大いなる力に伴うべきもの
「トレントとかエントとかって投げられないから逃げ一択なんだよね〜」
渋谷ダンジョン、第十三層――間もなく第十四層になるあたりでアオイが言った。
:まあ、逃げてるな
:猿みたいな動きしてる……
:軽業師かな?
視聴者のコメントが表しているように、アオイは軽業師のような動きをして森の中を駆けていた。枝で怪我をしないようにするためか、珍しく手にはグローブを付けている。
いや、そもそも――
:その装備についてそろそろ話してくんない?
:それ 気になってた
:今までの装備がおかしかったんだが……それ、何の効果も付いてない服じゃないよな?
「あ、気付いた? そうそう。これ、実はサキさんとエアさんに買ってもらったやつでさー」
えへへー、と見せびらかすようにアオイがその場でくるりと身を翻す。ちなみに現在アオイはMOBから逃走中。立ち止まっている場合ではない。『アオイ、後ろ後ろ!』とコメントから指摘される――が。
「わかってるってー」
アオイはそちらを振り向きもせず――素早く伸びてきたトレントの根の槍を、アオイの着ている服が動いて逸らした。
:は?
:エンチャント装備か
:やっとまともな探索用装備……にしては性能高そうじゃね?
「そう! よくお気づきで! これ、めっちゃ良い装備なんだよね~。かわいいし! 実用性も高い! 腕が二本増えた気分だよ~」
現在アオイが着ている服はエアの知り合いである生産職、男装の麗人テーラー、レインお手製の装備だった。
インナーは白のノースリーブ。アオイの身体のラインにぴっちりと合ったその服はアオイの動きを妨げず、胸なども大きく揺れ動いたりしないように支えている。実はレオタード状になっているが、腰から下は足運びを隠すためにスリットの入ったスカートを履いているため、外からは見えない。
そしてノースリーブの上にストールのようなものを羽織っており――先程動いた服とはすなわちこのストールのことである。
「伸縮自在! ボクの意のままに動かすことができるし、ダンジョン産の謎素材だから強度も抜群! これはいいものだ……」
そう言いながら、アオイはトレントからの攻撃――根を槍や鞭のように使ったものを自在に動かすストールの手だけで逸らし、いなす。アオイでもなければ決してできない使い方だ。
:自分の身体の一部みたいに使いやがって……
:制作者の腕も良いんだろうけど、だからって『外付け』のを動かすことって難しいよな
:十二刀流さんも「私では十二刀流が限界ですかね」って言ってたし
:そいつバケモンだぞ
:十二刀流さんほどじゃないにせよ、剣を浮かして振るみたいな運用じゃなくて『手』みたいに扱うってのがな……
:サイボーグ系に増腕でやってるの結構居ない? 四本腕とか四本脚とかのロボ動かしてる配信者たまに見るけど
:アレ変態パイロットだから そこそこ数居るけど
:四本腕はロマンだからな マジで突き詰めたヤツだと八本腕とか使う
:オクトパスさんのこと?
:アレに比べれば……アオイは、まあ
:そこまでおかしくない……のか?
「おかしくないよー。と言うか、みんなだって練習すればできるって」
:などと練習したこともなさそうなヤツが供述しており
「う」
:図星の声じゃねぇか
:そもそも手のように扱えるっつってもアオイみたいにMOBの攻撃受け流したりはできねェからな?
:合気っぽい動きする探索者はたまに居るけど……それでもアオイみたいなことはしないからなぁ
:当たり前だけど体術よりも武器使ったほうが強いからね
「えー? 合気理論って武器使ってても適用できるものだと思うけどなぁ……剣術にだって応用できるものじゃない? ボクが修めてるのも合気系の技術を他のところに応用したりしてるし」
絶対使ってる人他にも居るよー、などと話している内にトレントの本体がアオイに迫っていた。囲まれたならさすがに面倒だ。そもそも攻撃を受け流すことはできてもこちら側に有効打がない。逃げるが勝ち。アオイのストールがみょーんと伸びて前方の巨木の枝に巻き付く。伸展――そして収縮。伸ばしたゴムを弾くパチンコのように、アオイの身体が弾き飛ぶ。
:人間パチンコかな?
