……わざわざ『護衛』を用意したなら潜ることもあるかもしれない。なら、それ用の装備をしたほうがいいだろう。


 エアに紹介されたテーラーメイド、レイン謹製の装備に身を包み、アオイは出発する。

 かわいいし性能も良いから探索のときはこれになりがち。

 せっかくの配信なんだから色々かわいい服も着たいんだけど、なかなかね。

 早着替えスキル――【換装】を取得すればダンジョン内でも簡単にお着替えできるんだろうけど、そもそも服が荷物になるので難しい。

 ……って思ったけど、カレンに持ってもらったらいいのかも。

 ボク、頭いい! アオイは思った。明らかな上流階級の娘を荷物持ちにしようという暴挙に及ぼうとしているが、彼女を止める者は居ない。


 実際、カレンなら文句を言いながらも受け入れるだろう。仮にも師匠だ。もっとも、だからと言って彼女が自らを上位者だと思っていることは変わらないし――自分のことを『舐めている』と認識したならばその瞬間に全霊を持って相手を叩き潰そうとするだろうが。

 カレンは『面子』というものを重要視する。舐められたならどんな手段を使ってでもその相手の首を斬れと思うタイプの――言うなれば典型的な『貴族』型の人間である。

 そのことはアオイも承知しているので舐めるようなことをするつもりはない。舐めるようなことをするつもりはないくせに荷物持ち扱いしようとするあたりがアオイなのだが……いや、べつに頼むくらいいいじゃん? あとボク師匠だし。師匠は弟子に何をしてもいいんだよ。アオイもまた古い考えの持ち主であった。教育の賜物である。



「配信でカレンのことなんて紹介しようかな。……あ、配信するんだったら一応マネージャーさんに連絡しておいたほうがいっか」



 カレンの指導はもちろん配信することになっている。わざわざ配信で話したのだし――これからしばらくはアオイがダンジョンに潜るということはカレンの指導をするということになる。これでも一応は配信者だ。それもつい最近チャンネル登録者数が急増し、巷でも話題になっている配信者。こんな絶好の機会に長期間配信をしないなんてことをするわけにはいかない。もっとも、既に以前配信してから少し間は空いてしまっているのだが。


 DTサポート――アオイが契約しているダンジョン配信者の事務所のマネージャーにカレンとの話は報告している。『ほうれんそう』は基本である――が、言うまでもなくアオイがそんな基本を守れるはずもない。報告も連絡も相談も『メンドい』ですぐに怠りかねないのがアオイだ。

 それを見越しているのか、アオイのマネージャーは『タスク』とせずに『報告』を引き出すのが抜群に上手い。チャットや通話を定期的に行うことによって『世間話』をしている。この方策についてはマネージャーからアオイに直接『定期報告とかムリだと思うので』と言われているのだが、その上でアオイはこれを『タスク』だと認識していない。

 マネージャー曰く、「こんな頻繁に……個人的なやりとり……するの……よく、ない……でも、アオイさんは……アオイさん……だから……」とのことだが、彼女の言う通り『報告』の代わりというテイで世間話をさせられるなど、むしろそっちのほうが嫌だと感じる者も決して少なくはないはずだ。アオイは楽しんでやっているので関係ないが、そもそもアオイのようなクズでなければ配信に関することがあれば報告を上げるはずなので『世間話』なんてする必要はない。要するに何も問題はないということだ。


 一見、アオイのマネージャーはあまり会話が得意ではないように思える。ゆっくりと話す穏やかな口調が象徴的だが、その実、単にマイペースというだけで会話が不得手というわけではない。通話よりもチャットなどでのテキスト上のやり取りの方が圧倒的にレスポンスが良いのは何か逆転しているように思えなくもないが、口よりも手が速いというだけなのだろう。

