表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/71

なんでもあり

【エアウォーク】という魔法がある。


 本来は空中を歩くための魔法だ。頻繁に使われているのは『二段ジャンプ』のため。空中という身動きできない場所で動くための魔法。そのために空中に『空気の足場をつくる』魔法であり、風系統の魔法としてカテゴライズされている。


『空気の足場』を維持する時間――展開時間と有効範囲によって消費魔力も変わってくる。強度としては『足場にできるだけのもの』はあるが、これも消費魔力によって多少の変化は可能だ。


【エアウォーク】を展開するのは――と言うより、ほとんどの魔法を展開するのは基本的に『手元』か『足元』であることが多い。【ファイアーボール】などの攻撃魔法であっても手元で展開したものを射出するといった形を取ることがほとんどだ。


 それがなぜかと言えば単に『難しいから』だ。魔法の使い方は『自動的にインストールされる』なんてものではない。いや、実際はインストールされているのかもしれないが――『使えるようになった』だけで、使いこなせるようになるわけではない。


 脳をどう使えば魔法なんて使えるのか。ファイアーボールなんてどう出せばいいのか。エアウォークなんてどう出しているのか。配信や『ポイント』の割り振りも脳内コンソールを使用しているものの、それは脳内で完結するものであり魔法の使用と比べると必ずしも難解とは言えない。


 スキルや魔法の名前を口に出すのはそれを『始動キー』にしているからだ。発動する意志を持って口に出せば該当のスキル、魔法を発動することができる。

 ただ、それでも使用の際に最低限のイメージは必要だ。どのように発動するのかと言うイメージ。それは何の目印もない場所に発動するよりは手元や足元に発動したり、手元や足元に展開してから射出したといった形式を取るほうが圧倒的に『やりやすい』。


 手元や足元以外に魔法を展開するということは難しい。大規模な魔法であれば正確な位置など考える必要もないかもしれないが、そうでないのであればそもそも『正確な位置』などどうやって測るのか。透明なクレーンゲームをやっているよりもずっとずっと難しい。

 アオイの【エアウォーク】の使い方――自分の足元以外の場所に展開することを指して『針に糸を通すような芸当』と評する視聴者も居たが、実際は『遠く離れた針に目に見えない糸を直接触れずに通す』ようなものである。

 

 できないとは言わない。訓練によって習得することができる者は居るし、センスによって最初から同じようなことができる者も居る。

 先に『目印』のようなものをつくるために位置を探る――レーザーポインターのように――そんな補助線を引くような者も居るが、それでも難易度が大きく下がるわけではない。

 そもそも、そんなふうに発動前に『起こり』を生じさせるなんて避けてくださいと言っているようなものだ。それなら素直に手元で展開してから射出するようにすればいい。


 もちろん、アオイがするように任意の場所に展開できたならばその有用性は凄まじく向上する。する、が……MOBとの戦闘において、それをいったいどれだけ使うか。

 過度の集中、そして外したときのリスクを考えると必ずしもリターンのほうが大きいとは言えない。そんな『曲芸』を練習している暇があるなら位階を上げたほうが早い。


 それが一般の認識だった。


 だが。



「【エアウォーク】」



 ぼそり、とつぶやく。アオイの【エアウォーク】は相手の動きを妨害するために使うことも多い。

 


「っ!? 目蓋に――」



 今回使った場所は『サキの目蓋』だ。彼女の目蓋が上がるその瞬間を狙って『目蓋を開けないように蓋をした』。


 視界を奪う。一瞬だけ。片目が潰れている状態だからこそ通用する目潰し。

 しかし、すぐに視界は戻る。結果として瞬きがほんの少し長くなったようなものだ。


 それだけでアオイは視界から消える。



(どこに――)



 サキは片目が潰れている。魔法を使えば治癒することは可能だ。しかし、サキにそのつもりはない。アオイ相手に魔法やスキルを使うつもりは一切なかった。

 アオイは使えるものをすべて使うだろう。それを真正面から斬り伏せることがサキの目的であり――その哲学を貫くことはサキにとって何よりも優先されるべきことだった。


 片目が潰れている。死角が広い。サキは首を振ってアオイを探す。居ない。なら後ろ――いや。



(足音が聞こえなかった)



『上』だ。【エアウォーク】を使用している。

 サキは上を向く――背後に気配。何かが降り立って空気が押し出され、背中に触れた感覚。



「そっちか」



 背後を見ることもなく振り返りながら剣を抜く。神速の一閃――それは、宙を斬り。



「ざんねん。それも【エアウォーク】だ」



 サキの背後、何もないところに【エアウォーク】を展開して空気を動かした。それだけでサキが『感じ取る』と読み切って――


 宙を斬ったその先で、アオイが空からサキに触れた。


 アオイに触れられるということが何を意味するのか。



「強かった」



 サキの一振り、その勢いを利用した投げだ。

 視界が回る。受け身を――取らない。一瞬の間に判断する。この速度で地面に叩きつけられたとしてもダメージは致命的なものではない。優先するべきは。



(――斬る)



