星勇斗の冒険 7
ある日、勇斗のもとに師匠である和泉サキからのメッセージが届いた。
書かれていた内容は端的なもの。『これを見ろ』という文面と、あるダンジョン配信のURL。
その配信はとある少女の配信だった。
とある少女が四人の男女と模擬戦を行うもの。
その四人の男女の中には勇斗の師匠も居たが――勇斗にとっては、それよりも。
「……アオイ」
以前、自分をオーガから救ってくれた少女、アオイ。
彼女が配信をしていることなんて勇斗は知らなかった。どうして今まで知らなかったのか――アオイほどの美少女が世に知られないはずがない。そう思っていたのだが、過去のアーカイブを見てすぐに察した。タイトルもサムネイルも未設定だ。こんなもの、なかなか見ようとはしないだろう。
そして、その動画の内容は。
「師匠に……勝つのか」
アオイは魔法を使い、サキは何のスキルも使っていなかったとは言え――それでも、自分と同年代の少女が師匠に勝てるなどとは思わなかった。
ありえないことではない。在りし日の師匠、和泉サキは日本国内において最高峰の剣士である『剣聖』を闇討ちして勝利している。
大阪は梅田ダンジョンを拠点とする日本におけるトップクラン『夜明けの地平線』の創設メンバーの一人であり、一軍パーティーでもある『剣聖』。ダンジョン発生以前より剣道で圧倒的な実力を示していた彼もまた天才と呼ばれる類の人間であり、年下の少女になど負ける光景は誰も想像できなかっただろう。
その時のことを思えば、サキにだって同じことが起こってもおかしくはない。おかしくはない、のだが……それでも、容易に納得できることではない。
アオイが強いことは知っていた。信じられないほどの高みに居ることは知っていた。非探索者とそう変わらないような位階の少女がオーガを倒す。それだけでも十分過ぎるほどに驚嘆せしめる事象であるが、それでも高位の探索者からすれば『たかがオーガ』と言えるようなものではある。
だが、サキは――『剣姫』は違う。たとえ彼女が魔法やスキルを使わなかったとしてもほとんどの探索者が『敵わない』と答えるだろう。
アオイとの模擬戦においてエアリエルは【バリア】を使ったが、サキからすれば斬れば終わりだ。【テンペスト】なんて使わせる時間も与えない。ほとんどの存在にとって防御不可能かつ回避不可能な斬撃が『通常攻撃』。それが『剣姫』だ。
勇斗はそれを知っている。『剣姫』唯一の弟子、星勇斗。彼は彼女の強さを知っている。自ら配信を行うことのない彼女が戦った映像はそれほど残されているわけではない。だが、勇斗は『今の彼女』の実力を知っている。だからこそ、アオイがどれだけのことを成し遂げたのか、より実感することができた。
アオイは想像していたよりもずっと高みに居る。それも、あまり位階が高いとは言えない現時点で、だ。
アオイは位階に関わらない技術を駆使して戦うが、それだけに頼るような戦い方はしていない。使えるものはすべて使っている。そして、これからはそれがもっと多くなる。そうなればもっと強くなることは間違いない。
オーガ戦では見られなかった魔法を駆使した戦い方……フィジカルだけではない。アオイは位階が上がれば上がるほどに強くなる。それも、飛躍的と言えるほどのスピードで。
そんなアオイに追いつけるか。彼女に並ぶ存在になるためには並大抵の努力では足りない。あまりにも。
だが、いったいどうすれば。勇斗は考える。参考になることはないかとアオイの配信の過去アーカイブを見る。すべてのダンジョン配信がそうであるように、戦闘シーンはほとんどなく、基本的にアオイが雑談しているだけである。
「…………なんか、見ちゃいけないものを見ている気分になるな」
知り合いが配信者をやっているところを見ると変な気持ちになる。
相手には知られずに一方的に見続けることができる……これ、ほどほどにしないとマズいな。
勇斗は思った。断腸の思いで戦闘シーン以外は飛ばして見る。
自制心の強い少年だった。
*
渋谷ダンジョン第一層、訓練場。
空間魔法や魔道具を用いて作られた異界の中にそれはある。
