表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/71

ゲームってだいたい独自の用語使ってたりするよね

「ゴブリンとかスライムって『ゲームと言えば』! みたいに言われてるけど……実際にゲームで出てくるのってテンプレMOBよりそのゲームごとに固有のMOBだったりすること多くない?」



 いや、もちろんテンプレMOBも出てくることあるけどさぁー、とアオイ。配信中である。



:いきなり何?

:でもわかる。ダンジョンってゲームっぽいけどそこんところツメ甘いよな。

:そこそこ深くなるとあんまり見たことないようなのとかも出てくるが……



 ダンジョンにはオリジナリティがない、なんて言っても仕方ないことだ。攻略することを考えるならむしろオリジナリティなんてない方がいい。



「深いところだと結構オリジナリティあるMOBも居るよねー。渋谷の第八十層は……ドラゴンのアンデッドだっけ」



:確かそう

:アレもそんなにオリジナリティあるかって言ったら微妙だけどな

:死竜なー アイツ厄介な攻撃してくるから嫌い

:竜ってやっぱ強いんだよな〜 変なギミックもあるし



「うん? ……戦った経験あるっぽい人多くない?」



 第八十層を経験したことのある民間の探索者なんて上澄みも上澄みである。そんな探索者がちらほら居ていいわけがない。



:アオイちゃんのチャンネルだからね♡ どんな探索者でもアオイちゃんの魅力にはきっとイチコロ♡♡♡〈フレイヤ〉

:アオイの技量は卓越してるからな 高位の探索者でもバカにできるものじゃあない

:そもそもあの『剣姫』に勝ってる時点で……



「まあ、ボクは世界一かわいいし――ちょっとバズったもんね! チャンネル登録者数とかも増えたし! ……ちなみにこれってお金もらえるにはまだかかりそう?」



:まだじゃね?

:どっかの誰かさんが邪魔しなかったら行けた説

:ダンジョン配信は完全にダンジョン側のシステムだからな。明らかにこっちの配信文化を真似てるようだが……。

:アオイさんは登録者数と比較すると配信かなり回ってるし同接比もめちゃくちゃ高いしでスゴいんですけど、収益化にはもうちょっと登録者数が必要だと思う



「へー……そうなんだ。ありがとー。と言うか、今まで見なかった名前のコメントも見る……。ほんとに新しく見始めてくれてる人も居るんだねー」



 改めて自己紹介とかした方がいいかな? と首を傾げる。した方がいい。が、面倒なので一言にまとめる。



「どもどもー。ボクはアオイ。楽してお金稼ぎたいから配信やってます。美少女だしこの顔に免じて食わせて下さい。……遊んで食わせて下さい。お願いします」



:こいつ言ってから『遊んで』を付け足しやがった

:正直過ぎる

:アオイさん……やっぱりユーモアのある人ですよね

:ユーモアと言うかクズと言うか……

:でも顔はホントに美少女なんだよなぁ

:まだ配信では食えてないけどな



「そうなんだよねー。話を聞くに、後は登録者数さえーって感じっぽいし、ゴミの人――DTサポートだっけ? あそこに助けてもらってから……になるかなー」



 逆に言えば、自分でサムネやタイトルを設定する気はないと言うことになる。それくらいやれ。

 そんな視聴者の声を「はいはい」とテキトーに流しながら、アオイは引っかかったコメントを読み上げる。



「そう言えば……この『どっかの誰かさんが邪魔しなかったら行けた説』って?」



:あ

:拾っちゃうかー

:オイ 呼ばれてるぞ駄女神



 駄女神? アオイはきょとんとチャット欄を見る。



:アオイを独り占めしたいからってマジでアオイの配信が広まらないように工作した女が居るんですよ〜

:やっちまったなぁ

:ファンの風上にも置けないヤツだよな〜 アオイもそう思うだろォ〜?



「え。いや、まあ……ボクはバズりたいって言ってたわけだし、邪魔されてたとか……それは、ショックだけど」



 なんで? と思う。ボク、こんなにかわいいのに……まさか、嫉妬!?

 って、独り占めしたいからって書いてるけどね。むしろなんで動機まで他の人にバレてるの?



:ごめんなさい。私がやりました。〈フレイヤ〉

:お、自白した

:ゲロるの意外と早かったな



「フレイヤさん!? え……そっか……フレイヤさんがそんなこと……」



:うわ

:あーあ 泣ーかせたー

:泣いてはないけどガチでショック受けてるじゃん

:まあ、アオイってフレイヤの本性知らないみたいだったし……フレイヤのキッショイ応援もフツーに喜んで受け入れてたっぽいからな

:フレイヤはそれを裏切っていたわけだが

:ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい〈フレイヤ〉



「あ、いや、うん。そんなに責めてあげないで? 実際ボクって独占したくなるくらいの美少女だし……気持ちはわかるから」



 ただ、それで『邪魔』までされてたのは……ちょっと、簡単には飲み込めないって言うか。


 ぇへ、ごめんね? 暗くなっちゃって。そうやって笑うアオイを見て、チャット欄はフレイヤをさらに責め立てる。



:オイ駄女神

:アオイのこんな表情初めて見た……

:本気で信頼してた人に裏切られた時の顔じゃん

:裏切られたのにそれでも庇おうとしてる顔だよな

:あああああごめんなさいごめんなさいごめんなさい〈フレイヤ〉

:謝ってるだけで誠意が見えない

:出すもん出せや な?