 剣閃が瞬く。一瞬の内に四方八方を斬り刻み――だが手応えはなく。


 地面に叩きつけられると同時、潰れた眼窩に指を突っ込まれる。


 勢いよく、受け身なく、地面に叩きつけられたことにより肺の中の空気が押し出され、脳が揺れる。それにより一瞬動くことができなかった。

 サキの手がブレる。斬る。動作の始まりと終わりしか見えないほどの速度の斬撃。


 それを許すアオイではない。



「【エアウォーク】」



 眼窩に指を突っ込んだまま展開される【エアウォーク】。いったいどこに?


【エアウォーク】とは空気の足場をつくる魔法だ。


 任意の場所に『空気の固まり』をつくる魔法だ。

 アオイはサキに触れている。サキの体内に触れている。サキの血に触れている。


 体内に『空気の足場』なんてものを作られたならばどうなるか。

 

 空気塞栓。血管内に空気の栓が生じることによって血流を塞がれる現象。


 酸素を絶つ。


 意識を奪う。



(なんて……ヤツ……だ……)



 落ちる寸前、サキは笑った。


 MOBに効くものではない。完全な対人技だ。


 それも普通には使えない――相手を殺してしまう可能性の高い技。

 

 眼窩に指を突っ込むまでするなら他に殺す方法なんていくらでもある。



(……敗けた……が……)



 ひとりで逝ってやる気はない。


 一閃。


 剣を振るう。光が瞬く。

 光以外の何物にも捉えることのできない一振り。

 動作の始点と終点しか認識できない。動作の始点を認めた瞬間、既にすべては『終わっている』。


『剣姫』和泉サキ。


 彼女の一振りはそういう類の一振りだ。

 意識を失う直前であろうとそれが変わることはない。

 どんな状況であろうとそれができるように鍛えてきた。


 光から逃れられる者が居ないように、その一閃を避けられる者は居ない。

 

 ――『避けられる』者は居ない。


 だから。



「【ヒール】」



 すべて読んでいる。


 手応えはあった。だが、先の再演だ。斬った瞬間に治された。最後まで油断せず、サキの行動を読んでいた。


 深い深い水底に沈みながらも遠くから微かに聞こえたその声を合図に、サキは自ら意識を手放した。


 強かった。


 次は殺す。


『非探索者でもできる! かんたん護身術!』模擬戦、第三試合。


 勝者、アオイ。




      *




(最後のアレ、ちょっとヤバかったな……)



 アオイの魔力量はそれほど多いわけではない。何度も使用した【エアウォーク】――展開時間と展開範囲を大きく絞ったことによって消費魔力量を可能な限り削減してはいるものの、それでも無視できるものではない――そして【ヒール】。

 ゴミの人に使ったものと自分に二回。もう打ち止めだ。アオイの魔力量ではこれ以上は使えない。厳密には使えなくはないが、間違いなく動けなくなる。

 魔力欠乏の症状は精神的なものだ。精神力を削られる。心が折れる。魔力を限界ギリギリまで使うなんてことは上位の探索者であっても決して好むようなものではない。

 アオイのメンタルは言うまでもなくめちゃくちゃに弱い。もう一回でも【ヒール】を使ったら絶対何もかものやる気がなくなる。


 はっきり言って、サキが手段を問わずに戦っていたならばアオイは敗けていただろう。スキルや魔法を使わなくとも――アオイであれば自分アオイを詰ませる方法なんていくらでも考えつく。

 体力と魔力を削れば勝てる。圧倒的なまでの位階差があるのだ。それを利用すれば勝てないことはないだろう。

 これがサキのように『剣術』という絶対的な強みを持たない探索者であればアオイとしてはどうとでも対処できただろうが、サキであれば。

 形振り構わず来られたら敗けていた。そう思って誘導したところもあるが……まさか、あそこまで強いとは。



(剣とか持ってたらむしろ敗けてたな)



 無手だったからこそ対抗できた。サキが相手なら武器なんてただの荷物になる。防げる気が微塵もしない。



「あ、あの、アオイちゃん、大丈夫……?」



 そう声をかけられてアオイは思索から抜け出した。今回集まってもらった探索者は四名。エドワード、ゴミの人、サキとは既に戦ったが、最後のひとり、リアルスパチャの女性探索者が残っている。



