表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/71

お風呂すき

 アオイは極度の面倒くさがりだ。常人にとっては『面倒くさい』とまったく思わないようなことであっても『面倒くさい』と言って手を付けないなんてことが多々ある。

 卑近な欲望に弱く、どんなときであっても可能な限り楽なほうへと流れていく。水が低きに流れるよりもずっと易きに流れやすい少女だ。



「はぁ~……ごくらくごくらく~♡」



 そんな彼女は今、湯船に入って気の抜けきった声を出している。輝く銀髪が水面に浮かび、肌にじっとりと張り付いている。髪を洗った後はアップにして浸からないようにするものの、その前ならいいかなと思っている。一応【浄化】もしてるし、そこまでお湯が汚れるってこともないだろう。


 男だった頃から、アオイは入浴が嫌いではなかった。むしろ好きだったと言ってもいい。面倒くさがりではあったものの、入浴に関しては『好き』に分類される行為だったので毎日欠かさずに入っていたのだ。

 もし男だった頃から入浴を面倒くさがるような人間だったならば、こうして美少女になってからの入浴なんて本当に面倒くさがっていたことだろう。なんたって【浄化】もあるのだから。極論を言えば入浴を必要としないとも言える。言えるだけだが。



「でも……女の子って、ホントにやらなきゃいけないこと多いよねぇ」



 ちゃぽん、と湯船に浸かった髪をすくいあげ、浴槽の外に垂らしてみる。……ぎゅー、と絞るとびちゃびちゃと水があふれ出る。水を切っておかないと頭めっちゃ重くなるからね。これはやっておかないと。


 美少女になる前であればサッと入ってサッと出るだけだったが、美少女になってからは違う。いや、最初は同じようにしてしまっていたが……せっかく美少女になったのだ。この美貌を損なうわけにはいかない。

『女性 入浴 ケア』で検索して出てきたことをアオイは忘れずにするように努めた。美少女になる前と比べて格段にタスクが増えている。が、アオイはそれを『面倒』とは思わなかった。

 お風呂上がりのスキンケアについては男女問わずに必要なのかもしれないが、少なくとも以前のアオイはしていなかった。化粧水やら乳液やらなんて自分が使う日が来るとも思っていなかった。

 しかし、今は使っている。お風呂が好きだとは言ってもスキンケアとは関わりがない。が――それでも、アオイは面倒だとは感じていなかった。



「機械いじりとか車のメンテナンスとか、そういうのの良さってボクはわからなかったんだけど――こういうことなのかな」



 男には機械いじりを好む者も多い。アオイはその良さをイマイチ理解できていなかったが、こうして美少女となって『自分の手入れ』をすることは素直に楽しいと感じていた。



「いつかは面倒だと思っちゃうものなのかなぁ……でも、このすべすべお肌が失われることは絶対に避けたい」



 ぷに、とアオイは自らの肌に触れる。自分のものだと言うのにさわり心地ばつぐんだ。ぷにぷに。もみもみ。くにくに。んっ……ぁ……きもち、い……おふろがね?



「……気を抜くとおっぱじめちゃいそうになるからそれだけはあぶないな」



 自分が美少女過ぎて。鏡見てたらそれだけでいいもんな。幸せになっちゃう。声もいいし。あんあんあん、みたいな。猫型ロボットではなく。



「はー……美少女生活、捗りすぎるな」



 よい、しょ、っと声を上げて浴槽から出る。湯船に漬けていた髪が引っ張られていると錯覚するくらい重い。重力め。かわいすぎるからって星もボクのことを離したくはないらしい。束縛強いカレシだなぁ。



「……おっぱい、おっきくなったりしたかな」



 鏡に映る自分を見て、アオイは下から乳房を持ち上げる。揉むとおおきくなると言う俗説からすればおっきくなっていてもおかしくはないんだけど……服のサイズが合わなくなってるとかはないからなー。ブラのサイズもそうだし。ってことは、変わってない……かな?



「うーん……んっ」



 首を傾げながらもみもみと乳房を揉んでいるとへんなところにあたってしまった。喉の奥から高い声が漏れ出してしまう。


 まずいな。アオイは目を細めた。このまま欲望に抗えないでいたならば何が起こるかなど容易に想像がつく。時間も体力も有限だ。一日中そうしているわけにはいかない。アオイにも学習能力というものは備わっている。勝つんだ。勝て。自分に勝つんだ。アオイは鏡の中の自分を睨む。


 上気した頬がえっちだった。




      *




「激戦だった……」



 お風呂上がり、全身に赤みが差したアオイが絞り出すようにつぶやいた。のぼせかけた。あぶないあぶない。



「さすがのボクでもコレばっかりはハマっちゃダメだってわかってるんだけど」



 抗えない。アオイは欲望に弱かった。むしろこれでも十分抗っているほうかもしれない。そう考えるとボクってえらくない? えらい。褒められたい。でもこんなこと誰にも話せないもんな。友達とか居ないし。たぶん今いちばん仲良いのユートくんとかだし……高校生にこんな話するのもなぁ。


