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DTサポート

 今日はゴミの人――ボクの配信をサポートしてくれるみたいな話をしていた人の会社に行こうと思う。DTサポート。メンドいので調べたりはしてないけどコメントの反応から推測するに、あやしい会社とかではないんだろう。


 ゴミの人は言っていた。「アオイのことだから待ち合わせの日程とか決めるのは嫌だろ。わかるよ。配信者とか遅刻しまくりドタキャン上等のクズばっかりだからな。アオイの気が乗ったときに連絡くれるか事務所に来るかしてくれ。俺もたぶん居るし……居なくても誰かしらに対応してもらうから」と。

 配信者に恨みでもあるの? そう思ったし口にも出したアオイだったが、「恨みはめちゃくちゃあるし迷惑かけられっぱなしだが、そこらへんのところはわかっていてそれでも好きだし応援したいからこの仕事をやってんだよ」との答えをもらった。……なんかいい人そうだな、この人。アオイのゴミの人に対する好感度が上がった。ぼ、ボクはそう簡単には攻略されないんだからねっ。


 そんなこんなで「今から行くねー」とだけチャットを送って事務所に向かう。すぐに返信。「申し訳ない。俺は不在だ。ちょっとしたら帰るからできれば待っていてほしい」とのこと。まあそれくらいは待つよ。人と待ち合わせとか全然しないから待つことも待たせることもほとんどないけど、行列の待ち時間がそこまで苦ってタイプでもないし。スマホあるしね。正直家でもスマホ触ってだらだらしてるだけなんだから寝転んでるかどうかくらいの違いしかない。充電だけが不安だけど……そこんところもモバイルバッテリーあるから無問題モーマンタイ。ちょっと重いけど。

 水魔石水筒みたいに電気も魔石でなんとかなればもっと軽量化されそうなんだけどな〜。アオイは思う。もっとも、魔石の効力が十全に発揮されるのはダンジョン内でのみなので外で使っても大した効果は期待できないだろうが……。


 魔石を利用した魔道具は探索者にとっては必需品だ。水魔石水筒はその筆頭。『水』という決して欠かしてはいけないものを低容量低重量の魔石から風呂に入っても不足しないほどの量の水を生み出すことができる魔道具だ。使い捨てだがその効果は絶大で、これが開発されるまでは探索者にとって水系統の魔法のスキルはほぼ必須とも言えたほどだ。初期に探索者になった者がほぼほぼ水系統の魔法を扱える理由の一つである。

 ただ、モバイルバッテリーのようには使えない。電気を直接生み出すことができない――わけではなく、単純に規格を一定にすることが技術的に難しい。それをするくらいなら『お湯を沸かしてタービンを回す』ほうが効率的に(転用可能な)電力を取り出すことができる。人類、いつまでもお湯を沸かしてタービンを回す発電方法から逃れられない問題である。


 ダンジョンでは二十層ごとに『安全地帯』があるが、だいたい魔石発電所が設置されている。なんなら第一層にも割とある。第一層ではスライムなどのMOBがポップするので対策は必須なのだが……それでもなお『外』と繋がっているのは第一層だけだ。魔石、魔法が十全に効果を発揮する場所に様々な設備を建てることによって得られるものは計り知れない。実際、魔石という『クリーン』なエネルギーから生み出される電力は現在世界に供給されている電力量の一割にも達すると言われている。

 本格的に運転しているのが海沿いにダンジョンがある地域のみであるということを考慮すれば魔石が現人類にとってどれだけ莫大なエネルギー源であるかということがわかるだろう。


 もちろん、アオイにはそんなこと関係ない。自分の生活が楽になるならそれでいい。自分勝手な女である。



「えー……と、ここかな?」



 DTサポートの事務所っぽいとこに着いた。立派なビル――ではない。雑居ビルだ。寂れたってほどでもないものの、少なくとも自社ビルを持っているような会社ではないらしい。


 タッタッタッと階段を上がり、ごめんくださーいと声をかける。



「……あー、アオイさん?」



 ポニテ眼鏡の受付事務員――ではなさそうな女性がワンテンポ遅れた対応をしてくれる。目にハイライトがない。間違いなく普段来客対応をしているような女性ではないだろう。



「社長はまだ帰ってきてなくて……あー……ここで待ってて」



 そう言われてソファに座らされる。緑茶と紅茶とコーヒーとコーラとお盆いっぱいのお茶菓子が出てきた。



「あー……良ければどうぞ?」


「多くない?」


「……選べたほうがいいかなって」



 お? この人天然かな? まあいいや。コーラ飲も。アオイはコーラを選んだ。出す方もおかしいが飲む方もおかしい。カシュッ。ポニテ眼鏡の女性の方から缶を開ける音がした。その手にあるものはビールだった。来客対応でビール飲み出す人居る? そういやお茶菓子の中にもおつまみっぽいのあるし……。