 世間話の内容は様々だ。アオイの気の向くままに話すし、マネージャーの気の向くままに話す。

 アオイのマネージャーは初対面の相手の前で酒を飲み出すくらいにアルコール中毒の疑いのある女性だから酒に関する話をすることもある。

『ウィスキーも好きなんだけど最近全体的な値上がりがすごくて辛い。特にジャパニーズの値上がりがすごい。辛い。今はスコッチを飲んでるけどこっちも値上がりしそう。でもジャパニーズほどじゃないかな』なんて話をされても普段飲酒を嗜むことのないアオイにはよくわからないのだが、そういった話をすることもある。

 カレンと会った話をしたときも、カレンが貸し切りにした酒場の話には食いついてきていた。羨ましいとさえ言われたほどだ。アオイは「そうでしょー」と笑い、「でもちょっと失敗しちゃったんだよねー」と久しぶりの飲酒のせいで未成年の少年におっぱいを触らせた話をした。マネージャーが向こう側で思い切りむせた。


 この話についてのマネージャーの反応をまとめると以下の通りだ。

 アオイは未成年ではないのか? ……身体は未成年だと思う? 身体が未成年なら未成年。飲酒は禁止されている。不可抗力であったとしてもそんな話は配信でするべきではない。

 異性との性的な話についてもするべきではない。それを『売り』にするでもない限りは決して得策であるとは言えない。

 どちらにしても配信で話せば十分過ぎるほど炎上の火種になり得る。絶対に話さないでほしい。


 まったくもって正論であった。むしろこの話を平然と配信でもするつもりであったアオイのほうがおかしい。「言われてみれば……」とは思ったらしいが、言われる前に気付くべきである。


 はい……はい……すみません……はい……。アオイは謝った。ふざけられる雰囲気ではなかったからだ。ガチめなトーンのお説教だった。しかもこっちを気遣ってくれるやつ。なんか、もう……申し訳なくなるよね……。ボクはテキトーな欲望に屈していただけだからなおさら。

 しゅーん。そんな文字が浮き出てくる程度には落ち込んだアオイだが、いつまでも引きずるような女でもない。浮き出たしゅーんの『し』の字を手に取り、それを首枕にして寝転ぶ。ごろんごろん。……まあ失敗とか誰にでもあるよね! むしろマネージャーさんに話してよかったまである! 失敗を未然に防ぐことができたからね。そう考えるとボクってえらいのでは? そのためにマネージャーさんと定期的に話してるっていうのもあるわけだし! うん、ボクえらい! 

 そんな流れで立ち直った。言うまでもなく決してえらくはない。もう少し反省してほしい。


 閑話休題。アオイは「たぶん今日配信すると思う!」とマネージャーに送り付けて渋谷に向かった。


 そして――愛梨と再会して。



「生アオイちゃん最高!!!!!!! かわいすぎ!!!!! が、我慢できない。アオイちゃん、ウチに来ない? あ、今のはウチのクランって意味で――いやもちろんお持ち帰りできることならしたいんだけどそういう邪まな考えはチョットだけしかないから!」



 某エアリエルのように興奮してみせる彼女の様子にアオイはドン引きした。


 えぇ……あ、愛梨ちゃん……そんな子だったっけ……? ぜ、ぜんぜん前会ったときと違うんだけど……。




      *




 時は少し戻り、渋谷。


 アオイはダンジョンに向かって歩いていた。ダンジョンがあることも手伝い、渋谷には探索者が多い。ダンジョン配信を好んで視聴する者も非常に多い。

 アオイは今や有名人と言っても過言ではないものの、ダンジョン配信の『二次使用ができない』という特性上、ダンジョン配信をまったく見ない人々にまで知られているかと言えば『そこそこ』の枠からはみ出したものではない。

 ダンジョン配信は人気のあるコンテンツだが、それはゲーム配信と似たような人気だ。ダンジョンとゲームの最大の違いは『現実かどうか』であり、それはダンジョン配信の最大の『売り』だが――同時に最も大きな『欠点』でもある。

