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これボク邪魔じゃない?

 勇斗の隣に立つ少女の姿を認めた瞬間、アオイの頭に浮かんだのは『やべっ』という言葉だった。


 勇斗と同い年くらいの少女。内気っぽい女の子で、長い前髪で目元が隠れている。しかし垣間見えるだけでも整っていることがわかるくらいにはかわいい女の子だ。ちょっと猫背気味で、実際以上に小さく見える。小動物的なかわいさを持つ女の子だ。


 そんなかわいい女の子といっしょに居るユートくん……これは、つまり『そういうこと』なんだろう。



「……ボク、お邪魔だったかな?」


「邪魔? ……いや、俺と梓はそういう関係じゃないから。パーティーメンバーだよ」


「あー」



 と思ったが、違ったらしい。梓と呼ばれた少女は恥ずかしそうに身を縮こませている。これは……どっちだろ? 実はユートくんのことが好きだったりするかもしれないけど、単にこの子の性格なのかもしれない。



「てっきりデートかと思ったよ~。でも、ユートくんってパーティー組んでなかったよね?」


「ああ。だから最近だよ。……ひとりじゃ、アオイにいつまで経っても追いつけないからな」


「まあ、ソロは厳しいからね~」



 ちまちまひとりで潜るよりもパーティーを組んで潜ったほうが効率的だ。アオイは好きに潜りたいからパーティーを組もうとしていないが、勇斗もそうであるわけがない。今までは単に組んでいなかっただけなのだろう。それでも『やっていけてしまう』だけの力を持っていたが、本格的に探索を進めるのであればパーティーメンバーは必須と言っても過言ではない。一部の例外を除けば、だが。



「それで、今日は第十層を突破した記念に祝勝会をしようと思って、話題だって言うこの店に来たんだ」


「そっか。このお店のケーキは確かにおいしいからねぇ。話題なのはボクのおかげかもだけど」


「それはそうだろうな……」



 勇斗が苦笑する。銀髪バニーガールの居るお店って、そりゃ話題性抜群だよね。むしろ客足が遠のきそうですらある。『そういうお店』だって勘違いされかねないし。



「『バニーガールの居るお店』ってことで来ようとしたの? ……ユートくんってむっつりさん?」


「違う! ……そもそも、ここに来たいって言ったのも梓だからな」


「そうなんだ。あ、遅くなったけどボクはアオイ。よろしく、アズサちゃん?」


「えっ? は、はいっ。さ、沢木梓ですっ! よろしくお願いします!」



 突然話題に出されてあたふたしている梓を見てアオイはかわいいなぁと思った。ユートくんもこんなかわいい子と組むとは隅に置けない。



「え、えっと……あ、アオイさんは、勇斗くんとは」


「オーガに追われているところに助太刀したって感じかなー。その一回だけ」


「………………え」



 勇斗とアオイのなりそめが気になる様子だった梓に笑って返すと彼女はどうしてか固まってしまった。どうしたんだろう。アオイは首を傾げる。



「――ご、ごめんなさいっ!」



 それだけではなく、突然謝られてしまった。え? なんで? 戸惑うアオイを見て勇斗がため息、補足説明をしてくれる。



「……梓は俺たちがオーガと戦うハメになった原因なんだよ」


「……あー」



 それは確かにこうなってしまうかもしれない。ただ、今は勇斗とパーティーを組んでいるのだから彼とは和解しているのだろう。なら自分に言うことはない。



「謝らないでいいよー。ボクが助太刀したのはユートくんだし……終わってみれば、オーガもチョロかったからねー。もう一回があれば次はたぶん楽勝だし」



 ぶいっ、と手でピースをつくってアオイは笑う。それを見て梓は目を丸くして、ゆっくりと勇斗のほうを見た。勇斗は無言でゆっくりとうなずく。梓の顔にいくつもの疑問符が浮かぶ。



「な……え? アオイさんって実は高位の探索者さん……かと思ったけど、魔封はないし、なら、そんなに高くはないはず……なのに、オーガが、楽勝? え? え?」



 梓が戸惑っている。高位の探索者でも手こずるのがオーガだ。だと言うのに、それを『楽勝』だと言って憚らないアオイは何者なのか。魔封の腕輪も見えないなら、それほど位階は高くないはず。矛盾している。梓には理解できなかった。


 アオイは気分が良くなった。面倒事は嫌いだが、こうして『すごい』と思われることは嫌いじゃない。むしろ好きだ。できる限りチヤホヤされたい。にょきにょきと鼻が伸びていく。