:そういう運用もできるんだ
「そうそう。これもこれで便利でねー。こういう入り組んだところでは、こうやってぴゅんぴゅん飛び回ることもできたりして」
動かすのにちょっと魔力使うから、どっちが疲れるかって言うと微妙だけどねー、とアオイ。次から次へとストールを伸ばして移動している。
:移動、快適~
:空中での高速機動……立体機動装置みたいだな
:蜘蛛男っぽくない?
:あ~ それもあったか
「あ、みんなもそれ思った? 実はボクも。アレ人生で一回はやってみたいよね……まあ、ボクは今やってるんですけど!」
ふふん、と得意げにアオイが言う。こうやって風を感じるの、めちゃくちゃ気持ちいい。アニメとか映画とかでこういう移動してるの見るとそれだけで爽快な気持ちになるけど、自分でやると……ヤバい。楽しい。これハマりそう。魔力すっからかんになっちゃうよ~。
:調子に乗って魔力ゼロになったら詰むから程々にしな?
:正直見てるほうとしてはめちゃくちゃ気持ちいいけど
:さっきまでのNINJAみたいな動きも気持ちいいけど今の動きもすこ
「まあボクはキミたちにとって親愛なる隣人みたいなとこあるしね!」
:でもアオイ責任感ゼロじゃん
「はぁ!? ちょっ! そ、それはさぁ! ――あ」
コメントに意識をとられたアオイが操作を誤り思い切り木に激突した。前方不注意。免停モノである。
「……【ヒール】」
:責任感ゼロは言い過ぎたわ ごめん
:そうだよな アオイには刺さるよな
:ホントのこと言ってやるなよ 可哀想だろ
:そうだぞ いくらアオイがクズでも言っていいことと悪いことがある 今のはいいけど
:いいんかい
「良くないが!?」
アオイ、キレた!
ただ責任感ゼロと言われて刺さるアオイにも責任があるとも言えるだろう。それが図星になってしまうような生き方をしているアオイが悪い。
「はー……そんなことより、みんな、ボクの装備にもっと言うことないのかなー?」
:めちゃくちゃ性能高そうだよな
:アオイ専用装備って感じだけど
:めっちゃ高そう 剣姫とエアリエルにめちゃくちゃタカったな
:でも今までのオシャレ着でダンジョン潜ってるのがおかしかったわけだし、ちょっとはまともな装備を買いたくなる気持ちも理解できる
:放っておいたらいつまでも防御力ゼロで動きやすさもゼロみたいな服装で潜りそうだからな……
「いやいや、そっちじゃなくて」
アオイがコメントに対して首を振る。そうじゃない。もー……性能なんかより、もっと言うべきことがあるとは思わない?
「ほら、ね――女の子が新しい服を着ているんだから、さ」
ずい、と配信くんに近づいて、アオイが首を傾げる。
「真っ先に言うべきことは決まってるよね?」
:かわいい!
:正直めちゃくちゃかわいい
:デザインも最高
:アオイにめちゃくちゃ似合ってる
:それどこ産? 剣姫と契約してるトコとかあったっけ
:腕も良さそうだし……そろそろ装備一新してみたかったから教えてほしい
「んふふー。そうでしょそうでしょー! 性能も良いけど何よりデザインがさー! シンプルながら凝ってるって言うか、シルエットが良いのはさすがテーラーって感じで……あっ、この服を作ってくれたのはエアさんの知り合いで、レインさんって言って――」
あからさまにテンションの上がったアオイが機嫌良く装備の外見について話し始める。
やっぱりアオイはチヤホヤされるのが好きだった。
機会があれば逃すことなくかわいいって言ってほしい。
人呼んで――かわいい怪盗、アオイ。
今宵、あなたの心を盗みに行きます。
……お前のやり口は『怪盗』ってより『強盗』だろ、なんて言ってはいけない。




