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探索者の目的

 え? なに? エドワードさん。


 話? うん? ……うん。とりあえず、聞くだけなら。


 ……ボクが、とある女の子を? えー……ボク、『かんたん護身術』なんてことは配信でやってるけど、正直指導者としてはあんまりだと……え? それはわかってる? そ、そっかぁ……。


 …………で、でも、ボク、一対一で教えるならそんなに悪くないと思うんだよね! 不特定多数に教えるとかするのは無理だし道場を継ぐとかは厳しいけど、才能ある子を教え込むみたいな感じなら……な、なんとか、できなくはない……と思う。


 あ、べつに受けるって決めたわけじゃないよ? ボク、仕事とかあんまりやりたくないし。拘束されるのが合わないって言うか……好きなときに起きて、好きなときに寝るように生きたいから。

 他の人と足並み揃えるの苦手だからソロで探索してるわけだし。


 …………え? そ、そんなに? ふ、ふぅん……。


 お、お金じゃない。お金じゃないよ? で、でも、ボクの助けがそこまで必要って言うなら……ま、まあ、やってあげなくもないかな!


 ほら、今回のでわかったけど、やっぱり護身術講座の配信なら相手が居たほうがわかりやすいし…………え? じゃあ報酬は――って。


 ごめんなさい。かっこつけました。報酬……目当てです……っ!


 お金が……欲しいです……っ!




      *




 サキやエアと試合した配信の後、サンフランシスコから来た元探索者、エドワード・カーターから『とある女の子を指導してほしい』という依頼の話をされた。


 もちろん、最初はアオイも渋った。アオイは適当な人間である。早起きなんてできないし好きなときに寝て好きなときに起きたい。探索しようと決めた日でも気分じゃなければすぐにやめるし、逆に気分が乗れば探索にも行く。そんなふうに過ごしていきたいと本気で思う人間であり――実際にそうやって生きている人間だった。

 誰かとパーティーを組んでも間違いなくドタキャンすることがあるだろう。『今日は気分じゃないから休むね』なんて――当然、許されることではない。アオイもそれはわかっている。だから彼女はソロの探索者だったし、エドワードの依頼も断ろうとした。


 したのだが――提示された報酬が、あまりにも良かった。これなら好きなだけ服を買える……っ! 憧れのハイブランドにも手が出てしまう。なんならオーダーメイドでコスプレ衣装をつくってもらうことだってできるかもしれない。

 アオイは欲望に弱い。あまりにも欲望に弱く――だからこそ、責任を要求されるような物事には関わらないようにしていたのだが、欲望に弱い人間が高い報酬を提示されて断ることができるわけがなかった。意志が弱すぎる。


 そういうわけでエドワードの話を受けることにしたアオイだが、かと言ってすぐにその仕事が始まるわけではない。エドワードサイドにも準備というものがある。一度帰国しなければならない。また連絡するとのことだったので今は連絡待ちだ。


 ついでにゴミの人――アオイの配信に協力してくれた四人の内、サキ、エア、エドワードを除いた最後のひとり。ダンジョン配信者の活動をサポートすると言う会社の社長さんとの話だが……それに関してもお願いすることにした。アオイは楽ができるなら楽をしたい。面倒くさいことをやってくれるなら願ったり叶ったりだ。

 もっとも、そちらも会社のほうで話を進める必要があるらしい。社長であってもひとりで話を進められる段階には限度がある。それだからこちらに関しても今は待つことしかできない。


 ということで、今日のアオイはフリーである。


 アオイは探索者だ。探索者が休日に何をするかと言えば、もちろん。



「だらだらしよ……」



 だらーん、とアオイはベッドの上に寝転んでスマホをいじる。自分を着せ替えして遊ぶのもいいのだが、今日はちょっと気分じゃない。


 服もいつもよりテキトーだ。黒のキャミソールにショーツ一枚。それだけだと肌寒いので近くに掛けていたシアーカーディガンを羽織っている。

 テキトーだけどこれはこれでかわいい。アオイは自己評価が高かった。正直素材が良すぎて何を着てもかわいいからな、ボク。

 骨格診断とかなんなりして『どんな服が似合うか』調べてるけど……本来なら似合わないはずの系統でもなんか『これはこれで』ってなっちゃう。

 罪なかわいさだぜ。


 そんな妄言を浮かべながら、でぃぐでぃぐとスマホを操作している。ルックブックを見たり、自分の配信を見返したり、スイーツ情報を見たり、自分の配信についたコメントを読んだり、メイク動画を見たり、SNSで自分の配信についての感想を探ったり、ガチャ動画を見たり、自分の配信を見返したり。



