女の子どうしでキャッキャウフフなショッピングデートがしたかった
「おもってたのとちがう!」
アオイは叫んだ。心からの叫びであった。『女の子どうしでキャッキャウフフなショッピングデート』ができると思っていたのに……! そういう類の慟哭である。
アオイは友人が居ない。それだから『友人といっしょに遊んだりする』といったことに憧れを持っていた。アオイの中で女の子と言えばショッピングだという先入観があったので、美少女になったからにはいつか女の子どうしでショッピングをしてみたいと思っていたものだ。
サキもスパチャのお姉さん――エアリエル? って呼ばれていた――も美人だし、ふたりのお姉さんにかわいがられながらいちゃいちゃショッピングを楽しみたかったのだ。卑近な欲望である。
男の人にチヤホヤされるのも良いけど、どうせなら女の人といちゃつきたい。アオイはそう思っていた。
でも男の人とも友達になりたい。憧れる。男どうしの友情とか良いよね。めちゃくちゃ良い。ユートくんとか友達になってくれないかな。現状弱すぎだけど才能はあるし……いつか友誼を結びたいところだ。
閑話休題。とにかく、アオイは女の子どうしであれこれ言い合いながらショッピングする――みたいなことがしてみたかったのだ。
だと言うのに。
「アオイを活かすなら足運びを隠すような服がいいだろ。しかしぴょんぴょん飛び跳ねまわりやがるからな」
「アオイちゃんならどんな服でも似合うとは思うけどやっぱりそうだよね。わかる。逆にトップスは可動域を狭めない方向性で行くほうがいいかな。デザイン的にもボトムスが重い印象になりそうだし」
「アオイ嬢の動画はワタシも見させてもらいましたが……そうですねぇ。ワタシとしてはオフショルにこう……ストールのように羽衣を合わせるのも。あれだけ魔法の精密動作ができるのであれば伸縮自在の素材を使うと便利そうかと」
「あっ、かわいい。確かにそれだとデザイン的にも重くなりすぎなくていいかも……で、でも、ちょっとデコルテ出しすぎじゃない?」
「脚を隠してるんだからこれくらいの露出はあったほうが良いだろ。ストール羽織るんならそこまで見えないだろうしな」
「アオイ嬢は素材が格別ですからねぇ。可能な限り活かしたいところですが……以前見たノースリーブも似合ってました。ワタシとしてはノースリーブならこういう系統の……」
「わ、かわいい。アオイちゃんに絶対似合う……。う~、アオイちゃんにミニスカ履いてみてほしい……」
「それを見たいってことならアタシも同感だな。アオイ、どうなんだ? アタシは足運びを隠せないような服は避けたいのかと思っていたんだが……」
「えっ」
突然水を向けられてアオイは戸惑う。「いや、ボクは足運びとかどうでもいいけど……サキさんクラスが相手ならまだしも、そうじゃなかったらべつに誘導の仕方くらい他にもいくらでもあるし」
「Really? それなら選択肢が広がりますねぇ……アオイ嬢はどういったドレスがゴショモウですか?」
「うーん、正直ボクはまだまだオシャレ勉強中って感じだから教えてほしいくらいって言うか……………じゃなくて!」
アオイの大声に三人が首を傾げる。しかしアオイには言いたいことがあった。訴えたいことがあった。気分は駈込み訴えである。何も駆け込んでない。
「ボクは……サキさんとエアさんといっしょにいちゃいちゃショッピングしたかったんですけど! 何この状況! せっかく渋谷に居るんだからアパレルショップを見て回ったりして試着ファッションショーしたりしてかわいいー似合うーって言い合ったりしたかったんですけど! エアのおねーさんなら絶対ボクのことチヤホヤしてくれるだろうし、そこんところ楽しみにしてたんですけど! それなのに……なんでここ!?」
「ワタシの工房はオキニメサナイでしたか?」
「いやっ、そんなことはないですけど……とゆーか、まだ自己紹介もされてないんですけど!? 誰!?」
話の流れ的にエアお姉さんのご友人だということはわかる。テーラーであり、生産系……服飾系のスキルを持っている生産職。探索者にとって重要な『装備』を作っている人なのだろう、と。
『買い物に行く』となって連れられた先が明らかにアパレルショップの並びじゃないなーとは思っていたのだ。アオイはほとんど通ったことがなかったのでわからなかったが、確かここって探索者向けの装備を作ってる生産職の人が持っている工房の並びじゃないか、と。
ものすごく雑多でごちゃごちゃしている。個人の所有する小さな工房の集まりだ。
渋谷ならではの個人店を追い出してビジネスビルを建てまくり『きれいな』街になった渋谷がまた雑多な賑わいを取り戻している――なんて言えば聞こえも良いが、それにしてはあまりにもごちゃごちゃと散らかり過ぎている。
しかし、渋谷のギャルとかにとってはこういったところに通うことこそが『オシャレ』なのかもしれない。アオイは思った。渋谷だし。こういう場所にこそオシャレの真髄があったりするのかも――
そう思っていたらとある仕立て屋へと連れて行かれた。スパチャのお姉さん――エアリエルと呼ばれる女性の知り合いが営むというテーラーだ。
その店は他の店と比べると『店』だった。とは言っても決して『立派な店構え』なんて呼べるようなものではない。ただ自分なりの哲学を持って設計していることが見て取れた。
そこに居たのがエアの知り合いだと言うこの女性だ。
質の良いスーツに身を包んだ男装の麗人。黙っていれば本当に『男装の麗人』らしく見えるのだが――身振り手振り、口調があまりにも胡散臭すぎる。
ちなみにアオイが見た限り純日本人である。なんでそんな感じで話すの……?
