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ひともんちゃく後はパーッとね!

「ん? ……これ、どういう状況?」



 アオイが訓練場に到着したのは、ちょうどカレンと勇斗たちが戦っているところだった。入場のときに局員さんから「ちょっと事情があって今は配信禁止の設定になっているんですが……」なんて言われたけど、これが関係してるのかな。



 誰かに事情を聞こう。アオイはぐるりと周囲を一瞥。注目がこちらに向かいかけていることを察する。……しー、と人差し指を唇に当ててそれを制する。ユートくんたちがお取り込み中みたいだし……それを邪魔したくないから。


 ちなみにアオイの『しー』にはアオイが予想した以上の破壊力があったみたいで急に倒れだした探索者が続出した。嘘ぉ!? アオイは動揺した。ボクのかわいさ、凶器か……? というか『しー』ってしたんだから静かにしてよぉ! ぜんぜん守れてないじゃんかー! ぶつくさ文句を言いながら訓練所のヒーラーさんに手伝ってもらって倒れた探索者を治して回る。

 しかし、それを除けば静かにしてくれているのは静かにしてくれていた。それはそれでなんで……? ボクのことをできるだけ見ないようにしながらユートくんたちからボクが見えないように壁になってくれてるし……。


 どゆこと? そう思って知らない人に尋ねてみると「うおっ……アオイ……直に見ると破壊力すげぇな……あ、ああ、すまん。……うん? あ、知らんの? あー……どう説明しよ。んー……あ、ほら、あそこあそこ」なんてどこかを指し示された。その先を見るとそこに居たのはエドワードさん。ボクに『とある女の子を指導してほしい』なんて話を持ちかけてきた男の人だ。


 彼の立ち位置を見るに……ユートくんと戦っている女の子が、ボクが指導する予定の女の子ってことかな? 金髪碧眼の美少女だ。服は……探索者用の装備だけど、めっちゃかわいいな。あとたぶんめっちゃ高い。これは勘だし『高そうに見える服』ってわけじゃないんだけど……なんとなくそうだと思う。セレブリティ……!


 しかし、ユートくんが戦っている女の子のことはわかったけれど、それでボクを彼らから隠してくれるのはなんでなんだろうか。……いや、エドワードさんをわざわざ指し示したってことは、そこんところもここに居る人たちは理解してくれているってことかな。

 ボクの配信を見てエドワードさんとボクの関係、そしてユートくんと戦っている女の子が『ボクが指導する予定の女の子』だってことまで察してくれているから、彼らにボクが見つからないようにと協力してくれているわけだ。さすがに今の身体だとボクも存在感消すのは難しいし、助かるなぁ。美少女配信者で良かったぜ。



 ただ、ここはさすがにちょっと見えにくい。もうちょっといい感じの場所はないかなー、と探す。



「お?」



 そうしていると見覚えのある顔が。ちょうどいい位置に居たこともあって、アオイはとことこと彼へと近寄っていく。

『子どもを見守る大人』のような目で勇斗たちの戦いを眺める彼の名は大狼大牙。アオイにとっては――



「ね、ナンパのお兄さん」



 意識の間を縫って気付かれない内に大狼に近づいたアオイはとんとんと彼の肩を叩いた。アオイを初めて――あれ以降一度もされていないことを思えば唯一――ナンパしてくれた男の人だ。チャラそうで遊び人っぽい外見とは裏腹にやけに『初々しい』感じでナンパしてくれたことが印象的だ。たぶん良い人。

 あと一応知り合いだし、今ここに居る人たちの中ではいちばん強いし……状況を把握するためにはてっぺんに聞くのがいちばん手っ取り早いってね。



「ん? なん――っ!? ……え? ん? あ、ああ、アオイ、ちゃん……?」



 ナンパのお兄さんが思った通りの反応をしてくれる。そうそうそれそれ。その反応だよ。ボクのかわいさにドギマギする男の人……やっぱり、良い! 気持ちいい! ふふん、と意味もなく腕組みして鼻を伸ばしたくなってしまうが、それはなんとか押し止める。



