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戸籍とかどうなるんだろう

 美少女になることはすべて男の夢と言っても過言ではないだろう。むしろ少ない。男だけではなく女の夢でもある。人類共通の夢だ。


 しかし、それが現実になったときに問題が生じることもある。


 例えば――以前の自分と今の自分が同一人物であるという証明ができない、とか。



「うーん……元に戻る方法とか、まったく心当たりないからなぁ」



 そもそも、美少女になった原因すら定かではないのだ。元に戻る手段なんてそれこそまったくわからない。あるいは時間が経てば戻るなんてこともあるのかもしれないが……それはいつまでかかるのか、という話だ。



「ボクは実質行方不明になった、って感じだよね。代わりに美少女が住んでいる。それも、戸籍も何もない――今まで生きてきた痕跡がまったくないような人間が」



 税金とかどうなるんだろ。戸籍はないよね。と言うか、病気にかかったらどうすればいいんだろうか。病院に行っても問題ないか? 免疫とかもどうなっているんだろうか。


 考えてみると、問題は山積みだ。困る。面倒くさい。


 だから、アオイは考えることを放棄した。あと、喉も乾いてきた。


 アオイはコーヒーを淹れた。飲んだ。



「にがぁ……」



 眉を寄せて舌を出す。……味覚も変わっているのか。好物とかも違うのかな。


 そう思いながら牛乳と砂糖を入れて飲む。……まだ苦い。だばーっ、と追加投入。溶けきっていない。飲む。おいしい。



「これが!?」



 アオイは自分の味覚に突っ込んだ。

 こんな、見るからに甘ったるいものが……おいしい……? 

 あまりにも変わった味覚に動揺する。

 でもおいしいものはおいしいのでおかわりした。

 カフェオレおいちぃ。



「と言うか、お金も稼がなきゃだよなー」



 アオイは定職に就いていない。どこかの企業に属している、といったことはないのだ。良いように言えばフリーランス。仕事を続けることだけに関して言えば問題ない。


 問題があるとすれば。



「……ダンジョン、行けるか?」



 アオイは探索者だった。


 身体が資本の探索者がその唯一の資本を失ってしまった、ということになる。


 こんな細い身体でダンジョンに出現するようなモンスターと戦うことができるのか……そんなことを思ったがまあなんとかなるだろうとも思った。


 アオイはすべてにおいてテキトーな人間だった……。




      *




 服を買いに行く服がない。


 当たり前だが、アオイの部屋には女物の服など一着たりとも存在しない。すべてがオーバーサイズである。下着もないし。

 こんな状態で外に出れば危ういなんて言葉では足りない。それだから外に出ることができなかった。


 正直最悪テキトーな服を着て出ればいいかなとも思っていたが、まだそうなってはいなかった。

 アオイは外見だけは紛うことなき美少女である。

 非現実的な容姿をした彼女が、男物の明らかにサイズの合っていない服を着て外出する……あまりにも目に毒だろう。『見てはいけないものを見てしまった』と罪悪感を抱いてもおかしくはない。

 アオイ当人ですら自身の裸体を見たときにそういったことを思ったのだ。他人であればどれほどのものか。


 そういうことはまだ考えられていたので、あくまでも『最悪の場合』だ。まだそのときじゃない。


 外に出られないのであれば通販を使えばいい。そう思っていつものようにテキトーに服を見繕うとして――手が止まった。



「こんな美少女に、自由に好きな服を着せられる……?」 



 アオイは服に頓着しない性格だった。しかし、今の自分は正真正銘美少女である。鏡を見ているだけでも暇を潰せるくらいの美少女だ。水面に映っていたならば飛び込んでしまってもおかしくはない。

 もともと、アオイはゲームでもキャラクターの見た目は重視するタイプだった。性能よりも見た目を重視するタイプ。性能度外視でただの着せ替えのためにガチャも回す。だってかわいいもん。この衣装で踊ってるところ見たいもん。そういうタイプだった。

 そんなアオイが自分の理想とも言える美少女の身体を手に入れたのだ。これはもう……めちゃくちゃかわいくなるしかない!


 そのために、アオイはまずメジャーを注文した。


 自分の身体のサイズがまったくわからなかったからである。


 


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