 なぜか。それは言うまでもなく、ダンジョンはゲームほどの『エンタメ性』を有していないからだ。ほとんどが移動時間でバトルシーンなんて限られている。何の修正もなくグロテスクな映像が流れる可能性もある。決して万人受けするコンテンツではない。動画を編集してまとめたものであればゲームにも決して『負けない』が『勝る』とは言えない程度でしかない。

 いくらダンジョン配信で人気になったとは言ってもそれは『その中』での人気に過ぎない。街を歩く人すべてがアオイを知っているわけではないし、むしろほとんどが知らないだろう。

 そもそも、ダンジョン配信者、ゲーム配信者に限らず『配信者』と呼ばれる人々の中でも世間一般にまで知られている人物なんていったいどれだけ居るだろうか。もちろん、民間の探索者の中でも世間一般に知られている人物が居ないというわけではない。しかし、それは『ダンジョン配信者だから』ではないのだ。その探索者を紹介する際に配信の映像を使うようなことはあるかもしれないが、配信それ自体『以外』のものから知られることのほうが多いだろう。


 それだから、いくら配信がバズって知られるようになったからと言っても限度がある。道行く人のほとんどが自分を知っている――そんなことはなかった。


 だが、この渋谷では違う。

 

 渋谷にはダンジョンがある。探索者が多い。探索者でなくとも、ダンジョン関係者は非常に多い。ダンジョン配信をまったく見ないなんて人間はそうそう居ない。ダンジョン配信は『ダンジョンの情報』の宝庫だ。未踏階層でもない限り、自分が探索しようとしている場所についてろくに調べもせずにダンジョンに潜ろうとするなんて、命知らずにも程がある。手段はダンジョン配信だけではないが、やはり『映像』として見ることができるということの利点は替えがきかない。

 探索者ではなかったとしても――あるいは、探索者ではないならば。むしろ『ダンジョン配信』以上にダンジョン内の様子を知る術など限られているのだから、より多くの人々がダンジョン配信を視聴している。


 そんな場所だ。アオイのことを見る目が他の場所と比べてもあまりに違う。有名になってから視線に込められた感情が様変わりしたとは思っていたが、渋谷では本当に皆が皆アオイのことを知っているのではないかと思えてくるほどだ。

 ここまでになるとちょっとムズムズしてくる。いや、美少女になってから視線には慣れたつもりだったけど……ここまでになるとなぁ〜。


 アオイは視線を向けてくる人々の中でも特に自分のファンっぽい(視線に込められた感情の質がエアリエルに似ている)数人に手を振ったり笑いかけたりウィンクしたりした。ファンサービスのつもりである。

 そんなアオイのファンサの威力は絶大であり、無関係の人々まであまりのかわいさに崩れ落ちてしまうほどだった。アオイは「えっ……」と動揺した。

 一人二人ならまだしもその数が崩れ落ちるのは……もう……『事件』じゃん……。突如として集団が昏倒した事件としてネットニュースになってしまってもおかしくない。かわいさだけでこんなことを起こしてしまう自分のかわいさがこわかった。何回あっても学習しない――って言うけどさすがにここまでのことは学習できなくない?

 お、おーい……大丈夫ですかー……? まだ無事な人々とともに倒れた人々の介抱をしていると起き抜けにアオイの顔面を至近距離で食らったファンが再度昏倒するなどの事例が発生した。なんかそれ逆に失礼じゃないかなぁ!? 

 足手まとい認定を受けたアオイは後始末を優しい人たちに任せてその場を去ることにした。『アオイが居たらいつまで経っても終わらなそうだし……』との談だがそれ直接言う? そんな扱いされたら泣いちゃうぞ? 『アオイがそういう扱い受けがちなのかわいいから……つい』キミもしかしてボクの配信の視聴者じゃない? それもバズる前からの! いつもありがと! ファンサしてあげよっか? いいやしちゃお! はい握手〜ギュッ! ドサッ! 死んだー!? や、優しい人ー!

