強みを活かせ
「ボクの配信ってコンセプトがないよね」
:は?
:唐突に何?
:また始まったよ
渋谷ダンジョン、配信中。
突然のアオイの言葉に視聴者たちは混乱のコメントを残した。
いやね、とアオイは答える。
「ボクの配信って、何をやりたいのかーとかがふんわりしてるじゃん? ボクとしては『楽して稼ぎたい』が目的なんだけど……見る側としてはそれじゃ『この配信は何をするものなんだろう』ってなるじゃん」
現状、ただの雑談配信になっている。探索風景垂れ流しでがっぽがぽになれるならそれでいいじゃんと思っていたが、やはりそう簡単にはいかなかった。こんな美少女なのに。
「だったら『何を目的にしているのか』がはっきりしてると視聴者諸君の視聴意欲みたいなものも高まると思うんだよね」
:そんなことよりサムネとタイトル設定しろ
:今アーカイブぜんぶ真っ黒サムネとタイトル未設定の動画が並んでるからな?
:どれがどの配信かわからないしこわいんだよ
:チャンネルのアイコンも未設定だしホントにこわい
「あー……覚えてればね、覚えてれば」
うんうんとアオイは生返事した。絶対覚えてないやつである。
:せめてサムネだけでも設定すれば視聴者数とんでもなく上がると思うんですが
:正直アオイが知られなくてラッキーって感じもあるからこのままでもべつにいいけど
:推しのバンドがメジャーデビューしてほしくないみたいななー わかるわ
「えー。キミたちそんなこと考えてたの? かわいいとこあるじゃん」
うりうりー、と配信くんを指先でぐりぐりと突っつく。配信画面が揺れて『それ酔う』『うっ……吐きそう』『昨日の酒が……』『今飲んでる酒が……』と流れるコメント。
「めっちゃお酒飲んでる……美少女を肴にして飲む酒はうまいかー?」
:正直めちゃくちゃうまい
:おいC
:最高
「でしょー? ぜいたくものー……って、そうじゃなくて、配信のコンセプトの話ね」
:珍しい 忘れてなかった
「うん? ボクもしかしてバカにされてる?」
もしかしてじゃなくてバカにされてる。しかしアオイは気にせずに続けることにした。
「キミたちはボクのことを秘密にしたいかもしれないんだけど……ボクとしては、やっぱりめっちゃ人気になって楽して稼げるようになりたいわけですよ。それでいっぱい服とか買いたい。おいしいものも食べたい。そのために配信の『軸』みたいなものをね……しっかりと打ち出しておこうかなと思って」
:アオイがそんな立派なことを……あなた……(泣)
:母さんや アオイのことだから絶対に立派な理由じゃないぞ
:そもそも楽して稼げるようになりたい時点で立派じゃないし
:と言うかそれ頑張れるならサムネとタイトルくらい設定しろや
:本音は? 言ってみ?
「雑談配信ばっかで飽きたしなんか配信者っぽいことやりたくなってきた」
アオイは素直に本音を口にした。雑談配信を続けて思ったが、話のネタがない。コメントとずっとだらだら話しているだけになるが、それでもやはり話すことがなくて無言時間が発生してしまう。
なら何か目的を持てばいい――中身は実質雑談配信と同じようなものでも、何か目的を持っているというだけでゆるゆるな糸がいい感じに引き締まる気がする。そんなふんわりとした理由でアオイは配信にコンセプトを求めた。
要は思いつきである。アオイは思いつきで事を進めるタイプの人間だった。
「ってことで、なんかボクにやってほしいことない? と言うか、フツーのダンジョン配信者の人たちってどういうコンセプトでやってるんだろう。謎」
:他の探索者は。。。探索が目的。。。だょ。。。
:みんな真面目に少しでも深く潜ろうと頑張ってるんだわ アオイと違って
:道中は雑談配信っぽいけどMOBとの戦闘のときとかフロアボスとの戦闘のときとかはめちゃくちゃ盛り上がるんだよな
:階層主戦がメインコンテンツみたいなとこあるよな― 周回配信とかするパーティーもあるけど
:レアドロ狙い周回配信な タコくんかわいそう……
:作業みたいに殺されまくる悪魔たん……
:「はいここでタイマーストップ。今回のタイムは……29秒! うん、普通だな!」
:人間じゃねぇ……
「あー……そういう感じね。理解理解」
ダンジョン配信はゲーム配信に似たところがある。他の探索者は真っ当にゲームをプレイしているということだろう。……そう考えると差し詰めアオイはRPGの序盤、はじまりのまちの近くでひたすらMOBを狩りながら雑談しているだけの配信者ということになる。偏屈にも程がある。
何より。
「……つ、つまんな!」
アオイは思った。今更過ぎる気付きである。
:まあ配信内容としてはね
:美少女がやってる雑談配信だよな
:顔は良いけどストーリーがまったくない女
:でも俺は楽しいよ……アオイと話す時間
:アオイ……俺たちがお前の翼だ……!