今、ここでは渋谷ダンジョンにおけるトップパーティー/クランである『シブヤウォーリアーズ』主催の訓練会が行われている。参加条件はない。広く門戸を開いているそれは定期的に開催されており、参加を希望する者も少なくない。
『シブヤウォーリアーズ』はそのモブっぽい名前とは裏腹に非常に実力のあるパーティーだ。クランと呼ばれることもあるが、それは『シブヤウォーリアーズ』を慕い実質的に『傘下』と呼ばれるようなパーティー/クランを総合すれば、の話である。『シブヤウォーリアーズ』自体はあくまで一単位のパーティであり、クランを作ろうとしたことはない。
「クランなんてつくったら『垣根』ができるだろ? どーしてもよ。みんなで強くなりてぇのよ。オレはな。クランもパーティーも関係ねぇ。なら、クランなんて枠は邪魔だろ? 誰でも参加できるし誰でも抜けれる。堅っ苦しいしがらみは抜きだ。自由に行こうぜ」
『シブヤウォーリアーズ』のリーダーの言葉だ。新規も中堅も、あるいは最前線の探索者だって参加する『シブヤウォーリアーズ』の訓練会は彼のそうした理念があるからこそのものだろう。
『シブヤウォーリアーズ』主導の訓練会は万人に開かれたものであり、必ずしも『教える側』と『教えられる側』で別れるものではない。積極的に教え合おうという精神が根付いている。それを苦手とする者は最初から近付かないが(勇斗が見たところ、梓はこの雰囲気が少し苦手そうだった)、少し苦手なくらいなら参加したほうがいいと断言できるほどにメリットが大きい場でもある。
パーティーメンバーの沢木梓――ユニークスキル【無尽】の保持者である彼女と訓練場に来た勇斗は梓の様子を見て『ひとりにはできないな』と思っていた。まずは彼女の訓練相手について考えるべきだろう。自分の背中に隠れる彼女を放置しておくことはできない。……ひっつきすぎだろ、梓。もうちょっと離れてくれないか? え? 無理? お前……やっぱりちょっと図太いところあるよな……。
梓のことだ。教えてもらうなら女性のほうがいいだろう。訓練場の中をぐるりと見回し、女性探索者が集まっているところがないかを探す。『シブヤウォーリアーズ』は男性のみで構成されているパーティーであり、それを慕う者も男性が多い。訓練会に参加する者もやはり男性が多いのだが――それでも女性が居ないわけではない。
女性が集まっている場所……と探して、真っ先に見つけたのは一つ。ただ、そちらはあまり良い集団とは言えなかった。少なくとも梓には向いていないだろう。一人の男性探索者を中心に女性探索者が集まっている。中心に居るのは『シブヤウォーリアーズ』唯一の魔法職の男性だ。甘い顔立ちをした、長身の男性。女性人気が非常に高いと勇斗でも知っている探索者だ。
ただ、非常に真面目な人でもあると聞いている。実際、彼は明らかに下心目的である女性探索者にも優しく指導を行っている。……いや、むしろ梓向きか? 勇斗は考える。彼は女性探索者人気も高いが、同じくらい男性探索者人気も高い。理由は二つ。一つ、彼は男性に対しても等しく優しく接するからだ。実際に彼に指導をしてもらってきゅんとしてしまった男性探索者は少なくない。そしてもう一つは――彼は探索者の中でも屈指の『ダンジョン狂い』として有名だからだ。物腰柔らかで甘いマスクで万人に優しく接する彼だが、いわゆる『検証勢』と呼ばれるような勢力の筆頭とさえ呼ばれる男性でもある。
女性との悪い噂なんて聞かない。聞くはずがない。ダンジョンに対する感情が強すぎて他のことにうつつを抜かしている姿が思い浮かばない。勇斗も彼が書いた記事は参考にしたことがある。各スキルの仕様についての検証やダンジョンの植生に関して専門家を交えた調査、ダンジョンに出現するモンスターに対して生物学的な知見に基づいて調べるなど、異常なまでに手が広い。それでいて後進の育成にも手を抜かない。パーティーメンバーには厳しく接することもあるが……。