アオイの『自己紹介もまだ』という指摘に「Ah!」と手を打った彼女は仰々しくお辞儀をして、
「言われてみればそうですねぇ。では、改めて……オハツニオメニカカリマス。ワタシはテーラーを営んでおります。レインと申します。どうぞ、ご贔屓に」
「あ、これはご丁寧に。ボクはアオイって言います」
「はい。エアからよく聞いてますよぉ。『めちゃくちゃかわいい子が居る』と……正確には『レイン! ウチ、推しができた! ああ! 推しができるってこんな感覚なんだ! 世界が輝いて見える! アオイちゃんが居るなんてこの世界はなんて素晴らしいんだろう。あーアオイちゃん。アオイちゃん。もうほんとかわいい。まず顔がかわいいんだけど顔だけじゃなくてね。いや動画見たらわかるんだけど顔だけじゃなくてちょっと生意気な感じなところもかわいくて――』」
「すすすすすストップ! レイン! それ以上は話さなくていいからぁ!」
エアお姉さんが戸惑っている。この人、マジでボクの熱狂的なファンなんだなぁ……。
アオイは遠い目をした。チャット欄ではあんまり見た記憶なかったけど……フレイヤさんも女の人っぽいし、ボク意外と女性からの支持が厚い?
男性から好かれるのもそれはそれで気分が良いものの、やはり女性から好かれるというのはついつい嬉しくなってしまう。
ので言った。
「おねーさん、そんなにボクのこと好きなんだね。……ボクも、おねーさんのこと好きだよ」
「ぅひゃぅ!」
エアさんが跳び上がり、ほんのりと髪が緑色に発光する。言うまでもなく顔は真っ赤だ。
かわいい……。アオイは声に出してそう思った。追撃。エアの腕に装着された腕輪が魔力を封じこむ光を放つ。感情の異常な昂ぶりによって魔力が暴走しようとしているらしい。
ダンジョン内であればヤバかったがここはダンジョン外なので問題ない。
アオイはにこにこと笑顔を浮かべた。
照れてる女の子って……いいよね!
「Oh dear、エア、幸せそうですねぇ」
「コントやってねぇで話を進めろ。アオイ、テメェの服のことだぞ?」
大変なことになっているエアリエルのことを心配することもなく二人が言った。
そうだ、そもそもその話をしているところだった。その話とはつまり――ダンジョン向けの装備をつくるつもりなんてまったくなかったのに、なぜか『探索者向けのテーラー』に連れて来られてしまっている話だ。
つまり、文句の話である。
「ボク、探索用の装備が欲しいとか言ったつもりなかったんだけど……?」
「普通の服だとも言ってなかっただろ。アタシはアタシの買いたいものを買う」
そもそも、テメェにとっても悪い話ってわけじゃねぇだろ?
そんなサキの言葉にアオイは首を振ることができなかった。実際、悪い話ではない。むしろ良すぎる。それはわかっているのだが……アオイとしては、サキやエアといちゃつきたかったのだ。それもやはり捨て難い。
そんなアオイにサキが言う。
「ならそれはそれでやればいいだろうが」
「えっ」
「えっ?」
アオイとエアの声が被った。それアリなの? という声である。
なんとなく、サキさんはあまり人付き合いが好きなタイプではないんじゃないかと思っていた。用だけ済ませればさっさと解散する流れなんじゃないか……と。アオイはそう考えていたし、エアお姉さんの反応を見てもそれは見当違いのようには思えなかった。
「さ、サキさんはそれでもいいの?」
「逆に何か問題あるか?」
「えっと……ほら、ボクに敗けたわけだし『次に会うときは再戦するとき』みたいな」
「次は勝つ。が……んな必要ねぇだろ。喧嘩するからって敵ってわけでもない。恨みなんてねぇんだから」
そ、そんな感じ? アオイは戸惑った。でもまあいちゃつけるならいっかとも思った。
「そうと決まれば……ボクの服をどうするか、考えよっか!」
一転変わってノリノリである。そのあまりの急転に、しかし突っ込む者は誰も居ない。サキは「早くしろ」という考えだしエアは「ゴーイングマイウェイアオイちゃん……かわいい」という考えだしレインはアオイの服のことで頭がいっぱいだった。
常識人不在の悲劇である。