「な、なんかバカにされてる気がする……」
もちろんバカにされている。アオイは憤懣やるかたない気持ちになった。これは見返してやるしかない。
しかし自分で考えるのは面倒だったので躊躇なく視聴者に頼ることにした。
「で? キミたちはボクにどんな配信をしてほしいの? 言ってみ?」
:こいつ躊躇なく俺たちを頼りやがった……
:プライドってもんはないのか
:色んなかわいい格好してるとこもっと見たいな♡♡♡ なんなら私がプレゼントしてあげる♡♡♡ だから干芋公開して♡♡♡ 貢がせて♡♡♡〈フレイヤ〉
:こわ
:もうホラーだよこれ
「フレイヤさんありがとー。かわいい格好……今日のコーデ配信みたいな? でも、ボクはまだまだだからなー……そこのところは、ある程度自信を持てるようになってからしたいかも。今はまだ顔だけだからね」
ふんすと腕を組みながら答えるアオイ。変なところで真面目である。
:顔は自信あるのか……
:実際世界一かわいいから
:ファッションも悪くないと思うんだけど……何が不満なの?
:アオイちゃんは確かにモノトーンコーデが多いね♡ すごく似合っていてかわいいけど、オシャレは初心者さんなのかも? とは思ってた♡ 私で良かったら相談乗りたいな……♡♡♡〈フレイヤ〉
:うわぁまた出た
:現役トップモデルさんは言うこと違いますわぁ……
「え? フレイヤさんってモデルさんなの? ……すごぉ」
有名っぽいことは知っていたが、思っていたよりも有名人っぽかった。と言うか芸能人? すごい。そんな人に見られてるって思うとちょっと恥ずかしくなってくる。こ、こんな服を本職の人に見られるとは……ま、まだまだ初心者なんですごめんなさい!
:アオイちゃんはかわいいから大丈夫だよ♡♡♡ 初心者さんかもしれないけど、それは今でもかわいいのにさらに伸びしろがあるってことだから大丈夫♡♡♡ もっとかわいくなれるって前向きに考えよ♡♡♡〈フレイヤ〉
「ふ、フレイヤさん……」
この人いいひと過ぎない? 最初はちょっとこわいと思ったけど、ぜんぜんそんなことなかった。うっ……ダメ人間のボクにはまぶしすぎる……日向の人間だ……。
「ボクは陰の人間です……」
:いきなり何?
:アオイは陽っぽい感じだけどなー
:覚えておけ 光と影を行き来できる者が一番強い
:アオイちゃん最強♡♡♡〈フレイヤ〉
:どういう理屈だよ
:……美少女ということを除くのであれば、アオイの強みはやはり技じゃないか?
「技?」
ちらりと見えたコメントに首を傾げる。技って言うと――
「オーガを倒した感じの? でもアレ、対人用みたいなとこあるしなー」
人型のMOB以外に通用するかと言えば……しないことはないだろうが、難しいだろう。
:その『対人』には需要がある 例えば――探索者相手の護身術として
「……探索者相手の?」
自分の技術は対人特化だ。理論を応用すれば万物に通ずるとも謳っているが、それでも本領はやはり対人。少なくともアオイはそう考えている。
だが、その『対人』に需要がないわけではないとなれば?