「そうそう、アオイちゃんです。ボクの名前、知ってくれてたんだね」


「あっ、いや、そりゃオレの女神だし――は、配信、見た、から」


「そうっぽいね! ぇへへ、知り合いに見られるのってちょっとハズいかも? でも、見てくれるのは嬉しいなぁ。ありがとね、おにーさん!」


「ぅぐっ……!」



 お兄さんが胸を抑えて苦しんでいる。ボクのかわいさにやられてしまったようだ。だが、この人はそんじょそこらの男の人とは違う。ボクのかわいさに悶絶しながらも崩れ落ちることはなく、なんとか正気を保ってくれている。



「そ、それで、アオイちゃんは、どうして、ここに? いや、エドワード・カーターか。勇斗と戦っているカレン・ウォーカーの指導をするってんだから……会いに来たのか」


「うん。エドワードさんからここに居るって聞いてね。それで……どういう状況? なんでボクの生徒候補……弟子候補? カレンちゃん? が、ユートくんとアズサちゃんと戦うなんてことになってるのかな」


「勇斗と梓ちゃんのことも知ってるのか。なら二人の説明はしなくていいか。端的に説明すると、カレン・ウォーカーが梓ちゃんに興味を持って……」



 経緯を聞く。ふんふむ。なるほど。そういうことね。



「……ご、強引だなぁ」



 アオイは引いた。いや、アズサちゃんのギフトを考えるとそれくらいするのも仕方ないのかもしれないけど……やろうと思えば今からソロでダイブしてそのまま第百層まで到達することも可能ってくらい破格なギフトだからね。さすがは否定系統って感じだ。

 しかし、それでもカレンの強引な『勧誘』はお世辞にも褒めることができるものではない。ボクの弟子候補、かなりの問題児じゃない? アオイは思った。これは教育が必要かもしれませんなぁ……。


 それからは観戦。お兄さんも『いったんは様子見』って決めたみたいだし、ボクもそれに否はない。あと、何か起こってもボクが出るからって話もした。さすがにお兄さんくらい高位の探索者になったら『負けても当たり前』ってなっちゃうし……せっかく指導するんだ。最初に上下関係ははっきりさせておいたほうがいいでしょう? そう微笑むとお兄さんはなんか顔を赤くしていた。え? なんで? ……今のボク、なんかえっちだった? ねぇ? えっちだった? ねーぇー? しかし詰めても詰めてもお兄さんは初々しくドギマギするばかりであった。かわいい。

 お兄さんのことを慕ってるっぽい探索者の人たちが「ガミさん……かわいいぜ」「アオイ相手にああなるのは当たり前っちゃ当たり前だけどなー」なんてこそこそ言ってるのが聞こえる。ボクに聞こえるということはお兄さんにも聞こえているのでお兄さんがギンッとそちらを睨んで散らしている。ふふっ、なんか青春っぽい。こういうの良いなぁ。



 そんなこんなで和気藹々と観戦を続け、決着したところで介入。カレンを教育して――現在。



 抱きとめたカレンの方から、パキッ、と何かが割れる音がした。カレンが身につけていた魔導具が役目を果たしたのだろう。【復活】か。アオイはつぶやく。



「……殺す必要あった? 気絶させるだけで良かったんじゃないかしら」


「いやー、つい」


「『つい』で殺人を犯してんじゃないわよ……エド! アナタも私の騎士ならぼーっと眺めているだけじゃなくて何かしなさい!」



 完治したカレンがアオイの身体に抱きとめられたままエドワードに文句を言う。彼は鷹揚に肩をすくめて、「いえ、画になるお二人の邪魔をするのはいかがなものか、と思いまして」