「んっ、ん……ぷは……あー……アオイさんは……うーん」


「あ、無理に話そうとしなくてもいいですよ?」


「あー……そう? うーん……でも、美少女だし……興味は、ある……から」



 どうやら興味を持たれているらしい。しかし話題がないということか。なら、こちらから聞きたいことを聞いてみよう。



「おねーさんは何者なんですか?」


「私は……うーん……探索者……だったんだけど……今は……エンジニア……かな……?」


「へぇー……よくわかんない」


「私も……なんとなくで仕事してるから……」



 エンジニアって言われてもどんなことやってるのかよくわかんないんだよね。IT関連のことなんだろうけど。



「あー……あと……一応だけど、ウチの配信者のマネージメントも――」


「そこは自信持て☆」



 突然、星を飛ばして事務所の奥から一人の女性が現れた。輝く金髪に星を宿しているかのようにきらきらとした大きな瞳。デコルテ丸出し、胸も北半球がほとんど見えているようなキャミソールに際どいくらいのショートパンツ。とんでもない美少女――と言うか、どこかで見覚えが。



「おっと☆ 挨拶が遅れちゃったね☆ 私はヒカリ。星野ヒカリ! 【きらめきっ☆ スターシャイン☆】っていうユニークスキルを持ってる探索者アイドル、星野ヒカリです☆ 気軽にヒカリちゃんって呼んでね、アオイちゃん♪」


「あ! めちゃくちゃかわいい衣装のアイドルの子!」



 動画で見たことある! おすすめで流れてきて、顔も衣装もめちゃくちゃかわいかったから覚えていた。名前まで見てなかったけど……普段はこういう服着てるんだ。これはこれで似合うしセンスある……ちょっと露出多くてドキドキするけど。なんたって胸も脚もめちゃくちゃ見えてる。お胸のほうも結構なサイズだし……いいの? って感じだ。こんなん無料で見ちゃっていいのかなって心配になっちゃうレベル。そしてこんなに露出が多いのにいちばん最初に『かわいい』って思わせるのがスゴい。顔もあるんだろうけど、それにしたってだよ。

 ボクの場合は自分のかわいすぎる顔に助けられている感じだけど、この子は自分の顔をコーデの一部に『組み込んでる』。それが違う。年季の違いか……。



「あは☆ アオイちゃんみたいな美少女にそう言われるとは光栄ですなぁ~☆ ……いや、でも、ホントにアオイちゃんって超絶美少女だよね☆ 動画で見た時点でわかってたけど、実際に見ると度肝を抜かれちゃうくらい美少女……ちょっと信じられないくらいかも☆」


「そう? それほどでも……あるかも!」



 ふふん、とアオイは胸を張った。実際、アオイは謙遜を必要としないほどの美貌を持っている。こうやって自信満々な態度だって素直に『かわいい』と思わずにはいられないような圧倒的なまでの美少女。

 ヒカリはそんな彼女にしばし見惚れたようにしていたが、すぐにハッとして先程までアオイと話していた女性の肩を抱き、



「そんで、この子はウチのエンジニアで、私たちのマネージャーだよ☆ 社会人としてはアレ過ぎるけど、実力はあるから心配しないで☆」


「……配信者だけじゃなく、ここに所属してる人ってみんな『そう』なの?」



 ゴミの人は『配信者なんてみんなゴミだよ』みたいなことを言っていたけれど――配信者だけじゃなくて所属する社員みんなそうなのだろうか。

 と言うかむしろヒカリちゃんのほうがまともに見える。



「あー……☆ この子、もともとは配信者採用だったっぽいからなぁ……☆」


「ん……でも、私は……自分でするより……裏方のが……合ってる……から」


「でも、社長が癖のある人材を集めがち〜、みたいなところはあるかも☆ たぶん感覚狂ってるね☆ 多少尖ったところがあっても『でもゴミと比べればマシでは……?』と思ってる節ある☆」



 まあ、ボクでさえ許容するくらいだもんな……。アオイは思った。自分のダメ人間っぷりは自覚しているが、そんな自分でさえゴミの人からすると特に驚くようなものではないような認識だったっぽいので、彼の基準は狂っていると言う他ない。ゴミの人の基準を狂わせた配信者ってどんな人なんだろう……ここに所属しているのだろうか。ちょっとコワい。



「ヒカリちゃんがまともそうなのは――」


「私はアイドルだからね☆ みんなに愛される、みんなを愛するアイドルが周りに迷惑かけちゃダメでしょ☆ 好感度は大事だよ〜?」


「……ヒカリが……問題児じゃない……わけじゃ……ない、けど……」


「えっ」


「そこ☆ 不穏な言い方しなーい☆」



 問題がないわけじゃないらしい。ただ、ヒカリちゃんが他人に迷惑をかけるタイプじゃなさそうっていうのはボクもわかるから……内容としては、配信そのもののことだったりするのかな。



「まあそこんところは置いといて……今日アオイちゃんが来たのは、やっぱり契約の件かな☆」


「うん。でも、ゴミの人――社長さんが不在っぽいから、今は待機中?」


「そうなんだ☆ ……社長にしては珍しいね? アポをとってたならスケジュールは合わせそうだし待たせることなんてしなさそうなんだけど――」


「あ、それはボクが急に来たからだね。前々から『気が乗ったら来るくらいでいい』って言われてたから。今日も出る直前に連絡したくらいだし。『ちょっとしたら帰るから待っていてほしい』って言われた」


「…………アオイちゃん、ウチが似合いそうだね☆」


「それ褒めてる?」



 たぶん褒めていない。


 遠回しに『社会人としてはアレ』って言われている気がする。


 無論、気のせいではない。


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