 なんてこともあったので本気でその場から早く去るように言われてしまった。自分の力を制御できずに村から追い出される怪物かな? 最後にはミョーに距離とられてたし『正気を保て!』『ち、近付くな……! これ以上近付くと、恋するぞ……!』なんて互いに励まし合っている姿まで確認できた。ぼ、ボクをなんだと思っているんだ……。


 さておき、待ち合わせだ。カレンとはこの前会ったばかりだから――アオイが考えるのは、やはり愛梨のことだった。


 三上愛梨。アオイが会った当時は……確か、中学生くらいだったか。その頃から綺麗な子で、それでいてかわいい子だった。思えば、雰囲気はカレンにも似ていたかもしれない。要するに『精神的に成熟しているように見えるがまだまだ子ども』といった少女だった。

 気丈に振る舞う姿が印象的だ。当時はずいぶんと弱っていたはずだが、彼女は強い女の子だった。


 ダンジョンがこの世界に発生した日。それに巻き込まれたところで出会ったのが当時の愛梨ちゃんだ。



「……感謝は、するわ。でも、大丈夫だから」


「お節介ね。この状況で私のような足手まといを連れて行く理由なんてあるの?」


「下心でもあるのかしら? ……な、なに笑ってるのよ」


「は、はぁー!? わ、私のような美少女を掴まえて何を……! 子ども扱いするんじゃないわよ!」


「……かわいいって認められるのも、それはそれで複雑なんだけど」


「う、うるさい! しょうがないでしょ。お腹くらい空くわよ!」


「お、おにぎり? ……いえ、そう言えば、あまり食べたことはないと思って」


「……ふふっ。正直、微妙ね。でも……うん。すごく、おいしい」


「足? ……くじいたのは確かだけれど、そんなこと言ってられる状況じゃ――か、勝手に背負うなぁー! えっち! すけべ! っ……か、感謝はしない、から」


「……嘘。ごめんなさい。……あ、ありがとう……って、だから笑うなぁ!」


「ねぇ。もし、ここから出たら……私が、雇ってあげてもいいわよ」


「え? もちろん、コキ使ってあげるわ――そこまで嫌そうな顔する? じょ、冗談よ。……雇ってあげてもいいのは、冗談じゃないけど」


「――今度会ったら、絶対に恩を返してあげるから。私との再会を大いに期待しておくことね!」



 それから結局顔を合わせることなく十年。べつに避けていたわけじゃないけど、単に会う機会がなかった。連絡先とかも交換してなかったからね。そもそもスマホとか動かなかったし――スマホを触れるような状況になってからは色々とごたごたしてたから。ボクはさっさと逃げたけど。


 いったいどんな子になっているんだろう。探索者になっているのは予想の範疇だけど、あそこまで綺麗になって、しかもモデルさんにまでなってるとは。


 昔の愛梨ちゃんはちょっとツンデレっぽいところあったけど、今はどうだろう。丸くなってるかな? 意外とそんなに変わってなかったりして。当時から自分をしっかり持った子だったし……どんな子になっているにせよ、会うのが楽しみなことは間違いない。


 愛梨ちゃんはボクのこと――は、見てもわからないだろうけど、美少女になったってことを差し引いても覚えていないかもしれない。十年も前のことだもん。覚えてなくてもおかしくない。ボクも愛梨ちゃん以外の子はそんなに覚えてるわけじゃないし。


 もし愛梨ちゃんがそんなに変わってないとしたら――カレンも我の強い子だし、相性はあまり良くないかもしれない。って、これは愛梨ちゃんのことを子ども扱いし過ぎかな? どうしても当時の印象が強いから子どものように考えてしまう。親戚のおじさんおばさんかな? さすがにそこまで離れてないけど。