……うん。やっぱり梓が教えてもらうなら彼は適任かもしれない。早速声をかけて――そう思った踏み出したところ、梓が勇斗に袖を引っ張ってきた。見ると彼女は怯えるような表情でふるふると首を横に振っている。どうやらあそこに混ざるのには抵抗があるらしい。まあ、気持ちはわからなくもない。
ただ『シブヤウォーリアーズ』は一人を除いて女性関係に関する悪い噂はまったく聞かないパーティーなことは本当だ。その一人が致命的でもあるのだが……彼にしたって『悪い噂』とは言っても悪どい手段を用いて女性をたぶらかしているわけではない。渋谷の民間探索者の中では最前線組、かつ実力も非常に高い探索者。それだけで魅力的な探索者であり――彼もまた、魅力的だと感じた女性を真正面から口説くだけだ。
勇斗からすれば、それでも『女性を口説く』という行為に抵抗がないわけではないが……彼もまた、同じ男性から非常に慕われる探索者だ。『シブヤウォーリアーズ』全体にそうした傾向はあるが、中でも彼は『兄貴分』として慕われることが非常に多い。らしい。
彼の名前は大狼大牙。『シブヤウォーリアーズ』所属の探索者であり、根っからの近接職。
そして。
「ん? 新入りか?」
背後からの声に、びくり、と梓が驚き跳ねる様子が伝わってくる。ビビりすぎだが、こうも近くで驚かれるとこっちは冷静になってくる。
振り向くと、そこに居たのは一人の男性――大狼大牙。彼の登場に勇斗は思わず梓を背中に隠してしまう。
「ハハッ! いいなぁ、お前。男だな。だが安心しろ。オレはもう女神を見つけている。他の女性を愛することはないからな。……それに、もとから子どもは対象外だ」
子ども、という単語に梓が微妙に反応する。しかし面と向かって反発できるような度胸はないのだろう。勇斗にしか聞こえないほど小さな声で「子どもって……」とぼそりとつぶやくだけだ。
「ああ、ごめんな。キミのことを馬鹿にしたわけじゃないが、失礼な発言だったな。謝罪するよ」
ちなみに大狼には聞こえている。彼は高位探索者であり、スキルの影響もあって聴覚は強化されている。梓のつぶやきを聴き逃がせるはずもない。梓はあからさまに怯えて「ご、ごめんなさい……」と小さくなった。
そんな彼女を見て大狼は口を開けて笑っている。勇斗はため息をついて、「あんまりからかわないでやってください」と梓をかばう。からかわれているだけだから気にするな、と。
「ハッハッハ! すまんな! 小動物みたいでかわいかったから、つい、な」
「しょ、小動物……」
梓がショックを受ける。この顔は……『小動物って……た、確かにわたしはちっちゃいですけど、そんなこと言わなくてもよくないですか? で、デリカシーなさすぎです。このひと……苦手かも……』と思っていそうな表情だ。
ちなみに勇斗も梓のことは小動物みたいでかわいいと思っている。ので、反論できない。答えは沈黙。
「んー……そうだな。失礼なことをしたお返しに――オレが直々に指導してやる。ちょっと付き合え」
そう言われて、勇斗の身体に緊張が走る。梓は小声で「え……」と嫌そうにしているが、彼は紛れもなく『シブヤウォーリアーズ』の一員だ。配信で戦っているところも何度も見てきた。配信にも力を入れている『夜明けの地平線』とは違って『シブヤウォーリアーズ』はそれほど配信には力を入れていない。
だから梓はあまり知らないのかもしれないが――日本で最も人口の多い東京、渋谷のダンジョン。渋谷ダンジョンにおける最前線組である彼らは、国内の探索者においては頂点に位置する探索者と言っても過言ではない。
そんな彼から直接指導を受ける。……珍しいことではないと勇斗は知っている。だが、それでも、貴重な機会であることは間違いない。
勇斗には師匠が居る。その師匠から受ける指導に不満はない。自分にはもったいないくらいの師匠だ。そんな彼女から指導を受けているのだから他の人に教えられることはない――なんてことは、もちろんない。
何かを掴む。
折角の好機だ。逃す手はない。俺にとっても――梓にとっても。
「じゃあ、やるか。なんでもいい。オレに一発入れてみろ」
大狼が言って、ゆっくりと歩いて距離を開ける。勇斗は梓の耳元に口を寄せる。梓が「ひぅ」なんて声を上げる。