 寝転がってだらだらしながらスマホをいじる。なんとなくゲームを起動してかわいい女の子が歌って踊るのを眺める。かわええ~。だが実はこのゲームを起動するのもずいぶんと久しぶりのことだったりする。アオイは何かを継続するということが致命的なまでに苦手だった。デイリーミッションとか絶対無理。毎日ログインするだけでも難しい。インストールしているゲーム自体はスマホのデータ容量がぱっつんぱっつんになるくらいにあるのだが、その中に毎日ログインを欠かしていないゲームなんてひとつたりとも存在しない。かと言ってやらないわけでもないのでアンインストールもできていない。たまに起動してかわいい衣装やえっちな衣装を見てピンと来たら課金するような遊び方だ。言うまでもなくアオイは射幸心にも弱い。ギャンブルにドはまりしていないことが奇跡的なくらいには弱い。今は金欠だし自分磨きが優先なのでさすがにガチャは回さないが、ちょっとでも余ってきたならばきっと躊躇なく課金し始めることだろう。クズである。


 そうやってかわいい女の子にえっちな衣装を着せているところをカシャカシャとスクショを撮りまくった後にすることは自分の動画を見返すことだ。アオイは自分の容姿が好きだし声も好きだ。なんたって極上の美少女ですから。そういうわけで自分の動画を見返すことはアオイにとって何ら苦ではなかったし、むしろ楽しいと思えることですらあった。もっとも、話している内容に関してはあまり面白いものでもないので癒やし映像として見ていたが。猫動画かな?



「はー……褒められるのたまんねぇ~……」



 自分配信を見返す上での目当てはもう一つ。自分の配信に寄せられたコメントを見返すことだ。アオイは褒められることが好きだった。なぜか配信ではアオイのことをちょっと雑に扱うようなコメントも散見されるが、それでも基本的には褒めてくれる。かまってくれる。その時点でアオイにとっては高評価である。アオイはチヤホヤされるのが好きだった。自分のことをチヤホヤしてくれる視聴者のことも好きだった。視聴者のことも友人カウントしていいならしたいところだ。と言うかもうマブダチじゃない? マブダチだよね? ボク、そこそこ友達居るじゃん……! アオイはそう思おうとした。しかしできなかった。さすがのアオイも本気でそんなことを信じられるような人間ではなかった。



「……あ、そう言えばなんか募集してたな」



 コメントを見て、アオイはコラボを募集したことを思い出した。自分の配信、護身術の『相手役』の募集だ。一応ねーとメーラーソフトを起動する。メールが届いたときに通知が来ないわけではないものの、アオイのアドレスには通販サイトなどからひっきりなしにメールが届く。いちいち通知の内容を吟味するわけもなく毎回通知を消して対応しているのだ。連絡先として成立していない……。いくら連絡してくるような相手が居ないとは言っても限度がある。



「ん?」



 そして遡っているうちに、いくつか見知らぬアドレスからのメールが届いていた。スパム……じゃあ、ないか。ってことは、ホントにメールしてくれた人居たんだ。まあ、ボク美少女だもんね。視聴者に探索者の人が居たらワンチャン狙ってくるのも可能性としてはゼロではない……か……!



「へへ……あいつら、いつもはつれないくせに下の口は素直じゃんかよぉ~」



 下の口と言うか下の棒と言うか。アオイは大事な視聴者のことを『下心目的』だと断じてみせた。最低の配信者である。



「でも、まさかこんなにはやく連絡があるとはなー……この人とか、だいたい配信終わったのと同時くらいにメールくれてない? いや、これくらいの時間だったらむしろ配信してる途中だったような気も……どっちにしろはやすぎだけど」



 まあ、はやくて悪いことはない。この世のほとんどのことは早ければ早いほど良いものだ。その観点で言えばせっかくすぐに連絡をくれたのに塩漬けしかねなかったアオイはめちゃくちゃに悪いということになるのだが、もちろんそんなことは棚上げする。それはそれ、これはこれである。アオイは自分のことを棚上げすることにかけては天才的な資質を備えていた。分厚い面の皮という資質が。



「うーん……でも、複数……一個くらいかなーって思ったんだけど」



 いくら美少女だとは言っても、だからこそ、あまり自分に付き合ってくれるような探索者は居ないと思っていた。

 もっとも、せっかく応募してくれたんだから断るのもなんだ。多すぎたらアレだけど、これくらいなら許容範囲内だし……むしろ好都合とも言えるかもしれない。

 この人たちのことは知らないけれど、とりあえずお願いすることにしよう。メールの文面考えるの面倒くさい。……『応募 返信 文章』で検索して出てきたいい感じのものをそのままコピペして送り返す。ふぅ、仕事したぜ。

 

 でも、ほんとうにこんなに応募してくれるとは思わなかったなぁ。こんな零細配信者に付き合ってくれる探索者が居るなんて……探索者にも、メンツってものがあるだろうに。



「わざわざボクの『やられ役』をやってくれるなんて、変わった人も多いんだなぁ」



 あるいは、そういう趣味の人なのかな。公衆の面前で美少女に負けて尊厳凌辱されるのに興奮する……とか?


 レベル高い変態さんだなー。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] えっち [気になる点] えっち [一言] とてもいい えっちです
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