 ギスギスしちゃってたらどうしよう。となると遅れるわけにはいかない。まにあえ〜。


 そんなこんなで管理局のロビーに着いた。ボク一番乗りかな? そう思いながらきょろきょろ探すと――居た。エドワードさんだ。身長高いから目立つんだよね、あの人。周りの人の意識もあそこらへんに向かってるし……ボクが来たことによってボクのほうにも向けられてるけど、それまでね。カレンもお人形さんみたいな美少女だし、愛梨ちゃんも有名人っぽいから。注目を浴びるのは必然だろう。


 そういうわけで愛梨ちゃんたちを見つけた。同時にあちらもボクのことを見つけたのだろう。目が合った。カレンは特段大きな反応をせず、ただ疲れたように息を吐いていた。しかし、愛梨ちゃんは。


 ボクの姿を確認した瞬間に――予想とは違って、目を輝かせて。


 あれ? なんか、もっとムスッとした感じだと思ってたんだけど……ちょっとテンション高くない? うぅーん? 思い出の愛梨ちゃんとどうにも結びつかない。


 内心首を傾げながらも愛梨たちに近づく。その間も愛梨の興奮は留まるところを知らず、息さえ荒らげ始めていた。明らかに様子がおかしい。そう思いながら挨拶しようとした結果――開口一番、アレである。


 アオイは固まった。脳が目の前の光景を処理することができなかった。知人の変わり果てた姿を前にして、どうすればいいのかわからなかったのだ。


 そんなアオイに動揺にはまだ気付いていないのだろう。愛梨は上がりに上がったテンションのまま、「――って、ごめんね、アオイちゃん。その前に自己紹介が必要よね」と一言謝り、



「初めまして。私は愛梨。美神愛梨。でも、アオイちゃんにはこう言った方がいいかしら」



 こほん、と咳払いして――愛梨は自分の胸に手を当てる。



「私がフレイヤよ! ずっとずっと会いたかった! やっと会えたわね、アオイちゃん!」


「えっ!?」



 ふっ……フレイヤさん!? あの明らかに厄介そうなボクのファンの? 配信で結構気持ち悪い感じのことばっかり言う、あの!? あのフレイヤさんが……愛梨ちゃん?



(ま、マジかぁ……)



 フレイヤに対して悪印象を持っていたわけではない。むしろ自分を好いてくれているということで好印象ではあったし、いつか会ってみたい気持ちもないではなかった。しかし、それにしたって……昔の知人が『そう』であったとわかって何も思わないでいられるわけでもない。


 色々とショックを受けながらも、アオイは「う、うん。ボクもずっと会いたかったよ。これからよろしく、愛梨ちゃん」と返してみせた。ま、まあ、十年も経ってるんだもん。そりゃ、多少は人も変わるってものだよね。うん。



「あ、愛梨ちゃん呼び!? と言うか生声良すぎ……かわい……私のものにしたい……むしろ私がアオイちゃんのものになりたい……」



 いやそれにしたって変わりすぎでしょ!!!!!


 ボクか? ボクのかわいさが悪いのか? かわいいって……罪だなぁ!


 アオイは今までで一番自分がかわいすぎることに責任を感じた。知人の変わり果てた姿はさすがのアオイにも効いたらしい。



「あ、あはは……ぼ、ボクも愛梨ちゃんのものにならなりたいかもー……」



 死んだ目をしながらそんなことを言うアオイ。それをまともに受け取って「ほ、本当に!? ……け、契約……【書士】に契約書を書かせないと……!」なんて危ない目をする愛梨。そしてこの場にはもうひとり。



「……師匠せんせいも社交辞令って言えるのね」



 同情の目をしたカレンがつぶやく。


 失礼なことを言うなぁ。……それより、見てないでちょっと助けてくれません?


 落ち着く時間が欲しい。


 切実に。

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― 新着の感想 ―
割と面白かったけど結構な頻度で混ざってくるオスガキパートがすごいノイズだった
[一言] 次の更新待ってます!
[良い点] 1日で最新話まで読破ちゃった……。次は……。次はないんですか……。
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