「梓――本気でやろう。あの人はあんなだけど……『シブヤウォーリアーズ』のメンバーだ。民間探索者の中では国内でも最高峰の実力を持つ一人だ」
「えっ」梓が意外そうに声を上げる。「あの人が?」
やはり気付いていなかったか。そう思いながら、「ああ。絶対に勝てない。だから――本気でやろう。強くなるために。何かを掴むために」
「……うん。うん! わたしも、頑張る。強く、なりたいから」
ぎゅ、と梓が杖を握る。勇斗も剣を握りしめる。大狼が牙を見せて獰猛な笑みを浮かべる。
「――いい目をしている。いいぜ、来い。強くしてやる」
そう言った彼の身体から、闘気が濃密な魔力となって溢れ出す。
物理的な影響をもたらさないはずのそれは、どうしてか周囲の空気まで圧迫するようなものに感じられた。
*
そして、今。
「ハッハッハー! たーべちゃーうぞー!」
「ひぃいいいいいいいいいいん!」
梓が大狼に遊ばれている。スキルとして【狼】の獣性を取得している大狼には狼じみたところがある。それを彼もわかっているのだろう。狼だぞー、なんて言って梓を追い回している姿はどう見ても近所の気のいいお兄さんにしか見えない。逃げている梓からすればたまったもんじゃないだろうが……子どもに対しても本気で遊んでくれる大人だ。どうしても好感触を持ってしまう。
「ほいっと」
「ひぅ!」
そうこうしてるうちに、梓が大狼に囚えられていた。首根っこを掴まれて持ち上げられている。梓は鳴きながら足を宙でバタバタと動かしている。
「梓ちゃんは……スタミナはあるけど、足が早いわけじゃないなぁ。あと、もうちょっと落ち着くことを覚えたほうがいいだろうな」
魔法に関してはオレもそんなに教えられるわけじゃないが、と大狼。「梓ちゃんの戦い方は……考えたのは、勇斗か?」
「……そう、ですね。梓がもとからやっていた戦い方もありますが」
「ああ、べつに間違ってるってわけじゃないぞ? まあアレでいいだろ。【フライ】は――」
「俺も覚えてもらったほうがいいとは思ってます。でも……ちょっと心配もありますね」
「……魔法制御な。オレもヒルトレからは逃げたタチだからあんまり言えねぇんだが……梓ちゃんのは、ちょっとな。代償か?」
「代償?」勇斗は『魔封』のことを思い出す。魔力を封じる代償に強力無比のバリアを自動展開できるようになる魔道具。それと同じで梓の不器用さも何かの『代償』として捧げているだけではないのか、と。
「いや、その反応は違うっぽいな。単に不器用なだけか。……ま、梓ちゃんのことは勇斗の方針でいいだろ。何か意見が欲しいなら魔法職に聞け。オレは専門じゃない」
それより、と大狼は勇斗に目を向ける。梓の首元から手を離し、梓が地面に落とされる。そそくさと彼女は勇斗の背中に隠れた。完全に苦手意識を持ってしまったようだ。
だが、勇斗は彼女を気にしていられない。慰めるように頭を撫でながら、自分について話し始めた大狼に向き直る。
「勇斗。テメェ、独学じゃねぇだろ。剣術道場でも通ってたか?」
「似たようなもんですが――師匠が一人」
「誰だ」
「和泉サキさんです」
大狼の目が微かに見開く。「サキか。『剣姫』なんて呼ばれるようになったが――まさか、弟子まで取っているとは。そういう性格じゃなかったような気もするが……いつからだ?」
「七年前から」
「サキが探索者になる前かよ。ってか、その頃だとサキも中一とかだろ? そんな時期のサキを師匠にするって……お前、すげぇな」
だが、と大狼は口角を上げる。
「知ってるか? アイツもウチの訓練会に参加したことがあってな……お前らみたいに試す余地なんてなかったが。しかし、あの天才剣士もさすがに指導までは天才じゃなかったか」
その言葉に勇斗は思わず反応してしまう。師匠を侮辱されたのかと感じて剣に手を伸ばした彼を見て大狼は笑う。
「いや、べつに馬鹿にしてるわけじゃなくてな? そりゃそうだよなって話だ。悪いわけでもないし……やっぱり、目を見張るようなところもある。勇斗、お前を見てるだけでもな」