「へらず口。疲れたのよ。早く私の脚になりなさい」


「仰せのままに。では、アオイ嬢。お嬢さんは返してもらいますね」


「あ、どうぞどうぞ」



 ひょい、とエドワードがカレンを抱える。お姫様抱っこだ。可憐な少女と大柄な男性の対比。画になるなぁ。



「あ。そう言えばカレン、『ごめんなさい』は?」


「は? ……何のことよ」


「いや、ユートくんとアズサちゃんにさ。めちゃくちゃ迷惑かけたわけじゃん? 謝るのは当たり前って言うか……ボクとしても謝らせないわけにはいかないって言うか」



 ほら、ボクもいっしょに謝ってあげるからー、とアオイ。勇斗と梓は……先程まで勇斗は魔力欠乏の症状が出ていたようだが、(外傷に関しては梓の【ヒール】ですぐに治っていた)、大狼からマナポーションでももらったのか、今では何ともないように見える。



「謝るようなことは何もしていないけれど。私はアズサが欲しかったし――そのためにどんな手段を取ることもできた。でも、ユートたちは『力を示した』。なら、この話はこれで終わり。私とユートたちとの間の話よ。そこに何か言われる筋合いなんてないわ」



 しかし、カレンはそんなことを言ってみせる。どうやらカレンはアズサへの強引な勧誘について『当然のもの』と思っているらしい。今では諦めているようだが……一応、釘を刺しておこうかな。



「ね、カレン。……もし、アズサちゃんのことをまだ諦めていないなら変な手を回すのはやめなよ。ボクにはわかるし――『ダンジョンの外』でボクを相手にしたくないでしょ?」



 アオイがそう言うとカレンはわかりやすく顔をひきつらせた。頭が回る少女だ。アオイが敵に回った場合の『最悪』を想定したのかもしれない。



「わかってるわよ。だから、脅すのはやめなさい。師匠せんせいがテロリストになったらどれだけ厄介かはわかっているつもりだから」


「よろしい。あ、でも謝るのはちゃんと謝りなよ。変に怖がらせちゃったのは事実なんだから」


「べつに、アフターフォローくらい言われなくてもちゃんとするわよ」


「それ『謝る』わけじゃないでしょ? 結果的にユートくんたちも納得してカレンに対する印象も良くなるような形に持っていくつもりなんだろうけど、謝罪は謝罪でちゃんとしなさい。師匠からの命令です」


「……Point taken.(わかりました)」



 そしてカレンはエドワードを促して勇斗たちのところへ行く――のではなく。


 ぽんっ、と手元に拡声器を取り出した。



「シブヤの探索者諸君! 騒がせたわね! お詫びに食事を奢ってあげるわ! この後の予定が空いている者は付いて来なさい!」



 そんなことを宣言してみせると、周囲の探索者からわっと声が上がった。


 基本的に、探索者は大食漢だ。位階が上がれば上がるほどエネルギーを必要とする。普通に生活しているぶんにはそうでもないが、探索後や訓練の後はどうしても栄養を欲する身体になっている。

 そんな探索者たちからしてみれば、カレンのこの提案は非常に魅力的なものだろう。


 と言うか、この件に巻き込まれたすべての探索者にわかりやすい『お詫び』をするって……力技だけど、確かに効果的だろう。悪印象が一気にひっくり返るはずだ。


 あ、しかもこのどさくさに紛れてユートくんとアズサちゃんのところに行って「アナタたちも来るでしょう? 改めて謝罪もしたいのだけれど……そうでなくとも、個人的に、アナタたちと食事をしたいと思っているの」なんて言っている。


 そんなことを言われてしまっては勇斗たちも攻撃的ではいられないようでカレンのことを受け入れている。


 ……これ、ぜんぶ計算ずく? アオイは思った。ボクの弟子、こわぁ……。

 期せずして『政治家』を知ってしまったアオイであった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 前回殺してたんだ!?確かにナイフでがっつり刺してましたし描写的に死んでましたね。 しかし「つい」で殺すあたりアオイはやべーやつですね。 TS前の素性や生い立ちがさらに気になってきました
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