:収益化まだだから出すもん出せる場所もないんだよなぁ……



「あ、ホントにボクはそこまで気にしてないから大丈夫だよ? まあフレイヤさんが邪魔しなかったらもう収益化してたのかもー、とかは思わなくもないけど」



:うっ〈フレイヤ〉

:援護射撃かと思ったら追い撃ちしてっぞ

:フレイヤがマジでアオイに迷惑かけてたのは事実だからな……



「でも、そもそもこのことを知ってたっぽいキミたちもどうなのかなって思うし」



:あ

:流れ変わったな

:オイこっちに矛先向いてきたぞどうなってんだ

:決まってンだろ



「ね、ボクに何か言うことあるよね?」



:謝るしかねェーッ!

:スミマセンでしたぁー!

:フレイヤがヤベェことやってんなと思いながらも正直俺たちもアオイのことそんなに広めたくないし……と思って乗っかってましたァ!

:むしろフレイヤが泥被ってくれンなら儲けだとさえ思ってました!

:ほら! へへ! こんだけ話したんだ オレだけは赦してくりゃあしませんか……?



「無論、同罪である」



:そんなぁ!

:殺生な! 姫!

:お許しを! お情けをぉー!

:姫!

:姫ぇー!



「ふむ……これ何のノリ?」



 途中でアオイが梯子を外した。延々と付き合うのがダルかったからである。



「でも、フレイヤさん乗ってこなかったし……結構ガチで気にしてる?」



:割とガチで邪魔してたからなー

:俺たちも同罪っちゃ同罪だが、フレイヤは……

:消極的なそれじゃなく積極的に邪魔してたからな

:「私が先に目をつけたんだから」みたいなレベル

:厄介ファンじゃないですか



「うーん……まあ、厄介ファンなのはそうかもだけど」



 正直その点は否定できない。



:辛ww辣ww

:あのフレイヤが厄介ファン……笑



「あ、でもね? 正直、ボクがバズってないのはボクのせいってところが大きいわけだから……そんなにフレイヤさんを責めようって気持ちはないって言うか」



 実際、再三指摘されている通り――アオイの配信に新規視聴者が増えないのはサムネとタイトルが未設定というアオイの怠慢によるものが非常に大きい。フレイヤがどうのと言える資格が自分にあるかと言うと……ない、気がする。



「それに、結果として今はちょっとバズったわけだし……もうちょっとで収益化できそうだしね」



 だから、そんなに落ち込まないで? フレイヤさん。



:アオイちゃん……〈フレイヤ〉

:やさしい

:アオイさんって優しい人なんですね

:いや、いつもはクズだよ

:クズがたまに良いとこ見せるとめちゃくちゃ良く見える説



「ちょっとぉ!? 良いカンジだったのにひどくない!?」



 視聴者の散々な物言いにアオイは突っ込む。ボク、そこまで言われるほどか……? 納得いかない。遺憾の意を示したい。



「はー……まあ、ボクには収益化以外にも収入のアテができたからね! 余裕があるので許してあげます」



:マ?

:DTサポート以外でってこと?

:エドワード・カーター関連?

:↑誰だっけ

:ほら、元サンフランシスコの

:アオイと戦ってた人か



「そうそれ! ……そう言えば今日はその話をしようと思ってたんだった」



 もうサキさんには話しちゃったけど、ボクの配信を見てくれている人には話しておきたいってことには変わりない。



「エドワードさんからの頼みで、ボクはとある女の子を指導することになりました! 『非探索者でもできる! かんたん護身術!』に正式に生徒ができた形だね! みんな、拍手〜!」



 ぱちぱちと自分で拍手してみせるアオイ。


 対する視聴者の反応と言えば――



:は?

:アオイを?

:人選ミスだろ

:過去配信見た? 全然参考にならないぞ

:そりゃ一定以上の実力があれば参考にもなるかもしれないが……

:その女の子って何かの武術を修めてたりする?

:アオイちゃんに……? どういうつもり?〈フレイヤ〉



 ツッコミの嵐だった。



「なんでぇ!? ちょ、いや――正直思い当たるところはあるけど、ボクもマンツーマンだったらちゃんと教えられるからね!?」



 しかし、アオイも言われてばかりではいられない。マンツーマンでなら自分も指導することくらいできるはずだ。たぶん。おそらく。めいびー。



「み、見てろよぉ? 絶対吠え面かかせてやるんだから!」



 配信くんを指差してアオイが涙目になって宣言する。


 まるでむきになった子どもだった。


 ただ――



:アオイさんのご指導、可能であれば私が直接受けてみたいくらいですね。これからの配信も楽しみにさせていただきます。



 そんな新規視聴者からのコメントを受けると、アオイは。



「えっ……あ、は、はい。ご、ご期待に応えられるように頑張ります!」



 たじたじになってそう答えることしかできなかった。


 まっすぐな気持ちには弱い。


 クズの特徴である。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