しかし、それでも――教えられていないこともある。
だから、と大狼は楽しそうに口角を吊り上げた。
「勇斗。あの天才娘には教えられないことを教えてやろう。ダンジョンの中だ。非公開設定で配信しろ。動画に残して自分の動きを見返せ。学べ。実践と反省、反復練習だ。考えろ。どうすれば良かったのか。どうすれば良くなるのか。手本も見せてやる。理屈だって教えてやる。さあ――強くなろうぜ」
そうして、勇斗は大狼の指導を受ける。梓の面倒は見切れないと判断したのか、彼女に関しては大狼自身が託せる女性探索者を探してくれた。その女性探索者は大狼に対して「お願い聞いてあげたんだからー、また……ね?」とあからさまなアプローチをかけていたが、「オレの女神に顔向けできねぇっつってんだろ」とあしらっていた。梓は女性探索者の豊満な胸に埋もれてあわあわと手を動かしていた。ぬいぐるみ扱いされてる……。しかし勇斗には助けられなかった。できれば代わってあげたかったが。羨ましかったわけではなく。
「おお! 今のはいいぞ! やっぱり剣の扱いは一級品だな。新米のそれじゃない。探索者も剣術を修めているかってーとだいたい独学だからな。その点、本格的に学んでるってヤツはやっぱり強い」
「探索を続けていると剣の手入れも大事だけど、どうしてる? ……ああ、それ生産職から聞いた? うん、いいんだけど、探索するならこういう方法もあって……配信とかに出すと生産職からバッシング受ける可能性もあるからあんまり大声では言えないんだけど」
「体術も大事だぞ~、少年。大狼さんは我流だが、スキルを使った動きは探索者の中でもトップクラスだろ。スキル抜きだと喧嘩殺法過ぎるが」
「そこらへんは体術教えてくれるとこでちゃんと習ったほうがいいかもな」
「個人的には最近だと氷雨チャンネルとかが推しだな。MMA(総合格闘技)っぽいところもあるんだけど、アレで古武術名乗ってるからな。自分でも『色んな技術を貪欲に取り込みすぎてキメラみたいになってる武術になっちゃってるところはあるんですが』なんて言ってたが」
「ここ数年の探索者の中ではトップクラスの有望株だよな~」
「お前ら、雑談するなら散れ! オレが勇斗を教えてるってのに……ったく」
勇斗に関しては、大狼が教えているうちに興味を持った他の探索者も続々と集まってきて色々と教えてくれるようになった。大狼の人望のなせる業だろう。
そうしているとやはり時間は流れるのが早く、勇斗は大狼から「また訓練会やるときは来い。手が空いてたら教えてやる。サキの弟子をオレが強くするってのも気分いいからな」と誘われた。その提案は非常に魅力的なものであり、断る理由なんてなかった。梓もなんやかんや充実した訓練ができたらしく、「ゆ、勇斗くん。つ、次の探索では、わたし、もっとできると思う!」と猛々しいことを言ってくれた。
そんな彼女に大狼からまた訓練会に来ないかと誘われたことを話すと梓は複雑な表情を浮かべていた。
充実した訓練はできたが、充実していたからこそあんまり高頻度だと疲れるから嫌だなとか思っていそうな表情だった。
甘えるな。
……ご褒美なら考えるから。甘いものでいいか?
勇斗も甘かった。甘いもので釣られると思うなんて考えも甘かったが、梓はしっかりと釣られてくれた。
*
そして、何度か訓練会に参加して、充実した日々を過ごし――ある日。
「初めまして。私の名前はカレン・ウォーカー」
金髪碧眼の少女がひとり、勇斗と梓に近寄ってきた。
幼さの残る少女だ。しかし、その振る舞いには絶対者特有の風格があった。傲慢にも感じられるほどの圧倒的な自信。そんな彼女が悠然と勇斗たちに向かって歩いてくる。
彼女は言った。
「私なら、アナタをもっとうまく使ってあげられる。だから――アナタが欲しいわ」
望むものを与えましょう。
だから、アナタのすべてを捧げなさい。
筋骨隆々とした彫りの深い男を侍らせて、断られることを一切考慮していない絶対者の言葉を彼女は放った。
梓が勇斗の袖をぎゅっと強く握りしめる。
勇斗はその手をどうすることもできなかった。