「ちなみにボクはアズサちゃんと違うから。ギフトなしの実力です」



 ふふん、と胸を張るアオイに梓は「はえ~……」ときらきらした憧れの瞳を向けてくれる。気持ちいい……。年下の美少女に尊敬されるの気持ち良すぎる……。

 アオイの言葉に勇斗はぴくりと眉を跳ねさせていた。彼は口を開こうとして――ちらと周囲を見て、閉じた。そしてふうと短く息をつき、



「それはそうと、そろそろケーキを食べたいんだが。……店員さん、オススメのケーキはありますか」


「あ、そうだね。確かに、せっかくこのお店に来たんだから、ケーキを食べなきゃ。ちょっと中入ってくるね~」



 勇斗の言葉にアオイは席を立ち、店内に向かう。……せっかくだし、食べたことないケーキを選ぼうかな。それでボクも一口もらったりすれば、色んなものを試せるし! ついでにボクのも分けたらユートくんたちも色んなものを試せてWin-Win! 完璧だね!


 どれにしよっかな~、とアオイはウサギのようにぴょこぴょこと跳ねた。そんな様子を見て顔を赤らめる勇斗の視線も、アオイはバッチリと認識している。


 かわいい。……でも、アズサちゃんをほったらかしにしちゃダメだぞー?


 くすくすと笑いながら、アオイは梓のことを思う。自分に見惚れながら、同時に赤面する勇斗を見てぷっくりと頬を膨らませているかわいい少女のことを思う。



(本当に、ユートくんも隅に置けない。まさか、こんな美少女で――ギフテッドの女の子を、パーティーメンバーにするなんて)



 

      *



「気付いたか?」



 アオイが店内に入った瞬間、勇斗は小声で梓に尋ねた。どうしてか梓は不機嫌そうに「アオイさん、すっごくかわいい人ですね」と頬を膨らませている。

 だが、勇斗としてはそれどころではない。どうやら梓は気付いていないようだが――いや、そもそも日本では馴染みのない呼び方だ。仕方ないこととも言えるだろう。



「アオイ、梓のギフト――ユニークスキルに気付いていたぞ」



 え、と梓が固まる。ユニークスキルは『ギフト』と呼ばれることもある。英語圏ではそちらのほうが一般的な呼び方だ。



「な、なんで……わ、わたし、何か言っちゃいました?」



 梓の表情に戸惑いが見える。先程、アオイがオーガに楽勝と言ったときよりもさらに動揺している。

 どうしてアオイが梓のギフト――ユニークスキルに気付いたのか。勇斗にはわからない。だが、相手はアオイだ。勇斗でも知らない判別方法を持っているのかもしれない。

 勇斗はアオイのことを未だによく知っているわけではない。一度共闘して話しただけだ。アオイの容姿と強さ、その一端しか知らないのだ。



「わからない。が……見る人が見ればわかるのかもしれない」



 アオイに知られていたからと言って、特に不都合が生じるわけではない。彼女がこのことを言いふらすでもするなら別だが、そんなことはしないだろう。

 ただ、アオイがわかったのであれば彼女以外の人間にもわかることなのかもしれない。ことはユニークスキルだ、むやみやたらと知られることはできれば避けるべきだろう。現状ではあまりにも力が不足している。どんな面倒ごとに巻き込まれるか定かじゃない。



「早く、強くならないとな」



 アオイに追いつくため、だけではなく――どんな面倒ごとも振り払えるくらいには、強くなりたい。


 うん、と梓がうなずいて、ちょうどそのタイミングでアオイがトレイにケーキを乗せて帰ってくる。



「ユートくん、アズサちゃん、ただいま~。どれにする? チョコ系のムースケーキと、ショートケーキと、モンブラン! きっとぜんぶおいしいよ~」



 のんきなものだ。が――そもそも、今日は祝勝会をしに来たのだ。反省会をしに来たわけではない。



「……ごめん、梓。今日はそんな話じゃなくて――もっと、楽しく、明るい話がいいよな」


「う、ううん。……勇斗くんが、わたしのことを心配してくれてるのは嬉しいですから。で、でも、できれば、勇斗くんも……今日くらいは、楽しんでほしいな」


「うん。ありがとう、梓」


「こ、こちらこそ、です」



 そう言って微笑み合う勇斗と梓に、アオイは「?」と首を傾げる。



「……やっぱり、これボク邪魔じゃない?」



 そんな彼女に勇斗と梓は、



「邪魔じゃない。むしろ、助かったよ」


「ゆ、勇斗くんの言う通りです。……ありがとうございます、アオイさん」


「……なにが?」



 アオイはまた首を傾げた。


 そんなウサギさんを見て、勇斗と梓はまた笑った。


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