:あー 探索者も全員善人ってわけじゃないもんな
:配信があるから歯止めがかかってるところはあるけど……配信外の事件はゼロじゃないし
:そもそもダンジョンの外でもな 高位になると『魔封』を付けてるとは言え、それでも一般人じゃ相手にならないわけで
:それを制することのできる技があるとすれば……そりゃ、需要がないわけないよな
「おおー」
確かに、言われてみればそうかもしれない。アオイは天啓を得た。天でも何でもなく視聴者のコメント由来だが……。
「つまり、『非探索者でもできる! かんたん護身術!』ってわけだね!」
アオイは「んふー」と自信満々に胸を張って宣言した。これは……需要ある! タメになってしかも面白い。さらにとんでもない美少女がやっているとなれば見るしかないでしょ!
:すごいだろ……こんなに得意げなのに俺たちの意見そのままなんだぜ……
:狐でもこんなドヤ顔しねぇわ
:アオイさんすげぇッス! 自分は何も考えてないのにさも自分が考えました感出す天才ッス!
:でも実際見たいところだしアオイならではって内容ではある その位階でオーガを倒せるくらいだもんな
:なんなら俺らが教えてもらいたいくらいだわ
うんうん、評判も悪くない。アオイは機嫌よくうなずく。え? 意見の盗用? 知らない子ですね……そんなものはどこにも見えませんが? 目が節穴だと視力検査で苦労しますよ?
「それじゃあ、早速MOBを探しに――ん」
ぴょんっ、とアオイの髪がアンテナのように跳ねた。アオイの視線の先にはまだ何も居ない。だがわかる。居る。……都合が良い。
「そんなこと言ってたら、タイミング良くMOBが出てきてくれたみたいだね。それじゃあ、早速試しに――」
言いながら向かった先に現れたのはワイルドボア。立派な牙を持った凶暴なイノシシさんである。
ワイルドボアはアオイを認識した瞬間に、ぶもう、と猛る声を上げて闘牛がするようにその場で何度か地面を蹴った。そして準備ができたのか、一瞬の溜めの後、勢いよく突進してきて――
「あーはいはい。【エアウォーク】」
その姿を認めるやいなや露骨にテンションが下がったアオイはワイルドボアの足元に【エアウォーク】を展開。ワイルドボアは予想だにしない『段差』に躓き、回転しながら跳ね上がる。
「【エアウォーク】」
アオイは自らの足元にも【エアウォーク】を使用し、宙に浮かんだワイルドボアに向かって跳び上がる。
「はい、おしまい」
そうして浮かび上がったワイルドボアに触れ、流す。ふわりと浮かび上がっていたワイルドボアが鼻先から勢いよく地面に落下する。鼻がつぶれ、牙が折れる。還元の光が現れる。
「はぁ……キミはお呼びじゃないんだよなー」
まったくもー、とアオイは腰に手を当ててぷんぷんと怒ってみせた。だから人型以外は苦手なんだって……。
:嘘みたいだろ 苦手なんだぜ これで
:苦手(当社比)
:と言うかなんだよ今のエアウォークの使い方 いや居ないことはないけどさぁ……
:こんな浅層の探索者であんなこなれた使い方するやつ おる?www
:針に糸を通すような芸当のはずなんだけどなぁ……
:魔術師なら最低ラインの技術だけどアオイちゃんみたいな近接職があんなことできるなんてすごすぎ♡♡♡ 天才♡♡♡〈フレイヤ〉
:↑魔術師の最低ラインとか嘘つくのやめてもらっていいですか?
:あの女神なら本気で「あれくらいできなきゃ魔術師とは認められない」って思ってそうなんだよなぁ……
:それはそれとしてアオイが天才ってことは否定しない
「……あれ?」
アオイは予想外の反応に首を傾げた。今のは人型MOBじゃなくて残念って流れじゃ……。
ま、いっか!
「へへー。ボク天才? 天才美少女? やぁー、すみませんねぇ。二物も三物ももらっちゃって!」
でへへとだらしない笑みを浮かべてアオイは胸を張った。
なんかよくわからないけど、褒められたことは嬉しかった――
単純な思考回路を持つ女である。