「うん、大丈夫だよ〜。心配ありがと、おねーさん」


「っ……! い、いや、マジでアオイちゃんって強いし配信でそれはわかっていたつもりだったんだけどまさかここまでとは思わなかったって言うかエドワードさん? はよく知らないけどあの剣姫を相手に戦えるとまでは思わなかったし位階も明らかそんなに高くないのに剣姫に勝つとかホントにありえないし剣姫だってもともとは格上殺しなのにそんな剣姫を倒すアオイちゃんってホントもうどんだけだよって感じでこんなにかわいいのにそこまで強いとかヤバすぎだしもとからめーっちゃ好きだったのにもうもっともっともっともっとも〜〜〜〜っと好きになっちゃったしアオイちゃん最高過ぎだしホントにリアルスパチャ渡したいって言うか渡させて下さいお願いします!」


「お、おぉう…」



 アオイは引いた。この人ホントすぐ現金渡そうとしてくる……。

 アオイだって生で現金を受け取るのはどうかと思う。どうかと思うが、アオイは欲望に弱いのである。あまり誘惑しないでもらいたい。負けそう。



「ま、まあまあ。まだ終わってないわけだし……」


「あ、そ、そうだねっ。ごめんねウチばっかり話しちゃってアオイちゃんの声をもっと聴きたいしできれば聞き手に回りたいんだけど少しでもアオイちゃんと話していたいしそう思うとなんとかちょっとでも印象良くしたくてでもうまく話せないし変なこと言って誤解させたくないからできるだけ正確に思っていることを伝えたくてでも失敗したかなとも思ってるからなんとか挽回しようと思ってさらに言葉を重ねるんだけどそれがもう間違いだっていうのは薄々どころかハッキリわかってるつもりなんだけどなかなかできなくてでもこれだけはわかってほしいんだけどウチはマジでアオイちゃんが好きだしすごいと思ってるし決してアオイちゃんを嫌がらせたりしたいわけじゃなくて!」


「うん。ボクも正直お姉さんのこと好きだよ。親近感湧くし。美人だし」


「ぅにゃっ!??!?!???!? あ、アオっ、アオイちゃんが、う、ウチっ……ウチのこと……!!!?!??!????!!!!!」



 スパチャのお姉さんが狂った。最初からかもしれない。



「ふ、ふー……ふー……落ち着けぇ……落ち着け、ウチ……これはアオイちゃんの配信……アオイちゃんの配信なんだから邪魔しちゃだめ……剣姫とのあんな激闘の後なんだから、ウチもしっかり自分の役目を果たさないと……!」



 そして、パァン!!!!!! と思い切り自分の頬を叩く。銃声かと思うほどの音量であからさまにアオイの肩がびくっ! とした。かわいい。スパチャのお姉さんがつぶやく。



「じゃ、じゃあっ! 最後は! ウチと! 『非探索者でもできる! かんたん護身術!』の模擬戦、やろう!」



 お姉さんがものすごいやる気とともに言う。ちょ、調子狂うなぁ……。アオイは圧の強いお姉さんに完全に気圧されてしまっていた。



「……は、始めていいかな?」


「うん。いつでも――あ」



 いつの間にか、スパチャのお姉さんの手に『杖』があった。


 彼女はつぶやく。



「【バリア】」



 慌てて距離を詰めたアオイに、しかし彼女は冷静に対応した。【バリア】。文字通りバリアを展開する魔法。自分を中心に不可視の障壁を展開する魔法だ。

 アオイにそれを破る手段はない。



「アオイちゃんの言う通り、非探索者が探索者に襲われるような事態を想定するなら……ダンジョンの外でのことで、だから、魔法を使えないものだって思ってたけど、違うよね」



 彼女は今までのアオイの戦闘を見ていた。エドワードとの戦闘も、ゴミの人との戦闘も、剣姫サキとの戦闘も。


 アオイの手段を選ばない戦い方を見て学習していた。



「探索者を相手にするなら、魔法を使えるシチュエーションも想定しなきゃ」


「エア――」


「それはバリアを貫通しない」



 わかっている。そして、彼女が悠長に話している理由も。


【バリア】を展開された時点で、今のアオイに打つ手はない。

 唯一残された光明があるとすれば、バリアもいつまでも展開できるようなものではないということだ。時間稼ぎに徹することができたなら――バリアさえなければ、アオイにも勝ち目はあるかもしれない。


 ただ。


 高位の探索者が――それも、魔法を主に使うような探索者が。


 どういった魔法を使えるのかわかっていれば、この展開になった時点で詰んでいることは明白だった。


 彼女は言った。


 その魔法の名を。


 確実にアオイの命を奪うことのできる魔法。


 アオイをして流すことができない、避けることの叶わない魔法。


 大規模殲滅魔法の名を、口にする。



「――【テンペスト】」



 嵐が、空を切り裂いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 非探索者でもできる! かんたん護身術! 主催者も含め、半分以上が趣旨を理解していないっ!
[気になる点] 大規模殲滅とかバリア使ってるけど非探索者の探索者に対する護身術をおしえるのに、バリア張ってる時点で非探索者想定ではないし、大規模殲滅使うような輩は他の高位の探索者が処理するような案件だ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