「ふへへ……ちょっと、バズった……?」



 そう、そうなのだ。今回の配信――コラボ配信で、アオイはちょっとバズっていた。どうしてか一定以上には広まらないようになっているが、それでも今までを考えると見違えるように視聴者の数が増えている。



「エドワードさんはないとして……サキさんやエアさん、そして何よりゴミの人のおかげ、かな?」



 エアに関してはわからないが――サキは有名人らしかった。そして実力は別として、知名度、拡散力という意味ではやはりゴミの人の力によるものが大きいのだろう。


 他の誰もしていなかったが――彼だけが今回の配信を外部に向けて宣伝してくれていた。結果、サムネイルもタイトルも未設定のままの動画がずらっと並ぶという新規視聴者がめちゃくちゃに参入しにくいアオイの配信に導線ができた。

 アオイは美少女である。サムネもタイトルも未設定の動画しか並んでいないなど明らかにおかしいのでわざわざ見ようとしないものだが、一度アオイの顔を見たならば評価しないことなんてできないだろう。


 結果、プチバズりした。アオイはるんるん気分である。これはもう稼ぎまくれること間違いない。がっぽがぽだ。何買おっかな〜。アオイは皮算用を始めた。気が早すぎる。



「普段は手が届かないブランドのとか調べちゃったり〜」



 あ、こことか良さそう。ふんふむ……『ヴァナへイム』かー。モデルの子たちみんなめちゃくちゃ美人さんだね。高校生くらいの子も居るし……まるでその子に合わせて誂えたような服がいっぱいだ。系統も全然違うし、ブランドの色が見えてこない。強いて言うなら『洗練されている』かな。と言うか、みんな美人さんだけど同時にみんな探索者じゃない……? そんなことあるんだ。



「見知った顔も居るし」



 ルックブックで検索して『良いなぁ』って思ったような子とか、他にも。探索者だったとは……世間は狭いね。モデルもしてる探索者なんてそんなに多くないと思うんだけど……確かフレイヤさんもモデルさんなんだっけ。モデル同士、このブランドの子たちとも親交があったりして。



「探索者兼モデルならボクもできそうな気はするんだけどなー」



 世界一かわいい美少女であるボクにモデルができない理由があるとすれば身長だろう。身長はそんなにだからね、ボク。これはこれでかわいいからいいんだけど。

 


「……身長、伸びたりとかするのかな?」



 あんまり自分の身体のことがわかっていない。調べてもわかるものだとは思えないけれど……現代医療ならあるいは……? だいたいの技術に『魔法』って軸が増えて、この十年は色んな革新があったからねー。もしかしたらなんかわかるのかもしれない。

 自分の身体のことなのによくわかっていないのはこわい。こわいけど、わざわざ調べるのはなんだか億劫になってしまう。『これお医者さんのところに行ったほうがいいかも』ってときでもなかなか行けないのなんでなんだろうね? これボクだけ? かもしれない。



「個人的には、ずっとこのままでいいんだけどなー」



 身体的な意味ではこのままがいい。メイクとかは覚えたいけど……シチュエーションによって雰囲気変えられるのってやっぱり強いし。素顔は『素顔』しか顔のパターンないからなー。ファッションによっても本来は適したメイクもあるんだろうし……。ボクの場合、暴力的なまでの容姿の良さでゴリ押ししてるだけって感じだ。正規の攻略法があるのにそれを無視して真正面からぶつかってもだいたい勝てる、みたいな。ゲーマーとしてはどうなんだろう。ボクがゲーマーかって言うと微妙だけど。



「ゲーム配信……いや、ダンジョン外での配信って設定とかメンドそうなんだよなー」



 ダンジョン配信に慣れちゃうと、ちょっとね。OBSとか言われてもよくわからない。『配信開始』ってボタン押したらそれだけで配信開始してくれない?

 そういうのもありそうではあるんだけど……ボクはそんなに詳しくない。調べるのもメンドい。


 というわけで、ボクはだらだらするのであった。


 ……でも、ちょっとバズった今、配信したら新しく見始めてくれた人たちからチヤホヤしてもらえるのでは?


 それは正直魅力的だ。配信……しよう!



「ダンジョンに行く気になったら……だけどねー」



 ごろん。アオイは寝転んでウェブ漫画アプリを開いた。


 その日は結局一日だらだらして過ごした。


 ダメ人間である。


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